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コロナ第7波が押し寄せる中、5~11歳への新型コロナワクチンの接種の意義は?

紙谷聡小児感染症専門医、ワクチン学研究者
(写真:イメージマート)

今回は、5歳から11歳向けの新型コロナワクチンについて現時点での最新研究結果もふまえ再度解説します。まず最初に重要な点からお伝えすると、下記のように厚生労働省のウェブサイトによると5~11歳向けの新型コロナワクチンが公費(無料)で接種を受けられる期間が今年の9月30日までと予定されています。もちろん予算措置等の関連で便宜上期限を設定しているだけかもしれず、延長する可能性も十分にある一方(極めて重要なワクチンですのでぜひ延長していただきたいです)、7月17日現時点の情報ではこの時期を過ぎた後の国の予防接種の実施方針は不明確です。一方で、第7波が日本に押し寄せ、免疫がついてない多くの子ども達がウイルスの標的になっているという事実があります。

2022年2月から5~11歳向けの新型コロナワクチンが日本でも開始になりましたが、図1のように7月11日時点で約16%と極めて低い接種率です。これら、12歳~17歳の75%や大人の接種率80%~90%以上と比べて、はるかに低い水準です。これは、やはり様子を見たい、情報が不足しているから心配などといった親御さんの考えを反映しているだと思います。

図1
図1

そこで今回は、前回の解説から半年が過ぎ、様々な最新の研究結果が発表され、情報もアップデートされましたので、これらについて解説します。上述のように公費期限の心配もありますので、お子さんの接種を考慮するうえでぜひ参考になればと思います。

まずおさらいですが、5歳から11歳へのファイザー製ワクチンは、従来の量(12歳以上を対象)の3分の1の量となります。初回シリーズは2回接種と変わらず、接種間隔も3週間と大人と変更はありません。そして、デルタ流行期の2021年にこの年齢群で行った4500人以上の臨床試験にて、5歳~11歳のワクチンによる抗体量は大人と同程度の量を確認でき、さらに発症予防効果は約90%でした。(1)しかし、ご存じのとおりその後オミクロンが台頭し、大人と同様にこうしたワクチンによる効果が弱くなってしまうことが子どもでも危惧されました。

それでは、まず最新の研究ではオミクロンに対するワクチンの実際の効果はどれほどなのでしょうか。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の多施設でのオミクロン流行下での研究によると、救急外来や急病診療所での受診が必要になるレベルの感染を防ぐ効果は2回接種で約51%であることがわかりました。(2)さらに、CDCの別の研究によると、5~11歳で、2回接種後に無症状を含む感染や発症の予防効果は31%(12~15歳で59%)でした。(3)さらに、私も関わった全米のこども病院での研究では、5~11歳のオミクロン流行下の入院が必要なレベルの重症感染を防ぐ効果は68%(接種後約34日時点)でした。(4)ちなみにこの研究では12歳以上の子ども達も調べており、接種後6ヵ月を経ても重症化予防効果は維持されていることがわかっています。

いかがでしょうか?この数字をみて、いや~ワクチンほとんど効果ないじゃないか、と思われますか?

たしかに、今までの、特にデルタまでの新型コロナに対する絶大な効果に比べると、こうした数字にがっかりする気持ちもわかります。しかし、基本にかえってその他の呼吸器ウイルス感染に対するワクチンと比較するとどうでしょうか?

図2
図2

図2をみると、インフルエンザワクチンの小児への入院予防効果は約40~50%であり、肺炎球菌ワクチンも5割後半から8割といったところです。すなわち、新型コロナワクチンのオミクロンに対して68%の入院予防効果とは、パーフェクトではないものの依然として高い重症予防の効果があるのです。ここで、感染自体を予防できなければ意味ないじゃないかという意見もあるようですが、小児科医としては万が一の入院が必要なほどの重症化が7割近くも防げて、救急受診の必要性を半分も減らせるのであれば接種する意義は大いにあると考えています。もちろん、こうした数字は常に変異をくりかえしているウイルスによってBA4,BA5も含め変化していくと思いますが、全くの無防備よりは良いですし、子どもでもブースター接種によって効果は増加することが見込まれますし、今後は現在開発中の変異用のワクチンもでてくることも期待されています。

さらに重要な効果として、ワクチンは新型コロナに関係する合併症や後遺症を予防する効果も認められてきています。(5,6)例えば、今日本でも増えている子どもの新型コロナの重症合併症である多系統炎症性症候群(MIS-Cと呼ばれ全身の心臓や消化器などの臓器に炎症を起こす)は、アメリカでは2022年7月現在、8000人以上の子どもが患いその内70名の子どもが亡くなっているのですが、その後の我々の研究でワクチンを接種することでMIS-Cの発症を約90%も防げることがわかっています(MIS-Cを発症した子の95%はワクチン未接種でした)。(6)

これだけ社会が心配してとりあげているコロナですし、子どもの感染が増えるにつれて子どもでも重症例の報告が増えてきていることもあり、もし自分のお子さんがコロナにかかってしまったら、親御さんだけでなく子ども本人もとても不安になると思います。けれどもしワクチンを打っていたら、「大丈夫、ワクチンを打っているからめったなことにはならないから安心してね」と子どもに伝えることができるのは、親にとっても子どもにとってもとても安心できるものだと思います。

気になる副反応については?

次に気になる副反応についてです。まずこれもおさらいですが、図3と4のように、5歳~11歳用のワクチンでは、発熱や倦怠感、頭痛といった副反応は成人と比べて軒並み頻度が低くなっていることが治験でわかっています。これは、治験後の調査でも同じ結果がでており、大人と同様の量を接種する12~15歳と比べても、副反応は少なくなっているのです。もちろん、お子さんによっては100人あたり6人の頻度でお熱がでてしまうこともありますが、通常数日以内に良くなりますし、解熱剤を使用して症状を和らげることもできます。

図3
図3

図4
図4

心筋炎の頻度は?

さらに重要なこととして、ワクチン接種後に主に20代前後の男性にまれに起こる心筋炎(心臓の筋肉の炎症)の頻度が、ワクチンの量を減らした5歳~11歳でも起きるのか、起きるならどの程度の頻度で起きるのかについて詳細がわかってきました。結論から言うと、図5のように12歳以上と比べて非常に少なくなり、男の子でも雷に打たれる確率と同じくらいの頻度(100万接種あたり2~3例)まで減りました(ワクチンと関係なく自然に起きる(他のウイルスに感染などしておこる)心筋炎の頻度とほとんど変わらない頻度まで低下しています)。女の子に至ってはワクチンを打っても心筋炎は現時点で増えていない状態です(つまりこの年齢の女の子はワクチン打ってもリスクは増えていない)。

図5
図5

以上をまとめると、5歳~11歳用のワクチンはそもそも量が3分の1になったからなのか、心筋炎も含めて副反応の頻度が減少したというより安心できる調査結果がでたのです。

打たないリスクも考える

最後に、打つリスクだけではなく、打たないリスクについても掘り下げていきましょう。子どもが新型コロナにかかると、多くは軽症(といっても高熱がでたり症状が強かったりはしますが)ですむのですが、なかには食べられなくなり脱水になったり、けいれんしたり、まれに脳の炎症をきたしたり、症状が良くならず何か月も倦怠感や頭痛などの後遺症をきたしたり、治ったかと思えば感染して約1カ月後に発症するMIS-Cの合併症のリスクもあったりと、決してあなどれない、やっかいなウイルス感染であるといえます。さらに、新型コロナの自然感染でも心筋炎になるのですが、ワクチンによるものは軽症で済むことが多い一方、ウイルスの自然感染による心筋炎は重症例が多く、極めて治療に難渋する事があります。イスラエルの大人の研究では、ワクチンで心筋炎になるリスクよりも、自然感染で心筋炎になるリスクのほうが高い可能性があることも報告されています。(7)つまり、ワクチンを打たないという選択をするということは、リスクフリーとは程遠く、無視できない多様なリスクが伴うことを忘れてはならないのです。

ちなみに、子どものコロナ感染はただの風邪とおっしゃる方もおられますが、「風邪」という言葉も実は結構あいまいで、一般の方のイメージする風邪と、医療者が考える風邪には乖離がある場合があり注意が必要です。風邪のウイルスでも脳炎や脳症になることがあるし、心筋炎になるし、重症化することだってあるよね、という意味で一部の医療者がコロナを風邪としてとらえている事があり、一般の方がイメージする風邪はすぐ治って軽くすむものとはとらえ方が異なる事があります。いずれにしても、軽症から重症、後遺症もふくめ多くの子どものコロナ感染を診てきた私にとって、子供のコロナはただの風邪ととらえることは少々無理があるように思えます。

今までの風邪ウイルスが、新型コロナのような何か月も長引く息切れや倦怠感などの後遺症をきたしたでしょうか?

これほどの頻度で重要な五感である嗅覚や味覚の障害をもたらす風邪が今まであったでしょうか?

上述したMIS-Cという心臓や消化器、皮膚といった多臓器に及ぶ炎症を子どもにもたらす風邪など今まで聞いたことがあるでしょうか?

子どもにおける新型コロナ感染症の一部の側面だけをみて、ただの風邪と片付けるのは、危ういのではないかと考えています。

いつもお伝えしていることですが、新型コロナに対する免疫は、ウイルスに感染するか、ワクチンを接種するか、のどちらかしかつきません。これが現実なのです。ワクチンを打たないということは、いつか襲ってくるウイルスに、事前準備なしで体は戦うことになり、上記のリスクをとるということになります。一方でワクチンを打つ利点とリスクは、今回解説したとおり、パーフェクトじゃないけど依然として打たないよりずっとよい予防効果、そして大人よりもずっと少なくなった副反応です。そのようなワクチンを接種できる機会があるのにも関わらず、大人や12歳以上の子どもだけ75~90%以上の接種率で守られて、11歳以下の子ども達だけいまだ16%しか守られていないのは小児科医としては複雑な想いです。

国が公費での接種期限を9月末以降も延長していただくことを切に願っていますが、もし公示どおり9月末が期限だとすると、3週間空けての2回接種が必要であることを考慮すると、接種をお考えの方は8月中には1回目を接種しておきたいところです。いずれにせよ、早く免疫をつけておくことは重要です。幾度となく襲ってくるコロナの波に今一番さらされている子ども達です。その子ども達をどうやって守っていくのか、今回の記事を機に今一度考えてみるきっかけになればと思います。

また、5歳~11歳用にワクチンについて、ヤフーが特設Q&Aコーナーを設けていますので、ぜひ参考にしてみてください。

参考文献)

1.Walter EB, Talaat KR, Sabharwal C, et al. Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age. N Engl J Med 2022;386(1):35-46. (In eng). DOI: 10.1056/NEJMoa2116298.

2.Klein NP, Stockwell MS, Demarco M, et al. Effectiveness of COVID-19 Pfizer-BioNTech BNT162b2 mRNA Vaccination in Preventing COVID-19-Associated Emergency Department and Urgent Care Encounters and Hospitalizations Among Nonimmunocompromised Children and Adolescents Aged 5-17 Years - VISION Network, 10 States, April 2021-January 2022. MMWR Morbidity and mortality weekly report 2022;71(9):352-358. (In eng). DOI: 10.15585/mmwr.mm7109e3.

3.Fowlkes AL, Yoon SK, Lutrick K, et al. Effectiveness of 2-Dose BNT162b2 (Pfizer BioNTech) mRNA Vaccine in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Children Aged 5-11 Years and Adolescents Aged 12-15 Years - PROTECT Cohort, July 2021-February 2022. MMWR Morbidity and mortality weekly report 2022;71(11):422-428. (In eng). DOI: 10.15585/mmwr.mm7111e1.

4.Price AM, Olson SM, Newhams MM, et al. BNT162b2 Protection against the Omicron Variant in Children and Adolescents. N Engl J Med 2022;386(20):1899-1909. (In eng). DOI: 10.1056/NEJMoa2202826.

5.The effectiveness of vaccination against long COVID. UK Health Security Agency. (https://ukhsa.koha-ptfs.co.uk/cgi-bin/koha/opac-retrieve-file.pl?id=fe4f10cd3cd509fe045ad4f72ae0dfff ).

6.Zambrano LD, Newhams MM, Olson SM, et al. Effectiveness of BNT162b2 (Pfizer-BioNTech) mRNA Vaccination Against Multisystem Inflammatory Syndrome in Children Among Persons Aged 12-18 Years - United States, July-December 2021. MMWR Morbidity and mortality weekly report 2022;71(2):52-58. (In eng). DOI: 10.15585/mmwr.mm7102e1.

7.Barda N, Dagan N, Ben-Shlomo Y, et al. Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting. N Engl J Med 2021;385(12):1078-1090. (In eng). DOI: 10.1056/NEJMoa2110475.

小児感染症専門医、ワクチン学研究者

エモリー大学小児感染症科助教授。日本・米国小児科専門医。米国小児感染症専門医。富山大学医学部を卒業後、立川相互病院、国立成育医療研究センターなどを経て渡米。現在、小児感染症診療に携わる傍ら、米国立アレルギー感染症研究所が主導するワクチン治療評価部門共同研究者として新型コロナウイルスワクチンなどの臨床試験や安全性評価に従事。さらに米国疾病予防管理センター(CDC)とも連携して認可後のワクチンの安全性評価も行っている。※記事は個人としての発信であり組織を代表するものではありません。

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