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大谷翔平がこだわる西海岸球団のメリットとデメリット

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷翔平選手は最終的にどのチームを選ぶのだろうか?(写真:つのだよしお/アフロ)

 ポスティング制度を利用してMLB移籍を目指す大谷翔平選手のチーム選定が最終段階を迎えている。すでに日米のメディアが大々的に報じているように、ロサンゼルスに滞在中の大谷選手は最終的に7チームに絞り込んだ末に直接面談を実施している。

 直接面談まで進めなかったヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMが「西海岸のチームで、中規模都市を拠点とするチームを望んでいるようだ」と分析しているように、直接面談に呼ばれた7チーム(マリナーズ、ジャイアンツ、エンゼルス、ドジャース、パドレス、レンジャーズ、カブス)のうち5チームが西海岸を拠点とするチームなのだ。ここまで西海岸のチームにこだわっているのは大谷選手なりに理由があってのことだろう。

 あくまで大谷選手の真意は想像の域を超えることはできないが、ただ長年MLBを取材してきた経験から西海岸チームのメリットとデメリットについては把握しているつもりだ。まだカブス、レンジャーズを選ぶ可能性が残されているとはいえ、あくまで確率の高い西海岸チームの特性について考えてみたい。

 まずメリットだが、何といっても西海岸チームはシーズンを通して選手がコンディショニングを整えやすいと言える。NPBとは違い屋外球場が中心のMLBは気候の影響を受けやすい。特に夏場に入ると、選手は体力を消耗し、体調管理が難しくなってくる。その点西海岸のチームなら1年を通じて寒暖差が少なく(シアトルは高緯度のため春、秋はかなり寒いが)、夏場でもナイターならほとんど春、秋と変わらない状態でプレーができる。まさに野球選手にとって最高の気候条件が整っている。

 もう1つの大きなメリットが、西海岸のチームはすべて投手有利な球場だということだ。これも気候条件にかなり影響を受けていると思われるのだが、他の地域の球場よりも明らかに“投高打低”の傾向が強くなっている。

 例えば大谷選手が選んだ5チームの2017年シーズン球場別打撃成績を比較してみると、通算本塁打数はマリナーズの本拠地球場が最多の210本だが、それでもMLB全体の13位でしかない。他の4チームはドジャースが203本で18位、エンゼルスが202本で19位、パドレスが182本で22位、そしてジャイアンツが118本で最下位の30位になっている。

 本塁打数以上に顕著なのが打率と長打率だ。まず打率に関しては、最高でもジャイアンツの.252がMLB20位で、以下マリナーズ(.251、21位)、エンゼルス(.245、26位)、パドレス(.236、29位)、ドジャース(.235、30位)と下位に集中している。また長打率もマリナーズ(.318、23位)を筆頭に、ジャイアンツ(.312、26位)、パドレス(.308、28位)、エンゼルス(.307、29位)、ドジャース(.306、30位)と、さらに下位に集中している。

 もちろんこれらのデータは各チームの打撃力にも影響するものだが、これらの数値はあくまで対戦チームの成績も加えてのものだ。やはり他の地域に比べると、西海岸地域では投手に有利なのは間違いないところだ。つまり大谷選手からすれば、シーズンを通して最高の気候条件で投げ続けることができるので、投手としての負担を他地域より軽減でき、より二刀流に挑戦しやすい環境が整っているといえる。しかも投手有利なので、成績も残しやすいのだ。

 さらにナ・リーグの西海岸チームを選んだ場合、地区内にMLB屈指の打者有利な球場といわれるロッキーズやダイヤモンドバックスの本拠地球場で戦わなければならなくなる。打者としても申し分ない環境に身を置くことができるのだ。

 その一方で、間違いなくデメリットもある。その最大なものが過酷な遠征だ。各チームともに遠征は決して楽ではないのだが、西海岸チームに重くのしかかってくるのが時差の影響だ。実は基本的にMLBのチームは東部時間帯ゾーンと中部時間帯ゾーンに集中している(30チーム中22チームがこの2つのゾーンに集まっている)。これらのチーム間の遠征なら1時間の時差で済むのだが、西海岸チームの場合、他地区チームへ遠征する場合は2時間、3時間の時差を強いられることになる。さらにア・リーグの西地区に限っていえば、テキサスに2チームあるため同じ地区内でも2時間の時差を強いられる遠征が入ってくるのだ。

 遠征の移動が大変なのはどのチームも大きな差はないが、やはり西海岸チームの方が他地域より余計に時差の調整を余儀なくされる。自分も何度も経験しているが、2時間、3時間の時差を調整するのは簡単ではない。あくまで自分の体験上の話ではあるが、体内時計を崩してしまうと元に戻すのに苦労するので、拠点とする時間帯のサイクルを保ちながら睡眠時間を確保し、食事も摂らないといけない。東部時間帯ゾーンから西海岸時間帯ゾーンに遠征する時は3時間遅れるから多少調整しやすいが、その反対だと3時間進んでしまうため、なかなか睡眠時間を確保するのが難しくなってくる。時差調整の経験のない日本人選手にとっては大きな障害になるだろう。

 大谷選手はMLBの舞台で二刀流に挑戦しようとしている。その点から考えると、やはり多少なりとも肉体的負担が軽減できる西海岸チームの方が理想的だと思う。更に付け加えるなら、西海岸地域にはアジア系住民が多く日本人選手を受け入れやすい地域社会だし、また西海岸のチームはニューヨーク、ボストン、フィラデルフィア、トロントなどの東部地域のチームと比べて遠征に帯同するメディアが少ないので野球に集中しやすい面もある(残念ながら来シーズンはどのチームに行っても大勢の日本メディアに追いかけ回されることになるだろうが…)。

 果たして大谷選手は最終的にどのチームを選ぶのだろうか。敢えてカブス、レンジャーズを残した意図も含め、非常に気になるところだ。二刀流を続けるのであればDHのあるア・リーグの方が対応しやすいとは思うが、あくまで日本ハムに似た環境で若手選手がのびのびプレーできるチームという点では、個人的にはカブス、ドジャース、パドレスを挙げたいところだが果たして…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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