速いがカッコいいは昔の話。大人のためのライディングスクール体験

「昔は速い人がカッコ良かった。しかし現在では、上手い人が素敵。そんな時代なんです」

元二輪GPライダーの宮城光さんはまず、そんな風に話し始めた。11月23日に埼玉県にある交通教育センター・レインボー埼玉で開催された、ホンダ・モーターサイクル・ジャパン主催の「ナイスミドルのためのスマートライディングスクール」の冒頭の挨拶だった。

インストラクターは元二輪GPライダーの宮城光さん
インストラクターは元二輪GPライダーの宮城光さん

このスクールは、40~60歳代の普通二輪または大型二輪免許を保有しているホンダ・オーナーの方が対象。そして「若かりし日の想いを胸に、バイクライフをスタートさせた方、あるいは再開させた方」「スムーズで美しいライディング、大人のバイクライフを求める方」という風にパンフレットには明記されている。

内容は、ブレーキング、パイロンスラローム、コーナリングブレーキ、コーススラロームと、基本的なものが中心となる。腕に覚えのある方にとっては物足りないとも思われるが、実際に講習を受けてみるとこれが実に納得のものだった。

同世代の元二輪GPライダー宮城さんもまた、加齢とともに運転に必要な認知・判断・操作が衰えてきていると言う。ましてや我々のような一般の中高年ライダーならばなおさらが。だからこそ、基本的な技術を向上することによって、安全でスマートなライディングを実践する、というのがこのスクールの趣旨だ。

実際の講習も中高年向けらしく、実際のテクニックと理論を分かりやすく組み合わせて丁寧に行われる。例えばブレーキングは、動体視力の限界と判断力の認知を確認しながら行われる。前方にある赤信号が点灯したらブレーキをかけて停車し、あとで自分がブレーキをかけたところ(=信号が点灯した場所)と止まった場所を確認する。すると実際に信号が点灯した時よりも、少し先でブレーキをかけていることがわかる。つまり、認知・判断・操作という運転の一連の動作に少しづつ時間がかかっており、瞬時に反応したつもりでも実際には相当に遅れが出ていることを痛感する。

前方の信号が点灯したらブレーキ。実際の認知・判断・操作は遅れがちだ。
前方の信号が点灯したらブレーキ。実際の認知・判断・操作は遅れがちだ。

筆者は2年前に普通二輪と大型免許を取得したので、いわゆるリターンライダーではない。そのため、40歳を超えてオートバイを扱うことは当初からしんどいものだった。自動車は手足で操作すれば動くが、オートバイの場合は身体を使ってマシンと一体になって走る必要がある。それ自体が、身体に堪える行為でもある。

ただリターンされた方の中には、若い時の記憶でオートバイを動かそうとして思い通りに御せず、事故を起こす場合が多いのだという。そうしたことを防ぐ意味でも、今回のようなスクールで基本をもう一度まなぶことが大切だ。

事実、講習では狭い場所でのUターンを延々行うメニューがあったのだが、10分もたたないうちにクラッチを握る手は震えだし、極低速でバランスを取りながらUターンをしようとするものの、堪えきれずにオートバイを倒してしまう…というシーンも頻発していた。要はそれだけ、我々も疲れやすくなっている。そうした現在の自分自身の腕を知る、という意味でも、とてもためになる講習だった。

特に中高年になると、ある程度時間とお金を使うゆとりが生まれる。そうした時に、昔からの想いで乗り物を趣味とする方は多いだろう。人によっては昔良く乗った自転車を、またある人は新たにオートバイを、という流れは筆者の周りにも多い(筆者自身そうだ)。ただ、そうした時に自身の身体の変化と、技術の関係を改めて知っておくことはとても大切だと思える。趣味を楽しむためには、ある程度の技術と自身の認知が求められる。そうしたことを、今回のスクールは教えてくれた。

講習終了後の、宮城さんのひと言が印象的だった。

「オートバイは大人の乗り物なんです」

つまり、若い時は勢いだけで乗れたし速かったかもしれない。しかし、年を取ってからは技術とゆとりがなければ乗れない、ということ。またこれまで長く乗ってきて、酸いも甘いも経験してきたからこそ、かつての速い=カッコいいという概念を捨てて、上手いのが素敵という考え方で、周りに気遣って安全に楽しむということ。それはまさに、大人でなければ体現できない乗り物との付き合い方だといえる。

ナイスミドルのためのスマートライディングスクールは、来年度も開催を予定しているという。