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HIROとVERBALがカンヌで語った。世界のエンタメにLove,Dream,Happinessを

河尻亨一編集者(銀河ライター主宰)
HIRO氏(右)とVERBAL氏(左)。カンヌ・ライオンズ会場にて(写真:筆者)

世界最大のクリエイティブ祭と言われる「カンヌ・ライオンズ(以下カンヌ)」のステージに、HIRO氏とVERBAL氏が登壇した(日本時間6月21日・20時)。

EXILEやm-floなどの音楽活動で知られる二人だが、今回は彼らの活動母体であり、現在ではアジア、米国、ヨーロッパでも事業展開するLDH WORLDのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(HIRO氏)、そしてエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(VERBAL氏)として、LDHと日本のエンタテインメントを世界にアピールするプレゼンテーションを行った。

タイトルは「Love,Dream,Happinessー日本型ビジネスモデルがグローバルブランドを変えるー」というもの。戦略PRを手がけるブルーカレント社がバックアップしている。

映画祭に比べて日本では知名度が低いカンヌ・ライオンズだが、多国間で事業を展開するグローバル企業にとっては、ビジネスの未来を読み解く上で決して無視できないビッグイベントだ。

筆者は2007年より現地取材を続けているが、ユニクロ、サムスンなど世界で勝つ企業の多くは、グローバル展開の過程でカンヌでのプレゼンも成功させている。近年では大企業だけでなくベンチャーも多く参加し、資金調達につながるケースも増えている。

つまりカンヌは華やかなクリエイティブアワードであると同時に、これから世界を目指す企業の"挑戦の場"でもある。

二人は南仏で何を語ったのか? LDH(Love Dream Happiness)の世界戦略とは? HIRO氏とVERBAL氏へのインタビューも交えて現地からレポートしたい。

LDHのプレゼンはフェスの公式誌「Lions Daily News」でも紹介された(写真:筆者)
LDHのプレゼンはフェスの公式誌「Lions Daily News」でも紹介された(写真:筆者)

僕たちは"人ありき"で歩んできた。ドリームは効率からは生まれない

現地でセミナー前に行ったインタビューでHIRO氏は、今回のプレゼンテーションについて次のように語った。

「特にこの場所を狙っていたわけではないんです。LDHがアジアからUSA、ヨーロッパと活動を広げてきた流れの中で、ブルーカレントさんからお話をいただき、自然とここに来ることになったというんでしょうか。

カンヌだからと言って変に力まず、自分たちが信じて歩んできたストーリーを表現できればと思ってます。欧米の人たちにそこがうまく伝わるかどうかはわからないけど、僕らは"人ありき"でやってきましたので、人と人との出会い、そのことで生まれる相乗効果といったアナログな部分を大切にしています。LDHの根底にあるLove、Dream、Happinessというテーマや姿勢を伝えたいですね。

セッションの途中サプライズでSAMURIZEも出演するんですが、彼らのパフォーマンスへの反応も楽しみです。まあ、僕は最後にひと言ふた言しゃべるだけですから、すべてはVERBALにかかってるんですが(笑)」

そう話を向けられたVERBAL氏は次のように応じた。

「LDHは世界のエンタテインメント業界でも珍しい360°ビジネスを展開していますが、それも"人ありき"の発想あってのものだと思います。

狙って『アパレルをやろう』とするのではなく、HIROさんの仲間にアパレル業界の人がいて『一緒にやってこうよ。僕たち衣装が必要だから』ーーというところから事業が立ち上がる。飲食にしても『みんな飲みに行くんだったら、そういう場所があったほうがいいじゃん?』ということでお店をプロデュースして仲間に任せる。

そうやって人と人とのつながりを介してオーガニックにビジネスが広がっていくところがLDHの特殊性で、欧米型のビジネスモデルと違って良くも悪くも効率が悪い(笑)。事業そのものではなく人にインベストしているんですね。

アーティストが売れるために育成するのは当たり前なんですけど、ビフォーだけでなくアフターまでケアするというのはほかのエージェントでは聞いたことがないし、海外のアーティストと話していても、そこはみんな感銘を受けるみたいです。

カンヌでの僕らのメッセージをひと言でまとめると、"Art of the inefficiency(不効率の技術)"ということになるでしょうね。エンタテインメント業界でも近頃では効率性が重視されますが、ドリームは効率だけでは生まれませんから。

いい意味で様子がおかしいというか、癖のあるアーティストの方が一緒に何かやりたくなりますよね? そうやっていろんなジャンルのアーティストを巻き込んだときに生まれるエンタテインメントの力には、すごいものがあると思うんです」

カンヌは日本人にとってアウェイ。だが、夢追う"EXILE"がもっと必要だ

ステージではブルーカレント社の代表・本田哲也氏がファシリテーションを務め、VERBAL氏のほかDJ・プロデューサーのAfrojack氏(LDHヨーロッパ)、米オーディオ機器ブランド「ビーツ・エレクトロニクス」のルーク・ウッド氏も登壇。同社はLDH所属のE-girlsとコラボし、日本でキャンペーンを展開した。

プレゼンテーション後のショット。右から本田哲也氏、Afrojack氏、HIRO氏、VERBAL氏、ルーク・ウッド氏(撮影:筆者)
プレゼンテーション後のショット。右から本田哲也氏、Afrojack氏、HIRO氏、VERBAL氏、ルーク・ウッド氏(撮影:筆者)

プレゼンテーションではLDHの活動を紹介する動画の上映に続いて、まずはVERBAL氏が日本のエンタテインメント市場について解説。その後、音楽(ライブ)を軸にアパレルやレストラン、学校、ジムといった様々な事業が回転するLDHのビジネスモデルを「スパイラル型」というワードで説明した。

これまでカンヌで様々な日本企業やクリエイターのプレゼンを見てきたが、我々にとってここは想像以上の"アウェイ"である。日本人ならほぼだれでも聞いたことがあるHIROという人物やEXILEというグループの名も、海外のオーディエンスにとっては初耳だ。

HIRO氏がビジネスの上で大事にしている「損して得とる」「同じ釜の飯を食う」という極めて英語に訳しにくいフィロソフィーも、向こうの”土俵上”で伝えなければならない。

SAMURIZEによるパフォーマンス(提供写真)
SAMURIZEによるパフォーマンス(提供写真)

トークセッションに続いてSAMURIZEのパフォーマンスがあり、最後にHIRO氏が舞台上からこう呼びかけた。

「いま僕らは世界に向けて夢が広がっています。これからは日本だけじゃなくて世界の新しい仲間と一緒に、Love、Dream、Happinessを生み出していきたい」

筆者がカンヌをウオッチしてきたこの10年は、日本という国が世界から年々"閉じていく"様を目の当たりにし続ける10年だったが、このタイミングでLDHが世界に漕ぎ出そうとしていることが興味深い。彼らは挑戦を続けているのだろう。

EXILEという言葉には「国外に出ていく(見知らぬ国を放浪する人)」という意味もあるが、それこそいまの日本に求められる”J Soul”ではないだろうか?

(追記)

この記事はカンヌ・ライオンズ2018レポートの第1弾としてお届けしている。

カンヌでは、世界の興味深いキャンペーンやプロジェクトを山ほど見ることができ(今年は3万超のクリエイティブ事例がエントリーされた)、今日のLDHのプレゼンテーション以外にも数百ものセミナー、ワークショップ等が開催されている。

もはやその全貌を把握することは不可能と言えそうなほど規模の大きいフェスティバルだが、今年現地で話題になったキャンペーン事例やセミナーに関して、引き続きこの場所でご紹介していきたい。

編集者(銀河ライター主宰)

編集者、銀河ライター。1974年生まれ。取材・執筆からイベント、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムをつなぐ活動を行う。カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバルを毎年取材。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』がある。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』で第75回毎日出版文化賞受賞(文学・芸術部門)。

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