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南野拓実、中島翔哉、鈴木武蔵、早川史哉など。ドイツ移籍の室屋成が今も刺激にする”94ジャパン”の奮闘

河治良幸スポーツジャーナリスト
室屋成(写真提供 FC TOKYO)

FC東京の室屋成がドイツ2部のハノーファー96に移籍することが発表された。

オンライン取材で室屋は「1週間ちょっと前くらいにオファーが届いて、チームと話し合って、正直行きたいって思いが強かったので、チームにも行きたいと伝えて、1週間ほど強化部と監督と話していくようになりました」と経緯を説明した。

ハノーファー移籍にあたっては日本代表でも親しくしているというハノーファー所属の原口元気を通じて、GMに自分の特徴を説明してもらったり、どういうクラブかという情報も得たという。

日本代表で多くの選手が海外組であることは今回の移籍に大きく影響しなかったという。「Jにいるから成長できないとは一切、思っていない」と言い切る室屋だが、実際にオファーが届いた時に「1人のサッカー選手として、行ったことのない環境でプレーしたい」という気持ちが強まったという。

同世代で、同郷の幼なじみでもある南野拓実に伝えた時には「喜んでいました。近くなるなと」と室屋。シーズン途中の移籍ということでFC東京に申し訳ない気持ちを抱きながらも「短いサッカー選手のキャリア、人生のことを考えたらオファーがきた時に断ることができなかったのは素直な気持ち」と語る。

リオ五輪の選手たちが数多く欧州に旅立ってることに関しては「本当にサッカー選手それぞれ好きなように選択するべき。周りがどうしたからと言って影響はない」と強調した室屋。ただ、2011年にメキシコでU-17W杯を戦った”94ジャパン”のことについて聞くと「みんなすごいなという思いが強い」と当時の仲間たちへの思いを語ってくれた。

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「それぞれ決断して、(南野)拓実みたいに海外でプレーしている選手もいれば、Jリーグで中心になってプレーしてる選手もいますし、(早川)史哉に頑張っている選手もいるので。選手それぞれが選択して努力している姿は刺激になってますし、欧州でプレーしてるだけじゃなくて、いろんなチームとか、引退して社会人として頑張ってる選手もいるので、影響は受けてますね」

日中には40度を超える灼熱のメキシコで戦い、ベスト8に躍進した”94ジャパン”のメンバーは多くがJリーグで成長し、その中から南野拓実(リバプール)、中島翔哉(ポルト)、植田直通(セルクル・ブルッヘ)が欧州に渡った。さらに室屋、鈴木武蔵、中村航輔が日本代表を経験しており、昨年には喜田拓也が横浜F・マリノスの主力としてリーグ優勝に大きく貢献した。

さらに今シーズンのJ2で首位を走るV・ファーレン長崎の主軸に君臨する秋野央樹や石毛秀樹(清水エスパルス)、深井一希(北海道コンサドーレ札幌)、阿波加俊太(同じく札幌)、岩波拓也(浦和レッズ)、川口尚紀(柏レイソル)、高木大輔(ガンバ大阪)、松本昌也(ジュビロ磐田)、牲川歩見(水戸ホーリーホック)といった選手がJ1やJ2の舞台で活躍している。

その中でも急性白血病という難病を克服して完全復帰を果たした早川史哉の存在は大きく、昨年のルヴァン杯決勝で惜しくも準優勝となった深井に長期の怪我から復帰して頑張っていることについて聞くと「史哉に比べたら自分の怪我なんて大したことではない」と語っていた。同じく度重なる怪我を経験しながら清水の象徴的な存在となっている石毛もサッカー名鑑の愛読書に早川の著書『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』が記載されている。

その早川が復帰に向けてリハビリを始めた頃に、代表活動中だった室屋に聞いたことがあった。室屋は「生活するだけでも大変な状況から、本当にすごいとしか言いようがない」と驚きの表情を見せながら語っていたことを思い出す。

いろいろな環境の中で刺激し合いながら奮闘する”94ジャパン”の選手たち。あの時の大会からはイングランド代表のラヒーム・スターリング(マンチェスター・シティ)やアルゼンチン代表のルーカス・オカンポス(セビージャ)といった選手たちがワールドクラスと認められる活躍をしている。25、26歳という、まさにプロのサッカー選手として脂が乗りつつある年齢だが、メンバーリストを見渡しても”94ジャパン”の活躍は目を見張るものがある。

スターリングやオカンポスといった同世代のトップトップに迫っていけるかどうかに関して室屋は「まだそこまで全然考えてなかったんですけど、これから行って自分がどれだけやれるか楽しみですし、上を目指したいとなるのかどうかは肌で感じてきたいと思います」と語るが、異なる環境に身を置いてプレーすること、生活すること、そうしたことのモチベーションは強いようだ。

多くの選手が国内外のプロリーグで活躍する”94ジャパン”だが、室屋が語ったようにJFLのヴィアティン三重からJリーグ昇格を目指す望月嶺臣、すでに引退してセカンドキャリアをスタートさせた新井純平など、同世代の情報を共有しながら頑張る中で、室屋も新たな環境でのチャレンジをスタートする。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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