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[インタビュー]FC東京に移籍が決まった前田遼一。4年前のアジアカップ優勝後に明かした思いとは?

河治良幸スポーツジャーナリスト

前田遼一のFC東京への移籍が発表された。

http://www.fctokyo.co.jp/204376/(FC東京オフィシャル)

2000年に東京都の暁星高校からジュビロ磐田に加入。15年間に渡り、サックスブルーのユニフォームを纏ってプレーしてきた前田は2009、10年に2年連続でJ1得点王を獲得し、日本代表でも活躍するなど、中山雅史を継承するジュビロ磐田のエースとして君臨して来た。

J2に降格した昨シーズンも残留してJ1復帰を目指し17得点を記録したが、プレーオフで敗れ昇格はならず。愛着のある磐田に別れを告げ、少年時代を過ごした東京都をホームタウンとするJ1クラブに移籍することが決まった。いくつかの理由を想像することは可能だが、これまでの言動などから推察するに、より高いステージで再チャレンジしたいという思いが強かったのではないか。

実は今から4年前のアジアカップで優勝を決めた翌日、ホテルの広間にスペースを用意していただき、当時のザッケローニ監督をはじめ日本代表のメンバーに30分前後のインタビューをする機会をいただいた。大会のMVPに輝いた本田圭佑に記者が集中したこともあり、同じタイミングで部屋に入ってきた前田を囲んだのは3、4人だった。

なぜ筆者が前田を選んだのか。それは普段、寡黙な性格でも知られる彼はJリーグや日本代表のミックスゾーンで声をかければ必ず止まってくれるものの、そこで矢継ぎ早に質問しても「点を取るだけ」「決めることが大事」「ゴールできたから良かった」といった短い言葉が返ってくることがほとんどで、しっかりとした回答をなかなか引き出せていなかったからだ。

しかし、実際はプロとして深い考えや洞察力を持ち、高い意識で練習や試合に臨んでいることはプレーで分かる。そうした理由から、この貴重な機会に前田から本音を引き出そうとしたのだが、話が海外に及ぶ流れで、この時点で世に出すのは相応しくないかもしれないと判断し、一部を専門誌に寄稿したものの、核心の部分は封印してしまっていた。

2011年の12月、イングランドのウェスト・ハム(当時2部)からオファーが届き、翌年の1月に練習参加したが契約にはいたらなかった。そこから3年間、磐田のエースとしてプレーし続けたわけだが、新たな挑戦がスタートするこのタイミングで、4年前の言葉を振り返ることの意義を感じ、このインタビュー記事を掲載することにした。時事的な内容が多分に含まれていることをご了承いただき、前田遼一というストライカー像を読み取ってほしい。

取材日:2011年1月30日

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−−アジアカップ優勝おめでとうございます。最初の3試合では苦戦もあったが、それはフィジカルコンディションの問題か、ラインを下げる中東の戦い方がやりにくかったのか、それとも自分たちの共通理解やコミュニケーションなどの問題か?

フィジカルコンディションはあると思いますけど、相手がどうより自分の役割やプレー、周りが何をしてほしいかがはっきりしなかったから。自分自身がそれを理解できなかったんですが、それがだんだんチームの中で自分が何をすればいいか、役割がはっきりしてきたと思います。

−−役割がはっきりしたのは監督の要求ということ?

そうですね。合宿の最初は半分に分けられて、チュンソン(李忠成)のプレーとかを見て、監督が何を求めているのか、どういうプレーをしてほしいかを僕自身はだんだん分かってきたから。初めの方はチームがうまく機能してないなとは感じていましたけど、プレーに納得していないというよりは、やっていることが違ったかなと。

−−前田選手が素早く動き出しても、周りの選手が前を見ないで横に出し、ボールが出ない傾向が中東との試合で見られたが、こう出してくれれば自分は活きるのにという思いは?

出してほしい場面はあったんですけど、自分的にもっと前線でプレーした方が良かったかなと最初の試合では感じました。

−−中東の相手がラインを下げている時に、DFとボランチの間ではなく、さらにDFの間に入っていく様なこと?

最初の試合は僕が後ろめに引いていたから、相手のDFラインはあんまり下がっていなかったと思うし、そこで深さを取る動きをしていたらチームはもっとうまく流れていたと思います。

−−こういう大会で最後まで任されたのは代表でこれまで無かったと思うが、その意味で成長を感じたか?

成長につながったか・・・それを見せるのは帰ってからだと思います。

−−ただ、こういう大会で優勝しての実感は?

んん、そうですね。ちょっとは手応えありますけど。これが自分の実力かという悔しさもあります。

−−具体的に何が出来る様になったとかは?

具体的には難しいですけど、相手が来た時に余裕を持ってターンできるなとか。そういうちょっとした自分の中での感覚が、今は感じていますけど、帰ってJリーグでまたやりたいなと思います。

−−3月には怪我で辞退した森本貴幸(当時はカターニャ)がまた呼ばれるかもしれないが、現時点で立ち位置は?これでポジションを取ったみたいな。

うーんと、そういうのは全く無いですね(笑)。自分はまたJリーグで頑張らないと、次は無いという気持ちでやっているので。

−−森本選手のストライカー気質には感化される?

ゴールに対する強い気持ちは見習わないとなと思いますけど、プレーを全て真似ようとは思わないですね。(ストライカーとしての考え方?)それは一番大事なことだと思うので。点を取りたいという気持ちは負けてないと思います。

−−ザッケローニ監督はJリーグをすごくチェックしているが、それに関して話などは?また選手として感じることは?

そういう話はしたことないですけど、試合に来られているのは分かるので。

−−色んな監督がいると思うが、ザッケローニ監督の一番の特徴はどういうところだと思うか?

うーん、一番の特徴ですか・・・これっていう考え方がはっきりしているところですね。外国人の監督はそうなのかもしれないですけど。攻撃ならこれをしてくれ、守備ならこれをしてくれみたいな、しっかりした考えがありますね。基本のベースがあるというか。

−−ザッケローニ監督は「成長」という言葉をよく使っているが、それを選手として聞くと、どういう印象か?

それは自分でも常に思っていることなので。ただ、それを監督も思っているんだなと。だから自分も常に成長しないと。

−−ザッケローニ監督はユベントス時代に2トップを用いたが、このチームでは1トップで前田選手と李選手を同時に起用していない。さらに森本選手も戻ってきて、となったら2トップをやってみてもいいんじゃないかという考えは出て来るが、自分は1トップとして結果を残して、このまま行きたいのか。2トップでコンビネーションを試してみたいのか?

やっぱり2トップはチームでもやっているし、前線で2人いるとそこのコンビで打開とかできるので、やりたい気持ちはありますけど、1トップは1トップの楽しさもありますね。

−−もともとはセカンドストライカーとして注目されてきて、特徴はそういうところにもある?

1トップだと動き出しにくいところもあるので、それはすごく感じますけど。

−−最前線のFWというよりは1.5列目で試合も作れてパスも出せていた?

んー、パスは出せないですね(笑)。ドリブル・・・それも中途半端なドリブルなんですけど。

−−いつ頃から今のスタイルに?

磐田でアジウソン監督の時に1トップで試されて、点以外は評価しない監督だったので、そこからFWとして意識していました。もう自分はFWしかないなと。それまではもっと中盤の方がいいプレーきるんじゃないか、みたいな言い訳をしていた時もありましたけど。

−−相手よりも自分たちのコンビネーションやコミュニケーションの問題があったという話でしたが、現在は磐田でなかなかアジアの舞台に出られない中で、アジアのトップのCBと体を合わせてみて、それで感じたものは?

当たりの強さが違うのは感じましたけど。1対1の場面はすごく多いなと感じましたね。

−−純粋な競り合いが生じた時に、ハードに来る厳しさは?

Jリーグだと、特にうちのチームは個人よりもみんなでという感じで、そんなにガツガツとぶつかる感じではないので。でもこっちは1対1が多いから、それは感じましたね。

−−そういった経験を磐田でJリーグの上位に入ってACLを戦うことも含めて、もっと経験していきたい?

それはもちろん、そうなれば一番嬉しいですけど。

−−ボールを持った時の余裕というのは1対1の自信も?

自信までは行かないですけど、そうですね。うーん、ボールをおさめる部分ではたまにそういう感じもあったかなと。

−−監督はいい選手だと思わなければ6試合全てで使わないと思うが、そういう意味でも手応えは?

チームのために戦うという意味では手応えがあったかもしれないですけど、個の力はまだまだ伸ばさないといけないと感じました。

−−やっていて楽しそうだったが、このチームでもっとやってW杯に向けて戦いたい?

そうですね、それはすごく感じました。うまくプレーできている時は縦パスもバンバン入って来ますし、Jリーグとは違うスピードの。

−−このチームはこれまでの代表と比べても攻撃的だとサポーターなどからも聞かれ、取材している側もそう思うが、やっていてどう感じている?そういうスタイルは自分に合っている?

縦に速い感じはすごいありますね。それに合わせたいかなと。合わせられるかなというより、やりたいなと。

−−それは味方のプレーを分かっていきたいのもあると思うが、生活も含めて一体感を出すためにもオフザピッチの交流は?最初から比べると分かりやすくなってきた?

そんな馴染めている感はないですね、まだ。

−−前田選手は物静かなイメージを持たれていて、でもこのチームではそれも受け入れられて、ゴールを決めたら一緒に爆発してみたいなのが見られるが?

まあ時間がかかるタイプなので(笑)。

−−最初のヨルダン戦はあんまり一体という雰囲気ではなかったが、変わったきっかけみたいなものは?

そうですね・・・どこからかは分からないですけど、確かにそうなったなと。僕はこの大会しか知らないですけど、練習の中でも要求が多いので、そういう意味ではちょくちょく話し合いましたけど。

−−要求が多いのは前田選手?監督?チームメート?

監督もそうですし、チームメートもですね。どうしてほしいとか、もっとこうしてくれと言われたら、それで自分も確かにと思えばそうします。

−−特に要求とか話しかけてくる選手は?

やっぱり前の選手は(本田)圭佑とか、(香川)真司も「もっとこうして」とかちょくちょくあります。あと(長友)佑都もで、海外でやっている選手に関しては、それをすごく感じました。

−−ザッケローニ監督は試合に出ている時と出ていない時で接し方に違いなどは?

それは常に一緒です。出ていてもいなくても、練習でいいプレーにはいいって言うし、悪いプレーは怒られる。しっかりこうしてくれというのは変わらないです。最初の試合のハーフタイムはめっちゃ怒られました(笑)。言われた事を僕自身、全然やっていなかったし。チーム全体が言われたんですけど、僕が言われていると思って聞いていましたけど。

−−個人的には言って来る?

このプレーはどうとか言ってきますけど、それは責められるという感じではないです。(タイミングは)その場の時もありますし、ビデオで後からの時もあります。

−−他の監督より細かい?

確かに言うことは細かいんですけど、考えはシンプルだと思うので、混乱とかは無いです。

−−前田選手は海外っていう意識は?

もちろん、やりたい気持ちはありますけど。(チャンスがあれば?)はい。

−−それは積極的ではなく?

年齢も年齢なので(笑)。

−−年齢と言っても、14キロも走っているでしょ?チームで1、2だと思うが。

まあ、それは後が無いという気持ちが(笑)

−−ただ、それだけ走った後でも疲労を引きずらずにやれている印象を受けるが?

そうですね最近は。昔はすぐ怪我したりしてたんですけど、最近はまあまあいいかなという感じです。

−−前田選手はもともと中盤だったこともあるが、トータルの運動量がすごく多く、数字も高い方でザッケローニ監督も評価していて、普段練習の後とか黙々と走っている。そうしたコンディション作りというか、常に90分走れるために意識していることは?

(練習後に)走っているのはそういう意味があります。もっと強くなるのと。

−−見ていると一定のスピードとリズムで走っているが、それはフィジカル的なリズムというか、メンタル的に集中力を高めるなどの効果も考えているのか?

メンタルとかは気楽に、深く考えずに走っているだけですけど。(方法論は)今は探している途中という感じです。

−−現在は海外に行く年齢がどんどん低くなっているが、それを見てどう思う?

羨ましい限りですね。でも若い時にちょっと勘違いしていたかなと。もっと向上心があれば良かったと思いますけど。

−−向上心が無かった?

今思えば、最初の方はダメですね。プロの1、2年目、3年目とか・・・やり直したいですね。

−−遊んでいるイメージは無かったが?

そうですね・・・遊んでいた訳じゃないですけど、今思えば一所懸命はやっていなかったです。

−−高校時代は進学校で勉強もしながらサッカーをしていたと思うが、それでもあえてプロに進んで、その覚悟でやっている中でも気の弛みが出たのはどういう理由だった?

気の弛みと言うよりは、今の若くから海外に出ている選手はすごく強い気持ちを持っていて、なんですか・・・別にサボっていた訳じゃないですけど、チームの試合に出ている人と同じ意識でやっていたけど、今はみんなもっと上に行こうという気持ちがすごく強いから、そこは感じますね。

−−プロを選択した時はとにかくJリーグで頑張る気持ちで、さらに上を目指す意識ができていなかった?

そうですね、できていなかったですけど今の若い人たちはみんな持っているから。そういうことが大事かなと思います。

−−前田選手はユースの代表の中心だったが、そこで海外のチームとやって感じたことや向上心のきっかけは無かった?

もっとうまくなりたいとは思いましたけど、チームに帰ったらチームの練習を普通にこなしてみたいな生活だったので、それでは絶対に・・・そうですね。

−−前田選手と同じ世代で一番海外で活躍したのは?

松井(大輔)です。松井は前々から言っていました、海外に行きたいって。21、2ぐらいからずっと言っていて。

−−今思うと自分もそういう意識を持っていれば海外でやれていた?

まあ、そうですね・・・でもしょうがないっすね。

−−当時も海外には行きたかった?

行きたいとは思っていましたけど、Jリーグでも全く出ていなかったので、想像ができなかったですね。

−−とはいえ前田選手はJリーグで2年連続の得点王という快挙を成し遂げて、日本人のレベルが上がった1つの証明でもあると思います。ザッケローニ監督はJリーグの力で、W杯で戦える集団にしたいと語っていて、その1つの象徴的なプレーヤーだと思うが、自負心は?

Jリーグでもうまくなれるんだという気持ちはありますけど、それを証明するにはもっといいプレーをしたいなと。

−−イタリア人ストライカーはもともと自己顕示欲が強いが、前田選手の場合はそういう印象も無く、そでもそこから得点を重ねる中でストライカーとしての意識も強くなってきた?

FWはいくらいいプレーしていても、1年を振り返った時に結局は何点取ったという話になって、いくらいっぱい動いて守備していても何も残らないというのはすごく感じます。

−−ゴールを目指すところとチームの中で守備をする折り合いは?

守備は当たり前のことという感じですかね、そこからプラスして自分で何ができるかだと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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