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【意外な人気!】ホンダ・シビック  79/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

【成り立ち】

 日本市場には実に7年ぶりに投入されたホンダ・シビック。かつてホンダは「5ドアハッチバックは日本で売れない」として、先代モデルではセダンのみのラインナップとした。しかしその先代モデルも気を吐くことはなく、この代をもって日本での販売を終了した。決してこれがきっかけではないが、この後は時を追う毎に、ホンダのホンダらしからぬ時代となっていった感は否めない。しかしながらシビックは欧米では相変わらずのドル箱。特にアメリカ市場にはなくてはならないモデルであり、ホンダの重要基幹車種として販売は続いた。考えてみれば、2010年に8代目のシビックで日本市場を撤退したが、この頃までは日欧米でそれぞれ別々のシビックを用意していた時代でもあった。要は日本とアメリカでは、存在感も用途もサイズも異なっていた。しかし時代が進んだことで、自動車メーカーは作り分けよりも共通化へシフトして生産や開発のコストを抑えるようになった。つまり地域を問わず共通のグローバルモデルが増えたわけだ。そうした背景によって、日本を走るコンパクトモデルも世界基準ともいえる大型化が顕著になった(全幅で3ナンバーサイズになったクルマは多い)。ホンダがシビックの日本再導入を決めた理由として、この要素は小さくない。なぜなら今回のシビックも、いまや仕向地別で違うボディを与えてはおらず、世界共通モデルとなっているからだ。さらにセダンは日本で生産されるが、ハッチバックはイギリスで生産されたものを輸入するという方式を採用している。

【デザイン:75/100点】ある意味、現在のホンダらしさが存分に表現されているが…。

 発売後のシビックのデザインは「カッコ良い」と「子供っぽい」で賛否両論が巻き起こっているが、デザインの手法的には現在のホンダ・デザインのど真ん中にある。フロントグリルからヘッドライトまでを融合する手法は、他のフィットやアコード等でも行われている。またボディサイドを一直線に走るキャラクターラインなどもその典型といえるだろう。筆者の私見としては、ホンダはもっとユーザーのライフに寄り添った、相棒ともいえる温かみをデザインするのが上手だと感じている。初代ステップワゴンや、最近ではN-ONEなどが良い例だ。が、実際のラインナップにおいては今回のシビックやアコードのような、いわゆるアメリカで目立つギラッとした見え方を持つデザインが主役となっており、最近登場したステップワゴン・スパーダもその典型だろう。しかしながら、ホンダはどのように認識しているか不明だが、ホンダのクルマはホンダが思っている以上にライフアクティブ層に支持されており、特にバイク(自転車)やアウトドアを趣味とする人たちに多く選ばれている傾向にある。そうした傾向は本来、スバルが得意とするところだが、以前に筆者が自分の持つコミュニティ「大人の自転車部」(メンバー約2万人)でアンケートをしたところ、自転車趣味のための道具としてホンダはかなり選ばれていた。そういう意味ではもっと、道具としての機能性や骨太感をデザインに落とし込んでも良いかと思うが…実際には、この辺りはあまり感じず、やはり主役はアメリカ主導な感覚のデザインと感じる。またインテリアは、非常にそっけない。シンプルで使いやすさ重視といった感じで、この辺りもアメリカ的な感覚が強い。せめてナビの画面の位置くらいは、トレンドともいえる上方へ配置してほしかったが…。というわけで筆者としては現在のホンダ・デザインに関しては、もう少し普遍的で落ち着きが欲しいと感じるし、同時に道具感や骨太感をうまく融合してユニークさを感じさせて欲しい、と思っているのが本音だ。

【走り:85/100点】プロトタイプからすると想像以上の仕上がり

 今年の前半に袖ヶ浦フォレストレースウェイでプロトタイプの試乗会が開催された時も、ハードウェアの仕上がり自体は悪くなく、むしろライバルと比べても遜色ない仕上がりになっている、と感じていた。果たしてそれが公道試乗の際にどう感じるか? が気になっていたが、むしろ今回試乗してみて、さらに印象が良くなったのだった。

 まずセダンは静粛性と乗り心地のバランスに優れており、このクラスの中でも上位に入る質の高い走りが実現されていた。エンジンも不足はなく、CVTもラバーバンドフィールを払拭してなるべく違和感のないようなフィーリングを作り込んだ。110km/hとなった新東名を走ったが、高速道路でも実に爽やかな印象だった。詳しい走りに関しては以下の動画を参照にしていただきたい。

 またハッチバックに関しても、想像以上の仕上がりだった。こちらは今や国内では希少となった6速MTを採用するモデルで、スポーティな走りに花を添えるMT操作を存分に味わうことができる。ハッチバックは芦ノ湖スカイラインを中心に走ったが、ハンドリングが実に優秀で懐の深い粘りでカーブを駆け抜けていく。また乗り心地はセダンよりも締まった感じがあるものの質は高く、ライバルのマツダ・アクセラやスバル・インプレッサを凌ぐ乗り味走り味を手にしているかも? と思える。この辺りは横並び比較をしてみたいと思えたほどだった。このハッチバックに関しても、走りは動画を参照していただきたい。

 それにしてもこのクラスの6速MTというのは非常に魅力的。このクラスではマツダのアクセラに用意されるくらいで、スバルのインプレッサには用意されないため、「MTが欲しい」という声は一定以上はある。そうした状況にあって今回のシビックハッチバックが6速MTを用意したことは、ファンにとっては朗報だろう。このクラスはアクセラとインプレッサが人気だが、MTで選ぶ際に新たな選択肢が増えたことでインプレッサはやや物足りなさを感じられてしまうかもしれない。

 

【装備:80/100点】ライバルと同等の装備をしっかりと備えた。

 安全運転支援システムであるホンダセンシングを全モデルで標準装備しているが、フィットに採用される歩行者事故低減ステアリングや先行車発進お知らせ機能は省かれる。ただしアダプティブクルーズコントロールは渋滞追従機能付きとなる。つまり、これまでの30km/h以下で追従機能がキャンセルされずに停止まで行えるようになったわけだ。ただし6MT車には渋滞追従機能がつかない。またハッチバックはガソリンがハイオク指定となるので注意。

【使い勝手:80/100点】あくまでも標準的な使い勝手。

 セダンとハッチバックというベーシックなモデルだけに、他のハイト系ワゴンやミニバンのような驚く便利装備は見当たらない。その意味では標準的な内容といえる。もっとも余計な新機構がない分シンプルで良い、ともいえるわけだが。また使い勝手というか取り回しに関しては、これまでのシビックよりも大きくなっているために、ちょっとイメージと違うと感じる人もいるかも。この辺りは実際に試乗しての確認がマストだ。

【価格:75/100点】ライバルと比べるとやや割高感あり。

 セダンは265万320円、ハッチバックは280万440円と、ライバルであるアクセラやインプレッサと比べると割高感が否めない。特にハッチバックの方は、アクセラでは1.5Lのディーゼルモデルも買えるし、インプレッサでは2.0Lの上級モデルを買ってもまだ20万円安い。実際に走ってみると、アクセラとインプレッサを存分に脅かす実力を持っているが、価格的にはちと厳しいのが実際だろう。

【まとめ:79/100点】このクラスにおいて、ホンダならではの居場所を見つけられるか?

 7年ぶりの日本市場での復活であり、かつてのホンダの代名詞でもあるクルマだけに、再導入に際しては何か我々にグッとくるものを提案するかと思われたシビックだが、残念ながらそういう演出はなかった。ライバルであるマツダのアクセラやスバルのインプレッサを見ていると、いまやクルマそのものが良い仕上がりなのは当たり前で、その上で独自の立ち位置をしっかりと表明しているのがイマドキのクルマである。例えばマツダは魂動デザインを謳い、デザインで世界とも太刀打ちできる領域に達した。加えてディーゼルなどで独自性を見せつつ、キャンペーンでは走りを主張する。一方でインプレッサは独自の水平対向4気筒エンジンやAWDというメカの部分での優位性を謳いつつ、最近のお家芸であるアイサイトで安全性において日本市場をリードしている。また安心と愉しさという言葉で、ライフに寄り添う商品をイメージさせる。

 そうした中にあってシビックは、イメージ主導のCMが流れる程度に終始しており、これがかつてのホンダの代名詞かと思うと少し寂しくなるのが本音だ。シビックはむしろ、アクセラやインプレッサよりも、日本人の生活に長く根ざしてきたクルマでもある。そうしたつながりに対して何も物言わないのは、果たしてそれがホンダの意思なのか、それともそもそもそうした思いはないのか…とも感じる。

 もっともそれは筆者の愚痴としても、シビックはアクセラやインプレッサが存在感を主張するこのクラスにおいて、自身の得意とするものをもって居場所を確保する必要が早急にあると思うのだ。なぜなら現状では、クルマの出来そのものが良いのに、提案性が薄く、主張するものが感じられない。その上でライバルよりも価格が高い…とあっては、だいぶ厳しいのではないか? と思うのだが、現在の状況はむしろ逆だ。

 先日の発表では月販目標の約6倍にあたる1万2000台を受注している状況で、タイプRは来年8月にならないと納車できないという。ちなみに内訳はセダンとハッチバックが半々であり、ハッチバックの約35%が6MTモデルだという。ちなみにハッチバックも納車は来年4月という人気ぶりである。

 しかし、発売から時間が経ってどのように推移していくか? そこをウォッチしていく必要があるだろう。

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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