一関工業と盛岡大附、岩手大会ベスト4へ @花巻球場

岩手のドクターK

「いま何個目だ?」

スタンドのあちこちからそんな声が聞こえた。この日の第1試合。バックネット裏に陣取った高校野球ファンの最大のお目当ては、千厩高校の背番号「11」、千葉投手の奪三振数だったと言っていいだろう。

なんせ2回戦で5回13奪三振、3回戦で8回11奪三振。前の試合(4回戦)では延長13回で23三振を奪い、大会記録も更新。創刊140周年の地元紙「岩手日報」が1面写真付きで報じた、この夏の主役の一人なのだ。

1回表、いきなり魅せてくれる。一関工業の先頭バッター、三振。

決して上背があるわけではない。パンフレットによれば171センチ、62キロ。むしろ小柄と言っていい。

フォームもオーソドックス。力感はさほどない。それでも球は速い。ストレートは130キロ台半ばから後半。しかも速さ以上に、キレがある。だから打てない。

2番バッター、三振。

コントロールもいい。バッター方向への重心移動がスムーズで投球がブレない。キレのいいボールがコースに次々と決まっていく。テンポもいいから、打者のバッターボックス滞在時間が短いような、そんな印象さえ受ける。

3番バッター、三振。

打者のスイングを見ていると、細かく変化もしているようだ。スライダー、あるいはカットボールか。スピードがそれほど変わらないから、これは厄介だ。

とにかく初回から三者三振。期待通りの滑り出しにスタンドが沸く。まず3個。その後もスコアブックには「K」の文字が積み重なっていき、「いま何個目?」。そんな声が飛び交い続けた。

菅原の巧投

もっとも好投していたのは千葉だけではなかった。一関工業の左腕、菅原投手も見事だった。

ちなみに3回までの千葉の投球内容は奪三振5、被安打1。これに対して菅原は三振こそ一つだけだったが、ヒットは一本も打たれていなかった。エラーによるランナーを一人出しただけで、完全に千厩打線を封じていた。

球速では千葉に軍配が上がるかもしれない。しかし、菅原はピッチングがうまかった。緩急を上手に配しながら打者のタイミングを外して打ち取っていく。当然、制球力はこちらも抜群。特に変化球のコントロールがいい。変化球でカウントを整えられるから組み立てに余裕と幅が出る。ボール球を有効に使うピッチング技術も巧みだった。

かと言って、かわしていたわけではない。打者に向かっていく闘争心も十分。相手を呑み込んでしまうような強気のピッチングでもあった。

とにかく両チームのピッチャーが好投。しかも二人とも投球間隔が短いから試合の進行も速かった。たぶん3回を終えた時点でプレイボールから30分も経ってなかったのではないか。

しかし4回、ゲームが動く。それもこのゲームを象徴するような動き方をするのだ。

4回の攻防

4回表、一関工業は1死から3番佐藤(大)が出塁。内野のエラーだった(しかも暴投で2塁まで進んだ)。

続く4番千葉(健)もまた内野ゴロ。だが、再び千厩の内野が弾いた。スタンドから溜息が漏れる。だが、溜息ではすまなかった。こぼれたボールを拾った千葉の送球が逸れて、ベンチ方向へ転々。佐藤がホームベースまで帰ってきてしまったのだ。

この回、ここまで一関工業は1本のヒットも打ってない。それなのに先制点が転がり込んだ。一方、千厩は1本のヒットも打たれていないのに連続エラーで先制点を許してしまった。

溜息を吐き終えたスタンドがざわつく。フィールドには何とも言えない曖昧な空気。千厩の選手たちに生じるエアポケット。

そこを5番佐藤(瑞)は見逃さなかった。初球、叩いた。自らも絡んだ不本意な失点からリセットできないまま千葉が投げたに見えた。打球は、この試合初めての快音を響かせて、ライトの頭上を越えていった。

これで千葉(健)がホームベースを踏み、2点目。相手のわずかなスキを狙い打った、佐藤(瑞)のまさしく痛打で、一関工業はリードを奪っただけでなく、試合の流れも引き寄せた。

その裏、千厩にもチャンスが訪れる。スコアだけでなく、流れを引き戻すチャンスでもあった。

2死から4番小山がチーム初ヒットを放つと、5番金野、6番志田も続いた。3連打である。

しかし、1点も入らなかった。3本もヒットを連ねながら得点を奪うことができなかったのだ。

結局、続く千葉がライトフライで3者残塁。2点のビハインドを背負ったままの戦いを強いられることになった。

勝敗を分けたもの

ノーヒットで先制点を奪った一関工業と、ヒットを3本放ちながら無得点に終わった千厩。言い換えれば、1本もヒットを打たれず失点した千厩と、3本打たれても失点せずにすんだ一関工業。

凝縮してしまえば、そんな対照がこの試合を象徴することになった。

そして、そんな対照を生じさせたのはディテールの、それもちょっとした違いだった。攻撃においても、走塁においても、守備においても、一関工業の方が少しずつ精緻だったのだ。だから一度つかんだ主導権を最後まで握り続けることができた。だから千厩は主導権を取り戻すことができなかった。

再び両投手の好投で膠着したまま迎えた8回、千厩は5番金野がライトスタンドに放り込んで、1点を返す。これで1対2。残す攻撃は9回のみ。それでも流れが変わる兆しもあった。

しかし、その9回、自分たちの攻撃を迎える前に失点してしまう。ボークだった。4回がそうであったように、勝敗の分岐点で痛いミスが出た。ディテールと言うにはあまりに重いプレーでモメンタムを手放してしまった。

それでも9回裏、千厩は粘りを見せた。四球とデッドボールを足がかりに1点を返し、2対3と再び1点差。なお1死1、3塁の同点機、それどころか逆転も…。

だが、セーフティスクイズが転がらなかった。ここまで重なると、千厩にとっては“そういう試合だった”と表するしかない。そういう試合だったのに最後の最後まで競りかけることができたのは、粘りというより地力だろう。

本当に地力のあるチームだったのだ。だが、勝つためのポイントをつかみ損ねた。だから勝てなかった。

千葉の奪三振は「13」だった。ボークで結果的に決勝点となる失点をした後、最後の打者もしっかり三振をとった。この大会4試合で60K。岩手高校野球史上、歴代3位の記録である。

もちろん本人に満足があるはずはない。しかし、ネット裏の高校野球ファンたちが、最後まで「いま何個目?」とそのピッチングに魅了されていたことは伝えておきたい。だからこそ、大きな拍手が送られた。もちろん、「来年が楽しみだ」、そんな思いの込もった拍手である。

盛岡大附の猛打、高田の一体感

続く第2試合は、盛岡大附の猛打が爆発。高田高校を14対0、5回コールドで下した。

盛岡大附はどの打者もスイングに迫力があった。特に3番植田、4番塩谷、5番伊藤のクリーンナップは、打球の飛び方が違った。グキッと詰まったかのような音がしても、ぐんぐん伸びていった。

3人のピッチャーを繰り出して何とかかわそうとする高田をフルスイングで圧倒した。終わってみてホームランが1本だけだったのが不思議なほどの打撃力だった。

しかも、そんな強打者たちが(一人一人ではなく)ラインナップとしてつながっていた。打線という言葉通り、一本のライン上を流れていくように長打を連ねた。

長打だけではない。盛岡大附はバントも盗塁もすべてにおいてどん欲で、全国レベルのチーム力を感じさせた。先発の左腕、三浦投手もさほど調子がよさそうには見えなかったが、ボールに勢いがあり、相手にヒットを許さなかった。

高田にチャンスがなかったわけではない。特に初回。2死満塁の好機で得点を挙げられていれば、もう少しゲームはもつれたかもしれない。

先発した千田投手は典型的な力投型でダイナミックなフォームから力のあるボールを投げ込んでいた。2回を三者凡退で抑えたときには、まさかこれほどの点差になるとは思えなかった。結果的に盛岡大附の強力打線につかまったが、ケレンミのないピッチングは好感が持てた。

また今日は三浦投手に封じられたが、4番伊藤もミートのうまい好打者だった。昨日のゲームでのバッティングは目を見張るものがあった。セカンドの守備ではこの試合でも好プレーを見せた。

付け加えるならば、応援スタンドも高田高校はすごかった。背番号をつけた20人だけでなく、スタンドで応援する部員、生徒、OBや父兄、みんなが一体となって“高校野球”を楽しんでいる姿は素晴らしかった。

野球部員はもちろん、高田高校の生徒全員にとってドラマチックで思い出に残る3日間になったに違いない。

一生モノの夏

そう、高田高校は3日連続の試合だった。一昨日の4回戦で延長15回引き分けの熱闘を演じ、昨日その再試合をコールドで勝ち、そして今日のゲームはコールドで負けた。

最後の試合がコールド負けになってしまったが、わずか3日間でこれほどの経験をできたのだ。一生モノの夏になったと思う。

付け加えるなら、それは高田高校に再試合で負けた金ケ崎高校も同じだ。やはりコールド負けで高校野球を終えることになったが、2日間で22回も戦えたのだ。間違いなく一生モノの夏だ。

金ケ崎は、試合前のノック、円陣、女子マネージャー、試合中のベンチ、ピンチに飛び出す伝令……僕が目にできたすべてが清々しく素晴らしいチームだった。誰もがチームとチームメイトのために、身体と頭をフル稼働させて役割を全うしていた。

一生モノの仲間を手に入れた夏でもあったと思う。だから僕にはハッピーエンドにさえ見えた。

岩手大会は23日に準決勝。一関工業は一関学院と、盛岡大附は専大北上と、それぞれ対戦する。

決勝戦は24日の予定だ。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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