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ゾンビのように復活する「欧州債務危機」、いまふたたび!

岩崎博充経済ジャーナリスト

「ギリシャ、ユーロ離脱の可能性、ゼロではない?」

ECB(欧州中央銀行)が、南欧諸国に対して無制限の国債買い入れを約束し、さらにFRB(米連邦準備制度理事会)がQE3(第3次量的緩和策)の実施に踏み切ったことで、欧州債務危機が一段落するはずだった。これで、年内は「リスクオン」で行けると思った人も多かったのではないか。しかし、先週までのギリシャやスペインの情勢をみると、欧州債務危機がそう簡単に解決しそうもないことが分かった。様々な情報が錯綜しているために分かりにくくなっているが、ここで情報を整理をしてみよう。

まずは、ギリシャでは新政権が誕生して初めて政府の打ち出した財政緊縮策に反対する大規模なデモが発生し、デモの一部は暴徒化した。デモが暴徒化する国は大きな問題を抱えている場合が多いが、ギリシャの場合は「ユーロ離脱、ドラクマ復帰説」が国内でクローズアップされており、ユーロ圏にとっては最悪のシナリオである「ギリシャの無秩序なユーロ離脱」というシナリオが、まったくゼロでないことを世界に示してしまった。

ギリシャの財政状況を査定しているトロイカのうちのECBとIMF(国際通貨基金)も、すでに「仮にギリシャの財政再建がうまく行った場合でも追加融資の必要大」と発言しており、ギリシャの債務状況は深刻だ。当初想定した経済成長が望めないためだが、これは他のPIIGS諸国でも同じことが言える。現在のギリシャの姿は、明日のスペイン、イタリアの可能性が高い。

スペイン、バルセロナ。バブル崩壊が経済に影を落とす
スペイン、バルセロナ。バブル崩壊が経済に影を落とす

スペイン国民は来年度予算案8.9%削減に耐えられるのか?

さらに深刻なのがスペインだ。9月27日に2013年の予算案と経済構造改革案を発表したが、問題は2つある。ひとつは、若年層の失業率が50%を超える不況の中で、政府予算をさらに8.9%削減することになるが、スペイン経済が耐えられるのかという国内問題。今回は、年金制度改革などを先送りしたために、さほど大きなデモは発生していないが、総額で400億ユーロ(約4兆円)を抑制することになっている。

スペインの債務危機の原因は、不動産バブル崩壊による金融機関の不良債権の増加、そして地方財政の急激な悪化にある。特に後者の地方財政の悪化は、カタルーニャ州のように徴税権の移譲を求めて独立問題に発展しているものまである。まさに国家存続の危機に陥っていると言って良い。

独立問題まで行かなくても、地方財政の悪化はごみの収集や学校の運営、生活保護などの社会保障制度にも影響が出ており、今後はもっと深刻なデモやゼネストが起こるのではないかと懸念されている。今後、景気後退の影響による税収入の減少などでさらに深刻化していくはずだ。

第2の問題は、こうしたスペインやギリシャを他のEU加盟国が、支援し続けて行くことができるかどうかだ。英国フィナンシャル・タイムスが26日付の紙面で「ドイツがユーロを抜けたほうが良い理由」という記事を掲載し、日経新聞が転載している。ドイツがユーロから離脱した場合、ドイツ以外の国の国民がダメージを受け、ドイツ国民の生活は豊かになる可能性を示している。そして、ドイツがユーロを離脱してもそう大きな損失にはつながらないと指摘している。ギリシャ同様に、ドイツがユーロを離脱する可能性が消えていないということだ。

国債買い入れでバランスシート拡大させる欧州の銀行

スペインのもうひとつのリスクである銀行の不良債権問題は、9月28日にストレステストで総額593億ドル(約6兆円)の資金が不足していると発表された。ユーロが支援する資金は約400億ユーロ程度になるようだが、スペイン政府はすでに銀行部門の支援に関しては7月にユーロ圏各国と最大1000億ユーロの支援を受けることで合意しており、今回のストレステストの結果通りであれば、あまり問題はない。

しかし、日本のバブル崩壊でもそうだったが、適切な銀行救済スキームが準備されないと不良債権は雪だるま式に増えていくことだ。スペインの国内銀行の融資全体に占める不良債権比率は9・86%(7月現在)と発表されているが、今後の動向をきちんと把握する必要があるだろう。

その一方で、最近クローズアップされているのが欧州全体の銀行の総資産額が増えつつあることだ。金融危機の中では、銀行はリストラを進めて総資産額を減らすのが普通だが、ECBの発表データによると1年間でユーロ圏の銀行の総資産額は4%増えたそうだ。総資産額が増えたということは、バランスシートを拡大させていることになり、銀行にとっては自己資本比率の悪化につながることが多い。

とりわけ、来年から銀行の自己資本規制である「バーゼル3」を導入することになっており、欧州の銀行の多くがリストラを進めている。欧州銀行監督機構(EBA)は、最近になって仮に昨年末にバーゼル3を導入していたら、欧州の大手銀行44行合計で1990億ユーロ(約20兆円)の資本が不足していたと発表している。欧州銀行は揃って自己資本増強のために、リストラしてバランスシートをスリム化する必要があるわけだ。

大手欧州銀行がバランスシートを拡大させている背景には、2011年の12月と2012年2月に実施されたECBの「長期資金供給オペ(LTRO)」がある。欧州中央銀行が、PIIGSの国債などを担保に、欧州の金融機関に対して低利の資金を融資したもの。返済期間は3年で、どの銀行も保有する国債を担保に現金を手にして流動性を確保し、自国の国債などを購入した。

要するに、ユーロ下落や銀行の資金不足に歯止めをかけるために行われたECBの金融緩和政策だが、一時的にユーロ相場は回復しても、長期的に見れば市場を歪めたり、通貨希薄化によるユーロ安を招く。そして、銀行のバランスシートも悪化させる。中央銀行頼みの経済政策には限界があり「副作用」を発生させるということだ。

ギリシャ、スペインの泥沼化がどこまで進展するのか。欧州債務危機は、国債の無制限買い入れといった金融政策によって、一時的には沈静化するものの、結局はゾンビのように回復する。この状況は当面変わらないと思ったほうがいい。問題は、この状況が続いて米国や中国を含めた世界経済がもつかどうかだ。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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