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地縁の力が生み出す安心感。「選ばれる地域」になるために互酬性はマイナスか、プラスか?

唐澤頼充地域編集者・ライター
角田浜支え合いの会立ち上げ準備メンバーの8名(筆者撮影)

日本の喫緊の課題と言われる「人口減少」および「少子高齢化」問題。総務省が公表した人口推計によると、2022年10月1日時点の人口は1億2494万7000で12年連続のマイナス。65歳以上の人口割合は29%と過去最高。15歳未満は11.6%で過去最低となった。縮小する社会で、経済、産業、行政サービスの低下は避けられない中、私たちはどう生活を営んでいけばよいのだろうか。

2020年秋、菅義偉前首相が自民党新総裁に選出された直後の挨拶で「自助・共助・公助」を打ち出し、多くの批判を浴びたことは記憶に新しい。確かに、公助を支える政府のトップの発言として、自助を第一に訴えるような内容が相応しかったかには賛否両論あろう。

しかし、都市部に比べ少子高齢化の問題が深刻化する地方では、公助のあてにならなさもまた生活実感である。その中で、「自助」「共助」のように、自分たちの手でなにかに取り組まなければいけないという危機感は強い。

今回は、古くから続く「地縁」を活かした相互扶助活動を続ける、新潟県新潟市角田浜地区の取組みについて紹介する。

生活の困り事を手伝う地域ボランティアを新設

213世帯521名(令和5年5月末新潟市住民基本台帳人口)が住む角田浜地区。(筆者撮影)
213世帯521名(令和5年5月末新潟市住民基本台帳人口)が住む角田浜地区。(筆者撮影)

新潟県新潟市西蒲区角田浜。角田山の麓、日本海側に位置するこの地区は海水浴場、ワイナリー、灯台に登山コースと観光資源に恵まれた地域だ。

この地域で2023年4月から新たに「角田浜支え合いの会」の活動が始まった。

お互いさまの気持ちを大切に、地域の方々が暮らしのなかで抱えるちょっとした困り事や悩み事を、支え合いの会が窓口となり、有志のボランティアがお手伝いする取組みだ。ボランティアの名前は「ちーとばっかサポーター(以下:ちーサポ)」。「ちーとばか」は、方言で「ほんの少し」という意味。気楽に、できる時に、できる範囲で協力してくれればOKという想いが込められている。

角田浜支え合いの会が受け付けるお手伝いは、買い物の代行やゴミ出し、草取りの手伝い、電球の交換、受診の付き添いなど、暮らしの中でのちょっとした困り事。介護保険サービス等の「公助」のお世話になる前段階を対象にした、地域をあげた相互扶助活動である。

立ち上げのきっかけとなった、地域からの声。

もともと角田浜では、2013年から地域の気になる人を見守る「見守り隊」が活動している。

そもそも地域には、地域の見守りや相談・支援、地域福祉活動を行っている「民生委員・児童委員」が存在する。民生委員は町内会や自治会からの推薦を受け、厚生労働大臣から委嘱されるボランティアだが、近年はどこの地域も担い手不足が深刻化している。他の地域がなり手不足に苦しむ中、角田浜地区では民生委員2名に加え、約20名の女性メンバーが見守り隊としてボランティア活動をしているというから驚きだ。

そんな、見守り隊が10年に渡って地域の実情を見守る中で、目立ってきたのが70代以上の高齢者一人暮らし世帯の増加だ。

「今は良くとも数年後には困る世帯が増える」

「見守りだけでなく、踏み込んだ支援が必要になる」

「女性だけでは、一人暮らし男性への支援は難しい」

と危機感を募らせ、自治会に相談を持ちかけた。

外部人材を取り込み、地域を動かした。

活動開始にあたって全世帯アンケートを実施。(筆者撮影)
活動開始にあたって全世帯アンケートを実施。(筆者撮影)

しかし、問題が顕在化している訳ではなかったこともあり、自治会は対策の必要性に懐疑的だった。そこで、民生委員が中心となり、地元の社会福祉協議会や、新潟市がすすめる「支え合いの仕組みづくり」の推進員、後に会の代表となる地元社会福祉法人の施設長など外部の人を巻き込み自治会に働きかけた。

地域外の目線が入ったことで、自治会役員も協力姿勢となり、立ち上げ準備の会に加わり、勉強会の開催や、地域アンケートの実施など、活動準備をすすめてきた。

地域アンケートでは、現時点での生活の困りごとは約77%が「特になし」と回答。しかし、5~10年後を想定すると何かしら困りごとが起こりそうな世帯が約60%と半数を超えた。特に除雪、草取り、買い物などへの不安の声が多く上がった。

最初のお手伝いは、意外な依頼?

支え合いの会では毎月会議を実施。毎回、地域の実情を交えた雑談で笑い声が絶えない。(筆者撮影)
支え合いの会では毎月会議を実施。毎回、地域の実情を交えた雑談で笑い声が絶えない。(筆者撮影)

これまでも、生活のささいな困り事は、住民同士で助けあいながらそれぞれに解決していた。支え合いの会立ち上げメンバーも、会ができたからといって、いきなりお手伝いを頼む人もあまりいないのではないかと考えていた。

そんな中で、来た第一号は意外な依頼だった。

依頼主は90代女性。見守り隊が世間話の中で、彼女が長年続けてきた家庭菜園を「本当は続けたいけれど…身体が動かなくなってきて」とやめることを知った。

よくよく話を聞くと、腰が上がらず野菜を支える支柱を立てられなくなった。それさえできれば、日々の管理はまだできるという。ちーサポの初めての仕事が決まった。

依頼主指導のもと、野菜を支える支柱を立てる。(写真提供:角田浜支え合いの会)
依頼主指導のもと、野菜を支える支柱を立てる。(写真提供:角田浜支え合いの会)

5月のはじめ、女性の畑へ2名のちーサポが手伝いに向かった。

支柱立ては簡単な仕事かと思っていたちーサポだったが、組み方には女性の細かいこだわりが沢山。なんだかんだと約2時間の大作業となった。

一度はやめる予定だった畑。夏野菜を植えると、女性は翌日から毎日畑に通っては野菜が育つのを「良かった」と言って見守っている。

直接的な生活の困難ではなくとも、住民のやりたいことや生きがいを支えるニーズがあることがわかった。

地縁の負の面と、その「力」を改めて考える。

依頼主と、ちーとばっかサポーターでパシャリ。(写真提供:角田浜支え合いの会)
依頼主と、ちーとばっかサポーターでパシャリ。(写真提供:角田浜支え合いの会)

ちーサポのボランティアは目標30~50名。

角田浜地区は、これまでも見守り隊として20名ものボランティアが活動してきたように、人助けのために動く人が多い。

さっそく「力仕事や、SNSでの発信なら何でもやりますよ」と40代の男性が手を挙げるなど、若手も加わり着実に輪を広げている。その根本には、自治会が掲げるスローガン「支え合う 小さな心が 大きな力」の通り、「助け合うのが当たり前」、「誰かがしなきゃ」、「いずれは自分が世話になるのだから」という「お互いさま」を大切にする地域の風土がある。

角田浜地区で新たな相互扶助活動がスムーズに立ち上がったのは、その土台があってこそだと思う。

しかし、一見美しい言葉である「お互いさま」には、その中には地域奉仕をすることを当たり前と強制する価値観である「互酬性」が働いている。

福井県池田町が今年1月に広報誌に掲載し、インターネット上で大炎上した「池田暮らしの七か条」は、まさにお互いさまに含まれる負の面が表出してしまったものとも言える。

このような互酬性の強い「地縁」や「血縁」は、これまで息苦しく、閉鎖的で、同調圧力の強いネガティブなものとして語られてきた。そして、こうした古い共同体から解放され「自由」な社会をつくることが是とされてきた。

確かに、地縁・血縁といった義務化された相互扶助関係は負の面を含む。

その一方で、人に特別な安心感をもたらしてくれるものでもある。

支え合いの会へ最初に持ちかけられた「自分の畑を続けたい…」という必ずしも生活上必要と言いきれない相談。そんな個人的な「願い」に、公平平等を第一義とする行政は応えられただろうか?制度の外に存在する「縁」だからこそ、利害関係や、支援基準を超えて柔軟に対応できたのではないか。

そんなお互いさまの気持ちに支えられて生まれた女性の笑顔は尊いものに感じる。

(写真提供:角田浜支え合いの会)
(写真提供:角田浜支え合いの会)

こうした、自分を助けてくれる顔の見える人たちに囲まれた地域に暮らすということは、何ものにも代えがたい安心感を与えてくれる。

「自分が地域のために奉仕することで、いつか自分も助けてもらえる」。そうした互酬性に根ざした地縁的な価値観に共感し、農村地域へ移住する若者もいる。

事実、筆者もその一人である。

「一生懸命働いて納税していれば、困ったときは行政がちゃんと福祉で助けてくれる」

「一生懸命働いて貯蓄して、困ったときは自分でなんとかする」

人口減少がすすむ厳しい社会状況の中で、はたして私たちはどの見通しを信じられるだろうか。

社会の流動性も高まり、多くの人にとって「地縁」は逃げられるものとなり、地域共同体はその力を失っていった。そして個人が自由になった社会は、逆に無縁社会と呼ばれるほど、人々が孤立し、孤独になっていると言われる。

今では「縁」は自動的に与えられるものではなく、自ら行動しなければ得られないものになってしまった。地方移住への関心の高まりは、なくした「縁」への憧れとも受け取れる。そうだとすると、ある程度大変で、煩わしくとも「よき地縁」があることは、「選ばれる地域」となる理由の一つになるのではないかと筆者は考えている。

地域編集者・ライター

1985年生まれ。新潟を拠点に企業や行政のPR、移住、観光、ものづくり、農業など幅広い分野で取材・編集物制作、イベント企画等を行う。2014年より長岡市のながおか市民協働センターを運営するNPO法人にて、まちづくり・ソーシャルセクターの支援活動も実施。現在、新潟市西蒲区福井地区に住み、古民家保存や農業コミュニティの運営を担うプレイヤーとしても活動中。活動テーマは「生活世界の豊かさを育む」。土筆舎の名称で「農ある日常を届ける。まきどき村の生活誌 TANEMAKI 」を編集・刊行。米作り6年生。目指すは半農半筆。

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