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すでに“前人未踏”の領域を突き進むカブス上原浩治がMLB9年目シーズンを迎えた凄味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季は年齢順でMLB5位にランクする42歳になったばかりのカブスの上原投手

今シーズンからカブスに移籍した上原浩治投手が4月2日のカージナルスとの開幕戦で早くも移籍初登板を飾り、1回無失点と上々のスタートを切った。

今年のキャンプ取材はカブス中心だったため久々に上原投手を観察することができたのだが、いつもと変わらない先を見据えたぶれない調整ぶりに頭が下がる思いだった。

オープン戦中は「まだ気持ちが入っていない」という言葉を繰り返していたが、それは気を抜いているからではなく、シーズンに入ってから否応なしに気力と体力を削る日々が始まる。42歳の現役選手として公式戦で結果を残さなければ身を引かねばならない覚悟があるからこそ、キャンプはその準備だけに集中していたのだろう。

これまで20年以上MLBの取材を続けてきた中で、もう2度と現れないだろうと感じている日本人選手が2人いる。1人はイチロー選手で、もう1人が上原投手だ。タイトルにあるように、すでに日本人メジャー選手として“前人未踏”の領域に足を踏み入れているくらいだ。

上原投手は最近では珍しい大卒からFA権を取得し、MLB挑戦を果たした選手だ。しかも上原投手の場合浪人を経ての大学入学なだけに、1年余分に年齢を重ねている。そんな不利な条件の中で上原投手は現在も、大卒FA選手としてMLB挑戦した日本人選手の最長在籍記録の更新を続けているのだ(これまでは黒田博樹投手の7年だった)。

「まったく(想像は)していないですよ。最初の2年契約で終わるかなというぐらいの考えだったんで。どの辺りというのはなかったですけど、その後毎年毎年1年契約でやっていって、そこで1年間やってみた中でもうちょっとやってみたいという思いがシーズン中にでてくるので。

どこというのではなくシーズン中にもうちょっとやりたいと…。(シーズン)終わりかけの時にもうちょっとできるかなという気持ちになった時に、やりたいという感情が出てくる」

もちろん上原投手自身もこれほど長くできるとは想像もしていなかった。これまで様々な日本人選手がMLBに挑戦してきたが、長く在籍するのは至難の業なのはご承知の通り。世界中からトップ選手が集まる史上最強リーグらしく、成績が残せない選手はすぐに居場所がなくなってしまう。

しかも上原投手の挑戦は34歳になってから。誰もが選手としてのピークを過ぎていたと考えていただろう。にも関わらず現在もMLB屈指の救援投手の評価を得て、昨年の覇者カブスからラブコールを送られるのだから、驚異以外の何ものでもない。

「やはりもう球速が出ないというのと、体力的にはそんな感じることはないけれども、(キャンプ中の)こういう練習とかしていたら、やっぱついていけない部分というか、オッさんだなと思う時はありますけどね(笑)。それはうまいこと治療とかケアを大事にしてれば1年間何とか乗り切れるとは思います。それ(やれるという自信)を持っておかないと通用しないですからね」

もちろん上原投手の中では年齢的な部分を感じてはいる。そのマイナス面を跳ね返すように、裏ではたゆまぬトレーニングとケアを続けているから現在の上原投手が存在している。だからこそマウンド上で1球ごとに思い切り腕を振り抜こうとする彼の姿は、人々を自然と熱くさせてしまうのだろう。

このまま来年も現役を続ければ、MLBサービス(メジャー登録の25人枠もしくは25人枠扱いで故障者リストにいる期間)10年をクリアすることになり、野茂英雄投手、イチロー選手に続く3人目の金字塔となる(松井秀喜選手は最終年が1年未満扱いとなる)。

実はMLBサービス10年は、MLB選手にとって一流選手の証明の1つなのだ。選手たちはメジャーに昇格すると選手会に加入することになるのだが、このMLBサービス10年をクリアすると、選手会が設立する年金を全額支給される権利を得るのだ。まさにMLB選手のステータスをも手に入れようとしているのだ。

「今は1年でもやりたいという気持ちがすごく芽生えてきているんで。やはり現役でやっているのが一番の華ですから。現役でやっているからいろいろ我が儘も言えるし、もう現役辞めちゃうと誰も寄ってこないし、仕事もどうなるか分からないし(笑)。そういうのを考える部分はあります。

あとは誘いがなかったら辞めるということなんで。僕が選べることじゃないですからね。球団の方が欲しいって言ってくれるのであれば、それは11年目であろうが12年目であろうがやりたいですし、今年終わってどこも声がかからなければもう辞めるだけです」

上原投手は日米通算100ホールド達成まであと24に迫っており、100勝+100セーブを加えた「トリプル100」という記録も控えている。これまで先発、抑え、セットアップ、敗戦処理等、投手としてのあらゆる役割を担ってきた選手らしい偉業でもある。

少しでも長く上原投手の投げる姿を見続けたいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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