中国「シャドー・バンキング問題」を過小評価していないか?

古い住宅地が壊されて次々と高層マンションに生まれ変わる(上海、2007年)

ハードランディングはあるのか?

中国経済のシャドーバンキングに対する様々な意見が飛び交っている。6月末の流動性の枯渇をきっかけにクローズアップされたシャドーバンキングだが、アナリストや評論家のコメントは、「システム上の心配はない」「政府がコントロールしている」「意図的な経済政策の一環」といった楽観論が圧倒的に多い。

こうしたコメントで思い出すのが、リーマン・ショックのきっかけとなった2007年のベアスターンズ傘下のヘッジファンド2社が破綻したときに取材した専門家のコメントだ。数多くのエコノミストやアナリストが、みな揃って異口同音に楽観論を述べた。しかし、その後見る見る金融マーケットは不安定になり、景気後退も世界規模で起こった。

中国経済に世界中が頼っている現状で、万一中国でリーマンショッククラスの事態が起きたら、世界経済は再び大混乱に陥る。中国のハードランディングはあってはならないことだ。その現実は、中国政府も熟知しており、リーマン・ショックのときにいち早く4兆元の経済政策を決めた。自国の状況が微妙なバランスの上に成り立っている経済成長であることを知っているからだ。

そもそも、中国経済にはこれまで指摘されただけでも様々なリスクがある。国内問題ひとつをとっても、格差を生じさせている都市戸籍と農村戸籍の問題や地方政府の権力が強すぎたり、汚職と腐敗の進行など、様々な国内問題を抱えている。公害やごみ処理問題などを解決するためのインフラ未整備も深刻だ。しかし、それらよりもっと直接的で、深刻なのが「過剰生産設備(能力)」と不動産市場の高騰に代表される「加重債務」だ。

鉄鋼業界は最大4割の「過剰生産能力」

中国の過剰生産能力については、以前から指摘されてきたことだが、たとえば鉄鋼産業では年間9億トンの生産能力を持つ中国だが、実はそのうちの2億トンは過剰と言われている。その影響もあって、2012年には鉄鋼産業のうちの主要23社が赤字に陥っており、赤字額は約290億元(約4300億円、当時のレート)に達しているそうだ。

ロイターが6月27日に配信した記事によると、中国政府は近く、鉄鋼やアルミ、セメント、ガラス、造船など生産能力が過剰な業界に対して、新たな規制をかけるのではないかと予想されているそうだ。これらの業種の企業の株式はもう数年前から低迷が続いており、そういう意味ではもうずいぶん前から過剰生産能力で苦悩していたと考えられる。

こうした過剰生産設備に陥っている業界を再編成して、なんとか健全な状態に戻そうとするのが李克強首相の推進する「リ(李)ノミクス」というわけだが、これまで「やみくもな拡大」を黙認してきた中国政府が、一転して金融引き締め政策を展開して、過剰生産設備を縮小させるのは極めて難しい。日本もバブルを形成するのは簡単だったが、そのバブルにブレーキをかける難しさはいやと言うほど知っているはずだ。

香港の地元証券会社のレポートでは、中国鉄鋼業界の生産能力は年間で約3億トンの過剰状態にあり、12年1年間に生産された製品の4割相当が過剰在庫になっていると試算している。アルミ業界も、2012年で700万トン以上の生産過剰設備を抱え、2015年までには4000万トンが過剰在庫になると予想されている。

不動産バブルの崩壊が招く金融セクターの自爆

一方の不動産バブルなども含めた「過剰債務問題」だが、日本や米国に比べれば中国の債務問題は小さいようにも見える。過剰債務問題といっていいのかどうかは微妙だが、最近になって多くのシンクタンクやエコノミストが、中国の過剰債務問題を指摘するようになって来た。その一方で、中国には十分な外貨と税収入がある、と指摘する専門家も少なくない。

過剰債務問題の中心的な存在は、いま大きくクローズアップされている「シャドーバンキング」だが、そのシャドーバンキングなどの債務の規模は大手格付け会社が独自の数字を発表している。

・S&P……約3兆7000億ドル(370兆円、GDPの44%、2012年末現在)

・フィッチ……約5兆ドル(500兆円、最大でGDPの200%)

・ムーディーズ……約29兆元(435兆円)

IMF(国際通貨基金)が2012年10月に作成した「世界金融安定化報告(Global Financial Stability Report)」は中国GDPの40%と予想しており、中国シンクタンクの「上海証券研究所」は、12年末の段階で27兆8800億元と予想している。日本のシンクタンクでも500兆円を超える債務があるのではないかと予想しているところがあるが、これらの何割かが不良債権化しても100兆円単位の債務になる。過剰生産能力とともに深刻な問題といって良いだろう。ただ、シャドーバンキングそのものはオフバランス取引で、詳細な数字はわかっていない。中国政府も正確な数字は掴んでいないと思われる。

リーマン・ショックを超える景気後退が世界を襲う?

さて、問題は中国が作ってしまった、これらの過剰設備と過剰債務の問題処理だろう。過剰生産能力はいまも、そして今後も処理が済むまでは赤字を垂れ流し続けることになる。日本が、長い歳月をかけて民営化して処理した国鉄や電電公社、郵便局などの問題が今後は一度に中国政府に課題としてのしかかってくるようなイメージだろうか。

そして、それ以上に深刻なのがシャドーバンキングなどの金融の問題だ。最近になって、中国政府は貸出金利の下限制限を撤廃したが、その程度の規制緩和で大手銀行が中小企業にも融資するようになるとは思えない。今後、どんな救済策を打ち出してくるかにもよるが、この問題を短期間で解決するためには米国FRBや日本銀行がやった非伝統的、異次元の金融緩和をやるしかないだろう。

一部のエコノミストが指摘しているように、ひょっとしたら外貨準備高として抱えている米国国債や日本国債を売却して、中国国内の金融システムを守ろうとする可能性もあるだろう。そうなれば、国債の金利が上昇して世界中の金融マーケットが大混乱する。中国経済が大きく落ち込む以前に、世界的な混乱がやってくる可能性がある。さらに、中国の政府系ファンドが3月末時点で少なくとも、日本の上場企業174社に合計で4兆2447億円を投資していることがわかっている。中国政府系ファンドの動きもかなり気になるところだ。

加えて、不安なのが中国には預金保険制度などの金融のセーフティネットが整備されていないことだ。中国人民銀行が6月7日に発表した「2013年中国金融安定報告」の中で「預金保険制度を導入する機が熟した」と述べているが、その時期は明記されていない。仮に、リーマン・ショック級の金融危機が中国国内を襲えば、その影響は計り知れない。中国国内は大混乱となり、日常的に暴力的なデモが頻発している国内は、場合によっては人民解放軍の支配下になる可能性もある。

しかし、それより不安なのは中国政府の前近代的な政治スタンスだ。アジア周辺国と領土問題で紛争を繰り返す中国だが、中国国内が地方政府や民間企業、銀行が経営破たんをし始めたら、国民の関心をそらすために周辺国に対して武力行使する可能性が少なからずあるのではないか。そうなったときの混乱を考えると、世界の経済地図は一変してしまう。日本企業の中には、中国に投資しすぎている企業が多い。日本経済に与える影響もかなり大きいはずだ。

とりわけ、今回の中国バブル崩壊懸念は、米国発のサブプライムローン危機と違って、経済的な混乱の影響を受けるのはほとんどが中国国内の機関や国民になるはずだ。中国に投資しているヘッジファンドなどの「ホットマネー」以外には大きな影響を受けない。金融マーケットへの影響というよりも、むしろ中国国内の問題が圧倒的に大きい。貧富の格差、少数民族の問題などが限界に近づきつつある中で、国民の不平不満をそらすためなら、習近平政権は手段を選ばず、何でもやりそうな気がしてならない。また、その準備もすでに進めているかもしれない。