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歓喜へのカウントダウン――鹿島2対1G大阪@カシマ

川端康生フリーライター

 また一歩、歓喜の瞬間に近づいた。

 残り8節で迎えたJ1第27節。ホームでガンバ大阪と対戦した鹿島アントラーズは、アディショナルタイムに植田が劇的決勝ゴール。2対1で勝利を飾ると同時に、勝ち点3を積み上げ、2位との勝ち点差を「8」に広げた。

先制点はG大阪だった

 先制点を奪ったのはG大阪だった。

 7分、鹿島のフリーキックをキャッチしたGK東口が大きくパントキック。これを前線でキープしたファン・ウィジョが、昌子を背負いながら振り向きざまに右足を一閃。これがニアサイドのゴールマウスを捉え(想定外のシュートに曽ケ端は虚を突かれたかもしれない)、G大阪が先に得点を挙げた。

 早々にリードを手にできたこともあっただろう。G大阪のディフェンスは集中力が高かった。

 特にディフェンシブサードでは三浦、金、今野らが強く厳しくアプローチ。井手口、倉田、泉澤のプレスバックとも連動して、鹿島のアタッカー陣を自由にさせなかった。

 そして攻撃へのスイッチングでは、この試合、トップ下で先発した遠藤が持ち味を発揮。ボールをキープしながら時間を作っている間に、倉田、泉澤、藤春らがスペースへ飛び出し、カウンターを仕掛けた。

 前線の対照的なペアリング――遠藤の戦術眼とファンの強引さは、少なくとも前半はG大阪にとって有効に、鹿島にとっては厄介な存在として機能しているように見えた。

 当然、中盤の選手は辛いフィットネスを強いられることになるが、気温20℃(もっと涼しく感じられた)という気候条件のよさがG大阪に味方する可能性もこの時点では十分あった。

 G大阪を主語で語るならば、前半終了間際に追いつかれたのが痛かった。リードしているかどうかは、この手の戦いでは肉体的にも精神的にも大きな違いがあるからだ。

 しかも決定的なピンチではなかった。しかし、ボールを持ち出そうとした中村の足に泉澤の足がかかった瞬間、主審は躊躇なくPKマークを指さしていた。

 金崎のPKは一旦は東口が弾き返した。だが、レアンドロに押し込まれた。

 1対1の同点。45+3分だった。

土壇場で劇的ゴール

 後半はかなり一方的なゲームになった。鹿島が一方的に敵陣で試合を進め、チャンスを作り続けるようになったのである。

 一因はG大阪の運動量が落ちたこと。ミッドウィークに天皇杯があったこともあり、中二日での試合(しかもG大阪は敗退)。両チームともメンバーを入れ替えて臨んだ一戦だったが、この後半、G大阪の特にアジリティは目に見えて落ちた。同点に追いつかれたこともあり、気候的ボーナスは連戦疲労のオーナス(デメリット)に飲み込まれてしまったのである。

 一方、鹿島は攻撃の幅が広くなった。サイドでの崩しが多くなり、ディフェンスの先手をとるシーンがどんどん増えた。

 特に右サイドは活況だった。レオシルバのスルーパスでDFの裏に抜けて西が決定機を作り、中村に代って投入された安部が持ち前のボールテクニックやクイックネスでアクセントとなる。

 さらに伊東を入れて、ボランチに下がった西も含めて、再三チャンスを生み出し続けた。

 後半だけでシュート15本(G大阪は4本)。その中にはサポーターがガッツポーズを作りかけ(結果的にのけぞることになる)シュートが少なくとも4、5本はあった。

 それでも、金崎のシュートはバーを越え、レオシルバやレアンドロのシュートはポストをかすめ、ゴールネットは揺れないまま。

 一方的に攻めているチームが得点を挙げられず、逆に守勢の側がワンチャンスをモノにして……そんなサッカーでは“ありがちな結末”さえ頭をよぎる展開だったのだ。

 だが、そこは鹿島アントラーズ。そんな心配は杞憂だった。

 終了間際のコーナーキック。永木の鋭いボールはゴールから離れたポジションへ。ジャストミードしたのは植田の頭だった。何度かのけぞってきたサポーターが、ガッツポーズとともに跳ねる。ゴール。劇的な決勝弾。

 鹿島の選手たちがベンチ前で、ぎゅっと固まって喜びを爆発させている。ゴール前ではG大阪のイレブンが倒れこんだり、立ち尽くしたり。

 90+2分だった。2対1。やはり土壇場で勝利を手にしたのは鹿島だった。

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歓喜へのカウントダウン

 それにしても勝負強い。試合のラスト15分での得点の多さと失点の少なさは断トツでリーグトップ。負け試合を引き分けに持ち込み、同点で終わりそうなゲームを勝ち切ってしまう。

 この一戦では2得点とも前後半のアディショナルタイムでもぎ取った。サポーターにすれば「もっと早く安心させてくれよぉ」という面もあるかもしれないが、ドラマチックなゴールの興奮はやはり魅力的。この夜もカシマスタジアムは、まさしく「ドリームボックス」と化した。

 しかも、その演出の一端をサポーターが確実に担っている。

 決勝点の少し前、攻めても攻めても勝ち越しゴールが奪えず、記者席のライターが「こういう試合は……」なんて思い浮かべ、残り時間がどんどんなくなっていき……。

 土居が両手を振りかざしてサポーターを鼓舞したのはそんな最中だった。これを機にすでに高かったスタンドのヴォルテージがさらに一段上がる。ゴール裏から塊になって発されたエネルギーが選手に乗り移り、ピッチのアグレッシブさもワンランク上がり、そして決勝ゴールは生まれたのだ。

「得点する前の、サポーターのみなさんが作ってくれた雰囲気と、得点した後のチームの一体感に感動した」

 試合後、大岩監督はそう口にした。“感動インフレーション”の昨今、この手のフレーズに共鳴できることは多くないが、このコメントには素直にうなずけた。少なくともこの夜のカシマスタジアムには、感動に値する雰囲気と一体感が、確かにあった。

 これでリーグ戦5連勝。ホームに限れば7連勝。もぎ取ってきた勝ち点は「61」に達した。

 しかも川崎フロンターレが敗れたことで、2位との勝ち点差も「8」に広がった。残りは7節。しかもしかも川崎と同勝ち点の3位柏レイソルは直接対決(潰し合い)を残しており……。

 歓喜へのカウントダウンは、すでに始まっている。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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