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「人口減少」--本当の怖さは公共サービス低下、インフラ未整備?

岩崎博充経済ジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

一歩一歩進む日本の人口減少、高齢化、行き着く先は?

 日本の人口が8年連続で減少を続けている。まさに坂道を転げ始めた少子高齢化社会だが、現在の安倍政権も含めて日本政府の多くは、人口減少に本気で立ち向かうと言う姿勢があまり見えてこない。人口減少は、単に人の数が減ってしまうというたぐいのものではなく、生産人口の減少を意味する。日本経済の根幹にかかわる問題と言って良い。

 人口を増やす方法としては「出生率の上昇」あるいは「移民受け入れ」といった方法があるが、ここ数年になって政府もやっと重い腰を上げて、教育改革や女性活用社会と言った人口減少対策=生産人口拡大政策を始めている。最近も、新たに海外からの労働者受け入れの規制を緩和した。介護や建設の現場では、もはや人手不足は限界に近づいている、という指摘もある。政府もやっと人口減少社会に取り組み始めた、と言って良いのかもしれない。

 とはいえ、現実はもっと厳しい。目に見える形で人口減少の影響が出始めている。人手不足は深刻になり、就業者数の見通しを見ると2015年に6376万人だったのが、このまま放置すれば2020年には6046万人、2030年には5561万人にまで減少してしまう。毎年55万人近い労働人口が減っていくことを意味しており、事態は極めて深刻だ。

 日本政府は、これまで何か課題があると、すべて補助金制度を整備して、お金の力で何とかしようとしてきた。しかしながら、子育て支援や働き方支援に税金を投入しても人口が増えるとは到底思えない。フランスやスウェーデンなど、人口減少を解決した国の政策を見ると、企業の意識改革促進や社会全体の意識変革といった、子どもを育てることの重要性をアピールする方法が功を奏したと言って良い。教育機関や企業に税金をばらまくのではなく、政治や行政自らが意識改革を行った結果だ。

 今も昔もそうだが、日本政府は補助金行政で物事を解決しようという傾向が強い。出生数の増加を実現するためには、社会全体が子供を育てるという意識を持つことが不可欠だ。国民の意識改革をサポートするのが政府の役割であり、たとえばフランスがやった「母親アシスタント制度」「男の産休制度の徹底」といった民間主導の制度作りをサポートするのが良いのかもしれない。

 このまま人口減少社会が進行した場合、どんな事態になるのか。年表別に、いくつかピックアップすると次のようになる。

・2020年問題……女性の半数が50歳超え

・2025年問題……5人に1人が75歳以上となり医療給付金は54兆円、介護給付金は20兆円時代

・2027年問題……輸血用血液が不足する時代に

・2030年問題……人口が1億1000万人台に減少

・2040年問題……団塊ジュニアが全て65歳以上に、地方自治体消失の危機

・2050年問題……人口が1億人以下、人口の4分の1が75歳以上に

・2060年問題……生産年齢人口が5000万人以下

・2065年問題……人口が8808万人に減少

 今後半世紀の間に日本の人口は、このまま何も対策を打たなければ、国家存続の危機にまで落ち込む減少を見せるかもしれない。とは言っても、こうした総人口の減少は日本だけではなくドイツや韓国、スペインと言った先進国でも予想されている。あるシミュレーションでは、2100年までに人口が増えている先進国は米国とイギリス、フランスぐらいしかない。それ以外の先進国は、揃って人口減少に直面していくことになるというわけだ。

 人口減少の結果、いったい何が起こるのか。すでに様々なシミュレーションが示されているが、その中でもショッキングなものをいくつかピックアップすると、次のような事態が想定されている。

●自治体消滅……地方自治体の消滅(2040年には1800の地方自治体のうち896が消滅の恐れ)

●農業崩壊……農業従業者数の減少が止まらず耕作放棄地面積がどんどん増える

●労働量不足……全ての業種で人手不足に陥る

●消費低迷……新車販売台数や家電、家具などの需要が減少する

●インフラ未整備……道路や橋梁といったインフラ整備が人手不足、財源不足から滞る

●防衛能力の衰退……自衛隊員の人手不足で尖閣諸島など離島防衛が不可能になる

●社会保障の崩壊……高齢化による社会保障費の増大、租税負担の増大により財政への圧迫が余儀なくされる

●税収不足……人口減少による税収不足から財政危機が起こる

●日本経済全体の衰退……第4次産業革命が進行する世界経済に乗り遅れ、日本経済は「緩慢なる衰退」を遂げる

大工人口は40万人から21万人に半減、ロボットに頼る時代に?

 人口減少社会の到来で、すでに社会現象として現れているものがいくつかある。とりわけ、人手不足は深刻な問題となっており、近年日本で働く外国人は確実に増え続けている。最近の国勢調査や労働力調査でも、業種によっては外国人労働者に頼らざるを得ない現実がある。

 日経新聞と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調べによれば、いまや外国人労働者の割合は全国で約50人に1人に達するそうだ(2017年)。広島の漁業労働者の6人のうち1人が外国人だという調査も出ている。カツオ漁などは今やインドネシア人の技能実習者がいないと成り立たないとさえ言われる。茨城県では中国人やインドネシア人労働者が3700人も従事していると言われる。

 日本で働く外国人の数は、2017年10月末現在で127万8670人に達する。127万人という数字をどう見るかだが、特定の業種ではもはや外国人労働者なしでは成立しないところまで来ているわけだ。

 たとえば、不動産業界の成長を支える建設労働者の人手不足も深刻だ。戸建住宅の建設などに不可欠な大工の人口がここに来て大きなマイナスになっている。野村総合研究所の住宅市場に関する調査でも、大工の数は2010年には40万人程度だったものが、2030年には21万人となり半分に減少する。60代以上の熟練工の大工のリタイアが加速する一方で、若者による業界参入が少ないためだ。人口減少に伴って新築の住宅着工数も2010年に比べて2030年では27%減少、160万戸減少する見通しだという。人手不足で家が建たない時代が来るということだ。

 同様にリフォーム市場も、現在と同じ6~7兆円の市場規模で推移すると見られており、日本の建設現場では人間が減る一方になることが予想される。産業用ロボットが並ぶ工場で生産された建築資材を、人間に代わる新型ロボットが組み立てる。そんな建設現場を数少ない技術者がサポートするしかなくなりそうだ。工場で家を建設し、そのまま現場に持ってきて組み立てる技術を開発していく以外にはないのかもしれない。

 こうした人口減少の影響は地方では大きな問題となっており、人口減少によって消滅する集落が2030年には800を超える予想が発表されて大きな注目を集めた。霞ヶ関などの中央政府でも、最近になってやっと人口予測を見誤った厚生労働省や税収不足におびえる財務省以外の官庁で人口減少が意識されるようになってきた。それでも、あらゆる分野で深刻に受け止められているとは言いがたい。いまや、少々の移民を受け入れる程度では到底解決できないレベルと言って良い。

社会インフラ整備、学校教育、自衛隊も崖っぷちに?

 とりわけ深刻なのは、人口減少によって国家そのものが危機に直面していくかもしれないということだ。安倍政権が盛んに増強をアピールする「防衛」に関しても、現在のような北朝鮮や中国、ロシアと敵対する姿勢を示していくためには、防衛に関するコストが必要になってくる。そのコストに見合うための人材も必要になってくる。防衛ばかりは、外国人に頼るわけにはいかない。にもかかわらず、高度化した武器を操れるデジタル技術者の需要は増していく。

 自衛隊の採用数は、2013年度から4年連続で減少しており、防衛相は今年の10月から、募集対象者の年齢上限を26歳から32歳に引き上げると発表した。自衛官の採用年齢が引き上げられるのは30年ぶりのことだ。これまでの自衛隊の採用対象年齢だった18歳から26歳までの人口は、ピーク時には1743万人(1994年)。それが2018年には1105万人に減少している。さらに、10年後には1002万人になる。

 2017年3月31日現在、自衛隊の定員は24万7154人に対して、実際に働く自衛隊員は22万4422人で、約2万3000人が不足している。充足率90.8%だが、充足率の高い幹部自衛官に対して、その部下に当たる最も下の階級の充足率は73.7%にとどまっていると報道されている。防衛省は、女性自衛官の比率を現行の6.5%(2017年度)から2030年度までに9%にする方針を示しているが、近年自衛官の募集では常に定員割れしているのが現実だ。若者向けにアニメを使った広告などをインターネットを通じて配信しているものの、現在の状況を維持していくことだけでも大変そうだ。

 本格的な人口減少時代を迎える今後は、この防衛に関しても大きな問題と言わざるを得ない。現在の防衛能力を維持したいのであれば、少なくとも人口がどんどん減少していく10年後、20年後のことを考えて「敵をつくる外交」ではなく、また米国の防衛力に依存した外交ではなく、「戦争のない世界」を目指してリーダーシップを発揮していくしかないのかもしれない。さもなければ、徴兵制を導入して戦争を想定した防衛力を維持するしかないのではないか……。「有事」になっても人手不足で反撃できないことが現実味を帯びる。

 自衛隊に限らず、日本の将来が懸念される現場が人手不足に陥っているところは多い。学校教育の現場も人手不足にあえいでいる。教員が「ブラック」と言われるようになって久しいが、文部科学省が最近になって「統合型校務支援システムの導入」のための手引書を発表した。

 同手引書によると、教員の「学内総勤務時間(家に持ち帰っての仕事は含まない)」では、1週間当たり小学校で57時間25分、中学校で63時間18分。1日当たり12時間前後も働いていることを示している。今後、子供の数は確実に減少していくのだが、教師の平均年齢の高まりを考えると、こちらも深刻な事態になるのは間違いない。

 さらに、人口減少の影響は公共施設やインフラ整備にも大きな影響が予想されている。たとえば、水道事業の民営化が国会で議論されていたが、将来的に人口減少によって地方自治体が運営している水道事業が成立しなくなる、というシミュレーションが出ている。空家の急増などでも分かるように、人が住まなくなった家では水道は使われない。実際に、水道の有収水量の見通しを見ると、ピーク時の2000年で「3600万立法メートル/1日当たり」だったのが、2060年には「2200万立法メートル/同」まで減少する(厚生科学審議会調べ)。

 また、大規模な修繕が必要な50年を経過した「橋梁」なども、2017年の23%から2027年には48%にも達する。橋の半分が耐用年数を超えてくるというわけだ。この他、社会保障費の増大といった、従来指摘されている懸念事項も数多くあるのだが、自衛隊や警察、消防、社会インフラの整備といった公共面でのコスト増も深刻な事態と言える。社会インフラの対応を優先すれば、当然ながら景気刺激策などが後手に回る。財源もいま以上に不足することになる。

抜本的な構造改革、それとも移民拡大?補助金行政は限界に

 人口減少というとどうしても高齢化をセットで考えて、社会保障費の増大や企業の人出不足といったイメージにとらわれがちだ。これまで紹介してきたように行政サービスや防衛といった「公共インフラ」へのダメージにも注目すべきであることが分かるはずだ。それも、あと10年とか20年といった「近未来」の話だ。

 とはいえ、年金や医療保険といった社会保障費の増大が深刻な問題であることに変わりはない。政府は最近まで将来のシミュレーションを示して来なかったが、最近になってやっと2040年までのシミュレーションを発表した。年金、医療、介護、子育てといった将来の社会保障費の合計をみると、次のようになる(経済財政諮問会議「2040年を見据えた社会保障費の見通し」より)。

●2018年度……121兆3000億円(GDP=564兆3000億円)

●2025年度……140兆4000億円~140兆8000億円(ベースライン、現状投影、想定GDP=645兆6000億円)

●2040年……188兆5000億円~190兆3000億円(同、想定GDP=790兆6000億円)

 想定しているGDPの数値がかなり異常だが、それはさておき社会保障費の伸びだけを見ても、高齢化社会の進行の恐ろしさが分かるはずだ。問題は、こうしたコストを処理しつつも、防衛や水道、橋梁、道路といったインフラ整備が賄えるのか。増税は仕方がないとしても、いったいどの程度の増税になるのか。その目安を早めにシミュレーションすべきだろう。

 安倍政権は高額な武器を米国から購入しているが、人手不足、人材不足のなかで武器があっても戦える人材がいない状態になってしまう心配はないのか。きちんと精査する必要があるはずだ。人手不足なら徴兵制度を採用すればいい、という考え方があるかもしれないが、高度化したドローンやロボット、AIの世界ではそうもいかない。人の頭数だけ集めればいいというものでもない。要するに、移民の増加で何とかならない部分の補強をまず考えるべきなのかもしれない。

 その移民政策も、最近になって打ち出した安倍政権の外国人労働者の規制緩和は、ビザの期間や日本語の習得義務など、様々な面で外国人労働者を冷遇していると言われる。日本と外国との賃金格差が縮小している中で、労働条件の悪い日本で働きたくない、という外国人労働者が増えていると指摘されている。

 ちなみに、人口減少の影響によって農業従事者の減少も顕著で、専業農家を意味する「基幹的農業従事者数」を見ると、2000年には240万人だったのが、2015年には175万人、2020年には145万人(予測)と激減する(農林水産省、農業構造の展望、2015年3月)。食糧自給率は、今後も低くなる事が予想され国防という意味でも、そして気候変動による食糧難という観点でも深刻な問題と言える。

 いま、政府が取り組むべき問題は数多い。しかも、すぐに始めなければ間に合いそうもない課題も数多い。人口減少の深刻さを、日本は改めて深刻に考える必要がありそうだ。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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