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ハイブリッド、デザイン、運転支援の三拍子が揃って追撃準備万端!のホンダ・ステップワゴン

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

ついにハイブリッド・モデルを用意

 ホンダの主力ミニバンであるステップワゴン(リンク先はホンダ・ステップワゴンのWebページ)に、ついにハイブリッド搭載モデルが加わった。現行モデルが登場したのは2015年のこと2年を経て、ようやくハイブリッド・モデルが用意された、ともいえる。

 なぜならこのクラスは今や、ハイブリッドが当たり前になっている。最大のライバルでありクラストップに位置するトヨタのノア/ヴォクシーは、2014年の登場時点で既にハイブリッドを用意(他にガソリン・モデルもあり)しており、当時ダウンサイジングコンセプトの1.5Lターボのみで登場した後発のステップワゴンに負けない販売力を誇っていた。

 さらに2016年には日産が新型セレナを投入。セレナも当然のようにハイブリッド・モデルを用意(他にガソリン・モデルもあり)していたわけだ。つまりホンダ・ステップワゴンは登場から1年が経った時点で既に、1.5Lターボのみというラインナップによって苦戦を強いられることとなった。事実、ホンダのステップワゴン担当者も「これまでハイブリッドがなかったことで、選択肢の中に入らなかった」と語っていた。登場から2年が経過してからのハイブリッド投入に関しては、「我々としても早く導入したいという思いはあったが、やはり物事の順番があり、すぐに投入ができなかった」という思いを滲ませた。

 実際に、このマイナーチェンジ直前の9月こそ、約4800台を販売したものの、それでもノアの約6400台、ヴォクシーの約7700台、セレナの約8100台からすると水をあけられている状況。さらに比較的好調だった9月前の7〜8月は、3000台を下回る状況でもあった。ちなみにマイチェン前のステップワゴンの月販目標は5000台だったので、最近は目標未達だったことがわかる。そしてこの2年間での販売台数11万台という数字も、ホンダ的には納得のいかないものだったはずだ。

 しかも、2016年に登場した日産セレナがこのクラスに大きなインパクトを与えたのは、「プロパイロット」という同一車線自動運転と日産が呼ぶ、運転支援システムを備えてきたことだった。もちろんホンダ・ステップワゴンも2015年登場時に、HondaSensingと呼ばれる運転支援システムを備えていたものの、ステアリング制御や全車速対応(完全停止まで対応する)の追従機能は備えていなかったこともあって、直接的に比較される俎上にはのらなかったといえる。事実、トヨタのノア・ヴォクシーも2016年の一部改良でトヨタ・セーフティセンスCと呼ばれる運転支援システムを採用したものの、前走車を追従して自動でアクセル/ブレーキを操作するACC(アダプティブクルーズコントロール)は備えておらず、セレナのプロパイロットには機能的に大きく水を開けられた状況だった。

 そうしてこのクラスでは、長年に渡って王者に君臨していたトヨタのヴォクシー(およびノア)が、セレナにその座を明け渡すという事態にまで状況が変わったのだった。そしてこれは運転支援システムの性能云々ではなく、賛否こそあるものの「わかりやすく伝えた」日産の勝利ともいえるだろう。最近では、スバルがアイサイトによって人気を得ているが、こうした状況をみても、現在のユーザーニーズは「燃費よりも安全」という傾向にあるのも事実。実際にスバルには現在ハイブリッドを搭載するモデルが存在しないが、各モデルの販売が好調なことからも、最近のユーザーがいかに安全を重視して購入しているか、という風にも見ることができる。

 そうして歴史を振り返ると、現行ステップワゴンはまず登場時にライバルで当たり前だったハイブリッドがない弱みがあり、その後はセレナに安全で先んじられた…という状況だったのである。そしてこのクラスのミニバンとしては、日産、トヨタに次ぐ位置に甘んじたわけだ。

 また同時に、このクラスのミニバンに関しては、実はデザインが極めて重要視されている背景があり、ここに関してもステップワゴンはやや弱かったといえる。実際に、このクラスのミニバンで重要視されているデザインというのは、特に顔つきに関して。要は押しの強い、迫力のある顔つきであることが重要なのだ。さらにこのクラスのミニバンの顔つきにはトレンドが確実にあり、それはこのクラスだけでなく上級クラスのトヨタ・アルファードやヴェルファイヤなどでも顕著である。

 最近のデザイン・トレンドは、まず大きなグリルを備えた上で、メッキ処理がなされていること。グリルはデカいほど良く、メッキされる範囲も広い方が良い。そしてヘッドライトは、上下に二分割されたような形状が流行している。実際にトヨタ・ヴォクシーと日産セレナの写真を下に掲載するが、まさにここで説明した通りであることが良く分かるはずだ。

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 さらにポイントなのは、フロントとリアのバンパーおよびボディサイド、そしてテールゲートなどにエアロパーツが与えられていること。さらになるべく大きなサイズのタイヤ&アルミホイールを備えていること、である。これも写真を見ていただければ分かりやすい。要はこのクラス、いや日本のミニバンにおいては”イカつい”ことが人気や販売台数を確保するための絶対条件なのである。

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 そんな風にこのクラスのミニバンに求められるデザインをトヨタと日産はよく理解している。そうした証といえるのが、トヨタがヴォクシーにおいて「煌」(きらめき)、日産がセレナにおいて「ハイウェイスター」と呼ばれるモデルを用意すること。これらはノーマルモデルよりもさらに押しの強い顔つきとギラギラしたグリルを備え、エアロパーツでスポーティな装いを作り上げている。そして実際にこれらが、全モデルの中においても半数以上の割合で売れるという状況になっている。

 そうした視点で見ると、これまでのステップワゴンは存在感が弱かった。ミニバンの中では独自の爽やかな雰囲気で、楽しいファミリー向けな感じを醸し出していたが、それではライバルの中で埋没したのも事実。ただしそんなステップワゴンにも、やはりスポーティな装いのモデルである「SPADA」が用意されており、担当者いわく「無視することのできないモデル」だという。事実、数字で見ても既に2005年に登場した先々代モデルからその傾向は見られ、先々代モデルで約50%の方がSPADAを選んだ。そして2009年に登場した先代モデルでは約60%の方が、モデル末期では70%がSPADAを選んだという。そして現行モデルは約70%以上がSPADAを選び、現在は約80%の方がSPADAを選ぶという状況になっている。

 というわけで今回のステップワゴンはここまで記してきたことの全てを投入したのである。

 まずハイブリッドを用意。しかもこれはノア・ヴォクシー、セレナを圧倒する性能の2.0Lエンジン+モーターとして、システム最高出力215ps、最大トルク315Nmという3.5L級の性能を与えてきた。そして燃費もリッター25kmとライバル以上の優れた数値を実現するとともに、まだライバルが表示していない世界基準の燃費モードであるWLTCモードでの燃費値リッター20kmを併記した。

 

 加えてセレナに負けないような、全車速対応のACCを備えたのがポイント。これによって高速の渋滞時には前走車が完全停止した場合に、自車も完全停止まで行うようになった。合わせて60km/h以上では、ステアリングのアシストも行うことで、車線内に自車を維持するレーンキープアシストも備えている。

 そしてデザイン。ご覧になっていただいてわかるように、SPADAはかなり押しの強い顔つきでライバルと勝負することになったわけだ。またラインナップ的にも、ノーマルモデルは残ってはいるものの、ハイブリッド/ガソリンターボともに、SPADAがメインモデルという位置付けに変更されている点も見逃せない変化だといえる。

 実際に走った印象は動画を参照していただくとして、ステップワゴンはこうしてライバルに対する追撃準備が整った。そして既に受注も好調に推移していることからも、1ヶ月後の販売台数がどれほどになるか注目だといえる。

 またステップワゴンのこうした動きに対して、ライバルがどのように進化するかも注目といえる。トヨタのノア/ヴォクシーとしては運転支援システムの進化が求められているし、日産セレナは燃費性能の向上が求められている。

 ミニバンというと、どうしても実用性の高さばかりに注目が集まりがちだが、実はその進化とライバルとの競争に関しては実に熾烈なカテゴリーであり、ここにどんな技術やアイデアが導入されるかに関しては意外に熱いことになっているのである。

 それはさておき、今回のステップワゴンのマイナーチェンジ。当初のコンセプトを大きく変えたことは間違いないだろう。果たしてそうした姿勢をして、ブレたと取るか、はたまた勝負のためなら柔軟に変化すると取るかは難しいところである。

ホンダ・ステップワゴンのWebページ→ http://www.honda.co.jp/STEPWGN/

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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