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“森保ジャパン”カタールW杯へのサバイバル。エクアドル戦で猛アピールが期待される6人

河治良幸スポーツジャーナリスト
上田綺世(筆者撮影)

鎌田や三笘に加えて、得点に直接絡まなかった前田大然や久保建英も攻守両面で良いパフォーマンスが目立った一方で、最後まで声がかからずベンチで試合を見届けた選手やベンチ外から試合を見守った選手たちがいる。

そもそも30人という大所帯で、親善試合でも最大17人しか出られないことから、半数近く試合に出られない選手がいるのは仕方ない。問題は次のエクアドル戦で、この試合がW杯のメンバー選考前のラストゲームとなるが、森保監督がどういう起用プランを立てるのか。

アメリカ戦を開幕のドイツ戦に見立てれば、中3日で来るエクアドル戦はコスタリカ戦という想定もできる。ある種、本番仕様のシミュレーションで考えた場合、この2試合目でターンオーバーを図るのか、大枠を変えずに臨むのか。

このシリーズは2試合だが、W杯での3試合目を想定したスタメン選びになるかもしれない。それと同時に、やはり選手個人にとっては最後のアピールチャンスであることをどう加味して決断するのか。

アメリカ戦の翌日、試合に出なかった選手や出場時間が短かった選手は7対7にキーパーを付けたミニゲームなど、強度の高いトレーニングで汗を流していた。権田修一が負傷離脱、前田大然も 試合中の負傷で休養を取り、ディフェンスラインの要であるアーセナル所属の冨安健洋はクラブ事情で離脱した。

そうした情報も踏まえて、ラストアピールが期待できる6人を筆者の視点で解説する。

上田綺世(セルクル・ブルージュ)

代表合流前のオーステンデ戦で得意の動き出しから移籍後2点目を奪取。練習の動きを見ても明らかに調子が良く、メディア対応での表情も晴れやかだっただけに、アメリカ戦のベンチ外には驚かされた。

1トップだった前田大然が非常に良いスプリントを見せていたので、そうした仕事にかけてはやや分が悪いかもしれない。それでも仮に0-0やビハインドで後半を迎えたら、本番のドイツ戦でもベンチにいたら心強いストライカーであることは間違いない。

エクアドル戦のプランによって、スタメンになるのかベンチ外かは分からないが、鹿島とは異なる環境で揉まれた成長分を発揮して、代表戦でもゴールできることを証明してもらいたい。守備やポストプレーと言った仕事もあるが、ゴールが何よりのアピールになることは本人が一番認識しているはずだ。

古橋亨梧(セルティック)

セルティックでは元マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督のもと、継続的にセンターフォワードで出番を得ている。同僚の前田大然はサイドの起用が多かったが、アメリカ戦は前田が1トップで得意のスプリントを発揮。一方の古橋は出番が無かった。

「彼がアメリカ戦で1トップで出たのはすごくいい刺激になりますし、タイプは似てるので、すごくどういうふうにやればいいのかっていうのがすごく勉強になりました」

古橋がそう語るように、ディフェンスに関しては同じような役割をこなせる意味で、森保監督も起用しやすいだろう。その上で、古橋ならではの持ち味であるボックス内の勝負強さをエクアドルの屈強なディフェンス相手にどこまで出せるか。得点チャンスだけなら途中から出た方が美味しいところを持っていけそうだが、やはりスタメンで力を証明してほしいところでもある。

旗手怜央(セルティック)

チャンピオンズリーグのレアル・マドリー戦で獅子奮迅のパフォーマンスを見せるなど、欧州の地で着実な成長が見られる。しかしながら、代表では明確なポジションが確立されておらず、マルチのポジションでプレーできる能力が逆に、限られたテストでの起用法を難しくしているところはあるかもしれない。

特に慣れた4-3-3ではなく4-2-3-1がメインになってくると、また難しさも増すが、旗手自身は「4-2-3-1だったら右も左も真ん中もできる自信はあるので、あとは監督が決めること」と割り切っている。

ただ、それぞれのポジションにスペシャリストがいることで、どこでもできることがどっち付かずにならないように、森保監督がメインポジションを定めてあげないと、過去の大会でもマルチロールとして選ばれながら、出場なく終わった選手たちのようになりかねない。

旗手本人はパンチ力のあるシュートや一瞬でギャップに入り込んでラストパスを引き出すセンスなど、スペシャルな特長はあるだけに、まずはどこでどう起用されるのか、それに結果で応えられるかが生き残りの鍵になりそうだ。

柴崎岳(レガネス)

前回大会は直前までポジションも定まらなかったところから、本番では長谷部誠とボランチのコンビを組み、グループリーグ突破に大きく貢献した経験があるだけに、序列的に厳しいと外から見られる状況にも、いたって泰然自若としている。そんな柴崎もアメリカ戦のパフォーマンスは「内容も良く、結果も出て実り多いものになったんじゃないか」と素直に見解を語った。

そうした上で、柴崎がボランチとして出せる強みは何にか。4-2-3-1であれば「出るとしたらボランチの守田、(遠藤)航のところだと思いますし、ある程度、攻撃的に行きたい局面だと思う」とイメージを語ってくれた。

アメリカ戦のように、うまくプレスをかけてショートカウンターを何度も繰り出せる展開なら、やはり守備強度を考えたら、守田と遠藤のコンビは現在の代表で随一だろう。しかし、本大会のドイツ戦やスペイン戦ではさらに難しい状況も想定される中で、マイボールをどう攻撃に繋げていくかというゲームコントロールは柴崎が最も得意とするところでもある。

エクアドルはW杯で対戦するコスタリカとはスタイルも異なるが、2試合目で日本がコンディションも考えながら勝ち点3を目指すという、ある意味で一番プランニングが難しくなるかもしれない試合で、森保監督の意図を最も理解する一人である柴崎の存在は心強いところ。

ラスト3試合で試合に使われて、良いパフォーマンスを出した選手が本大会でも起用されていくというのは柴崎も認めるところだけに、経験豊富なボランチにとっても、エクアドル戦は絶対に逃せないアピールチャンスになる。

山根視来(川崎フロンターレ)

これまで酒井宏樹の怪我による欠場などもあり、最終予選の終盤や6月の4連戦では実質的なら右サイドバックの一番手だった。しかし、酒井が復帰し、アメリカ戦に先発。さらに後半は冨安がアーセナルと同じ右サイドバックで起用された。

そうした状況は山根にとっても大きな刺激になったようだが、どんな競争があっても「自分は常にチャレンジャー」と自負しており、ジタバタする様子は見られない。アメリカ戦を見て、サイドバックとして「やっぱり守備がすごい堅いチームだなと改めて日本代表を観て思ったのでそこは自分が入った時には示していかなければいけない」と語った。

もちろん山根のスペシャリティは川崎でも見せている攻撃センスにあり、本人も言う通り相手にとって嫌らしいところを見つけて入っていくことで、決定的な仕事につながる。そこに周囲とのコンビネーションをどう固めていくか。ぼボールを握れる時間帯と握れない時間帯が、よりはっきりしそうなエクアドル戦では山根の能力が発揮されやすい。

こうした戦いで、どうしても欧州組がフォーカスされるが、Jリーグでやっていても国際舞台で戦えることを示してほしい一人でもある。

相馬勇紀(名古屋グランパス)

E-1選手権で日本を優勝に導く活躍で、今回の9月シリーズに滑り込んだが、東京五輪で一緒だった選手も多い。当時は三笘薫と同列で、どちらかが左サイドで先発すれば、もう一人は途中から流れを変えるという関係を築いており、カタールW杯でメンバーに組み込まれたら、大きな武器になりうる。

本人も「初見では瞬発力で必ず突破する自信がある」と語るように、Jリーグのようにお互い知っている対戦より、短期決戦で初めて当たる相手の方が特長をストレートに発揮できるというのはまさにW杯向きだ。

「自分のドリブルは(三笘)薫とはまた違うリズムがある」

そう語る相馬はもちろん、アメリカ戦で左サイドに起用された久保建英とも全く違うタイプなので、従来の大会より3人多く登録できる26人枠の+3としても打ってつけだ。もちろん相馬個人のキャリアを考えたら、それだけでは足りないが、W杯で違いを生み出すアクセントとしては十分に可能性を持っている。吉田麻也がいうところの「ゲームチェンジャー」になりうる選手だ。

さらに名古屋では左のウイングバックを担当しているように、守備でがんばれる選手でもある。“秘密兵器”のまま本大会に連れて行くプランもありだが、本人は「見つかっても別に。Jリーグのように継続して戦っている相手ではないので」とそこは意に介さない。

アメリカ戦はJリーグの日程と移動の事情から代表チーム合流が遅れたことも不利な材料だった。エクアドル戦はそうした言い訳材料もなく、まずは出場を勝ち取って“世界に見つかってしまう”ぐらいの活躍に期待したい。

そのほか、冨安の離脱もあり高い確率でセンターバックのスタメン起用が予想される谷口彰悟(川崎フロンターレ)、権田修一が離脱したGKのポジションで下克上を狙う谷晃生(湘南ベルマーレ)、慣れ親しんだホームスタジアムで実力を示したい田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)なども注目だ。

そして3日間帯同した“長谷部誠ロールモデル・カイザー”効果でで「サウナに入ったように整った。やりますよ」と意気込みを見せる長友佑都(FC東京)10番の意地を見せたい南野拓実(モナコ)、選ばれれば長友とともに4大会目のW杯となる川島永嗣(ストラスブール)。チームの強化と勝利が優先される以上、結果として全員が起用されるかはわからないが、泣いても笑ってもメンバー選考前の最後の試合で出番を勝ち取り、大いにアピールしてもらいたい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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