いわきFC、天皇杯福島県代表に

驚きはなかった

いわきFCが福島ユナイテッドに勝った。

あるいは、県リーグのいわきFCが、J3の福島ユナイテッドを破った。

“番狂わせ”を強調するなら後者の書き出しに「!」を添えるところだが、実はそれほどの驚きはない。

両者の間に、それほどの実力差がないことは戦前からわかっていたからだ。

たとえば昨年のこの大会。同じカードで行なわれた決勝はユナイテッドが制した(2対1)。

しかし延長戦だった。それも最後の最後までもつれた大接戦。どちらが勝ってもおかしくないゲームだった。

だから、どちらに転ぶかわからない、そう思いながら福島に来たのだった。

いわきFCのフィジカル

「結果」は予想の範囲内だったが、「内容」はむしろ期待以上。面白い試合だった。

まずキックオフ。いわきの選手が7人か、8人、センターラインに並んでいた。

後で田村監督に尋ねたら「ローマがやってたやつ。勢いをつけようと思って」と笑っていたが、ゼーマン流の総攻撃で開戦を告げたのだ(ホイッスルと同時に全員がラッシュ。そこにGKがハイパントを放り込んだ)。

フィジカルとフィットネスで前へ。アスリート志向のいわきらしい火蓋の切り方だった。

先制点は17分。

中盤で奪ったボールを、手数をかけずにゴールへ向かった。

平岡のパスが絶妙だった。強さも角度も。決めた吉田も落ち着いて、ゴール右隅に流し込んだ。

福島ユナイテッドの密集

ユナイテッドは立ち上がり、やはり「受けて」しまったかもしれない。それでも時間の経過とともに主導権を取り戻した。

失点こそしたものの、敵陣でボールを保持し続ける時間帯は短くなかった。狭いエリアに2人、3人とポジションをとり、局面でのグループ戦術でボールを動かしながらチャンスを伺った。

選手間の距離が近いから、短いパスを立て続けにつなぐことができ、相手に引っかかってもセカンドボールを拾って、またすぐに攻撃を繰り返した。

田坂監督が「密集型」と呼ぶ戦い方だ(こちらのモデルはドイツのシュミット監督)。

J3では開幕から4連勝中。この試合でもその片鱗は垣間見えた。何よりスタイルがはっきりしていることで、チームのベクトルが一致しているように見えた。

そう、スタイルだ。両チームとも鮮明なスタイルを持ち、しかも、それが対照的。だから見応えがあったのだ。

もちろんスタイルがそのままピッチでのパフォーマンスにつながっていたとは言わない。

フィジカルとフィットネスを誇るいわきだが、前半の途中からほどんと前に出られなくなった(向かい風に行く手を遮られた面もあった)。

そのせいでユナイテッドに押し込まれることになってしまったのだが、そのユナイテッドもボールは動かすものの、効果的な崩しにはつながらず……。

それでも、やろうとしているサッカーは見えた。だから面白かった。

前半に関しては、リードされてはいたが、シュート8本を放ったユナイテッドがやや優勢だったか。対して、いわきのシュートは、なんと1本のみ。吉田のゴールはまさしく値千金の一発だったのである。

最後まで落ちなかった

サイドが入れ替わった後半、風上に立ったいわきが息を吹き返したのは予想通り。しかし、前半あれほどコレクティブにこだわっているように見えたユナイテッドが、立ち上がりからロングボールを蹴り始めたのには少し首を傾げた。

結果論ではあるが、あのまま丁寧なサッカーをやり続けた方が、相手は嫌だったと思う。確かに何度かチャンスは作ったが、ゴール前に選手が足りず、ネットを揺らす確率は下がってしまった気がする。リードを許したことで焦りが出たか。

一方、いわきは時間とともに元気になった。

63分にフリーキックから平岡が追加点。これで勝利はほぼ手中に収めたと言っていい。それでも前進する姿勢は変わらなかった。

しかも、終盤の厳しい時間帯になっても、「日本のフィジカルスタンダードを変える」――のキャッチフレーズ通り、運動量もストレングスも落ちなかった。フィジカルの余裕が、メンタルのテンションも維持していた(むしろ上がったかもしれない)。

そういえば、その厳しい時間帯に交代出場した片山は今日も持ち味を発揮した。わずか15分でシュート4本。GKの好捕に遭ってスコアすることはできなかったが、スピードがあって、アジリティが高く、ドリブルが好きで(たぶん)、ゴールの意欲も強い。

「今日も」というのは、昨年から何度か見たが、いつも目につくからだ。ストロングポイントがはっきりしていることは、それ自体が魅力である。特にこれからファンを増やしていく新しいチームにあって彼のようなプレースタイルは効果的だと思う。ますます目立ってほしい選手だ。

ライバル出現効果

結局、2対0でゲームは終わった。ゴールはカウンターとセットプレーから。勝敗を分ける典型的な形でゴールが生まれ、得点したいわきが勝ち、失点したユナイテッドが負けた。

その意味でも、やはり“番狂わせ”感はない。実力の拮抗したチーム同士が対戦した結果。振り返ってみてもそう思う。

とはいえ、ユナイテッドはやはり“居心地”が悪いだろう。練習試合などを通じて実力差がないことは誰よりも選手たちが知っていたに違いないが、「J」の看板を背負っている分、負けてしまえば格好がつかない。

おまけにNHKでの中継もあった。もしかしたら屈辱感も芽生えているかもしれない。

でも、それでいいのだと思う。これまで9年連続この大会を勝ってきた。福島県内では無敵だった。しかし、それでもJ3である。ステージを上げるにはリベンジを果たしたいライバルがいた方がいい。福島県全体のレベルアップという点でも、いわきFCの登場は歓迎すべきことだろう。

さらに言えば、ユナイテッドは現在そのJ3で首位である。しかし、このままシーズンを進めていってもJ2には上がれない。ライセンスがないからだ。

以前にも書いたが、スタジアムを含め、クラブを取り巻く環境を変えるには地域の協力が不可欠だ。「浜通り」に出現した新たなライバルの台頭は、もしかしたらそのきっかけになるかもしれない。

とにかく、無風だった福島県サッカー界に吹き込んだ新たな風、いわきFCのインパクトは小さくないのだ。

いわき市といわきFC

そのいわきFC。

県リーグ2部からスタートした昨年は、大勝(半分は二桁得点)の連続(当然、全勝)。今年は県リーグ1部で戦うが、言うまでもなく実体はそのレベルではない。

ちなみに昨年、県リーグと並行して戦った全国クラブ選手権もあっさり優勝。全社(社会人選手権)の地区予選では東北リーグ1部のコバルトーレ女川を下し、全国大会に出場。練習試合では水戸や山形、群馬といったJ2勢からも白星を挙げた。

実力的には控えめに言って東北リーグ1部、あるいはJFL程度とみていいだろう。これも前に書いたが、JFLとJ3は、実は競技力ではなく、「ライセンス」の有無での線引き、という僕の感覚からすれば、いわきFCは少なくともJ3レベルの実力は備えているということになる。

来年は東北リーグ2部、再来年は東北リーグ1部、その翌年はJFL……といったあたりまではほぼ確実(もちろん“飛び級”する可能性だってある)。

ただ、そこから先はやはり「ライセンス」というハードルを越えなければならなくなる。ユナイテッドと同じ立場と状況になるわけだ。

もっとも昨年旗揚げ時点では懸念されていた行政との関係も、この1年ですっかり深化。いまや町作りの大きなファクターとして位置づけられようとしているとも聞く(そういえば、この日もいわき市長が観戦に訪れていた)。

スタジアム構想が具体的に動き出せば、いわきFCのステップアップもさらに加速することになる。それはもちろん、いわき市にとっても大きな一歩になるだろう。

すでに(まだ県リーグというのに)サポーターもいる。ちょうど1年前、旗揚げ初戦では見られなかった組織的な応援も、この日のスタンドにはあった。ビッグフラッグが振られ、横断幕が並び……という光景はJリーグのそれと何ら変わらない。慣れていないからこその初々しさも含めて、好感度はかなり高い。

そういえば、その初陣のときに出会った観客が「やっぱり自分の町の名前で応援できるのは最高です」と本当に嬉しそうに話していたのが忘れられない。それまでは鹿島アントラーズやホープスを応援していたと言っていた。でも、これからは「いわき」と歌える。彼と同じ幸せを感じている人が1年で随分増えた。これからも増える。

クラブができて、市民が笑顔になる。そのムーブメントを役所が市政に取り入れる。

わずか1年眺めてきただけだが、そのスピード感はこれまでに経験がないほど速い。この先、それも遠くない未来に……の続きへの期待感は訪れるたびに膨らんでいく。

いわきに惹かれる理由

念のため。福島に疎い人のために簡単に説明しておけば、いわき市は福島県沿岸部、いわゆる「浜通り」にある。「中通り」にある県庁所在地の福島市とは120キロくらい離れている。東京から120キロといえば、西へ向かえば伊豆、東なら犬吠埼(銚子)あたりである。

しかも、浜通りと中通りの間には阿武隈山系まである。だから同じ福島県とはいえ、気候も違う。当然、文化も風土も違う。

震災後、「福島」と一言で口にする人が多いが、福島県は広いのだ。あえて言うなら、地震と津波と原発。3つの被災に直面したのは「浜通り」である。

そんな浜通りの中核都市で、郡山市と並んで県内最多人口を抱える(もちろん福島市より多い)、そんな町にサッカーチームができ、そして……の続きが、これからいわき市といわきFCが紡いでいく物語というわけだ。

他にもこの物語には様々な切り口があるのだが、長くなるので今回はこの辺で。

とにかくいわきFCは興味深いのだ。サッカー的にも、スポーツ的にも、社会的にも、時代的にも(いつか改めて、ゆっくり書きます)。

最後にもう一つだけ。この試合のキックオフ。センターラインから一斉に選手が飛び出していったあのシーン。

正直に言えば、僕の頭に最初に浮かんだのはゼーマンではなく、「ショットガン」だった。

遡ること20数年前、当時59連勝中の日大フェニックスを破った伝説の法政大学トマホークス。その主将とスターQBにインタビューしたことを思い出したからだ。

この日も二人ともスタンドにいた。いわきFCの親会社、ドームの社長と専務として……。

いわきFCは僕にとって本当に興味深いのだ。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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