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6年ぶりに復帰した川崎宗則が日本一に輝いたソフトバンクにもたらしたもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
川崎宗則選手の周りは選手もファンも常に笑顔に包まれる

 11月4日の日本シリーズ第6戦。延長戦にもつれ込んだ熱戦は川島慶三選手の劇的なサヨナラ安打で幕を閉じた。ソフトバンクの2年ぶり日本一にヤフオクドームはグランドも観客席も歓喜の輪に包まれた。

 しかしグラウンド上の選手の中に、6年ぶりに日本球界復帰を果たした川崎宗則選手の姿はなかった。7月24日に両足アキレス腱痛のため出場選手登録を抹消されて以降、結局最後まで1軍の舞台に戻ることはできなかった。本人としても日本一達成の場にグラウンドに立てずさぞ悔しかったことだろう。

 MLBのシーズン開幕直前にカブスから解雇された川崎選手がソフトバンクに電撃復帰するという急転直下の出来事に、大きな話題を集めることになった。多くの野球ファンが日本球界復帰を喜び、日本での彼のプレーに期待を寄せた。だが前述の負傷もあり、今シーズンの成績は42試合に出場し、打率.241、4打点。決してチームの優勝に貢献したと誇れるような成績ではなかった。

 だがここで断言しておきたいのは、今シーズンの川崎選手がチームにもたらした影響力は単なる打撃成績で表現することができないということだ。彼の復帰は間違いなくソフトバンクの選手たちの意識を変えていったのだ。

 川崎選手が1軍に合流した4月28日の時点で、ソフトバンクは13勝11敗で楽天に4.5ゲーム差をつけられ4位だった。当時の楽天は開幕から快進撃を続け15勝4敗とハイペースで白星を積み上げていたのに対し、ソフトバンクはなかなか勢いに乗れない状態だった。

 しかし1ヶ月後の5月28日になると、ソフトバンクは30勝19敗で2位に躍進。依然楽天(30勝12敗)に3.5ゲーム差を開けられていたものの、勝ち星で楽天と並び、この時点で“2強”体制を形成していた。そして勢いがついたソフトバンクはこのまま最後まで勝ち続け、最後は独走態勢からパ・リーグ史上最短記録でリーグ優勝を飾る強さをみせつけた。

 改めて説明するまでもないだろうが、たった1ヶ月でチーム状態がこれほど変化したのと、川崎選手の合流は決して偶然ではないということだ。

 端的な例が松田宣浩選手だろう。川崎選手が合流するまで打率.202、本塁打ゼロと不振が続いていたにも関わらず、4月30日のオリックス戦でシーズン初本塁打を放つと、そのまま一気に調子を取り戻していった。合流直後の川崎選手が松田選手に「呪いを解いてやる」とウィスキーを持ち出したというエピソードがメディアに取り上げられているように、川崎選手が松田選手をプレッシャーから解放してくれたのだ。

 それだけはない。復帰後の川崎選手は常に「Have Fun! 野球を楽しめ!」と選手たちに声をかけ続けた。そしてあまり多くには知られていないとは思うが、勝ち試合の後には選手が集まるロッカールームで川崎選手がDJを務め、陽気なラテン音楽などを流し選手全員が一丸となって心の底から勝利を喜べる環境を整えていった。

 また米国のマイナー生活で学んだコンディショニングの重要性から試合後の食事接種を訴えて、選手たちがきちんと食事を摂れるように改善することにも力を注いだ。まさに多岐にわたって選手たちの意識に“新しい価値観”を加えていったのだ。9月16日にリーグ優勝を決めた翌日にスポニチ紙上に柳田悠岐選手の手記が掲載され、「今シーズンを振り返ると、やっぱり、ムネさんが帰ってきたことが、デカいですよね」と証言している。まさにソフトバンクの選手たちの気持ちをそのまま代弁しているのではないだろうか。

 しかし川崎選手は今も現役選手だ。本人もそんなことで評価してほしいとは思っていないだろうし、不甲斐ない成績で終わってしまった今シーズンに忸怩たる思いを抱いていることだろう。リハビリの間も「ここから更に上を目指していきたい」とまだまだ野球選手としての向上心は衰えておらず、新バージョンの川崎宗則をつくろうとしている。

 来シーズンこそは川崎選手が本領を発揮しグラウンド上で思う存分暴れ回る、本当の意味での“復活劇”に期待したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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