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Jリーグは無観客試合で再開の可能性も。映像観戦の楽しみ方。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

世界的に蔓延している新型コロナウイルスの影響により、日本のサッカー界も大きな打撃を受け続けています。

Jリーグは2月21日に開幕したものの、直後に3月15日までに行われる予定だった試合の延期を発表し、その後もプロ野球など競技団体とすり合わせをしながら再開の道を探っていたものの、政府の緊急事態宣言を受けて無期限の延期となり、さらに全国化したことで、クラブの練習やトレーニングマッチも軒並み、休止となっています。

4月23日には第6回新型コロナウイルス対策連絡会議が行われ、Jリーグの村井満チェアマンは無観客試合の選択肢があることを明かしました。緊急事態宣言が続く限りはいかなる形式の再開も不可能ですが、解除されたのちの再開に向けて、当初は”最終手段”としていた無観客試合も選択肢に入ってくるのは当然の流れです。

それでもDAZNやNHK-BSでJリーグの試合が生中継されるとなれば、普段以上に大きな注目を集めるはずです。無観客試合でよく引き合いに出されるのは2014年に浦和レッズが「横断幕事件」による制裁を受けて、清水エスパルスとのホームゲームを無観客で行った試合ですが、制裁を受ける形での無観客試合と、今回のような事態を受け入れて、しっかりと準備して臨む無観客試合では選手のモチベーションも違ってくると思います。

また中断期間にDAZNで何試合かトレーニングマッチを配信していますが、戦術的な完成度はともかく、運動量や球際の部分では無観客というエクスキューズは感じさせないパフォーマンスを見せています。

もちろんサッカーの試合はゴール裏のサポーターを含めたスタジアムの作り出す雰囲気あってのものですが、こういう事態において無観客試合か無期限の延期・中止かという究極的な選択であれば、無観客でもやらない手はないのではないかというのが筆者の見解です。

また観客を入れての試合が実現したとしても、当面は間隔を開けての観戦になり、声を出しての応援も規制される可能性が高そうです。何れにしても再開後しばらくは映像観戦がメインになることが想定されるJリーグ。

普段からスタジアムで観戦することに慣れているサポーターというのはテレビや映像での観戦になかなか入りにくいところはあるかもしれません。そこで映像観戦の楽しみ方のポイントをいくつか挙げたいと思います。

【1】プレーのディテールを楽しむ

「サッカーはスタジアムでの生観戦が一番」とよく言われますが、普段はできるだけ現場で取材している一人としても、それには同意します。ただ、記者席で観ていて難しいのはディテールが勝負を分けるようなシーンです。ボールサイドで攻防があるときに、周囲の選手がタイミングの良い動きだしでスペースを開けて、そこをうまく活用してゴールしたとします。

そうした場合に現場で観ていて、間接的に捉えることは可能ですが、その場でシーンを整理することは非常に難しい作業です。しかし、映像であればカメラワークに収まっているものであれば直接視野に入りやすいですし、DAZNなどオンデマンドであれば少し時間を戻してチェックすることも可能です。

またスタジアムは全体を見渡すことができる反面、ボールの位置や展開によって遠くなってしまうことがあります。特に陸上トラックが付いているスタジアムだど、反対側で起きている現象を詳細に掴むことは難しい。映像の場合は自分の目線で好きなところを観られない代わりに、常にボールサイドを映してくれるので、流れを把握できなくなることがありません。

代表戦では地上波向けの演出が筋金入りのサッカーファンにとっては邪魔になってしまう部分もありますが、DAZNやNHK-BSの中継でそうした心配はまず無いので、サッカーに集中できる中で、映像ならではのボールサイドのディテールを楽しむことをオススメします。

【2】セットプレーを楽しむ

「プレーのディテール」に関連しますがセットプレーは自陣のゴール前をのぞき、基本的に映像の方がしっかりと観やすいプレーです。ゴール前のマッチアップやポジションの取り合いなどは現地でなかなか分かりにくいですし、スタジアム全体が見える環境だと集中しにくいところもあります。

またゴール前の状況に加えて、蹴る前のキッカーをアップで映してくれるので、位置によってはスタジアムより空気感が伝わりやすい部分もあります。記者席でもセットプレーからゴールが生まれた場合にDAZNを見返すことは良くありますが、あまり頼ると次に起こる大事なシーンを見逃してしまうリスクもあるので、必要最低限にしています。

しかし、映像観戦であればライブの中でセットプレーの状況が掴みやすいのに加えて、分かりにくかったシーンを再度チェックするのも容易です。セットプレーは紳士協定的な部分もあり、普段あまり細かく記事になることはありませんが、スタジアムで試合が観られない時こそ注目して楽しんでほしいプレーの1つです。

【3】実況・解説・データを楽しむ

サッカーの中継というのはプロの実況と解説、リポーターなどが付いて試合の要点や流れを伝えるとともに、中継を盛り上げる役割を担っていますが、スタジアムだと基本的に自分の視点や注目ポイント、周囲の観客の歓声が情報源になります。

そうした環境に慣れているファンは映像であっても実況や解説にあまり頼らず、自分なりに情報補完をしながら観戦することができるかもしれません。ただ、プロの実況者や解説者ならではの着眼点や見解があり、情報補完を助けてくれるとともに、他人の見解を知る機会にもなります。また微妙な判定が起きた場合に担当の解説者がその場でどういう見解を出すかも興味深いポイントの1つでしょう。

個人的な意見としては普段から現場で観戦しているファンサポーターもプロの実況や解説も、もちろん記者も絶対の正解は無いと思います。ただ、それぞれ色んな視点や意見、見解は観戦の参考になり、自分のそれと照らし合わせるのも面白いことです。普段は現場で観戦することに慣れている人も、こういう機会に実況や解説に注目して欲しいと思います。

また現場でも不可能ではないものの、データをチェックしながら観戦することが難しいですが、自宅だと映像を観ながらデータと参照することが容易なので、ボールポゼッションやシュート数など、データの推移を見ながら試合を観戦すると、また違った楽しみ方ができます。

【4】SNSを楽しむ

これも現場で全くできないわけではないですが、試合を観ながらワイワイやるというのは映像で観戦している時の方がはるかにやりやすいと思います。最近はプロの解説者や記者だけでなく、非常に鋭い視点や豊富な知識を持って、試合中にSNSで発信する人は多くいますし、そうしたレベルでなくても、特定のクラブを応援しているファンサポーターの思い切り主観のこもった声なども面白いですし、サポーターだからこそ出せる情報もあり、映像で観る時は参考にチェックしています。

あまり過激になってくると良くないですが、映像観戦においてSNSが大きな盛り上げ要素になっていることは間違いなく、現場では試合中にあまりチェックしない人も活用してみると良いかなと思います。

【5】選手や監督の声を楽しむ

これは無観客試合ならではですが、普段は歓声やスタジアムの盛り上がりでほどんど聞くことができない選手間のコーチングやテクニカルエリアからの監督の指示、ファウルに対するリアクション、ときには一触即発のやり取りなどを聞くことができます。

現場でもトレーニングマッチやユースの試合を観戦する機会があるサッカーファンは良く分かると思いますが、ピッチ上では多くの声が飛び交っています。そうした声から目だけでは分かりにくい情報を得られることも少なからずありますし、純粋に面白さもあります。

ビッグマッチになればなるほど観る側はもちろん、選手の中でも監督の指示やお互いの聞こえにくくなると言われますが「無観客試合の映像観戦」となった場合はポジティブに楽しんで欲しい要素です。

もちろん観客を入れての試合再開がベストであり、村井チェアマンも2月の時点で、無観客試合は最後の手段にしたい意向を伝えていましたが、状況が変化している中で、いかに受け止めながら楽しみ方を見つけていけるか。取材者としても与えられた環境の中で、できることを考えていきたいと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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