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2014年7月の覚書――ブラジルW杯閉幕

川端康生フリーライター

順当なドイツの優勝

ドイツの優勝は順当だった。

グループリーグから決勝トーナメントまでもっとも安定して「強さ」を発揮。それもかつての「強いけれど、面白味のないサッカー」から、「現実的で、しかも魅力的なサッカー」へと変貌を遂げて、勝ち進んできた。

とにかく、よく走り、よく戦う。おまけにパスワークも流麗。

いわば「ゲルマン魂」をそのままに、どこか「バルセロナ(スペイン代表)」の匂いさえ漂うようなサッカーを披露して頂点にまで登り詰めた。

そんなサッカーを披露するための前提となるコンビネーションも、コンディションも、出場チーム中随一に見えた。

まさしく「ベストチーム」。ベストチームがナンバー1になれるとは限らないワールドカップにおいて、今回のドイツ優勝は喜ばしいことだった思う。

そのドイツと決勝で対戦したアルゼンチンは、クラシックな戦いだった。いや、トラディショナルというべきかもしれない。

この戦い方で勝ったことがある。そして、この大会を勝ち抜くために最良の戦い方を模索した結果、これに行きついた……だから守備は各試合、相手に応じて微調整を行いながら、「メッシ」に賭けた。

新しいとか、古いとか、そんな理屈より、いかに勝つか――を追求し、そして実際ファイナルまで(それも延長後半8分まで)辿り着いてしまうのだから、他国の者が口を出せる次元ではない。

それぞれの国に、それぞれの記憶があり、伝統があり、文化がある。衛星が世界中に映像を届け、インターネットが地球を一つにしても、「平準化」しきれないものがある。

前向きにも、後ろ向きにもメッシを追い越して、攻め、守るイグアインを見ながら、つくづくそう思った。

メッシ君ばかりひいきして不公平です! 僕らの国なら、そう口を尖らせる生徒が出ても不思議ではない(親も騒ぎ出しそうだ)。

けれど、彼の国では代表に選ばれるスターたちでさえそんなことは言わない。違うのである。

スアレスにしてもそうだ。僕たちの国に「スアレス」は生まれない(いい意味でも悪い意味でも)。僕らのストライカーが「スアレス」になることもない(せめてベーラミになりたい……と願うが、それも無理かも)。

僕たちは日本人の戦いをするしかないのだ。

それにしてもメッシ。その存在の「不気味さ」が相手を惑わせたことは疑いようもないが、実働時間はあまりに短かった。

その短い時間で決定的な仕事を何度もこなしてしまうのはさすがだが(だから「メッシ」なのだ)、だとしても走らなさすぎ。「MVP」にはNHKの放送席同様、僕も固まってしまった。

賛否が分かれることは承知しているが、僕自身は「ダイジェスト向きのプレーだった」と断じる。そして、何かトラブルを抱えているのではないか、と本田に対するのと同じ心配を拭えない。

日本代表の1分2敗

その本田がらしさを見せられなかった「日本代表」について。

もはや随分前の、そればかりか別の大会のことのように感じてしまうのが寂しいが、「チーム内で何が起きたのか?」と訝しくなるような立ち上がりだったコートジボアール戦で逆転負けを喫し、ギリシャと引き分け、コロンビアにも完敗して、早々に「世界」舞台から降りた。

初戦は、ともに守備力には自信がない(攻撃で相手を上回りたい)チーム同士の対戦だったにもかかわらず、キックオフから互いに何もアクションを起こさす、(どこかの国のメディアが表していた通り)「眠気を誘うゲーム」だった。

戦評的に言えば、コートジボアールの右サイドが高い位置取りをしてきたことで、日本のストロングである左サイド(香川と長友)が長所を発揮できず……ということになるのだが、そんなことよりも戦いに臨む姿勢が曖昧すぎた。

精神的な原因だとすれば、負けたのは相手ではなく(もちろんドログバでもなく)、ワールドカップに、ということになるのだろう。

とにかく後味の悪い初戦だった。

続くギリシャ戦は、相手が「守備とカウンターのチーム」だから、日本のボール支配は確実なゲームだった。実際、そういうスタッツになったのだが、だから日本が優勢だったというわけではない。

ボールを持って攻める日本が、ギリシャの守りをこじ開けられるか。逆にカウンターの餌食にならずにしのげるか。はじめからそういう展開になる対戦だったのだ。

解せなかったのは、それなのに遠藤を起用しなかったことだ。ボールを保持できる、そして相手を崩さなければいけない。ならば(守備力の山口ではなく)遠藤のパスワークを生かすべきではなかったか。

一方で、批判が集まった「パワープレー」については僕は違和感はない。点を取らなければならないチームが、試合の最終盤に放り込みを行うのは定石だ。

「だったら豊田やハーフナーをメンバーに選んでおくべき」という非難もあったが、最後の数分だけのために貴重な選手枠を割くのも……という気もする。実際、吉田を上げることですんでいるのだから、パワープレー要員をわざわざベンチに置く必要はない。

そもそもザッケローニはパワープレーをやりたかったわけではないのだ(これまでうまくいった試しがなかったから)。それでも他に手がなかったから、仕方なく定石に則って放り込んだのである(そして、これまで同様うまくいかなかった)。

コロンビア戦は、もっとも意志を感じるゲームだった。

ビルドアップからショートパスをつなぐ「日本らしいサッカー」ではなく、長いボールをDFラインの裏にシンプルに入れる攻撃だったが、それでも攻撃的なサッカーをキックオフから見せた。たぶんある種の「開き直り」ができたのだろう。2点差以上の勝利が必要という状況も、選手たちのメンタルを後押ししたと思う。

少なくとも3試合の中で、もっとも「自分たちのサッカー」に近いプレーをすることができた。

そして1対4で敗れた。

コロンビアを相手に「自分たちのサッカー」をした結果として、これは妥当なものだった。

今回の日本代表は、乱暴な表現をすれば「失点上等!」なチームだったのだ。2点取られようが3点取って勝つ。そんなハイスコアなゲームで勝利することに賭けた、極めてスリリングなチームだったのである。

そんな賭けに勝てると監督は踏んでたし、選手たちも自信を持っていた。しかし、それほど世界は甘くなかったということである。

「コロンビア」レベルのチームと戦えば、これくらいの結果になる。それがわかったという意味で、この一戦は(敗れはしたが)日本の実力を測ることができたゲームだった。

盛り沢山な1ヶ月が終わった

改めて64試合を思い出してみれば、やはり開幕直後にオランダがスペインを5対1で粉砕したゲームが衝撃的だった。

3バック、いや5バック。そしてカウンター。

グループリーグでの組み合わせ(スペイン、オーストラリア、チリ)、さらに決勝トーナメントでぶつかるブラジルを意識しての現実的な戦術変更だったと思われるが、結果的にベスト4まで進んだオランダ代表とファン・ハール監督こそが、この大会のトレンドを決定づけることになった(ファン・ハール監督はPK戦でのGK交代も当たった)。

もちろん、ロッペン、ファン・ペルシー、スナイデルという強烈なアタッカーがいたからできた選択とはいえ、くさびを入れるのではなく、常に裏を狙うスピード感は強烈だった。

ベルギーやコロンビアなどカウンター主体のチームが躍進したことも併せて、大会を象徴するチームとなった。

同じくスペインを破ったチリも素晴らしかった。オランダのように後ろでボール奪取してロングカウンターを繰り出すのではなく、プレスをかけてスペインの攻撃を封じて上回った。

チリは、とにかく運動量があり、守備だけでなく攻撃にも、主体的で積極的に全選手が90分間コミットし続けていた。決勝トーナメントでブラジルにPK戦で敗れたが、やはり忘れがたい好チームだった。

さらにコスタリカ、メキシコといった代表チーム、ノイヤー、オチョアらGK、それからバニシングスプレーに、ゴールラインテクノロジー……などなど振り返ればキリがないほど、盛り沢山な1ヶ月だった。

今大会は日本でテレビ観戦していたから全試合を見ることができ(現地へ行くとそうはいかないので)、おかげで感じることも多かった。

最後に蛇足ながら付け加えれば、コロンビア戦の中継の賑やかさも忘れがたい。

いくらなんでも放送席に4人は多すぎではないか。「居酒屋中継」がウケているらしいが、少なくとも僕はあの飲み会には参加したくない。盛り上げ役のキャストがはしゃぐなら、落ち着かせる役も起用してほしい。せめてアナウンサーには仕切り役を……。

「ハイタッチ@渋谷」な人々とも併せて、2014年6月の記憶として書き留めておきたい。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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