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先進だが古典的サウンドに酔いしれる。アウディのスポーツカー、新型R8を試す。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

2代目となったアウディのミッドシップスポーツカー「R8」がユニークなのは、そこかしこ先進技術に彩られたモデルでありながらも、20世紀から変わらぬ価値観であるエンジンの気持ちよさを徹底的に追求しているところだろう。

R8は先代モデルから、ASF(アウディ・スペース・フレーム)と呼ばれるアルミのスペースフレーム構造をボディに採用してういるが、今回はさらにボディの一部にカーボンを融合したハイブリッド構造へと進化した辺りに先進を感じる。

またコックピットに着くと驚くのが、目の前にフル液晶のメーターパネルが展開されること。「アウディ・バーチャルコクピット」と呼ばれるこの機構によって、通常走行時は画面中央にナビゲーションシステムの画面を映し出し、スピードメーター等は傍に小さく表示する。そしてスポーツモードに切り替えた時には、タコメーターやスピードメーターが大きく表示されるなど、用途に応じて表示を変えることができるという先進性を発揮する。

そして以前から採用するアウディ・ドライブセレクトという機能も踏襲しており、これはボタンひとつでハンドルの重さやアクセルを踏んだ時のエンジンの反応の鋭さ、サスペンションの固さ柔らかさを調整してくれて、好みや状況に応じた乗り味走り味を作り出すことも可能だ。

またR8は先代から同社のコア技術であるクワトロと呼ばれる4WDシステムを採用しているのが特徴だが、その機構も今回は電子制御化されることで走行状況に応じて前輪や後輪へと力のかかり具合を加減することで、悪天候やスポーツドライビング時など、過酷な環境下で最大の運動性能を発揮するような仕組みとされている。

今回の新型では、ハンドルにエンジンのスターターボタンが設置されることから始まり、レーシングカーのようにボタンを多く備えることで、ドライビング特性を変更することもできる。

まさに21世紀に相応しいスポーツカー、と記せるだけの内容に溢れた1台だが、実際に走らせて強く感じるのは古典的なクルマの魅力だったりする。それが何かというと、エンジンの気持ちよさ、だ。

以前のR8は4.2LのV8エンジンと、5.2LのV8エンジンを搭載していた。どちらもターボやスーパーチャージャーといった過給器が与えられない、いわゆる自然吸気式だった。が、最近はスポーツカーの世界でもターボやスーパーチャージャーといった過給器を与えたエンジンが主流になってきた。なぜならばエンジンにターボやスーパーチャージャーを与えれば、以前よりも小さな排気量で同等以上の出力を得ることができるし、同時に年々厳しくなる燃費や環境性能も対応できる。

そうした背景から、新型R8も過給器付きの新エンジンを搭載する…と思われたが、フタを開けてみると自然吸気のエンジンが搭載されていた。しかも先代はV8とV10の2種類だったが、今回は5.2LのV10のみ。そしてそのV10で通常の540ps版と、plusというグレードで610ps版の2種類の出力を用意したのだった。

スーパースポーツの世界で500ps、600psは当たり前の世界。だが先述したように、そうした数値はターボやスーパーチャージャー(あるいはモーターの力を加えて)で実現されるものがほとんどだ。しかしR8は今回も、それほどの大出力を自然吸気で実現していた。

だから当然燃費的には不利になるはずだが、アルミを使った軽量ボディの採用や、エンジンに負荷がかからない領域で出力を絞って燃費に貢献する気筒休止技術やアイドリングストップ等を様々に採用した結果、610psを発揮するにもかかわらずリッター8kmを実現し、540ps版ではリッター8.7kmを達成している。もっともこれも最近の燃費としては決して良いとは言えない数値だが、その出力からするとガンバっているといえるだろう。

ただ、そうした細かな話はアクセルを踏んだ瞬間に後方に吹き飛んでいく。動画でも確認できるように、アクセルを踏み込むとクルマ好きの心を鷲掴みにするような排気音が奏でられる。最近のスーパースポーツでは車内に与えたスピーカーで、エンジンサウンドを増幅して聞かせるものも多いが、R8はまさにエンジンそのものが生み出す排気音を加工なしで届けてくれるわけだ。

加えて自然吸気エンジンというのは、エンジンの回転もアクセルの踏み込みに対して極めて自然な反応であり、回転の上昇も過給器がついているエンジンでは味わえない燃焼感が、身体にしっかりと刻み込まれるフィーリングとして伝わってくる。そしてこれは当然過給器付きエンジンでは味わえぬもの。まさにエンターテイメント、といえるほどの自然吸気エンジンならではの世界観を存分に伝える。

ただ時代的には、燃費や環境性能がますます厳しくなってくる背景があるがゆえ、アウディのこのV10もいつ味わえなくなるかわからない。そう考えるとこのエンジンを搭載したモデルは、今だからこそ味わえる貴重な存在といえるだろう。

先進のモデルなのに、そうした側面を持ち、それ自体が大きな魅力となっているのだから面白い。

もっともアウディは今回、R8にV10のみを与えているが、この先V8エンジンを搭載するだろうと予測できる。そしてその時には、搭載されるV8エンジンはターボ等の過給器を備えたものになるだろう。事実、先代R8に搭載されていた4.2LのV8エンジンは古くなってきていたため、アウディがそれよりも時代に相応しいV8を載せたいと考えているはずだ。

そう考えるとますます、このV10搭載モデルは貴重な存在になると予測できるわけだが、だからといって今後登場するだろうV8モデルが魅力的でないわけがない。事実、欧州のブランドはスポーツカー向けのエンジンを次々に過給器を与えて高効率化しているが、それでも「気持ちよさ」に関してはかなりのこだわりを持って演出しており、こちらはこちらで自然吸気では味わえない魅力を生み出している。そう考えると今後登場するV8搭載モデルも、相当に魅力的になることは間違いないだろう。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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