ついにクルマがしゃべりはじめた。メルセデス・ベンツ新型Aクラス発表。

写真は筆者撮影

「ハイ、メルセデス!」

と声をかけると、

「どうぞお話ください」

と、答える。

ついにクルマがしゃべりはじめた。メルセデス・ベンツが18日に発表した新型コンパクトカー、Aクラスがそれだ。

もちろんこれまでも、多くのクルマの操作系には「ボイスコマンド」が存在しており、メルセデス・ベンツも同様だった。その操作方法は、例えば横浜みなとみらいに行く際には、

ドライバー「施設」

クルマ「都道府県名をお話ください」

ドライバー「神奈川県」

クルマ「神奈川県の都市名、施設名、ジャンルをお話ください」

ドライバー「横浜みなとみらい」

クルマ「横浜みなとみらいには40件の候補があります。何番ですか?」

ドライバー「29」

クルマ「29のスターバックスみなとみらい店を表示します、ここを目的地にしますか?」

ドライバー「はい」

クルマ「スターバックスみなとみらい店を目的地に設定します。案内を開始しますか?」

ドライバー「はい」

クルマ「案内を開始します」

と言った具合で、行き先を決めるまでに少なくともドライバーと6回以上のやりとりが必要であった。ならば手動でコントローラー。もしくはタッチパネルで設定した方が早い。というのが大方の意見だ。

しかしながら新型Aクラスでは、

ドライバー「ハイ!メルセデス!」

クルマ「どうぞお話ください」

ドライバー「横浜みなとみらいにいきたい」

といえば、ひとまずみなとみらいまでを表示して、ナビをセットできてガイダンスを始める。

そしてこれだけでなく、さらに曖昧な会話に対しても、そこから発話者の意思を汲み取った判断をしてやりとりを行う。

例えば、「暑い」といえばエアコンの温度は下がり、「お腹が空いた」といえば、近くの飲食店をリストアップする。

MBUX、メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンスと呼ばれるこの新たなUIは、iPhoneのSiriやアマゾンのアレクサなどと同じように使える自然対話式音声認識機能である。そしてもちろん、それらと同じようにウェブ上のクラウド(および車載のコンピューター)を用いて音声を自然言語認識機能検索し、答えをだしていくインフォテイメント機能や便利機能に対応する。そして万が一通信環境がない場合には車載のコンピューターを用いるので、通信の制限にかかわらず応答できるものとしている。また人工知能がユーザーの発音や行動を学習して、知見を培っていく仕組みにもなっている。

当然ながら走行に関わる装置等を、この会話によってコントロールすることはできない。それだけに操作できるのは主に快適装備や便利装備に限られるが、ボイスコントロールとしてはこれまでのものを遥かに凌ぐ使いやすさを実現したことは間違いない。

実際、たかがエアコンの温度を変えるくらいなら手で操作した方が早いことも事実だが、その操作を行うためにドライバーは、一瞬目線を温度表示や温度調整スイッチへ向けることになる。それが会話で可能であれば、少なくとも視線を移動せずに操作が可能だ。またスマホをコネクトしておけば、何かをするのにスマホを使うこともないだろう。それは安全にもつながる。

また最近の自動車では、多様化する機能をこれまでのハードスイッチで全て対応することが難しくなってきたのも事実。特にエアコンの操作系やナビゲーション、その他をどのように配置するかは開発の現場で場所の取り合いになっているという事実もある。

そうした背景から、自動車メーカーは複雑化した機能をいかに簡単に操作してもらえるようにするかを考えるのに躍起だ。

そんな悩みに対するひとつの回答が対話型のUIの導入で、ここにメルセデス・ベンツはひと足はやくリーチしてきたのである。

新型Aクラスのダッシュボードには、一枚の大きなスクリーンが置かれており、ここに10.25インチの液晶パネルが2枚置かれている。

この液晶パネルも右側はタッチパネルを採用しており、さまざまな機能を直感的なタッチ操作で行える。

このタッチパネルでの操作や対話型操作、そしてそれを支える人工知能による学習機能を含めたユーザーインターフェースとして、新たなアーキテクチャとしたのがMBUXである。

自動車メーカーは通常、こうした新たなUIなどを導入することには極めて慎重である。なぜならばこれまでの自社のUIに慣れ親しんだユーザーもいるし、多くの人をいきなりアナログではなくデジタルな操作に移行させるのはある種の賭けになる。

メルセデス・ベンツが今回、このMBUXを新世代コンパクトの新型Aクラスから導入したのには、そうした背景も間違いなく影響している。同社のユーザーの中でも、もっとも若い世代が多く、もっともイマドキなユーザーが多くいるだろうカテゴリーだからこそ、思い切って新たなUIを投入する英断ができたのだといえる。

新型Aクラスは、欧州Cセグメントに属すコンパクトモデルであり、価格も日本仕様はエントリーのA180が322万円、装備充実のA180Styleが362万円、そして発売記念で500台限定のA180 Edition1が479万円という設定としている。

コンパクトモデルとしては決して安くはないクルマだが、圧倒的な高価格帯というわけではない。そんな価格帯のクルマに、この新しいUIであるMBUXを投入してきたことに、他の自動車メーカーも注目していることは間違いない。

さらにこの新世代UIだけでなく、安全装置に関しても新型Aクラスには最新のメルセデス・ベンツのADAS(運転支援システム)が搭載されている。自動ブレーキやステアリングアシスト機能付きのアダプティブクルーズコントロールはもちろん、後退時に車両が接近したときの自動ブレーキや、駐車時の側方を通る自転車を検知して警告する機能も盛り込む。またSクラスなどでも採用される、高速道路で80km/h以上でウインカーを出せば、クルマが後側方を確認して危険がなければ自動的に車線変更するなど、実にきめ細やかな安全・安心の装備に彩られている。

新型Aクラスは、自動車が本来的に持っている走る曲がる止まるを、コンパクトモデルながら高い次元で実現し、その上で最高水準の安全を備える。そして、その上でクラウドへとつながり、話すという機能が加わった。

そう考えると、新型Aクラスとは実に驚くべきプロダクトだといえる。

もっとも考えてみれば、今から21年前にメルセデス・ベンツはその歴史ではじめてコンパクトモデルである初代Aクラスを世に送り出した。当時はメルセデスがはじめて作る小型車に、メルセデス自身もユーザーも戸惑いを覚えた。しかしながら、わずか20年でメルセデス・ベンツはAクラスをコンパクトモデルの最先端の存在にまで育てたと考えると、改めて凄さを感じる。

そして同時に、世界で最も歴史があり、自動車の父であり母であると言われるこのメーカーが、先頭を切って新たなUIを取り入れていくその姿勢には、自動車の大きな変革が起こっていることを意識せざるを得ないのである。