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Spotifyが勢い止まらぬ”高コンバージョン”を実現できる理由

ジェイ・コウガミデジタル音楽ジャーナリスト
Spotifyロゴ(写真:ロイター/アフロ)

定額制音楽ストリーミングサービス最大手「Spotify」が、全世界の有料会員数が6000万人を突破したと、自社サイトの情報を更新しています。

3月の時点で更新された5000万人から、わずか4カ月で1000万人を加えた成長速度で、ライバルであるアップルを2倍以上引き離します。Apple Musicは6月の時点で有料会員2700万人を獲得したと発表されています。

https://press.spotify.com/us/about/
https://press.spotify.com/us/about/

Spotifyの近年の成長速度には目を見張るモノがあります。特に、有料会員のコンバージョンはライバル企業を寄せ付けない速度で進んでいます。その証拠に、4000万人を発表したのが2016年9月で、Spotifyは1年もたたずに2000万人を有料サービスへ誘導することに成功しているのです。

■Spotifyのユーザー獲得推移

2012年5月 有料会員:500万人

2014年5月 有料会員:1000万人

2015年1月 有料会員:1500万人

2015年6月 有料会員:2000万人

2016年3月 有料会員:3000万人

2016年9月 有料会員:4000万人

2017年5月 有料会員:5000万人

2017年7月 有料会員:6000万人

ライバルと云われるApple MusicやDeezer、Tidal、Google Play MusicなどとSpotifyは、同じ定額制音楽ストリーミングサービスに分類されます。その大きな違いは、一般的にはフリーミアムモデルとプレミアムモデルに分けられますが、ビジネスモデル以外でも要因が顕著になっている様子があります。特に、iPhoneやAndroidのプリインストールアプリとして提供されているライバル社のサービスや、フリートライアルを提供する各社の戦略と比較しても、多くの音楽好きにとってSpotifyはマストな定額制サービスとして認知されていることを昨今の成長が示しています。

■関連記事:Spotify、アクティブユーザー数1億4,000万人超えを発表。爆発的な成長とインサイトが、広告主の課題解決を加速させる(All Digital Music)

この1-2年、Spotifyを取り巻くビジネスニュースは、年内にニューヨーク証券取引所で上場するという噂が注目されており、先日ライセンス契約を更新したユニバーサルミュージックとソニーミュージック、Merlinのレーベル団体大手との関係構築も、上場に向けた準備の一環と言われてきました。

Discover Weeklyプレイリストの多様性

Spotifyが高いコンバージョン率を達成した理由は、そのサービスの品質改良にカギがありそうです。その一つは、各リスナー毎に毎週30曲分のプレイリストを自動生成してくれる「Discover Weekly」のパーソナリゼーションの性能とアルゴリズムです。SpotifyはDiscover Weeklyを軸に、リスナー好みの新曲を毎週アップデートしてくれるプレイリスト「Release Radar」、リスナーの試聴履歴からジャンルやスタイルを判断して好みの曲をアレンジして毎日更新してくれるプレイリスト「My Daily Mix」など、ユーザーに対して音楽を見つけやすくするためのプレイリスト戦略を強化し続け、サービスのあらゆる場所や時間別に配置しています。

■関連記事:Discover Weekly reaches nearly 5 billion tracks streamed since launch (Spotify)

アップルなど他社も同様のレコメンデーション型プレイリストを始めましたが(Apple Musicでは名称も”Discovery Mix"と類似)、未だにプレイリストと言えばSpotifyと言うほど、イメージが定着しています。

もう一つコンバージョンに大きく寄与したのは、これまでSpotifyで配信を「Holdout」(拒否)してきたアーティストたちの配信解禁で、これはSpotify側とレーベルの地道な交渉が実を結んだ事が大きいと考えられます。

最たる例は、テイラー・スウィフトのSpotify解禁。

長年敵対視されてきた立場が解消されたことも大きな変化ですが、なによりもアップルやTIDALと関係の強い人気アーティストが配信を始めたことで、ライバルの先行優位性が無くなり、Spotifyの利用につながっていることは、アーティストと音楽ストリーミングサービスとの勢力図も変わり始めた証拠でしょう。

テイラー・スウィフトの他には、この一年半(2016、2017年)でSpotifyで配信を始めた大物アーティストは、ニール・ヤング、レディオヘッド(トム・ヨークは未だにホールドアウト)、プリンス、ボブ・シーガー、ザ・ブラック・キーズ、ビートルズ(2015年12月)、カニエ・ウェストの『The Life of Pablo』など。

若者に人気のヒップホップやロックから幅広いファンを持つ大物までが揃っており、これはSpotifyが長期的なリスニングを楽しんでもらうために、新作やエクスクルーシブに大きく依存しない経営方針が他社とは大きく異る点でもあります。

一方、Spotifyがユニバーサルミュージック、ソニーミュージックと締結した新規のライセンス契約では、ライセンス料の支払いを引き下げる代わりに、有料会員に2週間限定で新アルバムの配信を行う契約が盛り込まれていると言われており、この配信方法が今後はどのタイミングで実行されるのかが、今後は大きな議論の一つになっていくと思われます。

■関連記事:テイラー・スウィフトがSpotifyに帰ってくる。「ファンへの感謝」全カタログ解禁で定額制音楽配信と確執は終焉 (All Digital Music)

ソース

Spotify preps to go public with 60M subscribers, outpacing Apple (TechCrunch)

Spotify readies for listing with 60m paying customers (Financial Times)

この記事は、デジタル音楽メディア「All Digital Music」で2017年8月1日に掲載された記事の転載です。

デジタル音楽ジャーナリスト

専門は「世界の音楽ビジネス、音楽業界xテクノロジー」の執筆・取材・リサーチ。音楽ビジネスメディア「All Digital Music」、音楽業界専門のマーケティング支援会社「Music Ally Japan」や、音楽ストリーミング・データ分析プラットフォーム「Chartmetric」日本事業展開も担当。グローバル音楽業界、レコード会社、ストリーミングサービスのビジネスモデル、トレンド分析、企業分析に関する記事執筆多数。

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