イエメン内戦急転 サウジ支援の政権軍がUAE支援の南部勢力の攻撃開始、米国はフーシ派と直接対話へ?

イエメン内戦で南部の分離独立派の制圧に向かう暫定政権軍の車両(写真:ロイター/アフロ)

 4年半続くイエメン内戦はサウジアラビアが支援する暫定政権と、アラブ首長国連邦(UAE)を支援する「南部暫定評議会(STC)」が南部の主要都市アデンで28日、戦闘状態に入った。両勢力は共闘してイランが支援するシーア派のフーシ派と抗戦してきた。イエメン内戦は、イランとサウジの代理戦闘と言われたが、暫定政権と南部勢力の対立で三分裂の様相となった。サウジとUAEは米トランプ大統領が主導する対イラン強硬策を支えてきた盟友だったが、亀裂が決定的となった。

 発端は8月10日、南部暫定評議会がアデンの暫定政府の大統領府や政権軍の拠点を攻撃し、政権軍を排除したことだ。サウジに滞在するハディ暫定大統領は「クーデター」と呼んで非難した。南部勢力の蜂起の後、サウジとUAEが仲介に乗り出し、南部勢力はアデンの大統領府など一部の施設からは撤退したとされたが、一方で別の南部地区での衝突が起こった。

 26日には両勢力がアデンでの停戦に合意との情報も流れた。しかし、28日午後、政権軍は南部勢力が押さえていたアデン空港を制圧し、大統領府を押さえ、アデン市内に向けて侵攻し始めた。カタールの衛星放送アルジャジーラのアデンからの報道では、暫定政権はアデンを奪回したと発表しているが、南部暫定評議会の関係者は28日夜の段階でなおアデン中心部を押さえていると語り、状況は不透明だ。

 半月を経てアデンで武力衝突が再燃したことは、1994年の南北内戦など元々対立関係にあるイエメン国内の分裂よりも、両勢力の後ろ盾となっているサウジとUAEの間の亀裂の深さを露呈した。

 ハディ暫定大統領は2011年のアラブ世界の民主化運動「アラブの春」での反政府デモを受けて辞任したサレハ大統領の後を受けて暫定大統領として民主化と国民和解を担った。しかし、2015年にイエメン北部のシーア派であるフーシ派に北部の首都サヌアを制圧されたため、南部のアデンに移って内戦が始まった。サウジが主導して暫定政権を支援するアラブ有志連合が創設され、UAEは南部に地上軍を送り、フーシ派地域への空爆も実施し、サウジを支えた。UAEは2017年に創設された南部の分離独立を目指す南部暫定評議会を支援し、特に1万5000人規模の民兵精鋭組織「治安ベルト部隊」に武器を提供し、軍事訓点を実施した。

 ハディ暫定大統領は南部勢力の蜂起の背後にUAEがいると非難してきた。UAEは否定するが、しかし、アデン蜂起の主力は、UAEが創設し、支援してきた「治安ベルト部隊」であり、UAEが関与していないといっても説得力は弱い。ペルシャ湾岸の小国であるUAEにとっては、豊富な資金力を使って南部勢力の後ろ盾となり、インド洋を望むイエメン南部に足場を維持することは内戦に介入する以上の意味を持つ。

 その一方で、UAEは7月上旬、イエメン南部に駐留させていた5000人規模の駐留軍の大部分を撤退させた。撤退の理由は、イエメン内戦の長期化によって国内に厭戦気分が広がっていることと、イエメン内戦への介入に対する国際的な批判の高まりがあるとされる。

 イエメン内戦では、4年間で約1万人の民間人が犠牲になり、中には10万人近い民間人の死者が出たとの推計もある。うち3分の2が、サウジやUAEが主導するアラブ有志連合の空爆によるもので、国際的な非難が上がっている。さらに18年10月には国連がイエメンで140万人が飢餓の危険に瀕しているという警告を発した。

 UAEは石油に依存するサウジと異なり、金融、観光、貿易など国際化の中での産業の多様化を進めており、人道的な非難で国のイメージが悪化することにはより敏感にならざるを得ない。さらに、イエメン内戦の人道危機に批判的な米国議会が、今年6月、7月に上院、下院が相次いでサウジだけでなくUAEに対しても武器輸出を停止する決議案を出したことについて、UAEは「トランプ後」への強い懸念を抱いたとされる。

 UAEが自国軍の撤退から1カ月後の8月に南部暫定評議会がアデンで蜂起したのは、UAEがイエメンから自国軍を撤退させた後も、イエメン南部での足場を維持するための方策との見方ができる。南部暫定法議会はアデンから政権軍を排除した後も「フーシ派との戦いでアラブ有志連合に協力する」と強調した。

 一方で、フーシ派は今年に入ってサウジ国内への弾道ミサイル攻撃や無人飛行機による攻撃を強めている。8月1日にサウジ東部のペルシャ湾に面する都市ダンマンに対して新型の長距離射程の弾道ミサイル攻撃を行った。南部勢力のアデン蜂起の後の17日にはサウジ東部のUAE国境の近くにあるシャイバ油田の施設に爆弾を積んだ10機の無人飛行機で攻撃した。

 南部勢力のアデン蜂起の後、UAEはサウジとも対応を協議したが、「対話による解決」を強調しながらも、明確に「南部勢力の撤退」を語ることはなかった。UAEはこれまでに南部で7万人から9万人の民兵を訓練し、自国軍が撤退しても、イエメンへの関与は続けるとしていた。フーシ派との戦いに協力さえすれば、サウジは南部勢力が南部を押さえることを認めるだろうと高をくくっていたのかもしれない。

 その意味では、今回、サウジと暫定政権がしびれを切らしたようにアデン奪回の大規模な軍事行動に出たことは、UAEにとっても、南部暫定評議会にとっても、計算違いということになるだろう。政権軍が掃討作戦に出ても南部での混乱が簡単には収拾できないことを考えれば、サウジで対イラン強硬策を進め、イエメン内戦への介入を主導する33歳のムハンマド皇太子が、短気な怒りを爆発させたかのようでもある。

 しかし、攻勢を強めるフーシ派との戦いをそっちのけで、暫定政権と南部勢力が戦えば、内戦はさらに泥沼化し、イランとの対抗勢力でもあるアラブ有志連合は空中分解する。そうなれば、トランプ大統領の対イラン強硬策の中東での足場も瓦解しかねない。

 サウジが支援する暫定政権が、短兵急とも思える軍事強硬策に出た理由を考えるに、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルが27日付で報じた「米トランプ政権がイラン支援のフーシ派と直接対話を計画」という特ダネ記事との関係が気にかかる。同紙によると、「トランプ政権は4年の内戦を終わらせるためにイランが支援するイエメンのフーシ派との直接対話を始めることを準備している」と複数の関係者からの情報として報じた。「米国はオマーンで行われるフーシ派指導者との秘密の会合にサウジの参加を働きかけている」としている。

 トランプ政権が泥沼化するフーシ派との停戦を目指すとすれば、サウジも暫定政府も、イエメン北部のフーシ派が求めている権力分有(パワーシェアリング)を認めざるをえないだろう。深刻な脅威となったフーシ派と戦い続けて、南部勢力との分離独立を認めるか、フーシ派との共存や権力分立を認めて、南部勢力の分離独立を抑えるか、という選択である。

 しかし、米国が主導してフーシ派と対話することが決まったならば、サウジにとっても、暫定政権にとっても、残る選択肢は南部の分離独立を抑えることしかない。そうなれば、フーシ派を共通の敵と考えていたUAEと南部勢力にとっては大きな誤算である。UAEが資金を投じて大量の武器をもたらし、多数の民兵を作り出したことが災いして、内戦は南部を舞台とした新たな悲劇の始まりともなりかねない。