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今年のサンマは、去年よりも資源量が3割減で、サイズも小さいようです。

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事
ことしのサンマはどうなるのか?(写真:アフロ)

日本の研究機関(水産研究・教育機構)が行っている、サンマの資源調査(令和元年度 サンマ長期漁海況予報)の結果が7/31に公開されました。今年のサンマの水揚げを予測する上で重要な調査なので、結果を簡単に整理してみました。

http://tnfri.fra.affrc.go.jp/press/h31/20190731/20190731sanmayohou.pdf

サンマの分布量は昨年の3割減

今年の調査では、サンマ分布量(東アジア方面に泳いでくるサンマの量)は、142万トンと推定されました。この調査は2003年から実施されているのですが、今年の分布量は過去最低だった2017年に次ぐ低い値で、去年よりも3割少なくなっています。

サンマの分布量と日本の漁獲量(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)
サンマの分布量と日本の漁獲量(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)

サンマの分布量(棒グラフ)と、日本のサンマ漁獲量(折れ線グラフ)は連動していることがわかります。過去5年の日本の漁獲率の平均は、7.6%であり、平年並みの割合で獲ると10万トン前後の水揚げになります。去年の漁獲量から3割程度の減少となります。

全ての国の漁獲をまとめたサンマ全体の漁獲率は、20~30%で推移しています。今年のサンマ漁獲量は全体で、30~40万トンぐらいになると考えられます。先日行われた国際会議(NPFC)で合意した総漁獲枠は55万トンですから、現状の漁獲にブレーキをかける効果は期待できません。日本が提案していた45万トンも過剰な枠であったことがわかります。

国別の漁獲枠配分の合意がないので、自国への漁獲枠配分シェアを増やすために、漁獲実績を伸ばそうと努力をする国も出てくるでしょう。漁獲枠が大量に余るのはほぼ確実なので、EUなど他の漁業国が新規参入を要求するといった事態も考えられます。サンマの国際管理は、日暮れて道遠しといった感じですね。

小型魚(0歳魚)主体で漁期は遅め

より細かく見ていきましょう。下の図は、サンマの空間分布です。日本に近いところの群れほど、より早く日本の漁場にやってきます。去年と今年を比較すると、群れが全体的に日本よりも遠く、来遊のタイミングが遅いことがわかります。大型の1歳魚(図の赤丸)は去年よりも少なくなっており、量が少ない上に、サイズも小ぶりということになりそうです。

サンマ調査の結果(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)
サンマ調査の結果(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)

漁場は沖合いで日本船にとって不利な状況か

なかなか厳しい予測になりましたが、追い打ちをかけるのが道東の暖水塊(暖かい水のかたまり)の存在です。冷たい水温を好むサンマは、道東から三陸へと流れる親潮にのって南下します。親潮のルートがサンマの漁場形成に直結するのです。

今年は道東に大きな暖水塊があります。冷たい水と温かい水は混ざりづらいので、親潮は暖水塊を避けて二つに分かれて南下します。日本側を通る親潮を第一分枝、日本と反対側を通る親潮を第二分枝と呼びます。親潮第一分枝にのったサンマは、日本の近海を通るので、日本漁船にとって漁獲しやすいのですが、今年はサンマの来遊が遅れており「第一分枝にはサンマが来遊しづらい状況」です。第二分枝の群れが漁獲の中心になると、漁場が沖合いに形成され、日本の漁獲は伸び悩むでしょう。2015年も同じような状況だったのですが、日本の漁獲は伸び悩み、日本の漁獲率は過去最低の5.1%でした。今年も2015年と同様に漁獲率が低迷すると、日本近海でのサンマ漁獲量は7.5万トンまで減る可能性があります。ただ、日本はここ3年ぐらいで公海でのサンマ漁獲量を急激に増やしているので、全体で10万トンは超えると思われます。

暖水塊とサンマの回遊経路の関係(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)
暖水塊とサンマの回遊経路の関係(出典:令和元年度 サンマ長期漁海況予報)

今年は、サンマをどう食べる?

大きなサンマの方が美味しいので、1歳魚を食べたいものです。今年の1歳魚は東経170度付近に小さな群れがあるだけなので、これを逃してはなりません。9月下旬ぐらいに、1歳魚の群れが水揚げされ、その後が続かないので可能性が高いです。ということで、大きなサンマを見かけたら、多少高くても食べておくことをお勧めします。

サンマは資源として減少傾向にありますが、漁獲率が3割を下回っており、日本近海のほとんどの水産資源より健全です。なので、今すぐ食べるのを止める必要は無いと筆者は考えます。サンマをこれからも食べ続けるには、漁獲を減らしても漁業経営が成り立つように、適正価格で買い支えることが重要です。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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