Yahoo!ニュース

日本代表と石川祐希、イラン戦に見た可能性。

柄谷雅紀スポーツ記者
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 バレーボール男子のネーションズリーグが開幕し、日本は宿敵のイランをストレートで一蹴した。積み重ねた強さ、そして可能性が詰まった試合内容は、今季の飛躍を予感させた。

技術と俯瞰する力、石川の際立つ存在感

 日本の中心にいたのは、間違いなく石川祐希だった。

 スパイク、ブロック、サーブの全てで得点し、両チーム最多の20得点。2番目に得点した高橋藍が10点だから、その存在の大きさは数字が示している。

 スパイクのバリエーションが豊かだった。ブロックに当てて出したり、ブロックを抜いて目の覚めるような強打をたたき込んだりと変幻自在。第3セットには、なりふり構わずに止めに来たイランの3枚ブロックをあざ笑うかのように、レフトから、そしてライトからとブロックの後ろに連続で軟打を沈める。「ああいうスキルは悪くないという手応えがあったので、試してみたという感じです」とさらり。30本のスパイクを放って18本を決め、イタリア1部リーグで磨かれた技術の高さを見せつけた。

 技術以上に光ったのは、周囲を俯瞰する力。第2セットでの出来事だった。

 第1セットを25―16で圧倒した日本は、第2セットは序盤から走られて10―14とリードを許した。原因は、スパイクを強引に打ち込んでしまっていたこと。第1セットは思うように攻撃が決まっていただけに、トスや体勢が悪くても決めにいっていた。

 だが、それを見逃すほどイランは甘くはない。6-7ではハイセットを打った石川が止められ、続いてライトから西田有志のバックアタックがブロックの餌食になった。9-11ではラリーが続き、万全の体勢でなかった高橋藍が無理に打った強打をブロックされた。

 石川は言う。

 「日本は攻撃展開が早い。ラリーが続いたときにレセプションからの攻撃の時よりも助走が取れていなくて、ジャンプが低くなってしまっていた。それでも同じコースに打ちにいって、打点が低い分、ブロックにかかるケースが多かった。自分も3枚ブロックに引っかかってしまったし、アタッカーが無理な状態で打ちにいっているのは後ろからも見えていた」

 事実、イランがこの試合で挙げた6点のブロック得点のうち、第2セットの出だしから9-12までに4点が集中。一気に流れを持っていかれかねない状況の中でも、イタリアで揉まれた主将は冷静に状況を把握していた。だからこそ、西田と高橋藍にこう声をかけた。

 「無理な状態で打ちにいってシャットアウトされているから、リバウンドをもらったりして、うまく処理していこう。相手は高さがあるし、無理に打ちにいったらやられるよ」

 助言を受けた高橋藍は「あまりジャンプをせずに打っていたところがあり、それが被ブロックにつながった。高さを出してスパイク打つことが決まることにつながる。改めてもう一回考えられた」と言う。そこから試合終了までに日本がイランに喫したブロックは1本だけ。プレーでなく言葉でチームを立て直した石川の存在感は、別格だった。

光った「チーム力」

 圧勝は石川一人の力ではない。一人で11本のディグを上げたリベロの山本智大を中心に、日本の守備は堅かった。日本のチームでのディグ本数は42本で、20本だったイランの2倍以上。ミドルブロッカーの山内晶大や小野寺太志のブロックは堅く、有効なワンタッチを粘り強く奪った。そこから切り返す攻撃もクイックを有効に使って多彩に展開し、イランを手玉に取った。この試合でテレビ解説を務めていた清水邦広は「以前ならサーブで崩さないとどうしようもなかったのが、今の日本はサーブで崩してなくても切り返せる。本当に強いと思います」と唸った。

 第3セット序盤、石川が相手コート前方にサーブを落として奪ったエースは、ベンチから戦況を見ていたリベロ小川智大からの的確なアドバイスのたまものだ。イランはサーブレシーブの際にエンドライン付近に下がって構えるために、アタックライン付近にぽっかりと穴があった。それに気付いた小川は、第3セットが始まる前、石川に「向こうは3人ともだいぶ後ろ、エンドラインのところにいるから、ショートサーブを打ったら絶対に決まる」と助言。エースを奪ったのは石川だったが、小川の確かな戦術眼が生み出した得点とも言える。石川が今季のテーマに掲げた「チーム力、組織力」の一端がのぞいたプレーでもあった。

「ジバのレベル」

 国際バレーボール連盟のある関係者は、試合を見てこう言ったという。

 「石川祐希はもうジバのレベルだ。自分のプレーだけでなく、周囲を見渡してコントロールできている」

 ジバとは、ジルベルト・ゴドイフィリョのこと。ブラジル代表のスーパースター、絶対的な存在として2000年代の世界のバレーボール界を席巻。ジバが率いたブラジルは2004年アテネ五輪で金メダル、08年北京五輪と12年ロンドン五輪は銀メダルを手にし、世界選手権は02年から10年まで3連覇。名実ともに世界最強のチームに上り詰めた。

 石川祐希が率い、着実に進歩を遂げる日本はどこまでたどり着くのだろう。そして、我々にどんな景色を見せてくれるのだろうか――。

スポーツ記者

1985年生まれ、大阪府箕面市出身。中学から始めたバレーボールにのめり込み、大学までバレー一筋。筑波大バレー部でプレーした。2008年に大手新聞社に入社し、新潟、横浜、東京社会部で事件、事故、裁判を担当。新潟時代の2009年、高校野球担当として夏の甲子園で準優勝した日本文理を密着取材した。2013年に大手通信社へ。プロ野球やJリーグの取材を経て、2018年平昌五輪、2019年ジャカルタ・アジア大会、2021年東京五輪、2022年北京五輪を現地で取材。バレーボールの取材は2015年W杯から本格的に開始。冬はスキーを取材する。スポーツのおもしろさをわかりやすく伝えたいと奮闘中。

柄谷雅紀の最近の記事