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決戦を前に知っておきたいNHK-BSと民放の日本代表・解説スタイル

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

日本代表はロシアW杯をかけたオーストラリアとの大一番を迎えるが、W杯の予選はNHK-BSと民放地上派(テレビ朝日)がテレビ中継を放送する。

新著の『解説者のコトバを聴けばサッカーの観かたが解る』(内外出版社)ではサッカー解説について識者の取材などから分析的にまとめているが、「第2章 サッカー中継徹底比較! NHK-BS vs民放」で6月のイラク戦からNHK-BSとテレビ朝日の解説を約15000文字にわたり徹底比較した。

オーストラリアとの「決戦」をテレビ観戦する方の参考として、本書から一部抜粋して掲載する。

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【『解説者のコトバを聴けばサッカーの観かたが解る』より一部抜粋】

【試合前】

最終予選イラクとのアウェー戦はイラクの政情不安により中立国イランのテヘランで開催。同時期にイランが同都市でホームの試合をしていることもあり、会場はパス・スタジアムとなった。キックオフ時の気温は37度を超え、湿度は20%という過酷な環境での試合に日本は相手のイラクと同じ4-2-3-1のシステムで臨んだ。

■BS

 松野アナが「後半の試合終了直前アディショナルタイム。山口のミドルシュートで劇的な勝利。あれがもし決まっていなかったら、まったく違った展開だった」と前回の対戦を振り返る。

早野氏は「この山口のゴールによって何か目覚めたというか、「ロシアに行くぞ」って気持ちになりましたし、チームもそこから成熟はしていると思います」と回答。そこから松野アナは3チームが日本、サウジアラビア、オーストラリアが勝ち点16で並んでいることを説明。早野氏は「本当にどこがリードとも言えない状況ですし、終盤に来たら一戦一戦の重み、これが非常にこのゲームを含めて、大切になってくる」と語り、この試合の重要性を強調した。

 松野アナは「遠藤航と井手口という若い二人を起用してきました」とボランチ2人の起用に言及。それに対して早野氏は「世界の大会を知っていますから。ここは信じましょう」と返答しつつ「ロングボールが多いので、昌子と吉田のコンビネーションはちょっと気にかけなきゃいけない」と戦術的なポイントをあげた。さらに「まず慌てて勝ちにいかないことだと思いますし、このスカスカのグラウンドを見たときの、集中力が非常に大切」とポイントをあげた。

■地上波

「第三国のゲームということで、ちょっと雰囲気が違いますけどね。もいう気にせず、勝って次に進むことが大事だと思います」と松木氏。「何としても勝ってW杯に大手をかけておきたいところ」と語る中山氏は気候について「暑さもそうですけど乾燥ですよね。喉がかわくというか張り付く感じで、息が非常に難しい。ツバを飲んでも潤わされない。そういうことで水分補給のタイミング、量とか。そういうものが非常にポイントになってくる」と中東アウェーを何度も経験した元代表戦士ならではの注意点を指摘した。

 実況の吉野アナが中盤での遠藤と井手口の先発起用について聞くと松木氏は「もうオリンピックチームで一緒にやっていましたから。がんばってもらいましょう。そして(トップ下の)原口選手の運動量ということで。がんばりましょう」と回答した。 

 試合のポイントについては「本田選手が誕生日というね、何か持っているなと思いますね。ですから彼の強い運を今日のゲームのすべてに、どんどん引っ張っていってもらいたい」と松木氏。吉野アナが中山氏にけが人が出ている状況で中盤の構成を変えて来ているという話を振ると中山氏は「あれやこれやと予想はしてきたんですけれど、こうやってくるんだっていう驚きがありました。イラクの戦い方を観て変えて来たのかもしれませんよね」と考察を語った。

 

 吉野アナがピッチ解説の中田氏に気温と湿度について聞くと中田氏は「日射しは強いですね。間違いなく暑いです。ただここ何日かよりはちょっと風がある」と状況を説明した。

 イラクについては「前線の選手は破壊力のある選手が揃っていますよね」と吉野氏。フォワード出身の中山氏も「立ち上がりですよね。その破壊力のある選手がどんどん来るのでそこをしっかり抑えていきたいでしょう」と警戒。最後に松木氏が「日本にとって大事なゲームの最初の10分というのはこれは重要だと思いますので、怯むことなく前線からプレッシャーをかけていってほしいですね」と試合前の話題を締めくくった。

【試合終了】

何度かのチャンスも実らず、試合は1-1の引き分けで終了した。ただ、日本はアクシデント続きで明らかに疲労の色が濃く、イラクにもチャンスはあった中で、逆転されずにアウェー扱いの試合で勝ち点1を取れたことはポジティブな見方もできる。

■BS

試合全体について「本当に、死闘だったというふうに思いますね」と早野氏。

「このゲームプランの中でね、守備的にやって勝ちきれなかったということが大きな問題点かなとは思いますし、攻撃性が次に出るのかなというところも不安ですよね。ただ幸いなのは負けなかったこと。ここの一つの希望を持って、次残り2戦に向かっていくということでしょうね」

残り2試合について早野氏はは「まずホームで勝つということを前提に戦ってそこで決めてしまう。このゲームはこのゲームでしっかり受け止めながらも、次へ進もうということが一番大事」と展望した。

■地上波

「松木さん、本当に厳しい戦いでしたね」と吉野アナ。松木氏は「いやあほんとそうですね。ですからもう終わった試合を考えるのではなくて、残った試合をどう戦っていくか。もうそこだけに集中してね。けが人とか、いろんな問題をこのゲームで抱えましたから。きっちりとリフレッシュして、次のゲームですね」

「中山さん、理想を言えば勝ち点3が欲しいゲームだったんですが」と吉野アナ。

中山氏「こういう厳しい状況で相手に押し込まれる状況もありましたけどね。それを何とか耐え抜いたっていうところも評価したいと思います。怪我人が出ましたけれども、その中で戦ってくれた。あとはこの後ですよね。ホームで戦うオーストラリア戦にすべてを投じていくところに持っていけばいいわけですから」

松木氏「ただ最終戦のサウジアラビアのアウェーを考えたら、次のゲーム。これをね、ものにするってことだけ考えてほしいな。しかも予選でね、オーストラリアに1回も勝ってないとか、そんなのどうでもいいよね。とにかく次のゲームだ」

中山氏は「単なるデータですからね。次勝てばいいんですよ」とポジティブに語る。さらに最後に吉野アナが「日本の選手が2人同時に足を痛めて、そのちょっとおかしい時間帯をイラクが逃さなかった。このあたりは松木さん、イラクもやっぱりさすがですねえ」と振ると松木氏は「最終予選の厳しさというか、ちょっとミス、ちょっと綻びが出るとそこを突かれるというね。このワールドカップの最終予選の怖さです」と締めくくった。

■総括

NHK-BSの特徴はテンションがやや抑えめということに加え、実況と解説のボリュームも抑えめにしているという特徴がある。実際に90分間のコメントを起こしてみるとそのボリュームは地上波の半分にも満たない。つまり映像を中心にプレーを視聴者に見せることが第一にあり、実況は基本情報と流れを、解説は必要なシーンの説明と1つの視点を投げかけるが、視聴者が自分で見て考える余地を大事にしている。

一方でテレビ朝日は松木氏のハイテンションなコメントが注目されがちだが、実はディテールも含めて非常に情報量が多い。サッカー経験者でもある吉野アナが流れを的確に実況しながら3人の解説者に次々と問いかけ、率直な感想からディテールに踏み込んだ解説まで、試合中に会話が止まることはほとんどない。また、ピッチリポーターとピッチ解説がいる分、現地の細かい変化や様子を伝える回数も多く、臨場感があるのは強みだろう。

(中略)

それは基本的にNHK-BSが視聴者の観戦を“邪魔しない”というスタンスがあるからだろう。すでに映像があり、現地の音声もそれなりには拾える中で、視聴者がサッカーに集中しやすい環境を提供しているわけだ。言い換えると、試合に引き込まれるかどうかは視聴者の集中力に委ねる部分が大きい。つまりサッカーに詳しいか詳しくないかより、自分なりの目線で試合を楽しみたい人に向いた放送ツールと言える。

一方の地上波は、高めのテンションでどんどん情報が耳に入ってくる。サッカー用語でたとえるならコトバの“インテンシティーが高い”ため、嫌でも試合に入りやすい環境を提供してくれる。サッカーに詳しい視聴者でも、代表戦はハイテンションで観たい、友人と盛り上がりながら観たいという場合、あるいは解説者のコトバを聞いて自分の観かたとすり合わせたいという視聴者は地上波の方が向いているかもしれない。ただレフェリーの判定に対するリアクションなど聞いても、スタンスはより日本代表の応援に寄っている。ここは好き嫌いが分かれるところだろう。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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