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2000万円不足する「老後資金」づくり、間に合う人、間に合わない人?

岩崎博充経済ジャーナリスト
(写真:アフロ)

公的年金の標準額は月額22万円!

 麻生太郎財務相兼金融担当大臣が「老後は夫婦で2000万円が必要」とコメントした金融審議会の報告書を巡って、連日メディアが年金問題を特集している。7月に行われる参院選の争点にもなり、野党は攻勢を強めている。

 問題は、麻生大臣が「政府の見解と異なる」として金融審議会の報告書を受け取らなかったにもかかわらず、その後、2000万円をさらに上回る老後資金の不足を試算した公的機関のレポートなどが出てくるなど、一向に世間のざわつきが収まらないことだ。明らかに麻生大臣の対応の不手際が原因だが、各省庁がまとめた公的年金以外に必要となる老後の生活費は、現時点だけで次のような数字がクローズアップされている。

●金融庁・金融審議会……約2000万円の不足(月額5万5000円)

●金融庁・市場ワーキンググループ……最大3000万円の不足

●経済産業省・産業構造審議会……約2900万円不足

●総務省・家計調査報告……月額4万1872円 (高齢夫婦無職世帯の家計収支)

 この他にも様々なシミュレーションが出ており、例えば日本郵政グループのゆうちょ銀行が日本郵便に委託し投資信託を販売している際のパンフレットで、老後に夫婦で最低必要金額22万円に対して、「ゆとりある生活に必要と考える金額」の平均額12万8000円を上乗せして夫婦で月額34万9000円が必要と指摘している。麻生大臣がどんなに意地を張っても、老後資金は公的年金だけでは不足することは明らかだ。

 いずれにしても、現在の公的年金の標準的な給付水準は月額22万1504円(厚生労働省、専業主婦だった妻のいる世帯、夫婦合算、2019年度)であり、この金額で夫婦で暮らしていけるかどうかがポイントになる。月額22万円で十分と考えるか、とても足りないと考えるか……。その人のライフスタイルやライフサイクルなどと大きな関係があり、一概には言えないが、公的年金だけでは数千万円程度足りないと思っている人は数多いはずだ。

 ちなみに、現在公的年金を受給している人も安心はしていられない。年金収入300万円の人の手取り額が、この20年間で36万円も減少したという報道もある。現在の年金収入で、老後はすべて乗り切れると高をくくっていると、ひょっとするととんでもない未来が待っているかもしれない。

 現在の標準的な年金給付額22万円という数字も、いつどうなるかわからないということだ。すでに高齢者の人も、未来のことはある程度柔軟性を持って生きた方がいいかもしれない。

老後のための預貯金ゼロ、20代は半数以上!

 いずれにしても、現在の公的年金だけで食べていけると考えている人は数少ないはずだ。ある程度の老後資金を作っておく必要があるわけだが、問題はいくら貯めればいいのか、またどうやって貯めていけばいいのか、ということだ。

 たとえば、フィデリティ退職・投資教育研究所の「サラリーマン1万人アンケート(2018年)」によると、退職後の生活のために準備している資産についてのアンケートでは、預貯金ゼロと答えた20代は男女ともに50%超。40代、50代のサラリーマンでも退職準備金はゼロと答えている人は次のようになる(フィデリティ退職・投資教育研究所「退職準備の指標~退職準備の『見える化』を進めるために~」より)。

●40代男性……39.7%

●50代男性……31.2%

●40代女性……35.5%

●50代女性……27.1%

 ちなみに、1000万円以上の貯蓄があると答えた男性も2~3割存在する。正規雇用者と非正規雇用者との違いや業種、生活スタイルなどによっても大きく異なるが、老後資金を蓄えることができる余裕のある人とそうでない人との差がかなり大きいことがわかる。

 余裕のある、ないはともかくとして、仮に老後資金をリタイアまでに確保したいと言うのであれば、少なくとも20年程度の期間を使って貯めていくしかないだろう。幸か不幸か、現在の日本は超低金利であり利息はほとんど望めないから、将来貯めることができる金額を簡単に単純計算することができる。

 たとえば、2000万円を20年で貯めようと思えば、年間100万円の貯蓄が必要になる。月額8万3334円の積立が必要だが、ボーナス時に10万円ずつ上積みすれば月額6万6667円の積み立てでなんとかなる。

 30年で考えると、年間66万6667円が必要で月額にして5万5556円、夫婦二人の合計額だから、一人当たりにして2~3万円の貯蓄でいいことになる。30年といえば、現在の公的年金がもらえる年齢は65歳だから35歳から始めなくてはならない。

 もっとも、将来的に公的年金の受給開始年齢は引き上げられる可能性が高く、現在30代とか40代の人が65歳で年金を受け取れるようになるとは到底思えない。40代はむろんのこと、50歳ぐらいから始めても遅くはないだろう。ただ面倒なのは、子供の教育資金や住宅ローンなどと別枠で貯めていくしかないということだ。

 老後資金の観点から考えると、たとえば住宅ローンは年金受取開始までに返済を終えておくのが理想と言える。退職金がある人は、退職金を老後資金に活用できるからだ。子供の教育費も含めて、40代~50代は老後資金の積立どころではないかもしれない。

 本来、老後資金は継続性が大切で、若い頃から長い時間をかけて資産作りしていくことが基本だ。単純に銀行などで積み立てていくのではなく、老後資金専用の積立商品である「確定拠出年金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を見ればわかるように、ある程度の「リスク」を負いながら、長期的な資産運用が必要になってくる。

 単純に「必要金額÷積立期間」で、月々の積立額を把握するのではなく、長期的な資産運用のリターンやリスクをあらかじめ視野に入れながら、長い時間をかけて老後資金を作っていけばいい。そういう意味では、2000万円の老後資金は難しいかもしれないが、ある程度若いうちから始めれば、そこそこの資産は作ることができるかもしれない。

 大企業のサラリーマンであれば、国の基礎年金や厚生年金の報酬比例部分、そして会社が用意してくれる企業年金があれば、まぁまぁの老後は確保される。もっとも、最近は、運用の失敗を恐れる企業が増え、年金の給付額が決まっている確定給付年金から従業員が自分の年金を自分で運用する確定拠出年金に移行する企業が増えている。

 大手企業に勤めるサラリーマンであっても、安泰な生活が待っているとは言えない。

自力で投資スキルを身に付ける?それとも?

 問題なのは、年金制度があまり整っていない中小企業の従業員や非正規雇用の人たち、そして自営業やフリーランスといった人たちだろう。小泉政権時代の非正規雇用の全面的な解禁によって日本では大きな貧富の格差がついてしまったが、今後は現役世代だけではなくリタイア世代でも大きな収入格差ができてしまう可能性がある。

 いずれにしても、老後資金作りはできる限り早く始めたほうがいいということだ。老後まであと10年しかない、といった人でも、何もしないで10年を過ごすよりも、何らかの形で資産形成を始めた方がいい。

 その場合、大切なことは「老後資産」は他の教育資金や住宅資金などと切り離して考えることだ。よく、住宅を買っておけば老後資産として役立つのではないか、と考える人が多いが、住宅価格は、日本全国に空き家が800万戸もあるように、将来的な値上がりはあまり期待できない。都心部など一部例外となる地域もあるが、大地震などが来ればその優位性も消滅してしまう。

 たとえば、「老後資産作り」というのは大きく分けて3つの方法があると考えていい。簡単に列記すると……

1.リスクを取らずに銀行などでコツコツ積み立てていく方法

2.リスクを最大限にとって、どんな時代にも通用する商品に投資する方法

3.確定拠出年金やiDeCo、国民年金基金、小規模企業共済など公的な制度を最大限に活用する

 この3つのなかで注目したいのは、2のリスクを最大限に取る方法と3の公的制度の活用だ。

 資産運用づくりのコツは天引き貯蓄とよく言われるが、ある程度余裕のある人は3の公的制度を最大限に使い、日々の生活に追われて老後資金作りどころではないという人は、わずかな資金を価格変動リスクの大きな「株」とか「金」で積み立てていく2の方法がある。

 金融市場というのは、10年に1度程度は必ずと言っていいほど大きな変動幅で動く。下落して、元本割れしているようなときはあえて見て見ぬふりをしてスルーし、大きく利益が上がったときには利益確定する。

 たとえば、確定拠出年金やiDeCoなど老後資金を専門的に作る金融商品は、確かにメリットが多く便利なのだが、老後にならないと換金できないという欠点がある。小規模企業共済のように、途中で換金できても元本割れするなど不利な条件での換金になる。公的な老後資金専用商品は、節税枠があるなどメリットも大きいが、その分制約を受けるケースも多い。デメリットもある、ということだ。

 その点、変動リスクのある商品での老後づくりは、チャンスを逃さずに利益を確定できる。株なども個別企業への投資は倒産の恐れもあるが、倒産の可能性がほとんどないような優良企業への投資ならお勧めだ。むろん、価格変動リスクは覚悟する必要がある。暴落しても、そんなときはチャンスだと思って追加投資すればいい。老後資金だからできる投資法だ。

賦課方式が嫌な人はフリーランスになって「国民年金基金」か「小規模企業共済」で?

 将来の老後で最大の関心ごとと言えば、やはり老後生活の根幹となる公的年金制度が、本当に維持継続されるのかどうかだろう。小泉政権時代に見直された年金制度によって、日本の公的年金制度は現役世代の50%以上の年金給付金を支払うこと(所得代替率)を目指して、経済全体の動きに合わせて年金給付額を調整する「マクロ経済スライド」を導入した。

 当時は、これで日本の公的年金制度は100年維持できるとして「100年安心理論」と呼ばれた。確かに、年金の制度そのものは維持できるかもしれないが、2000万円も不足するのでは意味がない。

 そもそも20代、30代の現役世代の人たちにとって、自分がいま支払っている年金保険料が、高齢者の生活費として使われていることに納得していない人が多い。いわゆる「賦課方式」の年金システムに納得できないという人だ。

 そんな人にお勧めしたいのは、フリーランスや自営業になって「国民年金基金」や「小規模企業共済」で老後資金を作ることだ。「iDeCo」でもいいのだが、少なくとも自己責任が大きくかかわってくる老後資金作りができる。たとえば、国民年金基金は通常の国民年金や厚生年金と異なり、あらかじめ将来の年金給付金を設定することができ、自分のペースで老後資金を作ることができる。政府の公的年金に対して完全に独立しているわけではないが、ある程度自分の目標額が見えている分だけ納得できる。

 小規模企業共済は、フリーランスや自営業者の「退職金」代わりのものだが、自分でコツコツ貯めていくことができる。さらに必要な時には低利で融資を受けることも可能だ。国民年金基金同様に、税制上のメリットも大きい。こうした公的機関を使った老後資金作りが今後はお勧めかもしれない。ちなみに小規模企業共済も、制度変更などによって将来受け取れる金額が大幅に減額されたことがある。

 いずれにしても、老後資金作りをスタートさせるのは早ければ早いほどいい。そもそも2000万円とか3000万円の老後資金が不足すると言われても、この金額は生活費だから、1億円以上の金融資産があるような富裕層は別にしても、大半の人は不足すると考えていい。少なくとも、現役世代と同じ生活水準を保ったままでは不足すると考えていい。

 誰もが不足するのだから、教育資金や住宅資金とは別枠で気軽に始めるのがお勧めだ。最近は、スマホなどを使って気軽に投資できるシステムが整ってきた。金や株以外にも、仮想通貨や米ドルでもいい。先物とか信用取引といったレバレッジをかけて老後資金を作るのはタブーだが、現物投資であれば何でもいい。

 スタートが早ければ早いほど、じっくりと少額で始めても十分間に合うためリスクもとりやすくなる。ただし、資産運用で大切なことは資産運用のノウハウをきちんと学び、そのスキルを身に付けていくこと。金融機関の甘い言葉に乗せられて、短期投資に振り回されないことが大切だ。 

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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