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マツコをザワつかせた「40代主婦集団」コマエンジェル、花の「銀座」で暑苦しく踊る

亀松太郎記者/編集者
さまざまな表情でポーズを決めるコマエンジェルたち(撮影・大島りんご)

それは5月15日の夕方のことだった。TOKYO MX TVが誇る情報番組「5時に夢中!」で、視聴者のメッセージが読み上げられたのだ。

「狛江市には、コマエンジェルという地元の主婦たちが結成したパワフルでユニークなパフォーマンス集団がいます」

番組が問いかけた「地元に誇れるモノがありますか?」というお題に答えた内容だった。それを聞いて、コメンテーターのマツコ・デラックスさんが「グフフ」と笑う。すると、すかさず、司会のふかわりょうさんが「はい、ざわざわしない!」と注意したのだった。

平均年齢45歳。セクシーな衣装でパワフルに踊る

夕方のテレビに突然登場した「コマエンジェル」とは、なんなのか。

一言でいうと、東京郊外の狛江市を拠点に活動する''主婦パフォーマンス集団'''ということになる。十数人のメンバーは38歳から49歳までで、平均年齢は45歳。そんな熟女たちがセクシーな衣装を着て、大勢の観客が見つめる舞台で、踊り、跳ね、歌う。

パワフルな歌とダンスに加え、「更年期」や「オバさん」などの自虐ネタをおもしろおかしく表現する一風変わったパフォーマンスが特徴だ。その人気はじわじわと高まり、昨年9月に狛江市で開いた10周年公演では、延べ1000人を超える観客を集めた。さらに11月には山形県酒田市の元キャバレーで出張公演、今年4月には新宿区の劇場で公演と活動の範囲を広げている。

5月28日に銀座の舞台にたつコマエンジェル(撮影・大島りんご)
5月28日に銀座の舞台にたつコマエンジェル(撮影・大島りんご)

結成は2006年。コマエンジェルというグループ名は、その少し前にヒットしたキャメロン・ディアス主演の映画「チャーリーズ・エンジェル」をイメージしたという。「アラフォーの主婦がキャメロン・ディアスになりきってダンスをするという痛々しい感じ」とリーダーのミワティ(49)は説明する。

ちなみに、コマエンジェルでは「ナオティ」「タミティ」といった感じで、メンバーの名前に「ティ」をつけて呼ぶ。「その当時、藤本美貴さんの『ミキティ』とかが流行っていたのでなんとなく・・・」(ミワティ)とのことで、特に意味はないそうだ。

コマエンジェルは、狛江市や近隣の世田谷区、横浜市などで子育てをしている主婦たちが中心になっているが、多くは20代にダンスや演劇に取り組んだ経験を持つ。

「もともとは舞台役者で、小学校向けのミュージカルツアーで全国を回ったりしていました」。そう語るのは、美大の演劇学科出身のジュンティ(41)だ。結婚・出産などで舞台から10年以上遠ざかっていたが、38歳のとき、コマエンジェルの存在を知って衝撃を受け、カムバックを決意した。

「私、コマエンジェルに入ったときは太ってたんですよね。産後太りが激しくて、身長150センチなのに、体重は65キロもありました。それが3年たった今は50キロくらい。コマエンジェルで痩せたんですよ!」

銀座での公演に向けてダンスの練習をするコマエンジェルのメンバーたち
銀座での公演に向けてダンスの練習をするコマエンジェルのメンバーたち

3人の男子の母親であるカヨティ(49)は、20代をダンスとともに過ごした。「学生時代にジャズダンスを始めて、就職してからも仕事の帰りに教室に通っていたんです。でも、子どもが生まれて、やめました」。

ミワティが近所に住んでいたため、コマエンジェルの結成に加わった。「活動を始めたら『これじゃダメだ』と思って、再びいろいろなダンスのスクールに行くようになりました」。もともと人前で踊るのが好きな性格。いまは主婦業の合間に踊ることが、ストレス発散になっている。

「昭和という時代を生きた女性」の人生を描く

コマエンジェルのリーダーとして、脚本・演出を手がけるミワティは30歳までの10年間、小劇団の座長として演劇の世界にどっぷり浸かっていた。しかし結婚して、子どもが生まれたのを機に引退。二人の子どもの母親として、どこにでもいるような主婦の役割を果たしてきた。

そんなミワティが脚本を書いたコマエンジェルの集大成「幾星霜」は、昭和という時代を生きた一人の女性の一生を、踊りと歌で表現する叙事詩だ。そこでは主人公が「ダンサーの夢を諦めて結婚する」というシーンが出てくるが、ミワティの半生が投影されている。

平凡ながら懸命に生きようとする女性が主人公の「幾星霜」のストーリーは、コマエンジェル世代の40代主婦から熱狂的に支持されている。

「母と娘の映像が流れる場面で、母と私の日々、私と娘の日々がオーバーラップして、こみ上げてくるものがありました」。そう語るのは、神奈川県相模原市に住む主婦アキコさん(48)だ。11歳の一人娘がいるという彼女は、4月の公演を見ながら号泣してしまった。

「一生懸命に私を育ててくれた母との思い出、一生懸命に育ててきた娘との思い出。それらはふだん、あまり思い出すことがないのですが、コマエンジェルの舞台を見ていたら一気に出てきて、泣けてしまったんです」

コマエンジェルの舞台「幾星霜」は一人の女性の人生を描いている(撮影・大島りんご)
コマエンジェルの舞台「幾星霜」は一人の女性の人生を描いている(撮影・大島りんご)

だが、コマエンジェルのパフォーマンスは、ただの「お涙ちょうだい物語」ではない。「笑いと涙の感情ジェットコースター」という指摘もある。メンバーのカヨティと家が近所だという狛江市の主婦タマキさん(49)は、その魅力をこう語る。

「コマエンジェルを最初に見たときの印象は強烈でしたね。同年代のママさんたちなのに、ダンスのキレがすごかった。メイクや衣装もバッチリで、『こんなの見たことない!』という唯一無二感がありました。しかも見ているほうが恥ずかしくなるような大胆な動きもあったので、ドキドキさせられました」

40代の主婦がここまでやるのか、というのは、コマエンジェルの舞台を見た観客の多くが抱く感想だ。「公演を見て元気が出た」というのは前述のアキコさん。「私と同じような主婦のみなさんが、ものすごく頑張って素敵なパフォーマンスをされていることに心から感動して、私も頑張ろうという気持ちになりました」

夢のような銀座公演「開き直って自分を表現する」

コマエンジェルのリーダーのミワティは「見てくれる人が『面白い!』と思うものを作りたい」と話す。

「メンバーには『綺麗に見せようとしないで』と言っています。逆に『もっとイライラさせて』とか『もっと暑苦しく』と要望していますね。いかに個々のメンバーをキャラ立ちさせられるかが、大事なんです」

メンバーの一人が親戚で、コマエンジェルの広報を手伝っている編集者の氏家英男さんは、コマエンジェルのユニークさを次のように表現する。

「子どもがいる女性は、家庭では『母親』という役を演じないといけない。だけどコマエンジェルでは、そこから完全にとき放たれて、とんでもない格好で踊ったりすることができる。それが彼女たちのパワーの源泉になっている」

そんなコマエンジェルの公演「幾星霜 OKAWARI」が5月28日(日)、銀座の博品館劇場で催されることになった。主婦グループの活動と考えると異例のことだ。

好評だった「幾星霜」が銀座・博品館劇場でも上演される
好評だった「幾星霜」が銀座・博品館劇場でも上演される

ミワティに意気込みを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「私たちが銀座の博品館で上演できるなんて夢のようで、正直プレッシャーもあります。でも、開き直っています。メンバーのそれぞれが自分の個性を表現して、演出やスキルを超えたものを出せればと思います。公演が終わったあとに、お客さんから『なんだかよくわからなかったけど、面白かった』と言ってもらえれば、一番うれしいですね」

ちなみに、マツコさんが笑ったのがきっかけになったのか、TOKYO MX TVもコマエンジェルに高い関心を示している。5月22日(月)の「5時に夢中!」では、<「謎のパフォーマンス集団コマエンジェル」を調査!!>と題した取材映像が放送される予定だ。

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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