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日本代表、コロンビア破り、最高のスタート!

川端康生フリーライター
(写真:ロイター/アフロ)

 勝った。命運を握ると考えられていた初戦で、難しいとみられていた相手に勝った。

 勝利と勝ち点3、そして自信と勢い。最高のスタートを日本代表が切った。

香川!

 想像外の展開になった。

 キックオフ直後、大迫がロングボールに競り勝ち、GKと1対1。シュートは阻まれたが、リバウンドを狙った香川のキックに相手が手を出した。

 PKとレッドカード。

 香川がゴールネットを揺らしたところで、日本は先制点と数的優位を手に入れた。

 このシーン、香川が素晴らしかった。まず相手のクロスを昌子がクリア。そのセカンドボールをプレッシャーを受けながらもワンタッチ(ダイレクト)で前線へ出した。背後へのボールにDFが慌てたからこそ、チャンスは広がった。

 そして大迫がイーブンボールを収め、前進。シュートは決まらなかったが、そこに再び香川が現れた。最初のタッチからおよそ50メートル。大迫が戦っている数秒間、足を止めずゴールへ向かって走った。

 一方、開始早々の(ワールドカップ初戦の開始早々の)思いがけないピンチにコロンビアは慌てた。だから辛うじて戻ってきたC・サンチェスは手が出た。

 躊躇なくボールを抱え、PKマークに立った香川は落ち着いて見えた。心が整った状態。力むことなく、静かな助走から合理的なキックで、ゴールを決めた。

まるで格上

 そこから30分間も戦前には予想できなかった展開。一人少なくなったコロンビアがブロックを下げたことでボールポゼッションは日本、同時に連動したプレスで相手の攻撃も寸断。攻守にわたって日本が優位に試合を進めたのだ。

 ここでも香川は効いていた。持ち味のドリブルでスペースを突き、チャンスを作る。守備でも中央から相手を外側(サイド)へ追い込み、乾や原口とはさみ込んでコロンビアの攻撃を早い段階で封じた。

 危ないシーンもなかったわけではない。2回か、3回。中盤のキンテロのテクニカルなパスを、前線のファルカオがアクロバティックに狙ったシーン。

 ただし、いずれもコロンビアの個人の力による、かなり強引なもの。確率が高いとはいえず、圧力を感じるようなピンチではなかった。

 1点をリードし、一人多いアドバンテージを生かしてボールを保持し、ブロックの外側とはいえパスを回し、失ってもすぐに取り返し……その姿は、まるで格上チームのようだった。

同点ゴールに揺れた

 空気が一変したのは38分だった。FKから同点ゴール。キンテロの左足から放たれたグランダーは、日本の壁の足元をすり抜け、ゴールマウス左隅に転がり込んだ。

 コロンビアにチャンスはほとんどなかった。少なくとも流れの中で、日本が失点しそうな綻びはまったくなかった。

 しかし、そこは南米の強豪である。巧みに倒れてファウルを奪った。そしてセットプレーで同点に追いついた。

 これで日本代表が揺らいだ。希望と不安を抱えて臨んだゲームで、立ち上がりに先制点と数的優位を獲得し、不安が消えた分の自信を漲らせ、圧倒的に優勢に試合を進めていた。もしかしたら「勝てる」という気持ちも芽生え始めていたかもしれない。

 だからこそ、追いつかれて裏返った。選手たちの心の揺れが目に見えるほど、ピッチの空気が変わった。

 その意味で、ハーフタイムを間もなく迎えられたのは大きかった。前半終了のホイッスルは、ボクシングのゴングのようだった。

 そしてインターバルの後、リングに戻った選手たちは、再び平常心を取り戻していた。

大迫、勝ち越しゴール

 後半は、前半よりもさらに日本がボールを保持し続けた。ほとんどハーフコートゲームのような時間帯もあった。

 フリーでプレーできるミドルサードから柴崎がスルーパスを繰り出した。しかし、ゴールが生まれそうなチャンスはなかなか作れなかった。

 日本が失点することは考えにくい展開。しかし、日本が得点できそうな気配もほとんど漂わなかった。

 そんな状況をさらに明確にしたのはハメス・ロドリゲスの投入だった。

 明らかに鈍かった。キレがない、というレベルではなく、鈍くて重い。4年前、日本のDFを弄んだパフォーマンスはとても望めないコンディションに見えた。

 登場直後こそ存在感を醸し出していたものの、ダッシュをすることはなく、前線でジョグを繰り返すのみの彼が起用されたことで、日本の数的優位は事実上2人になったような印象だった。

 攻めあぐんでいた日本は、後半になってボールタッチが減っていた香川に代えて、本田を投入。そして28分、勝ち越しゴールを挙げる。

 右サイドから作ったチャンスで得たコーナーキック。黄色いDFに囲まれた中で大迫がジャンプ。競り合いながらも頭でミートし、ゴールポストぎりぎりに叩き込んだ。ドイツで鍛えた身体の強さを発揮した。

 2対1。残りは20分弱。

予定通りの選手交代

 後半30分過ぎ、本田のパスミスから攻め込まれ、コーナーキックで危ないシーンを作られた。

もっともコロンビアが南米の強国らしい攻撃力を発揮したのは、そこからの数分間だけ。あとは日本がボールをキープして時計を進める展開だった。

 柴崎が負傷したが、代わって出場した山口はもともとリードした場合に予定していた選手。大迫から岡崎のリプレイスも含めて、日本にとってはシミュレーション(それも最高のシミュレーション)通りの交代だった。

「自分たちの国」だったからドキドキしたが、他国であったらクルージングでタイムアップを迎えたと感じるような、そんなゲームの締めくくり方だった。

 2対1。想定外のPKとレッドカードがあった。そして先制点と数的優位という幸運に恵まれた。

 それでも確かに、大会の成否を決すると考えられていた初戦で白星を挙げた。それも、引き分けでも御の字とみられていた相手から勝利をつかんだ。

 日本代表は、望外の、最高のスタートを切った。

決勝トーナメントへ

 もちろん、まだ第1戦を戦い終えたばかり。初戦の重要性は言うまでもないが、まだグループリーグ突破を決めたわけではない。

 それでもやはり初戦で勝ち点3を手にしたことは大きい。リードした立場の日本は残り2試合を、勝ち点計算をしながら、戦うことができる。

 しかも、それをグループ最強と目されるチームから得たことはさらに大きい。尻に火がついたコロンビアがポーランド、セルビアを破ってくれれば、日本のアドバンテージはより大きくなるからだ。

 とにかく――このコロンビア戦の勝利で、決勝トーナメント進出のチャンスが広がったことは間違いない。

 この幸運を生かしたい。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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