“安倍政権”の経済政策では日本は失速する?

中国、韓国との衝突激化で経済に深刻な影響?

安倍晋三元首相が、自民党総裁選に選出された途端に、株式市場は下落し、債券市場も下落した。自民党の中でも最もタカ派で保守色の強い安倍氏が総裁に就任したことで、韓国や中国との関係悪化を懸念した投資家が、株式を売り、債券を売ったからだ。総裁選の公約として尖閣諸島の実効支配の強化、領海警備のための自衛隊法改正を掲げるなど、現在の状況に火に油を注ぐような外交政策が並ぶ。自民党が安倍氏を選択したということは、憲法改正も含めた「保守派路線」「外交の強硬姿勢」を前面に打ち出す政府をつくるという意思表示だろう。

問題は、外交政策よりも安倍新総裁の掲げる経済政策だ。経済優先の政治を目指すのであれば、対中国、対韓国に対して強硬すぎる姿勢はまずとらないから経済優先の政策ではないということだ。安倍氏の目指す経済政策は、日銀法を改正してでも日本銀行を最大限に活用して、2-3%の穏やかなインフレを実現させて名目成長率を上げるというものだ。

こうした安倍氏の経済政策を「成長重視・リフレ路線」と呼ぶ人もいるが、その原動力はどうやら日本銀行の制限なき紙幣発行頼みのようだ。将来の成長分野に投資をするといっても、時間もかかればコストもかかる。結局、日本銀行に無制限の緩和を強要することしかないような気がしてならない。

日本銀行の場合、他の国の中央銀行と異なり、日銀法にも明記してあるように「通貨価値の安定」を目的とせずに「物価の安定」を主目的に置いている。そのために、為替も含めた大きな視野で「通貨=円」の価値を維持していくという姿勢を重視していない。政治家から強い圧力があっても、日本銀行はインフレに直結するような無制限な国債購入などには踏み込まなかった。極端すぎる言い方かもしれないが、デフレ=日本銀行の勝利といってもいい。

経済成長の原動力は日本銀行だけ?

そこで、安倍氏は日銀法を改正して中央銀行の独立性を損なってでも、紙幣を無制限に発行する政策を採りたいようだ。そうした金融政策が両刃の剣であることは言うまでもないだろう。そもそも3%程度のインフレ率が、本当に実現したら実は大変なことになるのではないか。消費者物価が上昇すれば、当然ながら金利も上昇する。金利が上がれば、日本政府が毎年180兆円程度も発行する日本国債の金利は、とたんに上昇する。

過去の日本国債を借り換えるための「借換債」、そして特例公債=赤字国債などの利払いも、仮に2%上昇しただけでその年の借換債と新規発行分だけで約3兆6000億円程度の金利負担増になる。これが毎年積み上げられていくわけだから、相当の増税をしないと行き詰まってしまう。当然、公的年金なども物価上昇分の負担増になる可能性もある。

長期金利が3%程度まで上昇すれば、国内外の投資家は喜んで日本国債を買いに来ると主張する人も多いが、日本の国債市場は日本独自の極めて特殊なマーケットを形成している。国債を大量に保有している銀行や生命保険会社の大半は、新規国債を購入したあとはそのまま償還まで保有することが常識になっている。日本国債のバランスシートに占める比率はどんどん増しており、仮に日本国債の金利が上昇して国債価格が下落して評価損が出れば、金融機関は国債を売らざるを得なくなる。

日本銀行自身もシミュレーションしているように、長期金利が1%上昇すれば国内の銀行の利益が6兆円消える。購入したまま償還日まで保有してくれるパターンがわずかに崩れただけで、国債市場は壊滅的な打撃を受ける可能性もある。根拠のない安心理論には注意が必要だ。

今後の安倍総裁の政治手腕が吉と出るのか、凶と出るのかは不透明だが、やはりタカ派で保守色の強い「日本維新の会」と連携を深めて、政権交代を実現するようなことになれば、現在のECB(欧州中央銀行)やFRB(連邦準備制度理事会)が採っている制限なき金融緩和政策を日本銀行も実施していくしかなくなるかもしれない。問題なのは、ECBはEU(欧州共同体)という複合体の中央銀行であり、ECBのバランスシートが少々悪化しても、通貨の価値が大暴落するようなことは考えにくい。FRBに至っては基軸通貨国であり、どんなに紙幣を印刷してバランスシートを悪化させても、一定の貨幣価値は維持される。

しかし、日本は違う。1003兆円もの公的債務を抱え、ECBやFRBのようなセーフティネットには大きな不安が残る。制限のない円安もあり得るということだ。1930年代の大恐慌後、日本は外貨を失ってエネルギー不足などに陥り、その窮地を打破するために軍国主義の台頭を許してしまった。30年代の世界は、景気減速におびえて保護貿易主義、ファシズムを許し、第二次世界大戦にまで発展してしまった。自民党の政治家が歴史の教訓を忘れないことを祈りたい。