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完成度の高さは「横並びからの脱却」にあり。新型マツダ3発表。【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

 マツダ自らが「マツダ新時代の幕開け」と称する新型マツダ3(旧名:アクセラ)が発表された。加えてその名をブランド名+数字の組み合わせへと変更したことは、これまでとは異なるブランドとしての幕開けの意味も込められている。

 今回のマツダ3は全く新たなアーキテクチャを用いて作られた新世代モデルのトップバッターに位置づけられる。すでに昨年のLAショーにおいて発表され、大きな話題を呼び、その後今年初めの東京オートサロンでも国内初お披露目されて多くの人の注目を集めた。

 筆者は今年の1月にロサンゼルスのウェストハリウッドで開催された国際試乗会に参加し、このマツダ3を試乗して、その圧倒的な完成度の高さに驚かされた。この試乗会で開発主査の別府耕太氏は「あらゆる質感を飛躍的に高めた」と語ったが、まさに言葉通りの完成度の高さがそこにあったのだ。特に静粛性の高さと乗り心地の良さをして筆者は、「このクラスのベンチマークであるVWゴルフを超えた」と評し、試乗の様子を筆者のYouTubeチャンネルLOVECARS!TV!で公開。このYahoo!ニュースでも記事にしたところ、異例のアクセス数を集めた。またこの動画や記事を目にした日本の自動車メーカーからも筆者の下に多くの問い合わせが来たり、ヒアリングをされるなど、自動車業界もマツダ3の完成度の高さに驚愕したのだった。

 では、果たしてマツダ3がなぜそれほどまでに高い完成度を実現できたのか?

 それはマツダがこのマツダ3の開発において、いわゆる競合比較を行うことによる「横並びのクルマ作りから脱却」したからに他ならない。

 いやむしろ、これまでのクルマ作りにおけるあらゆる慣習を見直したとも思える。実際に別府氏自身も、これまでのようなエンジニア出身の主査ではなく、バックボーンは販売や戦略部門にある。マツダがあえて別府氏のような経歴を持つ人間を主査に任命したのは「機械としてのクルマの進化や性能が大切なのはもちろんだが、よりユーザーの視点に立ったクルマの価値を創造するためにあったのでは? 」と別府氏はいう。

 「自分がクルマを買うユーザーとなったときに、性能はもちろん大切ですが、それと同じくらいオーディオなんかもちゃんとしてるか気になる。良い音楽を聴きながら走りたい…そういったユーザー視点の価値を大切にしたのは、自分がエンジニア出身ではないからかもしれません」と別府氏。こうしてユーザーの価値に直結するような技術ポイントがマツダ3にはたくさん盛り込まれている。

 例えば今回マツダ3の静粛性の高さは、基本骨格を作る段階で心地よい室内空間を目指し、構造そのもので静粛性を確保するなどしている。さらに純正のオーディオシステムもこれまでの慣例通りにスピーカーを配置したのではなく、本当に良い音とは何か? を考え使う側の視点に立って良い音を追求するためにスピーカーのレイアウトまでも見直した。

 こうして徹底した作り込みを行った。中でも感心するのは、インテリアにおけるクラフトマンシップである。これは内外装における圧倒的な品質を感じさせる大きな要素で、例えばエクステリアではドアノブの形状ひとつに始まり、インテリアではドライバーから見渡したコックピットに視覚的なノイズが全くなくなる徹底的な作り込みを行っている。このため余計なパーティングラインや生産都合による切り欠き等が一切存在しない。さらにスイッチ類はウィンカーやワイパーのレバーまで含めて操作感をコーディネートしており、触った瞬間に感触の良さを痛感する。さらに付け加えるならばウィンカーの作動音なども1枚フィルターをかけた質の高い音を実現した。

 そして今回ハイライトと思えるデザインに関しても、5ドアのファストバックでは一目惚れするようなエクステリアを作り上げた。実際にファストバックはボディーサイドからキャラクターラインを消滅させるという、いままでのクルマ作りやデザインのルールとは異なるやり方を採用している。

 こうして見た目から中身に至るまでマツダ3には、マツダの考える理想のクルマ作りというものが徹底的に貫かれている。だからこそ、ベンチマークは設定しなかったと別府氏は明かしている。そして強いてベンチマークを挙げるならば、それは自身がマツダに入社するきっかけとなった初代ロードスター」だという。なぜなら初代ロードスターは当時大ヒットし、ロードスターに乗るために免許を取った方も多くいたほどの存在。そんなロードスターのように、人を惹きつけるクルマをマツダ3で創造したかったという。

 いわゆる競合と比較して横並びをするのではなく、自分たちが考える理想の車作りを貫く、これを実現したことによってマツダ3は同クラスのライバルとは明らかに一線を画す完成度の高さを見せた。そして同時に今後のブランドの進化に重要な、独自の世界観をさらに構築することになったといえる。しかしながら忘れてはならないのは、横並びから脱却して理想のクルマ作りを行ったのは、ブランドとしての価値を向上することももちろんだが、根本にはユーザーに価値を感じてもらおうという想いが流れている。マツダのクルマ作りには「人間中心」という言葉があるが、実はその根本にも人への想いがあると思えた。

 もちろん弊害がないわけではない。実際にその完成度の高さは非常に高いが、同時に価格も上昇傾向にあり、上位グレードは特にその傾向が強い。また果たしてこの後の販売がどのように推移するかは、自動車業界全体が注目する点でもある。が、その商品性という点において、圧倒的なものを実現したことは間違いない。コスト削減や効率が求められる時代に折り合いをつけつつ、理想を貫くマツダのクルマ作りは素晴らしい。とはいえ、果たしてそうしたクルマ作りが業界内外、特にユーザーにどのように評価され、業績に結びつくのか否かは興味深い。その意味でも今後の動向に注目したい。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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