あなたのお金は、地域内でまわっていますか?地域経済の今後を決める「漏れバケツ理論」と、始めている町

(写真提供: 福井県池田町)

「お金だけでは人は幸せになれない」

「稼ぐだけでなく、働く喜び、やり甲斐を感じられる仕事をしたい」

ここ数年、よくそんな声を耳にします。

経済だけでなく、心の豊かさや人間らしい暮らしを求める人が増えている。

これ以上GDPが成長しても幸福度は上がらないという調査結果もあり、経済の拡大志向や過度なグローバル化への疑問も聞かれます(*1)。

一方で、社会は変わらず「景気が回復したか、成長したか」といった、経済の質ではなく量を指標とする流れで動いている。

地方において、”大きな経済”の影響は顕著です。巨大なドラッグストアやショッピングモールが目立つ一方で小さな店はなくなり、地域経済は疲弊している(*2)。

従来の指標ではなく、新しい経済へのアプローチやシステム、指標が必要になっているのかもしれない。でも一体どんな?この連載「ローカルから始める、新しい経済の話」では、新しい経済の考え方やしくみについて実践や検討を始めている自治体や経営者、学者、金融関係者に話を聞きにいきます。

今回は「漏れバケツ理論」の話と、その考え方に基づき経済の取り戻しを進めている北海道の下川町の事例です。

これまで地域活性といえば、企業誘致や観光・産業など、“外から稼ぐ”ばかりに注力され、「域内に入ったお金がどう使われるか」には、ほとんど着目されてきませんでした。じつはそれが、地域経済にとって大きな意味をもつという話です。

どれくらい稼いでいるか? でなく、どれほどのお金が出ているか? を意識する。「漏れバケツ理論」

「持続可能な地域社会総合研究所(以下、持続研)」の藤山浩さんは、地域外から稼いできたお金がどれくらい、どんな分野で外へ流出してしまっているか? を調査しています。

「観光や物品販売などでお金を稼いでも、すぐに地域から出て行ってしまったら、漏れバケツに懸命に水を注いでいるようなもので、地域はいっこうに豊かになりません。大切なのはそのお金を域内でいかに循環させて経済活動を生むか。そのためには、まず漏れ穴を知って、ふさぐことです」

この漏れ穴をふさごうとする考え方は、イギリスのNew Economic Foundationという機関で発案され「漏れバケツ理論」と呼ばれる(*3)
この漏れ穴をふさごうとする考え方は、イギリスのNew Economic Foundationという機関で発案され「漏れバケツ理論」と呼ばれる(*3)

繁盛している店でも、仕入れのほとんどが地域外からだったり、本社に売上を吸い上げられていたら、地域経済に貢献している度合いは低い。逆に、地元から多く仕入れたり、雇用を多く生む店なら地域経済への貢献度は高いことになります。

自分が使ったお金が、どれくらい町に残り、地域内をめぐっているのか?

考えたことはあるでしょうか。

外に依存しすぎて弱っている地域経済を少しでも強くしよう

一般社団法人「持続可能な地域社会総合研究所」所長の藤山浩さん
一般社団法人「持続可能な地域社会総合研究所」所長の藤山浩さん

藤山さんは、日本で初めて島根県に設立された「中山間地域研究センター」の研究員として約20年間、人口などあらゆるデータ分析を行い、小さな集落が存続し続けるための研究を続けてきました。2017年には独立して持続研を設立。人口問題とともに、地域に経済活動を取り戻すための研究も進めています。

例えば、と藤山さんは福井県池田町の事例を教えてくれました。人口2631人、944世帯の小さな町。

「調べてみると、地元で使われているお金は域内購入が3割で、域外購入が7割。約5億円が外へ流出しています。地元のお店でも、仕入れも町内で行っている率は9%。大半のお金は外へ漏れ出ているというわけです(*4)」

これだけ世界の経済が絡まり合っている現代、私たちの暮らしをグローバル社会から切り離すのは難しいことです。藤山さんの提案も、決してグローバル経済を否定するものではありません。

ただ、外に依存しすぎて弱っている地域経済を、少しでも強くしようという提案です。

そのためのステップは大きく3つ。

Step1:地域に入り、出ていくお金の流れを知る

Step2:地域内に仕事をつくり(ふさいで効果的な項目の)漏れ穴をふさぐ

Step3:地域内でお金の循環を高める

藤山さんの研究所が行っている家計調査では、項目ごとに何の域外購入率が高いかがわかるため、どの分野の漏れ穴をふさげば効果が出るか、対策を考えることができます。

福井県池田町。自然豊かで山菜や農作物など自給している食材も多いが、より自給率を高めるために町では域内消費の家計調査を行っている。(写真提供: 池田町)
福井県池田町。自然豊かで山菜や農作物など自給している食材も多いが、より自給率を高めるために町では域内消費の家計調査を行っている。(写真提供: 池田町)

藤山「例えば池田町では、総菜おかず・弁当にかけている住民一人あたりの費用が年間3万円ほど。その74%が域外消費です。仮に地元の食材をつかった弁当屋をつくったとして、みなが今の半分でもそこで買い物をすれば、3000万円規模の事業になります。その分を地域に取り戻せるということです」

大きな経済に影響を受けて地元の小さな店がなくなってきた歴史を考えれば、この試みは、一見、市場の原理に反しているようにも思えます。でも従来と大きく違うのは、住民が何にお金を使っているかをしっかり調査するステップがあった上で、需要のあるところに、仕事をつくること。それも、地元でできそうな範囲で。

 高知県佐川町の、多世代交流施設・集落活動センター前にて。野菜やお菓子、花など地産品の販売が行われ、地域経済の取り戻しに寄与。
高知県佐川町の、多世代交流施設・集落活動センター前にて。野菜やお菓子、花など地産品の販売が行われ、地域経済の取り戻しに寄与。

求められているところに仕事をつくる、という発想にヒントがあります。

さらには新しく生まれた仕事が、顔の見える域内で働く生き甲斐や喜びを生み出す可能性も秘めている。池田町では町が率先して、このような域内消費の家計調査に乗り出しています。

地域で、ぐるぐるめぐる経済を

3つめのステップは、域内でのお金のめぐりです。

一度まちに売上として入ったお金が、その後どれくらい域内をめぐり、どれくらいまちに落ちているのか? も重要。

藤山「外から仕入れたパンを販売するだけでは流通手数料しか入りませんが、原料の生産から製造販売までを地域内で行うとしたら、小麦の生産、パンの製造、そして販売と、それぞれに売上がたちます」

得たお金を使うポイント(生産や流通、サービス)が町内にたくさんあることで、地域経済が活気づくということです。

こうして一度町に入ったお金がどれくらいの経済効果を生むか? を測る際には「地域内乗数」(LM- Local Multiplier)という指標が用いられます。

例えば、あるお金(A=1万円とする)が地域に売上として入った後、そのお金が次に域内でどんな売上を生み(B円)、さらに3ラウンド目にいくら生むか(C円)までを計算して、その合計額が元の何倍になるか? を出した数値です。

 

仮に、3巡とも80%ずつが地域に入るとしたパターン1、20パーセントずつしか入らないパターン2を比較すると……地域で生まれる経済効果は約2倍の差になります。

地域内乗数、LM3の考え方
地域内乗数、LM3の考え方

まちの大きな「漏れ穴」をふさいだ北海道下川町の事例

こうした「域内経済」の漏れ穴に着目して新たに事業をつくり、実践を進めている町があります。北海道下川町。人口3400人ほど、面積の約9割が森林の町です。

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かつては鉱山で1960年代の最盛期には1.5万人いた人口が、80年代に鉱山が休山となり急減。さまざまな対策が行われてきました。その基軸が、循環型の森林経営。町有林4500haのなかで、毎年50haに植林し、60年間育てた後に伐採するという持続可能なしくみを構築。一本の木から住宅建材や家具、木炭、精油、木質バイオマス用のチップ製造など森林資源を余すことなく使う取組みを促進してきました。

そこには一貫して「町が生き残るためにはどうしたらいいか?」という視点があったことを環境未来都市推進課SDGs推進戦略室、室長の蓑島豪さんは教えてくれました。

「一つのきっかけは、平成の大合併の時期に自立を選んだことです。他に頼らず、どうやって自分たちだけでやっていくのか議論が盛んに行われました。

その結果、2006年に制定した自治基本条例に持続可能な地域社会の実現を目指すことを位置づけ、森林などの地域資源を活かした活性化策を進めていくことになったんです。その策をより効果的に打つために、町全体が何で儲かっていて何にどれくらいお金を使っているかを把握する必要がでてきました」

北海道下川町、環境未来都市推進課SDGs推進戦略室、室長の蓑島豪さん
北海道下川町、環境未来都市推進課SDGs推進戦略室、室長の蓑島豪さん

企業であれば当たり前ともいえる収支表ですが、町全体となると複数の事業社の売買の実績を知る必要があり、役場だけでは作成が難しいところ。下川町では大学の協力を得て町内の事業者に聞き取り調査をし、2012年に「産業連関表」をつくりました。

現在では、2015年に公開された「RESAS(地域経済分析システム)」という、市町村の産業構造や人口動態を誰でも見られる国のシステムがありますが、下川のように独自でまち全体の経済状況を把握した上で、施策を打っている市町村は多くありません(*5)。

調査の結果わかったのは、下川町全体のGDP(経済規模・域内生産額)は215億円で、収益を上げている産業は林産業(約23億円)と農業(約18億円)であること。支出は石油・石炭(約7.5億円)と電力(約5.2億円)が大きく、エネルギー支出だけで13億円が外に漏れ出ているという結果でした。

GDP215億円規模のまちにとって13億円は、大きな「漏れ穴」です。

そこで、この漏れ穴をふさごうと、石油・石炭にバイオマスエネルギーを置き換えてエネルギー自給率を高める計画「下川町バイオマス産業都市構想(2013~2022年度)」が立てられます。

チップ製造のためにヨーロッパから輸入した重機。
チップ製造のためにヨーロッパから輸入した重機。

バイオマスを活用してエネルギー自給率をあげれば、林産業も含めた域内生産額が年約28億円増えて、約100 人の雇用が創出されるという試算結果が出ました。

現在、この計画が進行中です。

11基のバイオマスボイラーが30の公共施設に熱エネルギーを供給し、下川町全体の熱自給率は49パーセントに(公共施設だけでは64.1%)。2014年時点で年1800万円の燃料コストが削減できており、その半分は、子供の医療費の無償化や保育料など子育て支援に充てられているのだとか! 残り半分は設備更新の資金として積立てられています。

ただし、全事業が町営ではなく、灯油の販売業者が組合をつくり、灯油の代わりにバイオマス燃料を売買しているのも特徴です。

下川町、一の橋地区の地域熱供給システム。
下川町、一の橋地区の地域熱供給システム。
バイオマス熱による温床椎茸の栽培も始まった。一つの町だけでは木質チップの供給量など限界があるため、「町内」という域にこだわらず、近隣の市町村との連携も考えている。
バイオマス熱による温床椎茸の栽培も始まった。一つの町だけでは木質チップの供給量など限界があるため、「町内」という域にこだわらず、近隣の市町村との連携も考えている。

初期投資を考えると、まだバイオマス事業単体で採算が取れているわけではありませんが、ボイラー熱を利用したコンパクトタウンの設立や、温床椎茸の栽培、カフェの運営も始まり、新たな雇用を生んでいます。エネルギー自給率100パーセントを目指す先進的なまちとして人びとの関心を惹き付け、ここ数年間で移住者数も増えています。2017年の人口増(自然減を除く)は28人です。

家計調査の結果から、次に何ができるか?を考える

さらに、今下川町で始まっているのが、福井県池田町と同様、各家庭で何にどれくらいお金を使っているか? を知るための家計調査です。

蓑島「地域の経済は、事業体と家計の2本柱から成り立っています。どれだけ町で漏れ穴をふさいでも、家庭でネットショッピングばかりされたら意味がないですから(笑) 今回は家計調査のサンプルが11世帯と少ないですが、今後も定期的に調査を続けていきたいと思っています」

この調査に協力しているのが藤山さんの持続研です。

藤山「下川町で驚いたのは食品の域内購入率が55.8%と高いこと。外食は一家庭平均9万円と高めですが、域内消費が6割。町内にいいお店が多いことがわかります。さらに製造メーカーのあるめん類や、菓子・パン類の域内調達率も6~7割と高い。ただし地元産の原料をどれくらい利用しているかというと10%程度。ここを上げていくとより効果が生み出せると思います」

下川町にて、一年かけて行われた家計調査の報告会。「持続可能な地域社会総合研究所」の藤山浩さん
下川町にて、一年かけて行われた家計調査の報告会。「持続可能な地域社会総合研究所」の藤山浩さん
下川町にて、一年かけて行われた家計調査の報告会。藤山さんの話に熱心に耳を傾ける町民、役場職員
下川町にて、一年かけて行われた家計調査の報告会。藤山さんの話に熱心に耳を傾ける町民、役場職員

藤山さんの話から役場の蓑島さんが着目したのは「生鮮野菜」の項目でした。3300万円ほどが域内で購入されているのに、3800万円ほどが域外に漏れています。

蓑島「直売所を設けるなどして地元の野菜を買える場をつくることで、3800万円の何割かでも取り戻せるかもしれない。そんな風に、調査結果から次の対策を考えるわけです」

具体的に漏れ出ている項目や額が見えれば、新しい仕事、サービス、店をつくる町の対策としても、個人の起業の一手としても、説得力のある計画が描けます。

藤山「小さな地域単位で経済循環をつくり直してお金のめぐりをよくすること。その一つ一つを生態系のようにつなげていくことが、もう一度足腰の強い経済をつくるための方法だと思います」

大きな経済の流れは、すでに自分たちでは変えられないところまで来てしまっている、と感じていましたが、小さな地域単位で経済循環を高めることが、経済の手綱を取り戻すことにつながるのではないか。藤山さんの話と、池田町や下川町の取り組みは、そんな希望を感じさせてくれます。引き続き、取材を続けます。

※この記事は、NPO法人グリーンズ『greenz.jp』の記事(2018年6月20日公開)を改訂したものです。連載「ローカルから始める、新しい経済の話」より。

(*1)「日本における幸福度の推移」内閣府による「幸福度に関する研究報告」(2011年)

(*2) 2017年、全国1718市町村のうち地方交付税交付金を受ける市町村は、95.6%の1643市町村。地方交付税とは、本来地方の税収入とすべきところを財源の不均衡を調整するために国が代わって再配分する徴収制度(総務省平成29年度「普通交付税大綱」より)

(*3) 英国ロンドンに本部のある「New Economics Foundation」が発表した考え方で、地域から外に出ていくお金のことをバケツから漏れていく水に例えて、地域内でお金が循環するための穴をまずは特定していくことの重要性を説いている。英語では「plugging the leaks(=漏れ口に栓をする)」と表現される。

(*4) 町内事業所51カ所と10世帯での家計調査を行った。これだけでは世帯類型等のバランスがとれないため、島根県で5~6年前から積み上げた200以上の既存サンプルで補正。下川町でも同様。

(*5) 当時、都道府県単位の産業連関表はあっても、市区町村単位のものは存在しなかった。現在は平成27年に経済産業省より公開された「地域経済分析システム」(RESAS)で町の産業構造や人口動態が見られるようになっている。