プーチン大統領最大の敵?~ロシア反政府活動家ナヴァリヌイの拘束

ロシアの反政府活動家ナヴァリヌイ(写真:ロイター/アフロ)

ロシア治安機関による暗殺?

1月17日、ロシアの反政府活動家、アレクセイ・ナヴァリヌイが療養先のドイツからの帰国直後、モスクワ市内の空港で拘束された事件で欧米が騒いでいる。それもそのはず、ナヴァリヌイは泣く子も黙るロシア政府機関から目をつけられている反政府活動家のシンボル的存在で、昨年8月末にロシアの特務機関により毒殺されかけた人物である。毒殺未遂直後にドイツの病院に運ばれて治療と療養を受けていた。

毒物を調査したドイツ政府は、使用された毒物がソ連時代に開発された神経剤「ノビチョク」であると断定した。この反政府活動家の動向には米国政府を始めとする各国が注目しているのである。因みにナヴァリヌイ毒殺未遂疑惑についてロシア政府は否定しているが、ナヴァリヌイはプーチン大統領自身の指示によるものだと主張。昨年10月には、EUが連邦保安庁長官を含むロシア政府高官らに制裁を決定している。

ナヴァリヌイとは何者か

ではなぜナヴァリヌイはロシア政府に恐れられる存在となったのか。ナヴァリヌイの活動は、何よりもロシア政府高官の汚職を暴露することから始まった。サイトを運用するなどインターネット技術を活用して、サイト利用者からの情報をもとに国の調達事業の入札を監視する「ロスピル」などのプロジェクトを展開している。競争性が疑われる入札案件があれば独占禁止庁などの当局に訴えることで、汚職を阻止するというわけである。実際に、ナヴァリヌイらの活動によって、2011年の活動開始から数年のうちに、多額の汚職が阻止されたと言われている。これだけを見れば、政府内部に巣くう腐敗を摘発し、阻止する有益な活動に見える。

しかし、ナヴァリヌイらの考えによれば、こうした腐敗は構造的なもので、プーチン政権に深く巣くった病魔なのだ。こうして彼らの活動は政府高官の腐敗を暴露することにつながっていった。その調査対象には、プーチン大統領やメドヴェージェフ元首相はもちろんのこと、チャイカ元検事総長やロゴジン宇宙庁長官などの政府高官が幅広く含まれ、プーチン大統領の取り巻き達に疎まれる存在になっているのである。因みに、拘束後の19日には、YouTubeで、1400億円相当のプーチンの私邸なるものを公開している。

反政府デモの呼びかけ

それだけではない。ナヴァリヌイのインターネットを通じた影響力は若者たちに浸透しており、ナヴァリヌイの呼びかけで数千人規模の街頭デモが行われてきた。今回の拘束劇に続く30日間の拘留判決の直後、早速ロシア国民に向けて、1月23日に街頭デモを行うよう呼び掛けている。

「パイプの上のヒキガエル」(訳注:プーチン大統領)が恐れているものは何か?シェルターの中の泥棒たちが最も恐れているものは何か?ご存知のとおり、人々の街頭デモだ。というのも、これこそ無視することのできないもの、政治的なファクターだからだ。これはもっとも重要なもので、政治の本質なのだ。だから恐れないで街頭に出よう。僕のためではなく、自分のため、自分の未来のために。

この呼びかけに応えて街頭に出る人々の数はかなりの数に上るだろう。ナヴァリヌイの拘束については、すでに述べたとおり、米、独、仏、EUなど主要国が懸念を表明している。毒殺未遂から帰国後の拘束に至る今回のナヴァリヌイ事件は、国際的にも国内的にもプーチン政権にとっての打撃になる。すでに支持率がこれまでで最低レベル(といっても昨年11月時点で65%(露の世論調査機関「レバダセンター」))まで下がっているプーチン大統領にとっては痛手となるかもしれない。

反プーチンのイコン

しかし、支持率が低下傾向にあるとはいえ、それでも高い支持率を誇り、かつ圧倒的な権力を持つプーチン大統領にナヴァリヌイは本当に対抗できるのか。「レバダセンター」の世論調査(次の日曜日に大統領選挙があった場合、誰に投票するか?)では、ナヴァリヌイの得票率は4位で、しかも2%に過ぎない。同じ調査でプーチン大統領はトップで55%である。多くの国民にとって、選択肢はプーチン一択である事実に変わりはない。

ナヴァリヌイはプーチン大統領自身が、自分の毒殺未遂の背後にいると主張しているが、すでに述べたとおり、プーチン以外の政府高官や連邦保安庁などの治安機関もナヴァリヌイを疎ましく思っている。プーチン大統領が直接指示したかどうかはわからないだろう。

いずれにしても、プーチン政権はナヴァリヌイに対して強硬に出ざるを得ない。ナヴァリヌイはプーチンのロシアにとっての招かれざる客だ。政府は彼を軽視して放置することは危険だと感じている。今回の勇敢な帰国でナヴァリヌイはすでに反権力のイコンになりつつある。ここで手綱を緩めることは、ソ連末期のグラスノスチ(情報公開)やペレストロイカのように、反政府活動がとどめようもなく拡大していく恐れがあるからだ。