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MLB球場にも防護ネットは必要なのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
防護ネット無しで選手と交流できるMLBの球場(セーフコ・フィールド)

 20日のヤンキース対ツインズ戦で悲劇的な事件が起こった。

 9-2で迎えた5回裏のヤンキースの攻撃中でのことだった。無死1、2塁とさらに追加点を奪うチャンスを迎え、打席に立ったのがトッド・フレイジャー選手。初球を狙ったフレイジャー選手の打球は鋭いライナーとなり、三塁ベンチ後方で観戦していた少女を直撃したのだ。試合は一時中断される中、病院に救急搬送される大騒動になってしまった。

 このシーンはスポーツ専門サイト『Sporting News』のジョーダン・ヘック記者が動画付きでツイートしている。

 ヤンキースはアクシデント後に声明を発表し、被害に遭った少女は球場内で救急治療を受けた後、精密検査を受けるため球場近くの病院に搬送されたことを報告。さらに試合後の記者会見でジョー・ジラルディ監督から、少女が大事に至らなかったとの説明がなされている。

 今回のアクシデントに限らず、MLBの球場では観客席のファンに打球が当たる被害が少なくない。MLBの球場がNPBとは違い、バックネット以外に防護ネットを設置していないのも大きな要因になっているのは誰もが認めるところだろう。

 MLBでは長年、球場内に防護ネットを設置しないことがある意味伝統になっていた。ファンサービスを重視するMLBにとって、

防護ネット無しの環境は、選手とファンの間に“壁”をつくらない象徴の1つでもあった。逆に内野席が防護ネットで覆われている日本の野球ファンからは、MLBの球場は憧れの存在にもなっていたほどだ。

 しかし最近は、MLBでも球場内の防護ネット拡大が議論の的になっていた。球場によっては試合前の打撃練習中に内野席付近に臨時の防護ネットを設置したりしていたが、メッツは今シーズン途中で、本拠地球場の防護ネットを拡大する措置を一足先に実行に移している。

 選手の間でも防護ネット設置の意見は少なくない。この日の試合後もヤンキース、ツインズともに設置を求める声が多かった。スポーツ専門サイトの『The Score』が、そうした彼らの反応をまとめている。今回のアクシデントの当事者になってしまったフレイジャー選手もその1人だ。

 「防護ネットはあった方がいいと思う。すべての球場に設置すべきだ。今回のことをしっかり検証し、対策を講じる方向に向かって欲しい」

 その他にもジラルディ監督が、「球場内のすべての人が安全でいられるようにしていくことに賛成だ」と発言している。

 またツインズでもブライアン・ドジャー選手が以下のように発言し、防護ネットの必要性を訴えている。

 「子供をベンチ近くの席に連れてこないか、防護ネットを設置するかのいずれかしかない。そてれに尽きる。(ネットで)ファンの視野が影響するかなんて気にしている場合ではない。まずは安全が第一だ。

 (防護ネット設置は)オーナーが決めることだが、我々としても設置に向け働きかけていくつもりだ。(ツインズの本拠地球場の)ターゲット・フィールドは(観客席と)本塁の距離がかなり近い。ある程度のネット拡大が必要だし、できれば(内野席)のすべてを覆ったほうがいいと思う」

 昨今ではMLBが投手の球速のみならず打球速度などもデータ化するようになり、野球全体でスピードとパワーが年々増しているのが明らかになっている。もちろん観客席に飛んでいく打球も例外ではなく、その分ファンも防御が難しくなっている。このように試合観戦の環境が変化している中で、ファンを迎える球場の設備が旧態依然としているのはやはり問題があるだろう。

 今回のアクシデントを機に、防護ネット設置がさらに大きな議題になっていきそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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