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日産と三菱、互いに模索する電動駆動車の運動性能の可能性【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

 日産が送り出した新型ノートe-POWERは、発電用のエンジンを搭載して電気を作り、この電気によってモーターを駆動して走るシリーズ・ハイブリッドと呼ばれる機構を採用する。日産には電気自動車のリーフが既に存在するが、モーターで走るという部分ではリーフと新型ノートはほぼ同じ仕組み。違いはリーフが電池に充電した電気でモーターを駆動するのに対して、新型ノートは搭載するガソリンエンジンで発電した電気でモーターを駆動するわけだ。

 その意味でリーフと新型ノートは電動駆動車=モーターで走ることに変わりはない。そしてモーターで走るクルマはこれまでのガソリンエンジンで走るクルマとは大きく異なる特徴がある。それはガソリンエンジンで走るクルマよりもはるかに「静か」で「滑らか」で「力強い」というもの。これはモーターの特性によるものだ。

 モーターはエンジンのような燃料を爆発させ力を出して回転に変える構造ではないので、エンジンで発生するような騒音や振動がないために「静か」だ。またエンジンはアクセルを踏み込むとエンジン内に燃料が噴かれ、それが燃焼して爆発し、その爆発を力に変える仕組みが軸を回し、その軸からタイヤにつながる軸が回り出す…という長いプロセスがあり、力が得られるまでのわずかな時間差があるが、モーターの場合はアクセルを踏んだ信号が瞬時にモーターを回すためすぐに力が得られてタイヤが回り出すので「滑らか」に動き出し、その後もエンジンのようにトランスミッションがないので、最初の「滑らか」な動きがそのまま持続する。さらにモーターはエンジンのように回転が高まらないと力が出ないのではなく、最初の動き出しから大きな力を出すことができるので発進時に「力強い」と感じる加速が得られる。

 説明が少し長くなったが、そうした理由でモーターで走るクルマは通常のガソリン車よりも静かで滑らかで力強いという特徴がある。そしてこれは我々がクルマに乗った時に良い!と感じる要素にもなっており、これが電動駆動車の魅力でもある。もちろんリーフのような純粋な電気自動車の場合は、バッテリー容量や航続距離、充電の問題があり、この点が現時点で電気自動車を選ぶ際の足枷になっている。が、一方で新型ノートの場合は、ガソリンを使ってモーターで走るので、バッテリーの心配や航続距離、充電の問題から解放されて電動駆動車の魅力を味わうことができるわけだ。

 一方で三菱が最近送り出したエクリプスクロスPHEVは、もう少し複雑な機構を持つ。このモデルは2.4Lの4気筒エンジンを搭載し、前後の車軸にそれぞれモーターを備え、これらを状況に応じて制御して走る仕組みを持つ。かつ比較的容量のあるバッテリーを搭載し、コンセントから充電もできるようになっており、このバッテリーの充電だけで走ることも可能なプラグインハイブリッドと呼ばれるクルマだ。

 エクリプスクロスPHEVの場合も走行のほとんどでエンジンが発電し、前後のモーターを駆動して走る。が、高速などでエンジンの効率が良い領域でのみ、エンジンの力を直結して駆動するモードもある。が、多くの使用においてはやはり「ほぼ電動駆動」となる。エクリプスクロスPHEVは、前後にモーターを備えたツインモーターAWD、つまり電動の4輪駆動。通常のメカニカルな4WDと違い、前後のモーターを状況に応じて電子制御するため、従来の4WDでは実現できなかった無段階での自在な前後の駆動配分が行えるようになっている。

 こうした電動駆動のモデルを、先日長野県の女神湖で氷上走行する機会を得た。そこで試乗してみて感じたのが、電動駆動車の走りにおける大きな可能性だった。筆者は2年前にも同じ場所で日産リーフを試乗して、その性能の高さに驚きこのYahoo!ニュース個人に寄稿したが、今回改めて新型ノートとリーフ、そしてエクリプスクロスPHEVを走らせてみて、さらなる可能性を感じたので寄稿した。

 ご存知のように氷上では路面のミューが極めて低くなるために、タイヤはグリップしづらく、力の掛け方をしくじると簡単にタイヤは空転する。みなさんも凍結路面などでタイヤが空転し、焦ってアクセルを踏み込んで余計に空転し制御がかかった経験があるだろう。しかしながら今回試乗した新型ノートとリーフ、エクリプスクロスPHEVでは、基本的にはそうした状況が起こりづらいのだ。

 凍った路面でアクセルを踏むとタイヤが空転してしまう理由は、路面ミューが低く摩擦が得られないからだが、同時にクルマ側の制御が追いつかないからでもある。アクセルを踏んでタイヤが空転すると、滑りを検知して制御が入る。これがトラクションコントロールという機能だ。これは回転するタイヤを止めるためにブレーキをかけて、もう片方のタイヤの駆動力を確保すると同時に、エンジンに指令を出してエンジン回転を下げて空転しているタイヤへの力を弱めるわけだ。このブレーキ制御とエンジンの回転制御を、短い時間の中でものすごいスピードで行うわけだ。

 しかしながら先に記した通り、エンジンは指令に対して反応するまでにわずかなタイムラグがある。タイヤの空転を検知してエンジンの回転を下げる指令が出ると、実際にそれは燃料を噴射する量を少なくしたり、やめたりという動きになり、それが回転を下げて結果タイヤの回転を遅める…というプロセスがあるわけだ。同時に行っているブレーキの制御はもう少し早いが、トータルでは制御が完了するまでにわずかな時間が必要となる。このために凍った路面でタイヤが空転すると、どこからか「ギギギッ」「ゴゴゴッ」と作動音がしてくるが、あれは主にブレーキ制御がタイヤの空転を制御している音だ。そしてこの時にエンジンの回転も下げるなどの制御が行われている。

 ところが新型ノートやエクリプスクロスPHEVでは、そうした状況になりづらいし、「ギギギッ」とか「ゴゴゴッ」という作動音もそれほどしてこない。もちろん凍った路面でいきなりアクセル全開にすれば、同じようにタイヤが空転するので制御が入るが、先に記したような状況では、エンジンで駆動力を得ているクルマと比べると遥かに制御が素早くきめ細かに行えるのだ。電動駆動車でも、タイヤの空転を検知してモーターの回転を下げる指令が出るのは同じだが、先に記した通りでモーターの回転を下げる指令は瞬時に行われる。日産が電動駆動車のPRで「1万分の1秒」と表現している速さが、まさにその制御だ。モーターの回転が瞬時に下げられる。それと同時にモーターの場合は回転を下げることがイコールでブレーキの効果も持っているため、エンジン車で行われていた複雑なプロセスが省かれて素早い制御となるわけだ。

 なのでエンジンで駆動するクルマでは、感度の高いドライバーならばいまタイヤが「滑った」が分かるし、それを「制御している」というのも分かって、それらが繰り返されていると分かる。しかし電動駆動車では動画をご覧になっていただいて分かるように、ドライバーが「滑った」と感じる前に素早い速度でモーター回転が制御されているため、「滑った」と感じることがない。また滑っている感じもしないので「制御している」ということも分かりづらい。結果凍った路面でも、アクセルを踏めば何事もなく普通に駆動して走ってるように感じるのだ。なのでリーフや新型ノートは、このような凍った路面のある条件では、4WDではないのに高い駆動力を発揮するほどだ。

 また日産リーフと新型ノートの場合には、滑りやすい路面での減速も通常のクルマと比較にならないほど安心できる。なぜならばリーフのe-Pedal、新型ノートのe-Powerドライブは、アクセルから足を離すと0.15Gのブレーキで減速する。そしてリーフは完全に停止、新型ノートは時速5キロ程度まで減速するのでブレーキ操作せずにほぼ停止まで持っていける。これが雪道や凍った路面で絶大なる効果を発揮する。例えば凍っているかもしれない雪道の長い下り坂のあとのカーブ…この状況では誰もがブレーキを踏む際に慎重になる。なぜなら少しでも強く踏めば、タイヤが滑り出すかもしれないからだ。

 しかしながらリーフや新型ノートはこうした際に、アクセルから足を離すだけで最適な制動力でブレーキをかける。先の凍った路面での空転制御と同じように減速方向でも同様にきめ細かで瞬時の制御を行い、その状況においてもっとも効果的なブレーキをかけるのである。これは一度体験すると雪道での運転でかなりストレスが軽減されることが分かるほどだ。

 そしてエクリプスクロスPHEVだが、こちらは先に日産リーフや新型ノートでの空転の制御はもちろんだが、加えて前後に搭載した計2つのモーターを状況に応じて制御することで、自由自在に前後の駆動力まで変える仕組みを持っている。このため動画をご覧になっていただくと分かるが、氷上での発進を見ていると外の景色の流れが極めて速いのが分かる。前後のモーターを協調制御することで、滑りやすい路面でも高い駆動力を生み出すことができるのだ。

 またエクリプスクロスPHEVでは、ツインモーターの素早く自在な制御による前後駆動力配分の無段階制御を行うと同時に、ブレーキ制御を組み合わせることでクルマの挙動を様々に作り上げるS-AWCという機構も持っている。これによって、舗装路、ダート、雪道など、シーンに応じて車両の挙動を制御して安定した走りを実現している。動画内でも実践しているが、場合によっては積極的な姿勢で走らせることすら可能。そして当然、雪や氷の上であるにもかかわらず、驚くほどの運動性能を発揮している。

 このようにして、日産と三菱は、それぞれに電動駆動車だからこそできる車両の運動制御を日々開発し、実際に安心して走れるものとして市場に送り出している。そしてこれらは従来のエンジンで駆動するクルマでは不可能だった制御をも可能とするもので、今後の自動車の運動性能に関して、大きな可能性を感じさせるものとなっており、両社ともさらなる進化を目指している。

 現時点で、日産と三菱は電動駆動車の車両制御に関して協業は行っていないし、制御に関する考え方はそれぞれで異なる思想のもとに行われている。そうして互いに可能性を模索している段階である。が、もし日産と三菱が持っている車両制御技術を融合させて使うことができたならば、自動車における飛躍的な運動性能の向上が可能で、これがより安全で安心を感じるクルマを生み出すだろうし、同時に我々が体験したことのない走りすら体感できるのではないかと筆者は考えている。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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