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臨時国会で議論されている漁業法の改正について

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

国会で、漁業法の改正が議論されています。現行の漁業法は昭和24年に公布されたもので、70年ぶりの改正になります。実際の改正の中味を見ながら、「なぜ、漁業法の改正が必要なのか」、「どこがどう改正されて、日本の漁業はどうなっていくのか」について論じます。

議論のベースとなる第197回国会(平成30年 臨時会)提出法律案はこちらにあります。

今回の改正の最大のポイントは、持続可能性について盛り込まれたことです。

現行の漁業法はこちらにありますが、驚くべき事に「持続性」や「持続可能性」という単語が全く存在しません。

現行の漁業法の目的は以下のようになります。

(この法律の目的)

第一条 この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする。

出典:漁業法第一条

 現行の漁業法ができたのは、昭和24年(1949)。戦後の食料難のまっただ中でした。当時は200カイリの排他的経済水域が存在せず、他国の沿岸3-5マイル(5-8km)まで入り込んで、好きなだけ魚を獲ることができました。みんなで協力して、できるだけ多くの魚を獲り、船を大きくして、他国の漁場に進出することで、日本の漁業は発展していきました。このような時代背景から、水産資源の持続性については、ほとんど考慮がなされなかったのです。

 生産力の発展と共に重視されたが漁業の民主化です。GHQは、網元を解体して、漁業の民主化を進めました。一人一人の漁民が漁業権を行使できるように、漁業組合に漁業権を与える仕組みを採用しました。

「網元中心の戦前の漁業のあり方を漁協中心の民主的な仕組みに変えて、みんなで協力してたくさん魚を獲りましょう」という現行漁業法の目的は、この法律がつくられた当時の時代背景を考えると妥当といえるでしょう。

 戦後70年の中で、漁業を取り巻く情勢は大きく変わりました。最大の変化は、1982年に採択された国連海洋法に基づく200カイリの排他的経済水域の設定です。沿岸諸国が200カイリの排他的経済水域を設定したことで、日本の遠洋漁業が行き詰まります。また、日本では十分な漁獲規制がなされなかったので、自国の200カイリでの水揚げも減少していきます。余所の国の漁場に進出できなくなった上に、自国の漁場でも魚を獲りすぎて、日本の漁業は衰退していきます。

 国連海洋法条約は各国の国内漁業の枠組みにも、大きな変化をもたらしました。国連海洋法条約では、沿岸国に排他的な漁業権を認めると同時に、持続的に最大の漁獲が得られるように水産資源を管理する義務を沿岸国に課しました。国家が責任を持って持続的に水産資源を管理することを前提に、排他的利用権が認められているのです。

 多くの沿岸国は、排他的経済水域を設定するのと並行して、自国のEEZの水産資源を管理するための法整備を行いました。例えば、ノルウェーは、1983年と1999年に漁業法の改正を行っています。米国は長期的な資源と経済の安定を目指すMagnuson-Stevens Actを1976年に施行し、1996年と2007年に大幅に改正しました。日本でも、主要7魚種に漁獲枠を設定するTAC法が1996年に成立したのですが、肝心の漁業法には変化がありませんでした。

今回の漁業法の改訂案には、日本が国として持続可能性に取り組む姿勢が明記されています。

第一条この法律は、漁業が国民に対して水産物を供給する使命を有し、かつ、漁業者の秩序ある生産活動がその使命の実現に不可欠であることに鑑み、水産資源の保存及び管理のための措置並びに漁業の許可及び免許に関する制度その他の漁業生産に関する基本的制度を定めることにより、水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もつて漁業生産力を発展させることを目的とする。

出典:漁業法等の一部を改正する等の法律

現行の目的と大きく異なるのは、「水産資源の持続的な利用を確保する」との記述が盛り込まれた点です。国際情勢に照らし合わせても、日本の国内事情に照らし合わせても妥当な方向転換と云えるでしょう。

目的の改正と同様に重要なのが、(国及び都道府県の責務)が規定されたことです。

第六条国及び都道府県は、漁業生産力を発展させるため、水産資源の保存及び管理を適切に行うとともに、漁場の使用に関する紛争の防止及び解決を図るために必要な措置を講ずる責務を有する。

出典:漁業法等の一部を改正する等の法律

現行の漁業法でも、国及び都道府県は漁獲規制を必要に応じて行う権限を持っているのですが、資源の保全を適切に行う責務は規定されていません。規制の権限はあるけど、規制をする責務が無かったのです。漁業者の多くは、自らの漁業活動が規制されるのに反対ですから、地元漁民の反対を押し切ってまで規制が導入されることはほとんどありませんでした。例えば、私の友人の漁業者が、県に産卵期の漁獲規制を要請したところ、水産課の職員から「漁業者全員の合意をとってきたら規制の導入を検討する」と言われたそうです。行政機関には、「漁業者を相手に面倒な合意形成をするよりも、獲りたいだけ獲らせて、自滅させれば良い」という対応が許されたのです。

今回の改訂案では、「国及び都道府県は、…水産資源の保存及び管理を適切に行うとともに、漁場の使用に関する紛争の防止及び解決を図るために必要な措置を講ずる責務を有する」と明記されています。今後は、適切な規制を怠った場合に責任を問われることになるので、非持続的な漁獲を放置できなくなります。法律に水産資源の保存及び管理が責務として規定されたことは、行政にとってきわめて大きな意味を持ちます。

これら二点だけを見ても、日本が国連海洋法条約で規定された管理義務を果たす上で、重要な改正であることがわかります。特に管理義務が明記されたことは、行政の不作為に歯止めをかけて、日本の漁業管理を大きく前進させる効果が期待できます。

今回の改正は、大きな方向性は妥当なものと考えます。ただ、足りない部分がかなりあるし、運用次第でどうなるか分からない部分も数多く存在します。それらの点についても追々整理していきたいと思います。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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