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過去と決別!? トヨタ新型クラウン速攻試乗。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

15代目の新型で大幅な方向転換

 日本の乗用車において、最も長い歴史を持つトヨタ・クラウンが、15代目となる新型へとフルモデルチェンジを果たした。今回のトピックは、これまでのロイヤル、アスリート、そしてストレッチボディのマジェスタといったラインナップを廃止したこと。

 これに代わってボディは1種類に統合しつつも、標準車とスポーティなRSという2種類にモデルを大別した。またエンジンは、2.0L直4ターボを筆頭に、カムリにも搭載された2.5Lの直4を縦置きしたハイブリッド、そしてレクサスLCやLSが採用する3.5LのV6マルチステージハイブリッドの3種類を用意した。そして先の標準車とRSという2系統の中で、これらのエンジンを搭載して様々なバリエーションを用意している。

筆者撮影
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 新型クラウンは今回、デザイン的にも大幅な路線変更を行なった。結果、標準車でも随分とスポーティと感じるほどである。そしてこれはデザインだけでなく、ボディレイアウトとの兼ね合いによるところも大きい。先代に比べ全長15mm伸びただけだが、ホイールベースは70mmも伸びている。これによってフロントタイヤの位置は先代より大分前へ移動して前後のオーバーハングが短くなった。その結果タイヤが限りなく4隅に配されるため、スポーティな感覚が増したのだ。またこれに合わせて、クラウン史上初の6ライトウィンドを採用したため、横から見た時のイメージも大きく変わった。

 基本的なセダン・フォルムはそう大きくは変わらないものの、6ライトとなったことでルーフは流麗に弧を描く様が強調され、Cピラーが細くなり、4ドアクーペ的な佇まいを手にした。また今回から新たに設定されたスポーティなモデルであるRSは、派手なボディカラーを用意することも含め、欧州車にも負けない押しの強さが演出されている。これはクラウンというモデルが必死で若返りを図っている証でもある。

ユーザーの平均年齢66歳を、なんとか引き下げたい。

 事実、クラウンの購入ユーザーの平均年齢は66歳と高く、イメージ的にも年配の方向けのクルマという感覚が強い。しかしながら新型クラウンが狙いたい平均年齢は40〜50代であり、この層にアピールしたい狙いがスポーティな方向へ進むことの原動力となった。なぜなら実際に40〜50代でサルーンを買うような層は、このクラスを選ぶ際に輸入車を選んでいる背景がある。そしてこのクラスの輸入車は、デザインや走りにおいて上質かつスポーティなものが揃っている。というか、スポーティなサルーンは売れるという不文律めいた雰囲気がある。それが今回のエクステリア・デザインにも反映されているといえるだろう。

筆者撮影
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 インテリアはセンターコンソールとダッシュボードに2段で大型のモニターを置いてデジタルな感覚を強めたのが印象的。基本上段のモニターをナビ画面にしつつ、センターのモニターではエアコンの操作画面等を見やすく大きく映し出す。ただ個人的にはユーザーインターフェースとしての新しさは特に感じなかった。コネクティッドに関しても、LINEとの取り組みは新しいが、スマホを使ってできることは限定的で、例えばメルセデス・ベンツAクラスのように音声コントロールで、クルマの改定装備や付加機能を動かすまでには至らなかったのは残念だ。

 インテリアの質感においては、さすがクラウンと思える部分も多い。トリムやシートなどは上質で柔らかなパッドを用いるし、センターコンソールの小物入れやドリンクホルダーの操作感や動作は、まるで油圧で動かしているかのように触感が徹底追求される。エアコン吹き出し口のスイングは、クラウンならではのホッとできる懐かしい高級感として健在だ。しかしながらよく見ると素材の使い分けは徹底しており、目がいかないところの樹脂パーツは安っぽい。例えばUSBポート周りやパワーシートのスイッチなど、細かなところにも品質を感じさせる仕上げをして欲しいと思えた。事実、クラウンが目指す欧州のサルーンは、こうした部分で徹底して品質を追求している。

 実際に走ってどうだったか? については、動画を参照にしていただきたい。

 今回試乗したのは2.5Lのハイブリッドを搭載した「G」と、2.0L直4ターボを搭載したRSアドバンスの2車種。2.5LハイブリッドのGは、タイヤの最初のひと転がりがとても滑らかで、スッとスムーズに走っていく様はドイツの高級車にもない独自の優れた感覚であり、正直驚かされた。走り出しの滑らかさや低速域のスムーズな感覚を大切にしたその走りは、新たな時代の高級サルーンに相応しい、そしてトヨタのクラウンに相応しい感触だった。

 また今回のクラウンで、先の乗り心地の良さとともに驚いたのがステアリング・フィールの良さ。フロントサスペンションがダブルジョイントになり、路面からの衝撃をうまく吸収できるようになったこともあって、ステアリングシャフトのゴムのカップリングを外すことができたという。結果、操舵にダイレクト感が増して、情報伝達も豊富になった。実際、路面の状態を巧みに伝えつつ、不快な振動等は排除したステアリング・フィールが生まれており、操作感が軽く滑らかなのに情報伝達はしっかりしており、とてもスッキリとした感触を伝える。

乗り心地の良さ、ステアリングの滑らかさに驚いたが…。

 次に試乗した2.0LターボのRSアドバンスは、今回のクラウンの中では最もスポーティな仕立て。それゆえか走り始めから端的に硬さが気になった。ダンパーの硬さによって、走りのスポーティな感覚は強くある。運動性能的にも高そうな印象を与える。しかしながら、先に試乗したGの17インチとノーマルダンパーの組み合わせの優れた走りの方がはるかに印象的だった。比べると2.0LターボのRSアドバンスは、専用開発したブリヂストン・レグノがまるでランフラットタイヤのように、路面の荒れたところでバタバタしてしまうのが残念だった。やはりここで採用される電子制御可変ダンパーのAVSは、新世代のものへの進化が急がれると感じた。また同時に2.0LターボのRSアドバンスのみ、ボディの下部に補強パーツ等を与えて走りをスポーティに仕立てたというが、これはクローズドコース等では好印象かもしれないが、一般道では厳しい側面が多く、それを考えるともう1段上のレベルでの走りのスポーティさと快適性の両立が欲しいところだ。

筆者撮影
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 こんな具合で、走りに関しては標準車のGの17インチ、ノーマルサスが好印象。これはまさに多くの人が想像するクラウンらしさが走りに表現された1台といえる。一方で2.0LターボのRSアドバンスはややヤンチャに過ぎる。クラウンならば、もう少し懐の深い落ち着きとスポーティを融合した仕上がりが望まれる。

 もちろんクラウンにはまだ様々なバリエーションがあるので、この印象の限りではないし、様々なバリエーションの中にはもっと好印象をもたらすモデルが存在しているのかもしれない。が、今回の試乗会では限られた時間で限られたグレードを試すしかなかったわけで、結果試乗できたこの2台から感じたのは、新型クラウンはこれまでのクラウンと決別し若返りを図ろうとする強い意思がそこにある、ということ。果たして今後の販売動向はもちろん、ユーザーの平均年齢にどう影響するかにも注目だ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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