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酒井、吉田、遠藤。オーバーエイジ3人から読み解く東京五輪18人のサバイバル

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

東京五輪のサッカー男子に向けたUー24日本代表はオーバーエイジ3人を含む27人を発表しました。5月31日から合宿を行い、6月5日のガーナ戦、6月12日のジャマイカ戦に臨みます。

選ばれたオーバーエイジは酒井宏樹(マルセイユ)、吉田麻也(サンプドリア)、遠藤航(シュトゥットガルト)の3人です。

今回の2試合もA代表の活動と重なるため横内昭展コーチが監督を代行しますが「今回の6月の活動を基本的な五輪に向けての選考の場と考えています」と森保一監督が語るように、アクシデントなどがない限りは今回のメンバーから最終の18人が選ばれることになりそうです。

特にオーバーエイジに関しては東京五輪の本番がA代表の活動に当たらないため、クラブとの交渉を経て、すでに五輪参加が合意に達していると考えられます。つまりこの3人に関しては”サバイバル”の競争外にあると言うこと。

言い換えると3人が現時点で判明している当確メンバーであり、そこから残り15人のバランス構成や今回の合宿で競争が厳しいポジションなどもある程度見えてきます。

酒井宏樹は右サイドバックが本職ですが、マルセイユでは左サイドバックやセンターバックも経験し、3バックの右ができることはA代表の試合でも証明済み。吉田麻也(サンプドリア)はセンターバック 、遠藤航はもともとマルチなポジションができますが、基本はボランチの主軸として計算されているはずです。

本番でアルゼンチン戦で採用した4ー2ー3ー1と従来の3ー4ー2ー1のどちらをメインにするのかオプションにするかは不明ですが、間違いないのは決勝まで6試合で両方できることを想定して準備していくだろうと言うことです。

■4ー2ー3ー1の場合

-----------------U-24-------------------①

U-24----------U-24------------U-24②

-----------遠藤--------U-24-----------③

U-24----吉田--------U-24-----酒井④

-----------------U-24------------------⑤

■3ー4ー2ー1の場合

-----------------U-24-------------------①

--------U-24------------U-24---------②

U-24----遠藤--------U-24----U-24③

-------U-24----吉田-------酒井------④

-----------------U-24------------------⑤

①1トップ

4バックでも3バックでもライバル関係は変わらない。もちろん2列目が3枚か2枚かで求められるプレーは多少変わるが、Jリーグで活躍する4人がどう言う競争を繰り広げるか。

全体の構成を考えた場合、ほぼ間違いないのは本職として入れるのは2人ということ。ただ、前田大然はと田川亨介は所属クラブでサイドアタッカーも担っており、林大地は縦の2トップ的な役割であればトップ下もこなせる。

上田綺世が二列目もできるかできないかという二者択一で言えばできるかもしれないが、3人に比べるとスペシャリストの色合いが強い。五輪は18人という枠の中でマルチなポジションをこなせることが大きなアドバンテージになる。そう考えると今回の合宿でポストプレーやフィニッシュなど、輝きが求められる。

ただし、上田綺世の場合はこのメンバーの中でば”高さ”も1つ武器になるので、上田がスタメンならセットプレーの守備も含めて心強い。その一方で前田大然にはスピードという絶対的な武器がある。

林大地も俊敏性がり、田川は大柄だがトップスピードはかなり速い。それでも前田のスピードと攻守で繰り返せる総合的な機動力は飛び抜けており、仮にベンチスタートでもリードしている時、追いかけるときの両方で役に立つのは大きなアピールポイントだ。

ただ基本的に本職は2枚と書いたが、前田や田川を4ー2ー3ー1のサイド、林を3ー4ー2ー1のシャドーでも想定することで、3枚に増やすことも不可能ではない。ただ、逆に食野亮太郎がMFの中ではFW的な役割をこなすことができ、有事には1トップもできるので、2列目とのバランス次第なところでもある。

②2列め

4ー2ー3ー1なら3枚、3ー4ー2ー1なら2枚となるが、もちろんインサイドとアウトサイドの配置で競争関係は変わってくる。

4ー2ー3ー1の場合、左が相馬勇紀、三笘薫、遠藤渓太の3人、中央が久保建英、食野亮太郎、右は三好康児、堂安律という配分か。もちろんアルゼンチン戦では久保と食野が右と中央でポジションチェンジを駆使してアルゼンチンのディフェンスを翻弄したように、変則的な形もプランに入ってくるかもしれない。

また堂安律は代表だと右サイドのイメージが強いが、所属クラブのビーレフェルトでインサイドハーフとして新境地を開拓するなど、よりバーサタイルな選手に進化しており、久保とのコンビもこれまでのような渋滞を起こさず機能する期待が高い。

周知の通り久保も右サイドをできるので、久保建英、食野亮太郎、三好康児、堂安律の4人は2ポジションをシェアする構図が想定しやすい。一方で左の3人は4ー2ー3ー1だとスペシャリストの度合いが強くなる。

3人とも優れたドリブラー だがリズムはそれぞれ異なり、オフの動きにも違いが見られることから23人構成なら3人とも残したいが、そうはいかないのが五輪だ。ただし、3ー4ー2ー1だと三笘薫はシャドー、相馬勇紀と遠藤渓太は中盤のアウトサイドがメインになり、左右どちらもできることから併用もプランに入ってくる。3バックをメインに考えるなら3人とも残る芽は出てきそうだ。

さて、このポジションの構成でもう一人カギを握る選手がいる。DFに組み込まれている旗手怜央だ。周知の通り、もともと2列目が本職で、食野のように1トップ的な役割もできる。さらに今シーズンは川崎フロンターレで左サイドバックをメインにしているのだから、彼を入れたら五輪で重宝しないはずがない。これに関してはさらに後述する。

③ハーフ

4バックでも3バックでもボランチの一枚には遠藤航が主軸として入ることが確実。もう一枚を田中碧、中山雄太、板倉滉で争うのが基本路線。ただ、過密日程の中で一番消耗が激しいポジションであり、他のポジションにそこまでマルチがいない。強いて言えば菅原由勢や冨安健洋もできるが、ボランチ4人を選んでおいて中山雄太が左サイドバック、板倉滉がセンターバックとマルチに対応する構造の方が想定しやすい。

3人の中で最もスペシャリストの色合いが強いのは田中碧だが、彼が遠藤とともに主軸としてハマってくれたら、中山や板倉を別ポジションとのマルチ起用に持って行きやすいという部分で、アルゼンチ戦の2位試合目で見せたようなパフォーマンスを今度の2試合で、特に遠藤航とのコンビで示せるかが注目ポイントになる。

3バックの場合は左右のアウトサイド(ウィングバック)が構成に入ってくる。ここは右が橋岡大樹、菅原由勢、酒井宏樹の3人、左が旗手怜央、古賀太陽、遠藤渓太というのが基本構図で、さらに相馬勇紀も計算はできる。左であれば中山雄太も可能なのでバリエーションには事欠かない。ただ、他のポジションのメンバー構成を考えるときに想定入れておく必要はあるポジションだ。

④バックス

4バックの場合はオーバーエイジの二人を含めた8人を2×4で割り振れるが、本番は18人なのでそうは行かない。完全なスペシャリストと言えるのが吉田麻也ぐらいで(彼のサイドバックの経験はあるが)だが、旗手左サイドバックがメインで、あとは2列目のオプションとして計算されるはず。

オーバーエイジの吉田麻也はもちろん、A代表の主力である冨安健洋もよほどのことが無ければ外れないだろう。気になるのは森保監督や横内コーチが左右のバランスをどう考えているのか。今回のバックラインで生粋の左利きは町田浩樹しかいない。ただ、古賀太陽はビルドアップのキックであれば左足を右足と遜色なく操ることができる。

もともと4バックでは左サイドバックが本職だが、柏レイソルのチーム事情で4バックのセンターバックや右サイドバックも経験した。極端な話、4バックと3バックの全ポジションでプレーできるスーパーマルチに進化しており、3バックであれば左のウィングバックをこなせることからも、18人のメンバーを考える上でアドバンテージがある。

そうした古賀のような存在がいる中で、左足のスペシャリストである町田をどこまで重要視するか。もっとも町田はここ最近のJリーグで最も調子を上げてきている選手の一人で、タワー形の長身FWとの空中戦や攻守のセットプレーも大きな武器になることから、いたら心強い戦力であることは間違いない。

もう1つ、右サイドバックの構成を考えると3バックを想定しても酒井宏樹、橋岡大樹、菅原由勢の3人は18人構成で一人は外さなければならないだろう。そうなると橋岡か菅原のどちらかがになるが、橋岡はセンターバックでも構想に入り、3バックでは酒井と同じくウィングバックもできる。

ただ、同じ基準で菅原サイドやボランチもオプションになるので、さらに幅広い起用が可能だ。3人とも残る芽はそこにあるが、他のポジションを削って橋岡や菅原をよりマルチに考えていくのかどうか次第でもある。

⑤GK

たった1つのポジションで、サブを入れても2人編成になるので、今回の4人から正式にメンバー入りできるのは2人だ。現時点ではアルゼンチン戦の1試合目に出た大迫敬介、2試合目で無失点勝利を支えた谷晃生が有利とは予想されるが、前回は出番の無かった沖悠哉も鹿島で課題に向き合い、得意のキックに加えて守備面もパフォーマンスを上げている。そして18歳の鈴木彩艶の台頭も見逃せない。

GKに限らないが、1つ情報に入れておきたいのがバックアップメンバーだ。五輪サッカーは18人という少数の構成である代わりにけが人による離脱者が出た時のみバックアップとの入れ替えができる。リオ五輪ではGK杉本大地、DF中谷進之介、MF野津田岳人、FW鈴木武蔵が担うはずだった。

結局、久保裕也がクラブ事情で不参加になったことで鈴木武蔵が正式メンバーに繰り上がり、バックアップとしてオナイウ阿道が追加された経緯がある。そうしたバックアップメンバーは基本的に今回の中から18人に入れなかった選手の誰かが担うことになるよ予想できる。辛い役回りだが、現在はA代表に選ばれている中谷進之介のように悔しさを飛躍のバネにした選手もおり、改めて言及したい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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