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ACLファイナルへ!浦和レッズがJリーグに示した”アジアを獲る”条件

河治良幸スポーツジャーナリスト

劇的だった。PK戦というのは一般的に運が多分に左右するもので、いくら練習したり、データを頼りに臨んでも、思う通りの結果にならないことの方が多い。言ってみれば、選手の技術を伴うジャンケンの分析をして臨むようなものだ。

その結果に理由を付けて、PK戦を制した側のチームが勝利に相応しかったとか、メディアでも語られるが、そこにはある種のこじつけがある。しかし、この全北現代と浦和レッズの試合に限れば、やはり埼玉スタジアムのゴール裏、そしてスタジアムにいた浦和レッズのファンサポーターが全北の選手にプレッシャーをかけ、浦和の選手たちに力を与えたことは間違いないだろう。

延長戦で一度リードを奪われたところから、残り時間が少なくなった状況で同点ゴールが決まったこと、そこにいたる酒井宏樹のボール奪取から、何人もの選手が関わってキャスパー・ユンカーのゴールにつながった。酒井のメッセージ性のあるタックルからモーベルグの果敢に仕掛け、酒井が上げたクロスのセカンドボールではあったが、大久保智明の折り返しから明本考浩がコースを変えて、ユンカーが押し込む流れも必然性がある。

それでも全北現代にも勝機はあった。1つ転機が変わっていたら、どちらに転んでもおかしくない試合展開の中で、やはり過密日程で120分の戦いを続けてきた全北現代の”燃料切れ”が、3試合連続となる延長戦で、リードを奪った後に時間稼ぎをする余力も残していなかったのは浦和にとって幸運ではあった。無論、ACLというのは勝ち上がるほど、そうしたギリギリの戦いになってくるものなのだ。

今大会に関してはセントラル方式での東地区決勝ラウンドが、浦和レッズのホームスタジアムである、埼玉スタジアム2002で開催されたことも、浦和にとって大きなアドバンテージになった。そうしたことを踏まえても、やはり過去に二度のACL優勝を経験してきているクラブというのは選手の大半が入れ替わろうと、大会にかける熱量は変わらない。

そして何よりキャプテンのGK西川周作をはじめ、2019年にACL決勝で敗れたメンバーが、その悔しさを現在のチームに引き継いでいるのだ。

グループステージで敗れたJリーグ王者の川崎フロンターレ、決勝ラウンドのラウンド16でヴィッセル神戸に敗れた横浜F・マリノス、そして準々決勝で全北現代に敗れたヴィッセル神戸はそれぞれのチーム事情と向き合いながら戦った結果で、一括りに”敗因”を駆られるものではない。ただし、少なくとも浦和が示したACLに勝つ3つの条件があると考える。

①ACLに向けてクラブが一体になること

②相手に向き合ってサッカーできること

③リーダーシップを取れる選手が多くいること

もちろんシーズンを戦う上でJリーグや国内のカップ戦が行われる中で、ACLだけに集中するというのは不可能だ。実際に浦和のリカルド・ロドリゲス監督も全ての大会が重要であることを前置きしながら、今年の一番のターゲットはJ1でのリーグ優勝であると公言していた。

その意味ではもしかしたら、リーグ優勝の可能性が限りなく低くなったことはACLに集中しやすい状況を生んだのかもしれない。そうではあっても、やはり浦和というクラブはACLという大会になれば、常にその時できる100%を捧げてきたクラブで、サポーターの応援を含めた大会にかける熱量は、仮に今J1で優勝争いに絡んでいたとしても変わらなかったのではないだろうか。

そして相手に向き合うことの意味だが、自分たちのサッカーで圧倒して勝つというのが理想であっても、やはりACLというのは勝ち進むほどギリギリの戦いの中で、事前の対策を含めた”キワ”の勝負がモノを言ってくる。もちろん、そうしたしがらみも押しのけるほど、相手を圧倒してアジアを制するクラブがJリーグから出てきたら素晴らしいが、現実は厳しい。

Jリーグで自分たちのスタイルを継続的にやっているクラブが、この大会を勝ち抜くために相手の対策を徹底してリアクションに転換する必要はない。しかし、国際試合の中で相手が仕掛けてくることに対して、いかに乗り越えていくべきかというアイデアやマインドを要所、要所で出せないと、特に一発勝負では波に飲まれてしまいやすい。

浦和も基本的には自分たちからのアクションで主導権を握っていくスタイルだが、その中で生じる苦しい時間帯をどう耐えて、そこから裏返したり、耐えて自分たちの時間帯に持っていくかという基準において、このACLに関してはファイナルにふさわしいモノを出していることは疑いない。

もう1つ、上記の酒井宏樹のプレーにも見られたように、試合の中で起こる色んな状況に対して、感じたことをプレーや声で発信できる選手がどれだけいるか。またそうしたプレーや声を周りがどれだけキャッチして、試合の流れを自分たちに引き寄せられるか。

例えば準々決勝のパトゥム・ユナイテッド戦で敵将の手倉森誠監督は後半から3バックにして、危険なアタッカーであるジオゴを投入してきた。そこで浦和にとって苦しい時間帯になったが、センターバックの岩波拓也によると、相手攻撃のセットプレーになった時に、選手たちがその変化を認識しているか確認を行ったそうだ。

そうした試合中の共有ができるようになったのはリカルド・ロドリゲス監督の2年目で、ようやくチームに戦術が浸透してきた背景もあるだろう。しかしながら、要所で一人一人が責任感を持って、プレーや声でメッセージを発信していくためには選手の意識も必要になってくる。

西野努テクニカルダイレクターは「浦和を背負う責任」というキャッチフレーズで、すでに在籍する選手、加入してくる選手に伝えているようだが、そうした意識というのがいかに大事かを再認識する今大会の躍進でもあるだろう。

今回は浦和の躍進を受けて、こうした記事を書いているが、浦和も完璧なクラブではない。ただ、やはりACLを勝つには多分に運も必要であることを踏まえても、浦和が内容と結果で示している”条件”というものは今後、ACLに挑戦するJリーグの全てのクラブにとって基準になる要素が多い。

ただ、その浦和もACLファイナルの資格を得ただけで、タイトルを勝ち取ったわけではない。秋春制になることが決まっているACLは今回、従来と少しずれる形でJリーグのシーズンを跨ぐことになる。浦和も現在のメンバーから多少の入れ替わりがあるかもしれないが、2007年、2017年に続く三度目のアジア制覇、そして2019年に決勝でサウジアラビアのアル・ヒラルに敗れた”リベンジ”に期待している。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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