対イラン「有志連合」構想への参加論議 日本に欠けている「戦争」への危機感 日本に求められる役割は?

22日に来日し河野外相と会談したボルトン米大統領補佐官(左)(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 米国とイランの軍事的な緊張の高まりの中、「米・イラン戦争」の文字が世界のメディアの見出しに出ている。「我々は米国がイランとの戦争に進むのを止めなければならない」(米民主党政治家バニー・サンダースの英ガーディアン紙への寄稿)、「米国とイランは戦争に向けて進んでいる」(米外交専門誌、フォーリン・アフェアーズ)、「トランプとイランは双方にとって破壊的な戦争の淵にいる」(米ビジネス・インサイダー)、「我々は米・イラン戦争に準備すべきだ」(ドイツ国際放送ドイチェ・ヴェレ< DW>で中東専門家の発言)、「イランと米国はどれほど戦争に近いのか?」(カタールのアルジャジーラ)――等々である。

 日本の新聞、テレビの報道ではまだ現在の米国とイランの緊張について「戦争」への危機感は感じられないが、戦争を念頭に置いて、中東情勢をみるべき時に来ている。特に、米トランプ政権がホルムズ海峡周辺の船舶の安全を確保する「有志連合」構想について日本にも参加を求めている問題は、日本ではペルシャ湾の「船舶の安全確保」に自衛隊を派遣できるかどうかという制度論議になっている。しかし、米国がイランへの軍事攻撃に進めば、「有志連合」の枠組みはイラク戦争時と同様に米国の戦争を支援するという意味を持ってくることは必至である。戦争を食い止めるための日本の役割は何か、さらに日本が戦争に巻き込まれないために何をすべきかを考える必要がある。

 ホルムズ海峡では7月19日にイランの革命防衛隊によって英タンカーが拿捕される事件が起きたが、それに対してハント英外相は22日の閣議後に、同海峡での船舶の安全航行の対応策をフランスやドイツなど欧州諸国と協力する方針を示した。「イランに最大限の圧力をかける米国の政策の一部ではない」と明言した。ニューヨークタイムズは「英国はトランプ政権から距離を置く姿勢を示し、イランを巡って米英の同盟国間で幅広い相違があることが明らかになった」と報じた。

 英独仏は2018年5月にトランプ米大統領が離脱を表明したイランとの核合意の継続を主張している。イラク戦争の有志連合に協力した英国でさえトランプ政権の危険なイラン政策とは距離を置こうとしているのだから、イラク戦争に協力しなかった仏独の対応はより明白である。

 ホルムズ海峡での船舶の安全航行を保障するため有志連合の結成は7月9日にダンフォード統合参謀本部議長が発表したもので、19日に米国務省は日本を含む60カ国以上を招いて説明会が開き、「有志連合」への参加を求めた。同じ日、英ロイター通信は「有志連合は軍事的にイランに対抗するものではない」という米国防総省高官の談話を特ダネとして報じた。

 しかし、有志連合の結成は、6月にホルムズ海峡で日本船籍のタンカーなど2隻が攻撃を受け、米国がイランの仕業として非難し、イランは否定した事件の後に出てきたものだ。トランプ大統領がツイッターで「なぜ、我々(米国は)他の国々の船舶の航行ルートを無償で護衛しているのか」と発信したことに端を発している。そのツイートの中で「日本は61%の原油を、その海峡経由で得ている」と日本は名指しされている。有志連合の結成は、イランによるタンカー攻撃を念頭に置いたものであることは、明白である。

 国際社会には、米国・イラン関係が悪化していけば、軍事攻撃や衝突になるのではないかという恐れが広がっている。だからこそ、米国防総省も「軍事的にイランに対抗するためではない」という話を欧州諸国向けとしてロイター通信に流さねばならなくなったのだろうが、「非軍事」を真に受けるものはいないだろう。

 イランとの戦争については、米外交問題誌ナショナル・インタレストは6月30日付で「戦争となれば、イランはいかに米国と戦うのか」という記事を掲載した。軍事専門家の分析を引用しながら、「イランとの戦争になれば財政的にも、人的損失でも、長期に及ぶ悪夢の引き金となる」「イランとの戦争となれば、イラク戦争がいかに楽なものだったかを思い知ることになるだろう」「イランは米国に対して報復するいくつもの方法を持ち、二国間の対決を激化することができる」などといくつもの警告の声を掲載している。

 イラク戦争では2011年末の米軍撤退までに4000人以上の米兵が死んだが、すべてイラク国内での犠牲である。イラクが米国に報復することはなかったし、イラクはイラン、サウジ、シリアと敵国に囲まれ、イラクの混乱が隣国に波及するということもなかった。しかし、イランはイラクのシーア派政権、シリアのアサド政権、レバノンのシーア派組織ヒズボラと「シーア派ベルト」と呼ばれる勢力圏を持ち、さらにクウェート、サウジ、バーレーンと湾岸アラブ諸国のシーア派社会への影響力も持つ。もし、米国がイランとの戦争になれば、戦争は一気に広域化することは避けられない。

 6月20日に米国の無人偵察機がイランの革命防衛隊に撃墜された時、トランプ大統領は軍にイランへの報復攻撃を命じながらも、「攻撃の10分前に中止させた」とツイッターで明らかにした。中止した理由については、「攻撃によって150人の死ぬと知り、無人偵察機の撃墜とは釣り合わないと思った」とした。このことはイランと米国が一触即発の状態にあるという軍事の舞台裏を、米大統領自ら世界に知らせることになった。米国とイランの間で、いつ、偶発的に軍事的な衝突が始まるかもしれない。一旦、軍事的な衝突が起これば、報復合戦になる可能性は消えない。だからこそ、世界で「米・イラン戦争」がメディアの見出しになっているのである。

 日本が、最悪のシナリオとしての「戦争」を念頭に置かないで、単に船舶の安全航行のために「有志連合」への参加の可能性を検討するとすれば、能天気と言われても仕方ないだろう。22日にボルトン大統領補佐官(安全保障担当)が来日し、河野太郎外相や岩屋毅防衛相と会談して、有志連合について説明したとされるが、ボルトン補佐官はブッシュ政権時代からイランの体制転覆を主張し、そのためには軍事的手段も辞さないとする超タカ派であり、今回の「有志連合」構想でボルト氏が中心的な役割を果たしていることだけでも、戦争に向かうのではないかとの懸念を抱かせるのに十分である。

 日本としては米・イランの戦争に巻き込まれないためには欧州諸国と同様に、トランプ政権の「有志連合」から距離をとる道を探るしかないだろう。ホルムズ海峡でのタンカーの航行についても、トランプ政権と距離を置き、欧州と協力して安全保障策を講じることも選択肢になる。安倍首相は6月中旬に、米国とイランの緊張緩和のために、両国と友好関係を持つ国として、イランを訪問したばかりであり、手のひらを返したように、米国が進める「有志連合」に参加・協力するようでは、外交の一貫性が問われる。

 日本の取るべき道を考える時、トランプ大統領の対イラン政策でホワイトハウスで「有志連合」の説明会があった19日に、もう一つの動きがあった。トランプ大統領は、イランへの強硬策に反対し、外交的解決を主張してきた共和党上院議員のランド・ポール氏がイランとの外交交渉を行うことを認めたと明らかにした。イラン対応でボルトン氏とは全く正反対の人物を起用したことに、米国メディアでは驚きと共に、トランプ大統領は本当は戦争ではなく、「ディール(取引)」を望んでいるのではないかという見方が出ている。

 このような見方は、トランプ大統領が無人偵察機撃墜に対する軍事的報復を中止した時にも出た。大統領は戦争による原油の高騰など経済的な悪影響や戦争に金がかかることを嫌っていて、イランに圧力をかけて「ディール(取引)」に持ち込むことが真意ではないかというものだ。イスラエルのハアレツ紙はトランプ大統領の攻撃中止の決断について、「6年前にオバマ大統領がしたことを、その悪口を言っていたトランプ大統領が繰り返した」と論評した。2013年8月にオバマ大統領(当時)がシリアのアサド政権の化学兵器利用を認定しながら武力行使を断念したことと同一視し、トランプ頼りで対イラン強硬策を進めてい来たネタニヤフ首相の対イラン政策は見直しを迫られると論じた。

 トランプ大統領が求めるのがイランとのディールだとすれば、安倍首相がイランに行くことを後押ししたことも大まじめだったのかもしれない。安倍首相のイラン訪問は、米国とイランの深い不信感のために、成果なく終わったが、折角、乗り出したのだから、「戦争」を食い止めるために両国の友好国という立場で、米・イラン間の仲介をさらに続けるという選択肢もある。

 米国とイランに国交がなく、欧州の指導者たちがトランプ大統領と距離を置いているとなれば、安倍首相がトランプ大統領との個人的な信頼関係を公言できることは稀有なことである。その関係を使って、トランプ大統領の本音を聞き出して、河野外相にイランと米国の間のシャトル外交をさせるぐらいに本腰を入れて仲介外交に取り組めばいいのではないか。それは日本の役割を世界に示すことになり、なにより日本の利益のためであり、米国のためでもある。