本当に「命を守れる」防災を考える(3) ~国:災害に備えた気象庁の体制・予算は十分なのか~

東京都千代田区大手町にある気象庁本庁舎。(筆者撮影)

■ 国の防災体制

 災害大国である日本において、国の防災体制はどうなっているのだろうか。内閣総理大臣を会長とする「中央防災会議」が、防災基本計画の作成や実施の推進、重要施策の審議などを行い、国としての防災対応の方向性を示している。これを基本的な方針として、各省庁がそれぞれの立場・分野において対応を行っているのだ。

気象情報の流れの概念図。気象庁が発表する情報が各防災機関へ伝達され、防災対応に活用される。(気象庁HPより)
気象情報の流れの概念図。気象庁が発表する情報が各防災機関へ伝達され、防災対応に活用される。(気象庁HPより)

 豪雨災害において、堤防やダムの整備など事前のハード面の備えやシステム作りを行って防災・減災を進めていくわけだが、実際の個別・具体的な災害について、気象・地震・火山・津波など現在の状況の監視・観測、今後の推移の科学的な予測を行い、各方面の防災対応のトリガー(引き金、開始の合図)となる情報を発するのは「気象庁」だろう。

 今回は、私が気象解説者として知る「気象庁」を中心に、国の防災対応の体制、特に予測に基づく「危機感の伝達」について考えたい。

■ 気象庁はどんなところ?

 気象庁は、国土交通省に属し、東京都千代田区大手町にある。数年後には港区虎ノ門へ移転が決まっているが、私も中学生の頃から幾度となく訪れた場所だ。中学生・高校生が何度も訪れる中央省庁というのも実に珍しいだろう。庁舎1階には「気象科学館」というミニ博物館があり、気象観測に使われる機器などが展示され、土日は気象予報士が常駐して、見学者に丁寧に説明をしてくれる(かくいう私も、かつては何度も案内員を務めさせていただいた)。また、科学館の隣には「天気相談所」があり、過去の観測値など統計資料の閲覧や国民からの問い合わせに対応する窓口が開かれているのだ。変な言い方だが、中央省庁っぽくない。良くも悪くも、お役所っぽくない所があるのが、気象庁なのである。

気象庁マスコットキャラクター「はれるん」。(気象庁HPより)
気象庁マスコットキャラクター「はれるん」。(気象庁HPより)

 気象庁の職員は国家公務員で、2018年3月発行の総合パンフレットによると、職員数は約5千人だ。「はれるん」という可愛らしいマスコットキャラクターもいて、気象業務の重要性の広報活動にも力を入れている。また、全国には気象庁の出先機関である「気象台」が設置され、各府県において気象警報・注意報など様々な情報を24時間体制で発表している。都道府県・市町村など地方自治体の防災対応のカウンターパートとして、各地に設置された「気象台」が休むことなく業務を続けているのである。

■ 天気予報ができるまで

 気象庁ではスーパーコンピュータによるシミュレーションをベースとして、予報官など予報担当者が天気予報や警報・注意報を検討・作成・発表している。最終的には各府県の予報担当者が発表することになるが、全体としての整合性や隣接府県との齟齬が生じないように、ある種の指示系統が機能し、予報が作成されているのだ。

 全国レベルで本庁予報課(全国中枢)が主要な低気圧や前線などについて見通しを示し、それを受けて、地方ごとにより詳細な予測を検討する手順だ。地方ごとの司令塔(地方中枢:東京、大阪、福岡など)でより細かく検討した内容を各府県に示し、最後には各府県の予報担当者がそれぞれの府県において予報を発表するのである。これらは、「気象指示報」と呼ばれる文書のほか、テレビ会議システムやチャット形式でやり取りされ、5時・11時・17時の定時発表の天気予報に向けた作業として行われている。

地方中枢での予報会報の様子。(大阪管区気象台にて筆者撮影)
地方中枢での予報会報の様子。(大阪管区気象台にて筆者撮影)

 私も、1日複数回行われるテレビ会議や当番勤務者間の引き継ぎ(「予報会報」と呼ばれるブリーフィング)の様子を見学したことがあるが、まさに「現業官庁」としての姿を強く実感する。担当者が各種資料を画面上に掲示し、気象の見通しについてポイントを絞って分かりやすく解説していく。企業におけるプレゼンの場を想像していただくとイメージしやすいかもしれない。「お役所」というより、防災という危機管理業務を24時間体制で担っている職場との印象を強く受けるのだ。

 一方で、そんな気象庁の年間予算は約600億円弱(一般会計)。2018年度は約570億円だ。同年度の国全体の予算は約98兆円であり、気象庁の予算が全体の0.1%にも満たない小規模だということは、かねてからご紹介してきた。単純計算で、国民一人当たり、年間500円弱の負担となる。この金額で、24時間体制での気象・地震・津波・火山の監視・観測、予報などを休みなく行っているのだ。

 この金額を、多いと見るか少ないと見るかは様々な考えがあると思うが、それにしてもあまりに少なくないか、と私は強く申し上げたい。国家公務員の削減、緊縮財政などの観点から、当然ながら税金の「無駄遣い」は1円たりともできないものの、私には、国民の命を守る重大な業務にかけるお金としてはもっと手厚くして良いのでは、と思われて仕方がない。

 こうした気象庁の予算については、喫茶店でコーヒーを注文するのとほとんど変わらないくらいであることから、昔から「コーヒー予算」と呼ばれてきた。また、防災を直接的に担う官庁なのに気象衛星は持っていても自前のヘリコプターすら保有しておらず、例えば火山の上空からの観測の際には地元自治体や自衛隊など「よそ様のヘリに便乗させてもらって観測をする」と関係者が自嘲ぎみに話すのを耳にすることもある。国民の命を守る重要な業務を担う一方、気象庁は予算的には、ほかに比べてとても小規模な官庁なのだ。

 

■ 測候所の無人化、地方気象台の業務縮小

 前回述べた通り、避難勧告・指示など住民向けに避難情報を発表し、第一義的に住民避難に関連した業務を執り行うのは市町村(地方自治体)だ。こうした地方自治体向けに、避難情報の適切な発表に供してもらうために各種情報や警報などを発表するのが気象庁の出先機関である地元の「気象台」である。ところが、以前私が記事に書いたように、こうした気象台の最前線の人員を減らし、業務を縮小する動きがあるくらいだ。

 かつては全国にいわばミニ気象台である「測候所」が90か所以上もあったが、順次廃止・無人化され、現在は帯広(北海道十勝地方)と名瀬(鹿児島県奄美地方)の2つが残るだけである。また、全国4か所あった海洋気象台の地方気象台への再編に合わせて、舞鶴(京都府)にあった海洋気象台も廃止・自動観測化されている。基本的には各府県に1か所だけ「気象台」を置き、各府県や市町村を対象に天気予報や警報などを発表しているのが現状だ。

2007年に無人化された旧・豊岡測候所の観測露場。(2007年に筆者撮影)
2007年に無人化された旧・豊岡測候所の観測露場。(2007年に筆者撮影)

 しかも、こうした各地の気象台の業務ですら、さらに縮小が検討されていると報じられたのである。夜間は予報業務を地方中枢(東京、大阪などの気象台)に集約し、各府県の地方気象台では、基本的には日中の対応のみにするということを意味している。

 現状、地方気象台における観測・予報の当番業務は基本的には2~3人だけでの勤務である。例えば、大雨や台風襲来など災害が予想される場合には当番勤務職員のほかに臨時に増員して適宜対処しているが、大規模災害が発生すると人員のやりくりはかなり厳しくなる。災害が長期化するとなると、他地方から応援要員を派遣して増員し対応するほどである。

 また、災害発生時については一般からの電話応対についてはシャットアウトし、私たちのような報道機関からも問い合わせ電話をかけると「ただいま緊急作業中につき、電話に出ることができません」と自動メッセージが流れることも多い。自治体向けには完全シャットアウトということはないだろうが、担当府県内の多数の市町村から同時に問い合わせがあれば、限られた人員では対応能力をオーバーし、パンクしてしまうと心配される。

 2011年の東日本大震災などの災害を受けて2013年に改正された災害対策基本法では、住民たちの安全かつ円滑な避難を確保することを目的として、「的確な避難指示等のため、市町村長から助言を求められた国(地方気象台等)又は都道府県に応答義務を課す」こととされた(災対法第61条の2)。そうであれば、地元自治体の防災業務のカウンターパートである各地の気象台の人員を削減し、業務を事実上縮小していく方針というのはこの理念に逆行することにならないか、と強い疑念や矛盾をぬぐえない。

■ ますます重要視される「顔が見える関係」

 災害が発生する危険が非常に高まってきた場合、現場の担当者レベルだけでなく、自治体の首長と気象台長といったトップレベルでの「ホットライン」がここ数年、積極的に活用されている。予め地方自治体の首長を気象台長が訪問し、携帯電話の番号を交換するなど「顔が見える関係」を築いておき、いざ重大な災害が起こり得る際にはその電話番号・人間関係をフルに活用して、直接気象台長から自治体の首長へ電話をかけ「危機感」を伝えるのだ。いわば、首長の携帯電話を鳴らす時には、相当に危険が差し迫った場合だということを事前に自治体側に認識してもらい、今回は「いつもと違う」ということを明確に認識してもらう、という非常に効果的な手法である。

地域における気象防災業務のあり方検討会の資料。(気象庁HPより)
地域における気象防災業務のあり方検討会の資料。(気象庁HPより)

 2017年夏、秋田県で記録的な大雨となった際に、事前に秋田地方気象台長が県内の全自治体を訪ね、首長と携帯電話の番号を交換し、「顔が見える関係」を築いていたことが功を奏し、秋田県での人的被害がゼロだったということは広くニュースでも取り上げられた。この「秋田方式」の首長ホットラインは模範的な取り組みとして、気象庁内でも全国の気象台で積極的に推し進められているところである。ますます、「人」と「人」との関係が重要視され、情報を高度化・精緻化するだけでは本当の意味での防災・減災には十分でないことが認識されてきているのだ。

■ いかにして「いつもと違う」を鮮明に打ち出すか

 今般の「平成30年7月豪雨」のようにある程度事前から記録的な雨量になるかもしれない、甚大な災害が起こるかもしれない、と気象庁が認識した場合、通常の警報・注意報などの情報だけでなく、いかに「いつもと違う」ことを前面に、しかも分かりやすく表明するかは非常に重要なことだと痛感している。地方自治体をはじめとしたほかの防災機関、報道機関、そして最も大事な住民へどのようにして、気象台と同様のレベルで「危機感」を認識してもらうかは重要な課題だろう。

 現状でも、気象庁(出先機関である各地の気象台)では、(本庁は別として)普段はめったに行わない緊急の記者会見・説明会を開催するなどして、いつもと違うことを広く知らしめるなどしている。また、例えば管区気象台においては、通常の記者会見や説明会では予報課の「主任予報官」が説明者として対応する所を、さらに緊急度・重要度が高いことを知らしめるため「予報課長」が説明者として対応するなど、「いつもと違う」ことを様々な方法で示そうと苦心しており、今回の豪雨災害時にも同様の対応がなされた。

今回の豪雨前、大阪管区気象台で開催された記者会見・説明会。(筆者撮影)
今回の豪雨前、大阪管区気象台で開催された記者会見・説明会。(筆者撮影)

 しかし、記者会見に普段から出席している報道機関や防災機関など直接的な防災業務に携わる者以外にとっては、主任予報官にせよ予報課長にせよ、「誰だかよく知らないけど、気象台の人なんだな」というくらいの認識になってしまう印象は否めないのだ。気象台職員と住民一人ひとりの間で「顔が見える関係」を築くのはそう容易ではない。

 そこで、私が強く提案したいのは、危険性の呼びかけに際して、都道府県知事を活用できないか、という点だ。市町村長は前回の記事にも書いたような「防災行政無線」の直接呼びかけや、場合によっては広報車に同乗して積極的に呼びかける(選挙の時と同じだと思えば、できるはず)方法など、より住民に近い所での訴えとなるが、大規模な水害が懸念される時などに全ての市町村にメディアがテレビカメラを持ち込み記者会見を取材・生中継することは現実的ではないと思われる。一方で、各都道府県庁から中継を行い、知事が「緊急の呼びかけ」を行うことは可能だと考えられる。

 通常であれば各地の気象台において、報道機関を通じて住民に危機感を伝えることになるが、例えば、都道府県庁から記者会見を行い、専門家である気象台幹部と知事が席を並べて同時に会見することはできないか。今後の見通しなどの詳細は気象台担当者から伝え、速やかな避難・安全確保の呼びかけは発信力の大きい知事から伝え、「いつもと違う」ということを強く前面に打ち出すのだ。

 もちろん、「いつもと違う」レベルの現象が起こる前に、毎回、十分な時間的余裕を持って事前予測ができるとは限らない。そのためにも、気象予測技術の向上・開発には今後もたゆまぬ努力が必要で、引き続きより強く推し進めるべきだろう。

 また、国の機関である気象台と都道府県という組織の違いを乗り越えて、一体的・緊密に会見や発表を行うなどの運用ができるのかどうかについても未知数だ。しかし、情報の受け手である住民にとって、こうした避難・防災の情報の発信元が気象庁であるか都道府県であるかは、正直、さして大きな問題ではないのかもしれない。

 この施策を進めるにあたって、新たな設備の導入が必要というわけではないと思われるため、予算的に大規模な裏付けがなくても、調整さえ十分に行えば、明日からでも実現可能なことに思えてならない。ぜひとも気象庁並びに都道府県には積極的に検討してもらいたいと私は思う。

■ 「いつもと違う」が上手く行った事例

 1934年、関西にはのちに「室戸台風」と呼ばれる歴史的な台風が襲来し、甚大な被害が発生した。それから27年後の1961年、室戸台風に匹敵する勢力を持った台風第18号、のちの「第二室戸台風」が再び関西を襲ったのだ。しかし、第二室戸台風の際には27年前に比べて圧倒的に被害が小さく、高潮による死者ゼロ・船舶の沈没被害ゼロ、という驚異的な結果となっている。27年のうちにインフラの整備が進んだことが要因のひとつだと思われるが、特筆すべきことは、当時の大阪管区気象台長・大谷東平(おおたに・とうへい)の存在である。

 大谷台長は、この台風が大阪に襲来すると確信を持った段階で、通常気象台から発表される情報や警報とは別に、以下の「特別の警告」を発したのだ。

 「大阪管区気象台長の特別の警告を申し上げます。大阪は最悪の事態になります。」

当時の大阪管区気象台長・大谷東平。(写真は「大谷東平伝」から引用)
当時の大阪管区気象台長・大谷東平。(写真は「大谷東平伝」から引用)

 この「特別の警告」は、大阪府知事、大阪市長、大阪府警察本部長、NHK大阪放送局長に限定して通報されている。いわば、現在で言うところの「首長ホットライン」である。この「特別の警告」を受けて、各方面で最大限の対策が事前に迅速に行われ、上述したような被害の軽減に大きく貢献したと伝えられている。大谷台長はこの功績で、台風襲来の翌々月には「大阪市民文化賞」を大阪市長から授与された。

 大谷台長はのちに随筆の中で、「防災には予報、準備、避難の三者が一致してはじめて効果があるものだが、それにはPRが大切だということをつくづく知らされた」と語っているということである。第二室戸台風の襲来から半世紀以上経つが、現代においてこそますます重みを感じられる言葉として感じられる。

 同じことを現在の気象台でできるかというと、なかなか容易ではないように感じる。しかし、当時「トンペイさん」として広く知られた大谷台長のように、住民になじみ深い知事を「顔」として会見に臨み、「いつもと違う」ということを強くアピールすることはできるはずだ、と私は思っている。

■ 事前の防災・減災施策にもっと予算と権限を

 気象庁の業務の最も大切なことのひとつは、事前に大雨や暴風などの災害をもたらす現象を的確に予測し、避難・防災行動に資する、ということである。いつ起こるか分からない災害に対して、常に目を光らせて監視し、兆候をつかめば、広く警戒を呼びかけるという業務である。大きな災害をもたらす現象が何も起こらなければ、警報や情報の発表はないまま、日々が過ぎていく。私は「何も災害が起きない」「平年並みで経過する」ことがどれほど幸せなことかと心から思っている。

 気象庁の運営にかかる予算は、家計に例えるなら「保険」にかけるお金に通じる部分があるかもしれない。いざという時のために、収入やほかの出費との兼ね合いも考えながら、どれだけの保障を用意するのか、人生の節目ごとに見直しながら検討することだろう。気象庁の予算も、今こそ十分かどうか改めて検討すべき時期に来ているのではないか。災害大国である日本において、観測や事前予測にかけるのが全予算の0.1%未満というのはあまりにお粗末でないか、と思う。

 また、政府全体に対する発言力という点では、気象庁を含む国の防災対応組織を大きく再編することも一考に値するだろう。このところ一部では「防災省」の新設が話題となっているが、私も改善策のひとつとして本気で議論すべきではないか、と思う。

 日本は、災害が起こらないと予算がつかない「災害待ち」という状況が何十年も続いていることや、気象庁の予算が少なく権限も小さいので、閣僚をトップに据えた「防災省」を立ち上げることで他省庁と互角に渡り合う必要がある、という視点である。「防災省・必要論」は何も今に始まったことではなく、筆者の学生時代の指導教授も20年ほど前にはその必要性を事あるごとに口になさっていた。さまざまな省庁で行われている防災施策を有機的につなげ、大規模な予算を確保して一層強力に進めるには、そもそも現在の省庁の枠組みを取り払うという、さらに大きな取り組みが必要になるのかもしれない。「中央防災会議」をはじめとした場で、こういう時こそ省庁の壁を乗り越えるべく政治主導で議題として取り上げてもらいたい改善策の一案と私は思う。

 

次回(第4回)は、気象解説者・気象報道の立場から課題や改善策について考える。

<参考・引用資料>

 中央防災会議HP

 気象庁 刊行物・レポート 

 気象庁 平成30年度予算の概要 

 災害対策基本法

 2018,片平敦;目視観測・予報作業の廃止も検討 地方気象台の業務縮小は防災上「支障なし」か 

 1985,大谷東平伝編集委員会 編;大谷東平伝 ――天気予報史の一側面