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ガーシー化している? 世界の広告。「正義」の炎上マーケに勝算はあるか

河尻亨一編集者(銀河ライター主宰)
受賞作のThe Lost Class(カンヌ・ライオンズ 2022公式より)

3年ぶりの現地開催となった国際クリエイティブ祭「カンヌ・ライオンズ」

世界の広告業界で生じつつある劇的な変化。その一端をうかがい知れるのが、世界最大規模のクリエイティブ祭「カンヌ・ライオンズ(Cannes Lions International Festival of Creativity)」だ。

筆者は2007年以来、ほぼ毎年現地取材を行い結果をレポートしている。パンデミックの影響により2020年はフェスティバルが中止、昨年はオンラインでの実施だったが、2022年は3年ぶりの現地開催となった。

パンデミックの影響で停滞感もあった広告産業にとって、2020年代がようやく幕を開けた印象だ。

カンヌで受賞する数々の事例をウオッチすると、グローバル企業やスモールビジネス、NPO、行政組織が時代の変化にいかに対応し、「どんなアイデアとクリエイティブで多様な課題を解決しようとしているか?」をリアルに知ることができる。その発想と手法は年々アップデートされていく。

広告やマーケティングを軸としたビジネスの最新動向だけでなく、各国の文化や生活、世界をおおう時代の空気まで生々しく体感できるのが、長年このフェスティバルを取材していて興味の尽きないところだ。

2019年に投稿した現地レポートでまとめたように、2010年代は「広告のソーシャル・グッド化」が著しく進んだ10年だった。

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SDGs(持続可能な開発目標)やDE&I(多様性・公正性と包摂)が叫ばれる中、多くのグローバルブランドが「パーパス(社会的存在意義)」を掲げ、ビジネスの成長と社会課題の解決を両立する取り組みを実施するようになっている。

今年はどんな傾向が見られたのか。2020年代をリードするクリエイティブのトレンドとは? 主な受賞作を紹介しながら考察してみたい。

フェスティバルのセミナーではウクライナのゼレンスキー大統領もビデオ出演(録画)。世界のクリエイティブ・コミュニティに同国への支援を呼びかけた(2022年6月・筆者撮影)。
フェスティバルのセミナーではウクライナのゼレンスキー大統領もビデオ出演(録画)。世界のクリエイティブ・コミュニティに同国への支援を呼びかけた(2022年6月・筆者撮影)。

100の受賞作を分析して見えてきた広告の「過激化」

カンヌ・ライオンズ2022には、世界87か国から計2万5464の広告・マーケティング施策がエントリーされた。そのうち826施策が受賞している(全29部門)。

その中から筆者は上位入賞作(グランプリと金賞を複数受賞している施策)を中心に、100の事例を選んで傾向を分析した。

100の事例の中では、約7割(数え方にもよるが69例)がジェンダーや人種の平等、格差、暴力・戦争、ヘイト、環境及びサステナブルといった社会課題へのソリューションを実施するものだった。

これを見るかぎり、上述した広告の「ソーシャル・グッド化」ひいては「パーパス化」のトレンドは、今年も大きくは変化していないと考えられる。

だが、深化した面はある。100事例を見渡して、もうひとつ気づかされたのは一部キャンペーンの「過激化」だ。

ソーシャル・グッドの実現のために、ハッキングやトラップの手法を活用したり、違法行為スレスレのアクションさえ厭わない。ある種の”炎上マーケティング型”の施策が、それなりの数見受けられた。

その代表的なものが「The Lost Class(失われた教室)」と題されたキャンペーンである。

このキャンペーンでは、かつて全米ライフル協会の会長を務めたデビッド・キーン氏と、銃所有の権利を熱烈に擁護するジョン・ロット・ジュニア氏の二人が、「ジェームズ・マディソン・アカデミー」なる高校(実は架空の学校)の卒業式に招かれ、来賓としてスピーチをする一部始終が映し出される。

だが、屋外で開催された式には、肝心の卒業生がだれもいない。3044の無人の白い椅子が並んでいるだけだ。それは直近1年間に、銃撃事件によって亡くなり、高校を卒業することができなくなった学生と同じ数の椅子だという。

つまり、二人の著名な銃規制緩和論者が、銃撃で死亡した若者たち(空の椅子)に、「自由な社会は素晴らしい!(銃も持てる)」とみずからの主張を語りかけている。

そんな皮肉な構図を視覚化することで、アメリカの歪んだ現実を浮かび上がらせた。ここに表現としての凄みがある。

「The Lost Class」は公開後多くのメディアに取り上げられ、全米に議論を巻き起こした。結果的に二人を、銃規制派の”PR塔”に仕立て上げることに成功したのだ。

この動画を発表したのは、銃規制を訴える団体「チェンジ・ザ・レフ」。かつて銃乱射事件で息子を失った両親が中心となって設立した非営利団体である。

それにしても銃推進派の二人がなぜ、銃規制派の”コマーシャル”に出演したのか? 無人の椅子を前にスピーチしていて、不審に思わなかったのか?

実は二人は「リハーサルをやります」と言われて、練習でスピーチしたところを撮影されている。自由な銃所有の法的根拠となっている修正2条を起草した憲法の父「ジェームズ・マディソン」の名を冠した”フェイク・スクール”からのオファーを、他愛なく信じてしまったのだろう。

わかりやすく言うと「ハメられた」のだ。

だが、同団体はメディア向けの声明で「このキャンペーンの目的は、全米ライフル協会のメンバーの二人を騙すことではなく、(理不尽な)この状態がどれだけアメリカの日常風景になっているかを示すこと」としている。

動画の中では息子を失った両親が、「我が子を亡くすこと。人生でそれ以上に辛いことはありません」と語る。

銃に関する法律の規制緩和を訴えるロビー活動等に、年間2億5,000万ドルを費やしていると言われる全米ライフル協会に、資金力・影響力に乏しい市民団体が立ち向かうためには、過激とも思える手段に訴えざるをえないーーそう考える向きもあるだろう。

一方で、人に嘘の情報を与えてPR映像を撮ることに、モヤモヤした感情を持つ人もいるはずだ。

両者の議論を巻き起こし、銃問題から社会の目を逸らさせないことが、このキャンペーンの真の狙いなのかもしれない。

「The Lost Class」はOne Show、D&AD、NY ADCなど、世界の主要な国際クリエイティブ・アワードで軒並み最高賞を受賞。

カンヌ・ライオンズでも複数の金賞を受賞している(※カンヌでは、こうした非営利団体によるチャリティ施策はグランプリに選出できないルールがある)。

今年の最多グランプリは暴露系。大英博物館の"黒歴史"を国外からバラす

「The Lost Class」に負けず劣らず過激なキャンペーンを展開したのが、「The Unfiltered History Tour(フィルターのない歴史ツアー)」だ。

今年のカンヌ・ライオンズでは、最多となる3部門でグランプリを獲得している。その意味では、「The Lost Class」に並ぶ”2022年世界の広告代表作”とでも言うべき施策である。

よく知られた事実だが、大英博物館に展示されているお宝の中には、イギリス帝国主義時代の”盗難品”も多い。

例えば「ホアハカナナイア(盗まれた友)」と呼ばれるモアイ像はイースター島から持ち去られたもの。「エルギン・マーブル」はギリシャのパルテノン神殿から削り取ってイギリスに運ばれた盗品であり、青銅彫刻の傑作「ベニン・ブロンズ」は、現在のナイジェリアから略奪された。

こうした略奪文化財の多くは、それらが元あった国の政府から返還要求が出されているにもかかわらず、大英博物館は応じてこなかった。それどころか、これらの展示物の背景にある”不都合な真実”について触れることもない。

近年では、世界中に多数の植民地を抱えていた大英帝国時代を誇りに思う若いイギリス人が増えているという。

こうした状況に一石を投じたのが、世界30カ国以上に支部を持つデジタルメディアの「Vice World News(ヴァイス・ワールド・ニュース)」。若者向けのディープなカルチャー情報に強いヴァイス・メディア・グループの報道部門である。

ヴァイスは、大英博物館に展示される10の文化財に着目。独自のビジュアル&オーディオガイドを開発した。

来場者が展示物に向けてスマートフォンをかざすと、そのお宝にまつわる”黒歴史”が、迫力ある映像とともに、それを奪われた地元の人たち(先住民)によって暴露される。つまり奪った側ではなく、奪われた側のガイドを体験できる。

筆者は現地(博物館)で試していないため、コンテンツやUXのクオリティに関して判断できない。しかし、上のケースビデオ(解説動画)を見る限り、InstagramのARフィルターを活用した没入型コンテンツの完成度は高いようだ。

この「The Unfiltered History Tour(フィルターのない歴史ツアー)」は、インドのクリエイターと開発者チームが中心となって制作された。ご存知の通り、インドはかつて英国の植民地だった。

興味深いことに100名を超えるチームのだれ一人として、制作にあたって現場(大英博物館)を訪れていないという。

企画から開発・リリースまでの一連の作業は、大英博物館には内緒で進められている。それはそうだろう。こんな過激な暴露コンテンツに、公式のOKが出るわけがない。

「Unfiltered=無検閲」を謳うこのゲリラツアーは、非公認でありながら話題となり、世界中のメディア、SNSで拡散されることとなった。

ある人や組織が秘密にしておきたいことを、海外からバラす。この手口には、近頃話題の暴露系YouTuber・ガーシーに近い感覚がある。気に食わない相手を、リモートでいくらでも炎上させられる。

好き・嫌いに関わらず、この施策が今年の最多グランプリであることに、いまという時代を感じざるをえない。

会場風景。カンヌ映画祭でもおなじみレッドカーペット前(筆者撮影)
会場風景。カンヌ映画祭でもおなじみレッドカーペット前(筆者撮影)

まだまだある。正義の炎上マーケ事例

カンヌ・ライオンズのような国際クリエイティブ・アワードでは、従来から”トンがった施策”が多く出品されてきた。当たり障りのないキャンペーンでは、高い評価を得ることはできない。

しかし、今年のベスト100事例を分析していると、そのトンがり方が尋常でない施策が目立つ。「正義(ソーシャル・グッド)」の実現のためには炎上も上等。超えてはいけない一線のギリのギリまで狙う。そんな事例の比率が高まっている。

もはや「手段を選ばず」の感さえある。世界の広告業界、そしてクリエイターは必死なのかもしれない。

詳細まで解説すると長文となるため、箇条書きにとどめるが「過激系広告・マーケティング施策」と言えそうな事例として、ほかにも以下のようなものが筆者の目を引いた。

※クレジットは「施策タイトル/広告主とエントリー国」の順。青字タイトルクリックでケースビデオ(解説動画)へ。

★受刑者のための初のeサイクリングチーム/デカトロン(フランス)

フランスのスポーツ用品メーカー・デカトロンが、世界初「受刑者によるeサイクリングチーム」の結成を支援しスポンサードも行う。スポーツは受刑者の心のリハビリにもなるという。チームは刑務所内でトレーニングし、オンライン競技に参加する。

★大麻チケット/ベルリン市交通局(ドイツ)

クリスマス前の多忙な日常にストレスを感じている利用客にリラックスしてもらうため、ベルリン市の公共鉄道BVGが、”大麻成分入りチケット”を限定販売。”チケット”は食べられるようになっており、製法・成分量など合法の範囲にとどめたという。

★スウェーデン人を食え/スウェーデン食品連合会(スウェーデン)

2050年代には世界の人口が100億を超えると言われる。サステナブルな食料供給のためには「もはや共食いしかない!」と、研究室で人工培養した”人肉”をインフルエンサーに試食させようとする。スウェーデン食品連合会による啓発キャンペーン。

★ウィルモア葬儀社/スターメッド・ヘルスケア(アメリカ)

「コロナワクチンを接種しないで」。こんなコピーを掲げた葬儀社のトラックが街を走る。過激なメッセージに関心を持った人々がネット検索すると、今度は「すぐにワクチンを打って。でないと、じきにお目にかかるでしょう」のコピー。ワクチンの低接種率を懸念した医療機関が、葬儀社を騙って出した広告だった。

★緊急避妊薬の島/PAE戦略グループ(ホンジュラス)

ホンジュラスでは緊急避妊薬が違法で最長6年の服役となる。そこで女性支援団体が、同国の「領海外」に木製のイカダを浮かべ、ボートで女性たちを連れて行き、アフターピルの服用が違法とならないツアーを実施。政治家にも働きかけ、2022年法改正が行われた。

ほかにも「アートをポルノ視するSNSアルゴリズムへのゲリラ的対抗策(ウイーン観光局)」から「ネオナチの好む音楽をディープラーニングした上で、平和主義者への転向を巧妙に促す楽曲をリリースしてヒットさせる施策(反ナチス・イニシアティブ)」など、挙げていくとキリがない。セールス系のプロモーション施策でも、かなり際どいものがあった。

もちろん、正統派のソーシャルグッド施策も多く受賞しており、昔ながらのユーモラスで微笑ましいキャンペーンも一部あるにはあるのだが、全体を俯瞰した際に、どうしても”過激派”のほうが目立ってしまう。

授賞式会場。セレモニーは相変わらず派手だった(筆者撮影)
授賞式会場。セレモニーは相変わらず派手だった(筆者撮影)

どうなる広告? どうする日本?ー世界クリエイティブ・ランキングから考察

今回、筆者が分析の対象とした100事例のケースビデオ(解説動画)は、どなたでも視聴・リサーチできるように記事プラットフォーム上にまとめている。

★Cannes Lions 2022 "100 Best Works”シリーズ(note:河尻亨一)

こちらも併せてご覧いただければ、アグレッシブでラディカル、そしてハッカー的発想が色濃い施策が、今年のフェスティバルを席巻していたことを実感いただけるだろう。

こうした急進的アクティビズムは、アジアや中東圏というより、主に欧米圏発信の施策に顕著であることにも留意したい。

それにしてもなぜ、2020年代に入って筆者の言う「クリエイティブの過激化」、あるいは「正義の炎上マーケティング化」とも言えそうな現象が目立ち始めたのだろう? 

パンデミックが残した爪痕、不安定な経済、ウクライナでの戦争、そして不寛容の時代ーー流動化の著しい不穏な世界情勢に、広告表現がビビッドにシンクロしているということなのか?

これという結論は出ないが、今後の展望が気になるところだ。それを予測するためには、主に以下3つの論点から考察することが重要かと思う。

①正義の炎上マーケティングは効果的なのか?

過激なアクティビズムやハッキング的手法はコミュニティを分断しかねない。熱烈なファン(共感者)を生み出す一方で、反発もすさまじいからだ。

その過激さが一度ウケてしまうと、世間からさらなる刺激を求められるようになり、一層過激化が進んで発信者が壊れるケースもまま見受けられる。

カンヌで見られるような「ソーシャル・グッド」を目的として行われた施策でも、あまりに敵を増やしてしまうと、肝心の社会的合意形成が困難になる。

一方でとがった主張のないアイデアやクリエイティブは、よく練られたものであっても、インターネット上で広まりにくい。つまり”広告効果”が上がらない。それが現在の情報環境が抱える宿命的構造であり課題だ。

このアンビバレントな状況をどう打破するか。寛容かつ成果の出るグッド・ソリューションは存在しないのか? 世界には”次の一手”を模索しているブランドもありそうだ。  

②パーパス主義の今後

これまでも様々なメディアに執筆してきたように、ソーシャル・グッドとブランドの成長の両立を志向する”パーパスイズム”が、現在の広告・マーケティング業界の基調理念になっている(世界的視野で見た場合)。

だが、同時にそれはこの業界にとっての呪縛にもなり始めており、今年あたりから「パーパス疲れ(Purpose Fatigue)」の声も聞かれるようになった。

パーパスブランディングは「経営の邪魔になる」「結局のところ偽善ではないか?」ーーそんな意見も噴出している。

しかし、グローバルブランドは、SDGsやDE&Iの潮流にそうおいそれと抗うこともできない。それは広告・マーケティング産業の後退と衰退を意味する。ここに悩ましいジレンマがある。

それを解消すべく台頭したのが、今回詳述した”過激な社会派主義”だろう。これは主流のパーパス路線に対するオルタナティブともいえる。

現状では、非営利組織やスモールビジネスによる施策が目につくが、こうした動きが今後、大手のグローバル企業に与える影響を注視したい。

世界の広告・マーケティング産業が紆余曲折の末たどり着いたパーパス路線が、結局のところご都合主義だったのか、否か? その本気度が試される局面に入った。

③日本のクリエイティブ産業の未来

例外もあるが、日本に関してはそもそも①②の動きへのキャッチアップが進んでいない。それ以前の段階である。

カンヌ・ライオンズへの「エントリー数・受賞率・受賞数」も2010年代後半から年々下落の傾向にあり、広告表現のガラパゴス化が一層顕著になっている。

例えば、今年の受賞率(日本の受賞数=10/エントリー数=540)は1・85%で、世界平均の3・24%(総受賞数=826/総エントリー数=25464)に比べて低い。

筆者が独自に数値化した「世界クリエイティブ・ランキング(カンヌ2022版)」でも16位と、年間約6兆8000億円にのぼる我が国の巨大な広告市場(2021年/電通調べ)に比してパッとしない。

得点だけで見ると、アルゼンチン、ホンジュラス、ポルトガルと同位となる。参考までに20位までのランキングを掲載しておこう(筆者作成)。

※カンヌ・ライオンズ2022の結果を得点化し国別にランキングした(筆者作成)。得点はひとつの受賞施策ごとに「グランプリ:4点、金賞:3点、銀賞:2点、銅賞:1点」で算出している。
※カンヌ・ライオンズ2022の結果を得点化し国別にランキングした(筆者作成)。得点はひとつの受賞施策ごとに「グランプリ:4点、金賞:3点、銀賞:2点、銅賞:1点」で算出している。

このランキングからは、カンヌ・ライオンズが圧倒的に欧米圏とその価値観を中心としたフェスティバルであり、そのメインストリームをインド、ブラジルなど”新興国”が追う構図が明確に見て取れる(今年はロシアからの出品は受け付けられなかった)。

中東ではここ10年でUAEの躍進が目立つ。東アジア圏では日本と中国がかろうじてランクインしているが、ともに存在感を発揮しているとは言い難い状況だ。

もちろん、クリエイティブ・アワードでの受賞が、そのまま施策の価値とイコールではない。カンヌなど受賞していなくとも、顧客とのあいだに豊かな関係性を築いている優れたキャンペーンは国内にも数多存在する。

スモールビジネスや一部の自治体、NPOが行なっている、派手ではないがブランドの本音・本気・本質を感じるオーセンティックな施策もある。

逆に”賞獲り”の言葉もあるように、あからさまにそれだけを追求したキャンペーンは、見ていてモヤモヤするものだ。

だが、こうしたアワードを契機に世界の現状に目を向け、自社ブランドのアイデンティティや今後の方向性を模索することには、一定のメリット(投資価値)があると筆者は考える。

欧米圏の価値観に無理して合わせる必要はないが、無視することもできないのが、世界から見た日本という国のリアルなポジションだろう。出品するのであれば、現在の傾向をしっかりリサーチした上で、本気・本音・本質のソリューションをぶつけるべきだ。

それともうひとつ。日本の広告産業に目覚ましい変化が起きなくても、我が国の社会状況はグローバルのそれとシンクロしている。つまり、人々の意識は業界より先に行っている。

良いのか悪いのかわからないが、暴露系YouTuberが国会議員に当選するカオスな時代だ。そんな時代のVUCA性を直視した上で、みずからのパーパス(社会的存在意義)を明確に打ち出せないブランドは、今後ますます成長することが難しくなっていきそうだ。

編集者(銀河ライター主宰)

編集者、銀河ライター。1974年生まれ。取材・執筆からイベント、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムをつなぐ活動を行う。カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバルを毎年取材。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』がある。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』で第75回毎日出版文化賞受賞(文学・芸術部門)。

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