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アップルがスタートアップ「Platoon」を狙う理由

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
iPhone event 2018(写真:ロイター/アフロ)

アップルはロンドンに拠点を置く、音楽業界のデジタルマーケティング支援を行うクリエイティブサービスのスタートアップ「Platoon」(プラトゥーン)を買収したと報じられている。

アップルは買収に関してまだ正式発表を行っていない。

2016年設立のPlatoonはわずか十数名の小規模なスタートアップだ。

彼らは、音楽ストリーミングやSNSに最適な新人アーティストのキャリア育成を支援するマーケティング戦略やプロモーション、コンテンツクリエイティブを提供するスタートアップとして、英国や米国の音楽業界やレコード会社から注目を集めていた。

約2年の間でPlatoonのクライアントには、Billie Eilish、 Stefflon Don、Jorja Smith、Jacob Banks、Rex Orange County、Mr Eazi、YEBBAなど、10代や20代の多数の若手アーティストが名を連ねる。

その多くが、Platoonの支援を受けてブレイクした後、メジャーレーベルとの契約に至っている。

Stefflon Donはポリドールレコード、Billie EilishとJacob Banksはインタースコープ・レコード、Rex Orange CountyはAWALと契約。Jorja Smithはソニー・ミュージックのThe Orchardとデビューアルバムで契約を結んでいる。

Billie Eilishの「Come Out And Play」はアップルのクリスマスシーズンの広告で使われている。

Platoon共同創業者のSaul Kleinは、動画配信/DVDレンタルサービス「Lovefilm」の共同創業者として知られる。Lovefilmは2011年にアマゾンによって買収され、後のPrime Videoの原型となったサービスだ。

Kleinは投資家としても活動しており、2007年から2015年までIndex Venturesのパートナーを務め、ヨーロッパのスタートアップを支援するファンドSeedcampを立ち上げた創業メンバーの1人でもある。Index Venturesは音楽スタートアップへの投資で知られ、SoundCloudやSonos、last.fmなどへ投資を行ってきた。

Denzyl FeigelsonはPlatoon設立以前、長年にわたってアップルのグローバル音楽事業に携わってきた人物で、約16年の間iTunesやiTunes Music Festival、Apple Musicなどのアドバイザーを務めた経歴を持つ。

Feigelsonはまた、インディーズアーティスト向けのデジタルディストリビューションサービス「AWAL」の原型となったサービス「アーティスト・ウィズアウト・ア・レーベル」の創業者兼CEOとして知られる。AWALは2011年にKobalt Music Groupによって1億5000万ドルで買収された。

アップルはPlatoonのようにA&Rに特化した買収で、新人アーティストや無名の才能を発掘し、Apple Musicから次世代のスターをいち早く輩出する音楽戦略を強化できる。

Apple Musicはまた、Platoonのクリエイティブ力やA&Rパワーを集約することで、将来的にはアーティストやマネジメント会社に対して、独自のクリエイティブサービスを提供することも視野に入れていると考えられる。将来的には、レーベルをバイパスして直接Apple Musicでコンテンツを配信するアーティストやクリエイターを見据えての戦略と予想される。

アップルは10月にアメリカで音楽ストリーミングのデータ解析と新人発掘を専門とするスタートアップ「Asaii」を買収した。Asaiiの買収によってアップルは、ストリーミングからのデータを用いた次世代のクリエイター発掘や、独自の音楽データ活用ツールの開発を行うと予想されている。

source:

Apple acquires A&R and creative services company Platoon (Music Business Worldwide)

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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