本当に「命を守れる」防災を考える(2) ~地方自治体:適確な避難情報発表には何が必要なのか?~

増水した用水路と土石流災害の現場、携帯電話への緊急メール画面。(筆者撮影)

■ どちらが危ない?避難勧告と避難指示

 災害時にテレビ、ラジオ、ネットなど各メディアで耳にするのが「避難勧告」や「避難指示」といった情報だ。災害対策基本法で定められたこの情報、よく耳にするわりには正しく理解されていないことが多いと聞く。

 さて、「避難勧告」と「避難指示」、どちらが災害の危険度・切迫度が高い情報だろうか。

 正解は、避難指示

 避難勧告よりも避難指示のほうが、より災害の危険性が差し迫った時に発表されるのだ。

 避難情報は、「どの情報がより危ないのか分かりにくい」という声を頻繁に耳にする。こうした声を受け、内閣府(防災担当)は2016年12月、各避難情報の名称を少しでも分かりやすくするために変更した経緯がある。現状は、

  避難準備・高齢者等避難開始

   ↓

  避難勧告

   ↓

  避難指示(緊急)

の3つのレベルで、住民に避難が呼びかけられる。後に挙げた情報ほど、危険性が高い。なお、この順序で出されず、一気に高いレベルの情報から発表される場合もある点に注意が必要だ。

 本文の冒頭では「避難指示」と簡単に記したが、正式には上記の通り、「避難指示(緊急)」とカッコ部分まで含めたものが情報名である。また、「避難準備・高齢者等避難開始」という情報も、この文字の通りの情報名である。

■ 各避難情報の意味は?

 災害の危険が高まってきた場合に、まず初めに発表されることが多いのが「避難準備・高齢者等避難開始」という情報である。高齢者や体の不自由な方など、避難に時間を要することが想定される方々は、災害の危険が高まることをギリギリまで待っていたのでは、安全な場所へ身を移すのが間に合わないおそれがある。そのため、まだ確信度としては高くなくとも、より一層早めの避難行動を促すために発表されるのがこの情報である。

 災害の発生の予測精度と、避難にかけられる時間的余裕は、ある意味では「トレードオフ」の関係であることは避けられない。確信を持って災害の発生を見越すことが出来るまで待つと、災害発生の直前になってしまい、避難行動にかけられる時間はごくわずか、となってしまう。どのタイミングで実際の避難行動に移すのかが極めて重要であり、かつ、極めて難しい問題なのだが、避難に時間がかかるであろう方々には、この情報をきっかけとして避難開始としてもらいたい。

避難情報の種類。避難指示(緊急)が最も災害の危険性が高まった場合に発表される。(内閣府防災担当HPより)
避難情報の種類。避難指示(緊急)が最も災害の危険性が高まった場合に発表される。(内閣府防災担当HPより)

 また、避難に時間をあまり要しない方々も、「避難の準備」を開始し、さらに状況が悪化した場合には速やかに避難行動に移れるようにしておいてほしい、というのもこの情報の意味するところだ。非常持ち出し袋をすぐ運べる場所に出しておく、続報を見逃さないよう避難情報・気象情報により一層注意する、など、平常時よりも一段高いレベルで構えておいてほしい状況である。

 災害の危険性がさらに高まった場合には「避難勧告」が発表される。対象となる地域の全ての方々が、身の安全を確保する行動を実際に開始してほしい段階に至った、ということを意味する情報だ。

 このタイミングで、「さぁ、どこに行こうか?」「非常持ち出し袋はどこだったかな?」などと、今さらモタモタしてはいけない。避難するのであれば、この情報が出た場合には「速やかに」安全確保をしてほしいという状況である。その後の数時間、場合によっては10~30分ほどのわずかな時間でも、事態が急速に悪化し、屋外への避難が困難になる場合も十分にあり得る。この情報の前段階の「避難準備・高齢者等避難開始」が出された時点で、もし避難勧告が出されたらすぐに動けるように具体的な準備を済ませておくことが肝要となる。

 さらに危険性が高まり、災害発生が差し迫ったレベルにまで至ると、「避難指示(緊急)」が発表される。カッコ内に「緊急」と書かれていることから分かるように、緊迫度が極めて高い状況で発表される情報だ。対象となっている地域の方々は「直ちに」身の安全を確保する行動をとっていただきたい危険な状況、ということになる。

 家の周りがまだ安全だと判断できるならば、身の安全を最優先に考えつつ、一刻も早く安全な場所へ避難をしてほしい状況であることを意味する。しかしながら、災害が実際に発生する寸前に発表できるとは限らない。すでに家の周りが浸水していたりする場合などは、少しでも身の安全を確保できるように、高い階に移る、がけや斜面から離れた部屋に身を置くなどの行動しかできない場合もあり得るのだ。こうなると、もはや「100点満点(ベスト)」の避難行動は不可能である。命を守る確率を少しでも高めるため、「0点にならない(ベター)」な行動を各自が判断して進めるほかない。こうした危険な状況になる前に、少しでも早いタイミングで身の安全を確保することが重要なのだ。

 そして、これらの情報はすべて、強制力はない。避難したくないと言い張る人を無理やりでも安全な場所へ移す力はこれらの情報にはなく、避難勧告・指示に従わなくても罰則はないのだ。最終的には、避難するかしないかは、個々人の判断による。災害が予想される時には、一人ひとりが当事者意識を持って行動することが非常に大切なのである。

 (なお、災害対策基本法には、「警戒区域」についての規定がある。この警戒区域に設定されると、立ち入りが制限・禁止され、従わない場合は罰則がある。しかし、どこで災害が起こるかズバリと事前に予測することが技術的に難しい豪雨災害において、災害の発生前にこうした区域が設定されることはほとんどない。)

■ 避難情報を発表するのは、市町村

 ここまで各避難情報について述べてきたが、これらの情報を発表するのは、国ではない。より各地域の事情を詳しく把握しているであろう、市町村である。法律上は、避難情報は市町村長が発表することとされており、各地方自治体の防災部局が担当して、実際の避難情報の発表作業・判断を実施していることになる。こうした避難情報は、各市町村が予め設定した基準(地域防災計画や避難情報の運用マニュアルなど)に基づき、事態の悪化とともに順次発表されていくが、発表に当たっていくつかの課題・問題点が考えられる。

■ 住民とともに避難情報の発表基準作りを

 まず、国からは各種気象情報などをもとに避難情報を発表する基準を定めるようガイドラインが公表されているが、自治体によって対応に差があると感じられる。気象状況など客観的で詳細な基準を設定している自治体もあれば、災害の具体例を挙げる程度で最終的には「総合的な」判断による発表となる自治体もあり、実際に避難情報を発表すべきか否かの段階に至って、担当者が判断に悩む場合もあると考えられる。

 さらに、前兆現象の把握や、土砂災害・河川氾濫の実際の発生を確認したうえで避難情報を発表すると定められている所もあり、危機感・危険性の予測をもとに事前に発表するのではなく、「災害が起こり始めた後で」の発表となる自治体もあり、これでは間に合わない場合もあり得るのだ。

内閣府が定めた、避難勧告等に関するガイドラインの概要。(内閣府防災担当HPより)
内閣府が定めた、避難勧告等に関するガイドラインの概要。(内閣府防災担当HPより)

 また、避難勧告・指示を発表しても何も起こらなかった場合、住民から苦情が来るのではないか、という思いから発表を躊躇してしまうという話もかつては頻繁に耳にした。最近は住民の災害に対する意識もだいぶ変わり、災害が発生しなくても「何もなくて良かったね」と受け止める雰囲気が広がっているように感じるが、今でも躊躇を全くせずに避難情報の発表を判断できるかというと、現実にはそう容易ではないことも考えられる。

 もちろん、避難情報の乱発は「オオカミ少年」化につながりよろしくないが、気象の見通しなど科学的な根拠をベースとして、可能な限り、「〇〇が××になったという状況に至ったので、□□地区に避難勧告を発表した」と明確に言えるような状況にしておく必要があると思う。

 そこで、こうした避難情報の発表基準について、自治体の防災担当者と地元住民の方々とで、予め一緒になって検討するということを進めてほしい。私も住民の方向けの講演会・講習会の場などで耳にするのが、「どうしてあの地域が危険だと市から指摘されているのか分からない。きっと大丈夫なはずなのに」という声だ。

 どの地区にどのようなリスクがあり、それをもとにどういう事態になったら避難情報が発表されるのか、住民の方とともに手順を進めて作っていく、というプロセスがとても大事に感じる。なぜ避難勧告・指示がその地域に出されたのか「納得」しないと、なかなか避難してくれない人が少なからずいる。丁寧で地道で時間のかかる作業だが、災害が起こる前に着実に進め、いざという時に早めに避難する人が増えるようにする「背景」作りを草の根的に進めていくべきだと考える。

 なお、基準作りの際には、住民、市町村担当者だけでなく、地質・気象など防災の専門家も交えると良い。ともすると、考え方の相違により、住民と自治体が対立してしまうことも懸念される。科学的・客観的な情報を指し示す役割として専門家も加え、より丁寧に、皆が「納得」する基準作りを進めると良いと思う。

■ 真夜中の避難勧告・指示を嫌うなら、明るいうちに早めに発表を

 夜間の避難情報発表に際しての逡巡もある、という話も頻繁に耳にする。真夜中に避難指示を出すと、住民が真っ暗で危険な中避難するなどかえって危ない、と判断してあえて発表しない、ということもあるというのだ。一理あることなのかもしれないが、そうならないように、明るいうちに早めに避難情報を発表しておくほうがより適切な対応だろう。

気象庁が発表する「今後の雨」コンテンツ。15時間先までの降水予測が随時発表される。夕方の時点で、翌日朝までの見通しが発表されることになる。(気象庁HPより)
気象庁が発表する「今後の雨」コンテンツ。15時間先までの降水予測が随時発表される。夕方の時点で、翌日朝までの見通しが発表されることになる。(気象庁HPより)

 ここ数年のうちに、夜間に状況が悪化する可能性があるのかを明るいうちに判断できるような気象情報が充実してきた。気象台からは、警報発表の可能性があるのか、翌朝までの詳細な大雨予測はどうなのかが随時発表されている。市町村の避難情報発表の仕組みに早急に取り込んで、これらを積極的に活用してもらいたい。

■ 災害時の首長のあるべき姿とは

 自治体の首長の持つ防災に対する意識がどの程度か、という点も、避難情報の発表においては影響が大きいと考えられる。最終的に避難情報の発表に責任を負うのは市町村長だが、何かあった時に現場の担当者に対して責任を追及するようなタイプの首長だと現場が委縮することも心配だ。逆に「全責任は私が負うから、住民の命を守るため、積極的に情報を発表しなさい」と後押ししてくれるようなトップだと、現場はありがたい。

 首長と担当者との間で常時危機感の共有が出来ており、日ごろからの信頼関係が築けているかどうかも決して小さなことではないと思う。災害時の最高指揮官・リーダーとしての首長の姿勢も、避難情報の適切な発表に影響することも気にしておきたい。地方自治体の首長を務める方には、いざという時には「住民の命を守る責務がある」としっかりと肝に銘じ、緊迫感を持って対応に臨んでほしいと強く感じる。

 また、住民に広く顔が知られた首長だからこそ出来ることもある。私が提案したいのは、首長による「緊急の呼びかけ」だ。極めて危険な状況や重大な災害の発生が差し迫って予測される場合には、緊急に知事・市長等が住民向けに避難など適切な安全確保を行うなどの呼びかけを行うのである。文字で見るだけでは無機質になりがちな「避難勧告」「避難指示」といった情報に血を通わせて、「いつもと違う」ということを鮮明に打ち出し、より一層緊迫感を伝えるのだ。

 緊急の記者会見のほか、防災行政無線で首長自身が自らの言葉で、危機が差し迫っていることを住民に直接的に伝えるのも効果的だと思う。人間は、見知らぬ誰かの言葉により動くことは難しいが、よく見知った信頼できる人からの言葉は心に響き、行動に移すきっかけになり得る。専門家が発する警告は信頼性が高い反面、「知らない人」であるぶん住民の心に我がこととして響きにくい可能性がある。筆者のような気象解説者にもある面では通じることだが、公の場に立ち、普段から大勢の方々に顔を見せて発言することが多い者の役割として、ぜひとも災害時には検討してほしい対応だと思う。

■ 防災体制の市町村「格差」

 一方で、避難情報を発表する地方自治体の体制には、大きな格差があるのが実情だ。大都市で予算が比較的潤沢な市町村は、防災対応のために「危機管理課」「防災課」などを設けて専任の担当職員が平時から対応に当たっているが、そんな自治体ばかりではない。

2017年10月の台風第21号により浸水の被害を受けたJR浅香駅。この台風の襲来は衆院選と重なってしまった。(筆者撮影)
2017年10月の台風第21号により浸水の被害を受けたJR浅香駅。この台風の襲来は衆院選と重なってしまった。(筆者撮影)

 比較的小規模な市町村では「総務課」の所掌業務として防災をほかの仕事と兼任していることがとても多い。総務課は選挙事務を担当していることも多く、2017年10月の台風第21号時もそうだったが豪雨災害と国政選挙が重なってしまう事態もあり得るのだ。しかも、予算的に小規模な自治体は地形的には山間部に位置しがちで、災害時に土砂災害や河川氾濫などの水害が重篤化しやすい性格を持った地域でもあることが多いという側面も無視できないと思う。

 さらに、避難情報を発表する部署の人員が十分かというと、担当者が課長含めてわずか数人であることもあり、住民から殺到する電話の対応に忙殺されて、情報収集や大局の分析、さらには避難情報の出し遅れ、という最悪の事態も実際に起こっているのだ。

 私も、大規模な豪雨被災地の担当部署でヒアリングを行った際、防災担当部署の人員が少人数で、管理職までも電話対応をしてしまったばかりに情勢分析に支障を来たしてしまったという後悔の声を耳にしたことがある。本来、指揮官として機能すべき管理職はどんなに電話が鳴っていても直接は取らず、避難情報の発表判断のための情勢分析をするという役割に徹さなければならないと感じる。そのためにも、防災担当部署の人員が本当に十分なのか、また、直接防災対応を行う部署をサポートするための他部署からの後方支援体制がしっかりと整っているのか、各自治体で改めて確認すべきだとも思う。

 あなたの住む市町村の防災担当部署の人員は、本当に現状で足りているのか。足りないというのであれば、しっかりと予算措置を講じて増員を図る必要があるはずだ。どのような体制になっているのか、一度ぜひ確かめてみてほしい。

 

■ 防災担当職員は「技官」としてのキャリアパスで

 さらに言えば、防災を担当している自治体職員が長年防災業務に携わってきた職歴を持つかというと、そうした事例はむしろまれだ。公務員の人事異動の慣例通り、数年に一度は部署を変わり次第に職位が上がっていくなかで、「たまたま防災の担当になっているだけ」のが普通なのである。また、人命にかかわるような大規模災害は自らの周りには滅多に発生せず、先輩や経験者から実体験として対応の教訓を得る機会は非常に少ないと言って良い。そうした中で、仮に数十年に一度の大規模災害が差し迫ってきた場合には、滅多にないような状況の中で、適確な判断を求められるという、厳しい実態なのである。

 私は、防災担当の職員は技術系職員(技官)として、専門的な技術を身に着けながら進むキャリアパスを想定すべきではないかと思う。建設・上下水道・消防のほか市長室など防災に直接的に関連する部署をジグザグに進みながら職位を上げていく技術系のルートとして防災担当者を採用し、育てていくことはできないか。もちろん、毎年の研修として専門家からの講習を受けることは必要だと思うが、人命を預かる防災業務が何かの「片手間」の「未経験者」というのは非常に心もとなく感じるのだ。

■ 先手を打って避難情報を発表するためのシステム作りを

 とはいえ、こうした職員が一人前に育つまでは10年以上の年月がかかるだろう。また、大半の職員が実際には遭遇したことのほとんどない大災害時に、可能な限り適確に避難情報を発表するためのシステムも必要だと考える。前述の「住民・専門家と一緒に作る避難情報の発表基準」に加え、前回の記事でも触れた「避難情報発表の支援システム」をぜひとも積極的に検討・設計・導入してほしい。

土砂災害の危険度と土砂災害警戒区域の重ね合わせのイメージ図。頭の中でこうした作業を行うことは災害時の多忙な中では困難。システムを構築し効率化することが必要だ。(気象庁HPより)
土砂災害の危険度と土砂災害警戒区域の重ね合わせのイメージ図。頭の中でこうした作業を行うことは災害時の多忙な中では困難。システムを構築し効率化することが必要だ。(気象庁HPより)

 近年急速に進んでいる気象予測技術の精緻化に伴って、土砂災害などの危険度がリアルタイムで、かつ、地域を細かく絞って発表されるようになってきた。今や「実際の災害発生の報を受けて避難情報を発表する」時代ではなく、「科学的・客観的な予測をもとに、事前に先手を打って避難情報を発表する」時代になっているのである。

 静的なデータとしてハザードマップ(災害危険予測図)により予め危険が予測された地域に、動的なデータとして土砂災害・浸水・河川氾濫の危険度予測情報を地図上で即時的に重ねて、予め定めた基準を上回った場合には端末上にポップアップされて避難勧告・指示を促すような支援システムを、私はイメージしている。市町村ごとに独自に構築するのは予算的に厳しいかもしれないが、例えば郡レベルや県レベルで市町村の垣根を越えて予算を融通し、効果的なシステムを導入することはできないだろうか。気象予測技術がいかに進歩しても、適確かつ迅速に、有機的に活用できる体制が整っていなければ宝の持ち腐れである。ぜひとも国にもこうした仕組み作りを積極的に推進し、予算面からも補助金を出すなど後押しを講じてほしいと強く思う次第だ。

 

 

次回(第3回)は、国の防災体制について考える。

<参考・引用資料>

 内閣府防災担当:「避難準備情報」の名称変更について(平成28年12月26日公表)