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今日本で最も熱いJ3。終盤戦を牽引する昇格のキーマン8

河治良幸スポーツジャーナリスト
嵯峨理久(いわき)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

シーズンの約3分の2を消化し、終盤戦に突入するJ3は勝ち点48で首位を走るいわきFCから8位の愛媛FCまで、勝ち点10差となっており、J2昇格の2枠をめぐる戦いはますます激しくなっています。

各クラブで主力を担う選手から終盤戦で昇格の鍵を握るタレント8人を選びました。普段なかなか取り上げられないJ3だけに”ガチ視点”で、正直あまり気を衒っていません。なお、ここまで9得点をあげているFW横山歩夢(松本山雅)は若手や代表の記事で再三取り上げているため、今回は”お役御免”ということで対象外としました。

嵯峨理久(いわきFC)

J3で最も相応しくないレベルの選手でしょう。166cmと小柄ですが正直、J1にいてもおかしくないプレーの強度、試合の流れを読む能力を備えています。フィジカル的な強みを押し出すいわきにあっても、その運動量と推進力、そして右サイドバックというポジションにありながら、決定的な仕事ができるセンスで4得点7アシスト。同じくJ3からチャンスを掴んでJ1屈指のサイドバックとなった飯野七聖(ヴィッセル神戸)に通じるものがあります。面白いタレント揃いのいわきでも、その存在感は抜きんでたものがあります。

米澤令衣(鹿児島ユナイテッド)

タレント集団の鹿児島でも攻撃の中心であり、ここまで10得点5アシストと飛び抜けた結果がそれを物語っています。もともとセレッソ大阪に所属していましたが、J1での実績はなく、当時J3で活動していたUー23で、2018年に12得点を記録して、翌年から鹿児島に所属しています。攻撃的なポジションならどこでもできますが、4ー2ー3ー1の左サイドハーフが現在の定位置で、鋭い仕掛けからのシュートに加えて、絶妙な動き出しから中央で味方のパスを受けて、ファーストコントロールでディフェンスを外してシュートなど、ゴール前のクオリティで違いを出せる決定的なアタッカーです。

常田克人(松本山雅)

元代表10番の名波浩監督が率いる山雅ですが、ベースは堅実なディフェンスにあります。その最終ラインを力強く支えるのが常田で、187cmのサイズを生かした空中戦とタイトなマーキング、さらに粘り強いシュートブロックなどで、守護神ビクトルとともに自陣を防衛しています。そして困った時のセットプレー からの得点力。”ウノゼロ”の勝利が目立つチームで、そのうち2つは常田のゴールであげたものです。現在のJ3で最高センターバックの一人ですが、もともとベガルタ仙台でJ1経験もある選手なので、松本としては1年でのJ2復帰を果たし、来シーズンはJ1昇格への支えになってもらいたい存在でしょう。

中川風希(FC今治)

FC琉球でブレイクし、マリノスや京都でもプレーした選手だけあり、テクニックとアイデアはJ3で頭抜けたものがあります。それに加えて勝負強さも発揮していて、すでに9得点。しかも、その多くが勝利に直結しています。2トップがベースの今治には前節の鹿児島戦でハットトリックを達成したブラジル人のインディオ、清水から期限付き移籍でやってきた”03ジャパン”のFW千葉寛汰もいますが、やはり中川の存在抜きに今治の攻撃を語ることはできません。

山田元気(カターレ富山)

人並外れた反射神経を生かしたシュートストップでチームを救いながら、飛距離の出るロングフィードで攻撃に勢いをもたらす。スケール感のあるキーパーであり、名前の通り仲間に元気を与える存在です。京都サンガでキャリアをスタートさせた山田。J2レノファ山口では、ポジションを掴みかけては怪我という不運なサイクルが続きました。順調ならJ1でゴールマウスを守っていてもおかしくないポテンシャルを備えていますが、富山を力強く支える守護神として、キャリアの転機にしていけるかどうか注目です。

山本大貴(長野パルセイロ)

J2岡山からやってきた開幕前に不運な負傷をしてしまい、復帰後もなかなか主力に定着できていませんでした。しかし、7月の鳥取戦で初めてスタメン起用されてから6試合で4得点。攻守の強度にこだわるシュタルフ悠紀リヒャルト監督の要求に応えながら、柔軟なポストプレーとフィニッシュで、長野の新エースになりつつあります。特にペナルティエリアの外から左足で決めたゴールは圧巻で、昇格を争うライバルとの試合で勝ち点3を引き寄せる意味でも、価値のある一撃でした。信州のライバルである松本山雅のOBでもある万能型アタッカーが、昇格をかけた大一番になるかもしれない10月30日の”クラシコ”でどういった活躍を見せるかも注目です。

久保藤次郎(藤枝MYFC)

3ー4ー2ー1の右ウイングバックからいつの間にか攻め上がり、ゴール前に絡んでいく”サイドのシャドーストライカー”です。2列目のインサイドもこなす選手であるので、いざバイタルエリアに侵入した時の質が高く、8得点を上げている久保。シャドーを担う7得点の横山暁之とのコンビは相手ディフェンスの脅威になっています。ボールを奪う能力も非凡なので、そこからカウンターで前めの選手とのワンツーなど、手数をかけずにゴールを狙うことも。すでにJ3のレベルではないので、藤枝としては彼と共に、しっかり今年の昇格を掴みたいでしょう。

小原基樹(愛媛FC)

大卒1年目(昨シーズンは特別指定で出場)にして10番を背負う事実が示す通り、意外性のあるプレーで愛媛の攻撃に彩りをもたらしています。2列目の左から佐々木匠、近藤貴司、さらにボランチの矢田旭とも絡みながら、得意のカットインでシュートやラストパスに持ち込むのが小原の真骨頂。4得点3アシストという数字以上に、チャンスや得点シーンに絡めるクリエイターの活躍なしに、終盤戦での逆転昇格はなし得ないと言っても過言ではないかもしれません。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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