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小学生の10.0%が便秘状態で21.3%は便秘予備軍 外出自粛のときだからこそ便秘予防

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(提供:アフロイメージマート)

新型コロナウイルス感染症で外出自粛をしていると、子どもたちの生活リズムが乱れがちになりますよね。

夜更かし、朝食抜き、栄養の偏り、運動不足などなど。そして生活リズムが崩れるとなりやすいのが便秘です。本来であれば、体調を整えて免役力アップといきたいところです。

食欲がないや睡眠不足は、気づきやすいと思いますが、便秘に関してはそうはいきません。子どもが小学生にもなると、うんちをしているのかどうかも分りにくいものです。

約3人に1人は排便ケアが必要?

昨年、小学1~6年生の子どもを持つ保護者(1584人)にアンケートを実施したところ、全体の10.0%が便秘状態で、21.3%は便秘予備軍という結果になりました。これらをあわせると、約3人に1人(31.4%)はケアが必要ということになります。

また、便秘状態の子どもの保護者のうち、約半分(48.4%)は便秘状態であることに気づいていないということも分かりました(下図)。便秘は、少しずつ少しずつ悪化するので早めに気づくことが大切です。(子どもの生活習慣および保護者の意識に関する調査の報告

「子どもの生活習慣および保護者の意識に関する調査」 実施・作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所、カルビー株式会社
「子どもの生活習慣および保護者の意識に関する調査」 実施・作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所、カルビー株式会社
「子どもの生活習慣および保護者の意識に関する調査」 実施・作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所、カルビー株式会社
「子どもの生活習慣および保護者の意識に関する調査」 実施・作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所、カルビー株式会社

そこで、どのような状態のときに注意が必要なのか、もし便秘かなと思ったら何に気をつければよいのかなどについて、「赤ちゃんから始める便秘問題」の著者であり、子どもの便秘治療を専門とする中野美和子先生(小児外科医)に話を聞きました。その内容を以下に紹介します。

※本記事の内容は、小学生低学年の子どもの排便を対象にしています。

子どもとの過ごし方

加藤 小学校低学年の子どものいる保護者の方々に向けて、子どもの便秘のことをお話しいただきたいと思います。

便秘の話に入る前に、新型コロナウイルス感染症の流行で外出自粛になっている現状を踏まえ、このような時期は子どもと一緒にどのように過ごしたらよいかを教えてください。

中野 新型コロナウイルス感染症流行のため、学校に行けない、外に行けない状態が長く続いています。異常事態で、子どもたちにとって、たいへんなストレスです。外遊びが絶対に必要な年齢なのに、それができない。私は東京都内に住んでいますが、今でも、外にいる子どもたちを見かけますが、親の目がなければ、必ず、くっつき合っています。社会性がまだできていない子どもに、「社会的距離」をとれと言っても、無理な話です。どうしても親の目が必要ですが、本人たちに、必要性を説明することも大事です。

学校に行けない場合も、あとでも説明しますが、学校に行っている時と同じような規則正しい生活を続けることが、健康な生活を送る上で、とても重要です。

現状は、社会的に大きなストレスがかかっています、保護者のかたも、お仕事の面で、日常生活の面で、たいへんなストレスを受けています。もちろん子どもたちもその影響を受けています。さらに、学校に行けないというストレスが重なっているのです。こういうストレスは身体(心身ともに)に影響を及ぼします。もちろん個人差があって、ストレスが心身に出やすいかたと、出にくい方がいますし、出ていても自覚しやすいかたと、感じにくいかたがいます。ストレスを克服するには、自律神経を整えることが重要で、それには規則的な行動が有効です。規則正しい生活習慣が必要なのです。

なかなか難しいことですが、少なくとも、そのための努力を親子ですることがとても大事です。細かい理屈ではなくて、ともかく重要で、それを行うのだということを、お子さんに話してください。保護者が真剣に重要だと言えば、子どもはわかってくれます。今は、ほんとうに危険な状況であること、そのためには、自分で自分を守らなくてはならないことを話してください。こんな状況を回避できれば一番良いのですが、現実はそういう状況なのだということを認識し、それにどう対処するのかを考えて行動すること、それを子どもにも示すことが大事です。子どもはそういう親の態度をちゃんと見ています。そして、たいへんなストレス下ではありますが、楽しい時間を作ってください。楽しい時間は、自律神経にもよいし、免疫を強化するのにもいいですよ。

どうなったら便秘なの、気にするポイントは?

加藤 ここからは、便秘について具体的にお聞きしたいと思います。

子どもの便秘は早めに気づくことが大事だと、よく聞きます。どうなったら便秘なのでしょうか? 小学生低学年くらいの子を持つ保護者が気にしたほうがよいポイントを教えてください。

中野 便が溜まり過ぎていれば便秘ですが、医療者としての立場から、いちおう便秘症に、ある程度の基準を設けています。排便回数が週2回以下で、硬い便や、出すときに痛い便が、2カ月以上続くと、便秘症として治療対象になります。そのほかに、便が漏れるとか、便意が出ているのに我慢している、すごく大きな塊便、すごく太い便なども便秘です。

子どもの便秘は、もともとは、1歳頃から出現しています。症状が軽い、わかりにくいと、あまり気にしないまま、そのうち成長で自然に良くなることもありますが、便を溜めるクセのついた直腸は、何かのきっかけ、たとえば、入学とか、今回のように学校に行けないなどのストレスで、症状が強くなり、便秘症がはっきりします。

保護者のかたは、お子さんがオムツをしている間は、排便について気にしますが、トイレで、ひとりで排便できるようになると、気にしなくなることが多いです。週3回以上排便しているかどうか、時々チェックしてください。今のようにずっと自宅に居る場合は、チェックする良いい機会かもしれません。

子どもは自分の便秘を自覚している?

加藤 子ども自身は、便秘をどんなふうに感じているのでしょうか?

中野 お子さん自身は、幼い時から便秘症があると、それが普通の状態で、悪化するといっても徐々に悪くなるので、なかなか自覚しないものです。わかりやすい症状としては、腹痛ですが、これは生理的な範囲内のものから、病気の徴候までいろいろです。便が出にくい、残便感などは、自覚しにくい。それがあたりまえのことだからで、便秘を治療すると、今までは苦しかったのだと言えるようになります。

また、身体のことを気にかけるという習慣がないと、子どもは調子が悪くても、親にはめったにそれを言わないものです。身体のことで何か言ったら、お医者さんに連れていかれて、痛い目に合う、と思い込んでいますから。子どもから訴える、というのは、よほどひどい状態になってからが多いです。

排便のチェックと言っても、毎日のことでたいへんなら、時々1週間ほど排便日誌を付けてみるのも良いと思います。日誌と言っても、単にカレンダーに〇、×を付けるだけでもいいです。その結果、気になるなら、少し詳しく記録してみるといいでしょう。そのほかに、便秘だとトイレに居る時間が長いことも参考になります。

1日1回出てれば大丈夫なの?

加藤 「うんちは毎日出てれば大丈夫ですよ」という話を聞くのですが、1日1回出てれば、とくに気にしなくてよいでしょうか?

中野 1日1回、良い量が出ているなら、大丈夫なことが多いです。毎日出ていても、少量ずつで、たまに大量に出るというのは、肛門のそばに溜まっている便の先だけが出ている可能性があります。毎日良い便が出ていても、出血や、便の漏れがあれば、便秘かもしれません。

外出自粛のとき、自宅でできることは?

加藤 便秘で困っているときは、できれば早めに病院に行って診てもらいたいところですが、外出自粛となるとなかなか病院にも行きづらいと思います。「便秘かも?」と思ったとき、とりあえず、自宅でできることはありますか? 

まずは生活習慣で気をつけた方がよいことを教えてください。

中野 先ほど説明した、腹痛などいろいろな症状が、はっきりしていれば、もちろん受診してください。状況をよく聞いて、診察しないとわからないことがたくさんあります。

ちょっと便秘気味かな、と言うときは、まず、生活を見直してください。生活習慣の見直しで身体を整えること、便通に限らず、健康な生活を送ることは、特にこどもには必要です。生活は規則正しいことが原則です。

学校が休みになると、どうしてもだらだらした生活になりがちです。学校がある時と同じように、早寝・早起きにして、決まった時間に3食摂り、勉強時間も決めてください。子ども本人と相談して、時間割を作り、それに従って行動するようにしてください。スポーツクラブなども休みになり、運動もできませんよね。1日に30分ぐらい運動時間を作ってください。自宅でできる体操でもいいし、ダンス、縄跳びなど、一緒にできるとなおいいですね。保護者の健康にもいいですよ。

みんな、ゲームが大好きですが、これも決まった時間のみ許可するように気をつけて。

こういうふうに書くと、保護者のほうが慣れなくてたいへんです。でも、これが本来なのですよ。ふだんは、こういう生活習慣作りを、学校に丸投げしているのです。こういう機会に、子どもとしっかり付き合ってみるのもいいかもしれないと考えてみてください。

加藤 リズムよく生活する上で、学校ってとても重要な役割を担っていたのですね。排便もリズムが大事だと思うのですが、声掛けするのは効果的なのでしょうか?

中野 排便には、生活習慣を整えることがとても大事というより、良い生活の結果が、良い排便なのです。もちろん息抜きの日も必要、今までどおり、日曜は、ちょっとだらだらする日にしてみてもいいかもしれません。

生活の他には、1日1回、良い排便が毎日あるかどうかをみて、わからない時は、本人に訊いてください。まる1日排便がなければ、食事後しばらくしてから、トイレに行って排便してみる様に促してください。無理やりということではなくて、行ってみて、という程度の促しです。小食の子なら、1日おきとか3日に1度でもいいのですが、それだとつい忘れるので、原則的に毎日声をかけたほうがよいかと思います。そういう点からも、簡単でもよいから、排便記録を付ければよいと思います。

野菜不足が気になるのですが...

加藤 食物繊維が不足しているのは理解できるのですが、野菜を食べてくれないという話も聞きます。そういうときは、どのようにしたらいいのでしょうか?

中野  食物繊維は大事ですが、ふつうに3食ともバランスよく食事を摂るのが重要です。偏食、小食は、ムリにはなおせません。食べれるもので、工夫してください。

学校が長く休みになると、給食もありません。給食は、とても工夫されていて、集団で食べるという効果もあって、偏食・小食が改善されるのですが、それがなくなり、自宅で好きなものしか食べない、ということになりがちです。今までの給食の献立表が学校からきているはずですから、それを参考にして、昼は自宅でも給食のスタイルにしてみたりするのもいいかもしれません。

朝食は登校している時よりも、ゆっくりと食べられるはずですから、しっかりと摂るという習慣をこの際に身につけるのもいいですね。また、ずっと自宅にいるとどうしても、お菓子類を多く摂りがちです。お菓子を多くストックしておかないこと。あれば、食べてしまいます。おやつの時間はいつも以上にきちんと決めておく。買い物の回数も減らしていると思いますが、おやつのお菓子の量は、子ども本人とも相談して、たとえば1週間分ほど買い、どういうスケジュールで食べるかを決めておいたらどうでしょうか。

なお、食物繊維の摂取法ですが、誤解している方も多いですね。たとえば、生野菜のサラダでは、野菜の摂取量が全く足りません。従って食物繊維も摂取量としてはとても少ない。煮炊きしたものを摂るようにしてください。お料理を子どもに手伝ってもらうのもいいですね。自分で作ったものはよく食べるのではないでしょうか。でも、子どもですから、食物繊維の摂取をあまりうるさく言わなくてもいいでのではないかな、食事は楽しく、おいしく食べるのが一番です。

水分やお薬のこと

加藤 便秘には水分が必要、ということも聞きます。毎日、どのくらい水分を摂るとよいのでしょうか?

中野  便秘に特に水分が必要ということはありません。脱水にならない程度の水分摂取で十分です。水分だけ多くしても、尿量が増えるだけです。しかし、子どもは、発汗が多いし、運動量に応じて水分を多めに摂るという工夫もできませんから、特に暑い時期は、脱水に近い状態のことが良くあります。食事を含めて1日1リットルぐらいは必要でしょう。水分が足りているかどうかは、尿の量(回数)と濃さでチェックしてください。

加藤 市販のお薬を使う場合、どのような点を注意したらよいですか?

中野 市販薬としては、糖類の浸透圧下剤、たとえば、オリゴ糖として販売されているものやマルツエキスなどは、気軽に使ってよいです。次にマグネシウム剤も、浸透圧性下剤で、薬剤師さんに相談し試してみてよいです。ただしどんどん増量するのは、医師の指導のもとで行った方が良いです。大人用の便秘薬は、常用はお勧めできません。

便秘用の座薬、浣腸薬は、これも薬剤師さんに相談しながらですが、使ってみてよいです。どういう薬(内服も座薬・浣腸)であっても、便秘がほんとにひどい時は、家庭で使うのは、かえって症状が悪化することもありますので、よくありませんし、効きも悪いです。

治療している場合、どんな影響がある?

加藤 慢性便秘症で治療しているかたにとって、学校に行かずに自宅で過ごすことは、どのような影響があるのでしょうか?

中野 学校に長く行けなくて、自宅で過ごす場合、学校に行かないことで、学校という緊張がなくなり、排便状態が良くなるかたと、食事を含め規則正しい生活ができないことで、排便が悪化するかたがいます。どちらのタイプかは、今まで、夏休みなどの長期休みの時のお子さんの状況をみて、ある程度わかっていると思います。

自宅で過ごすことで、いつでも排便ができますから、それで排便状態が良くなる子もいます。良くなるタイプの子では、毎日排便していると、直腸の状態が良くなりますから、便秘症の程度も改善する可能性があり、薬の使用量も減らせることがあります。ムリに減らす必要はありませんが、いろいろ試みてください。

悪くなるタイプの子では、やはり生活習慣を見直してください。一時的に内服量を増やすことも考えてください。

通院を減らしたいかたも多いと思います。維持治療時期のかたは、それほど変化がなければ、今までの薬を続けていればよいでしょう。現在、Web外来も導入しているところもありますが、そうでなくても、今の一時的措置として、電話再診でお話をして、FAXなどで処方箋を出してもらえます。

加藤 ありがとうございました。

日本トイレ研究所では、排便で悩む子どものための病院リスト子どもの排便の悩みQ&Aを公開していますので、参考にしてください。

まとめ

1.ストレスを克服するには、自律神経を整えることが重要(自律神経を整えるには規則正しい生活習慣が必要。楽しい時間は、自律神経にもよい)

2.便秘症として治療対象になるのは、排便回数が週2回以下で、硬い便や、出すときに痛い便などが、2カ月以上続く場合

3.毎日出ていても、少量ずつで、たまに大量に出るというのは、便秘の可能性あり

4.排便チェックは、時々1週間ほどカレンダーに〇・×を付けるだけでもいい

5.朝食はゆっくり&しっかり食べる習慣を身につけるといい

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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