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“戦力外”にされたはずのカーターがわずか5日後に同じヤンキースでメジャー復帰!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
“戦力外”にされたはずなのにわずか5日後にメジャー復帰したクリス・カーター選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

そもそも今回ヤンキースが24日にカーター選手に対し行った措置は、日本でいうところの“戦力外”とはまったく意味が違うものだ。

すでにご承知の方も多いかもしれないが、『Designated for assignment(通称DFA)』とは対象選手をメジャー昇格の最低条件となる40人枠から外すための措置であり、それ自体がチームから解雇されるというものではないのだ。

DFAされた選手は3つの選択肢が用意されている。まず一連の流れを説明すると、DFAされた選手はまずウェーバーにかけられる。この期間内に他チームがクレームした場合、選手がDFAしたチームと結んでいた契約がそのまま保証された状態で、自動的にクレームしたチームへ移籍することになるというのが、まず第1の選択肢だ。

残り2つの選択肢は、他チームがクレームせずにウエーバーがクリアになった場合だ。ここからは選手の意志で今後の選択肢を決めることになる。1つはDFAされたチームを離れFAとして他チームへの移籍を模索する道だ。すでにウェーバーがクリアになった時点で、選手は無条件でどこのチームとも交渉でき、場合によっては日本などの海外リーグへの移籍も可能になってくるわけだ。

最後の1つはDFAされたチームへの残留を希望し、契約内容を見直した上で再契約を結ぶ道だ。この場合選手は必然的にマイナーに回ることになるため、メジャー契約が破棄されインセンティブ付きのマイナー契約に切り替えるしかなくなる。実はカーター選手もこの道を選択し、前日の28日に3Aに回ることが決定していたのだ。

ところが、だ。カーター選手に代わってメジャーに昇格していたタイラー・オースティン選手が右脚太もも裏(ハムストリング)を痛め長期離脱を余儀なくされてしまったのだ。そのためオースティン選手の故障者リスト(DL)入りと同時に、カーター選手がメジャー昇格を果たしてというわけだ。

ここで疑問に思うのが、カーター選手をDFAせずに単純にマイナー降格させれば良かったのではないか、だろう。しかしMLBの統一労働協約は様々な“しばり”がある。カーター選手のようにMLB在籍期間が長いベテラン選手は40人枠に留まったままマイナーへ降格させるオプションがなくなっており、25人枠から外す場合は結局40人枠から外すDFAを行わざるを得ないのだ。

ということで、カーター選手はメジャー復帰を果たしたことでDFA前と同じ待遇(契約内容は変わったが…)の選手になってしまったので、もしオースティン選手がDLから復帰することになり、再びカーター選手を25人枠から外すようなケースになったら、面倒ではあるのだが再びDFAするしかないということになる。つまりカーター選手にとって今回のメジャー復帰は、オースティン選手が戻ってくるまでの短期間の内にしっかり結果を残さなければならないという切羽詰まった状態にあるのだ。

これがDFAの真の姿だ。もうDFAの実態が日本でもかなり浸透してきているはずなのに、日本のメディアは相変わらず“戦力外”と表記し続けるから辻褄が合わなくなってくる。そろそろ表記を見直すべきではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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