スポーツ界の「自主性」について考える

スポーツ界に自主性は本当に不要なのか?

 「自主性というのは指導者の逃げ。『やらされている選手がかわいそう』とか言われますけど、意味がわからない…」

 日刊ゲンダイDIGITALが12日に公開した下関国際高校野球部の坂原秀尚監督のインタビュー記事は、監督の強烈な言葉で溢れかえっていた。

 荒れ果てた同校野球部を徹底的に鍛え上げ、甲子園に導いた坂原監督の発言だけに、ある程度の重みがあって然るべきだろう。だが教壇に立つ身でもある同監督が文武両道を真っ向から否定し、勉学を疎かにしてもいいと捉えられてもおかしくない発言はやはり適切だと思えない。だがそれ以上に気になるのが、坂原監督が“自主性”を重んじる指導法の本質を理解しているのかどうかだ。自主性を忌み嫌うのは勝手だが、ものの本質を理解せぬまま感情的に否定してしまうのは指導者としての資質を問われかねない。

 さらに言及させてもらえば、高校教諭にとって部活動は学校教育の中で“一部”の存在であるはずだ。にも関わらず、全国大会に出場するために他のすべてを犠牲にしてもいいという考え方は、やはり教職員の本分から外れているようにも思える。

 それでは自主性を重んじる指導法とはそもそも何なのだろうか。自主性という言葉のイメージが強過ぎて「指導者は口を挟まず選手の意志に任せる」と捉えられていないだろうか。しかし本来のあるべき姿は「アスリート達が自主的にスポーツに取り組んでいける思考法、技術、態度を身につけさせる指導」であり、放任などではなく明確な指導なのだ。

 残念ながら日本のスポーツ界では今でも坂原監督の考え方が主流を占めているように思う。今年4月からNPBの取材をしていても色濃くそれを感じる。そんな中で選手の自主性を重んじる指導を続けているのが、日本ハムの吉井理人投手コーチだ。自らの実績や経験に頼ることなく、浪人時代に筑波大大学院でコーチング学を学ぶなど、しっかり理論的に系統立てて選手たちを指導しようとしている。

 今年5月から『Sports NAVI』上で吉井コーチの指導法を紹介する連載コラムを担当していることもあり、同コーチから定期的に指導法について話を聞かせてもらっているのだが、彼が理想としているものこそ、根気強く選手の自己啓発を促し、選手自ら“能動的”(自主的より的確な表現だろう)に考えさせるという指導法だ。

 吉井コーチの根底にあるのは「少しでも長く選手たちに現役を続けてほしい」という思いだ。もしあるコーチから熱心な指導を受けて上達したとしても、そのコーチが辞任してしまったら壁にぶつかった時にしっかり対処できない場合も生じてくる。ならば選手それぞれが自分自身を冷静に分析でき、問題が生じた時に的確に対処、解決できる力を身につけさせた方が、選手は指導者に関係なくアスリートとして独り立ちできるのだ。

 ただこの指導法を導入すると、指導者は常に選手個々と向き合っていかねばならない。対話を繰り返しながら選手の性格、年齢、実力等を考慮し、自分自身で考えていけるようアドバイス、モチベーションを与えていかねばならない。現在の吉井コーチを見ていても、根気強く取り組んでいるのが痛いほど理解できる。プロ野球の選手といえでもアマチュア時代は一方的な指導を受けてきた選手がほとんどだ。その意識を変化させるのは決して楽な作業ではないし、一方的に意見、指導した方が余程楽だろう。しかしそれでは本当に身で選手の成長には繋がらないのだ。

 もちろんプロのアスリートに限らず、学生アスリートにとっても自己分析力を身につけさせるのは重要なことだろう。自分の課題や弱点を自ら工夫して解決することは選手たちに大きな達成感を与えるだけでなく、大きな成長も期待できる。また将来競技から離れ社会に出たとしても、社会への適応力にも好影響を与えるはずだ。

 これらを踏まえた上で改めて冒頭の坂原監督の言葉を考えてほしい。自主性を重んじる指導法を理解しないまま忌避していることの方が、むしろ指導者として逃げていないだろうか。まずは指導者の考え方が変わっていかない限り、スポーツ界に真の変革が訪れることはないように思えて仕方がない。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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