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「チャイナリスク」の処方箋はあるのか?

岩崎博充経済ジャーナリスト

香港がまだ英国に返還される以前のことだが、香港に隣接する中国の経済特区だった「深セン」に取材で行ったことがある。そこで出会った日本人ビジネスマンの多くは、香港との国境事務所の目と鼻の先にあるホテルに長期滞在している人が多かった。もう少し離れればもっと条件のいいホテルが数多くあったのだが、彼らは「万一、暴動とか革命が起きても、このホテルなら走って香港に逃げ込むことができる」と話していた。

尖閣諸島の領有権を巡っての反日デモは、深センでも起きて暴徒化したが、今となっては香港も中国に返還されて国境の近くに滞在する意味はなくなってしまった。だが、それだけ日本人はおっかなびっくり中国に進出していった経緯があるのだ。

最近は、日本から中国に進出する企業も大きく様変わりしている。生産拠点としての中国から、現在は13億人のマーケットを目指して進出する企業が圧倒的に増えているのも時代の変化だ。とりわけ、小売、飲食といったサービス業は「現地化」をキーワードに、現地のスタッフに権限をどんどん委譲し、中国マーケットを攻略するビジネスに徹底しつつある。たとえば、ファミリーマートでは実際の経営は台湾のファミリーマートに任せて、日本人スタッフは数人といったスタイルを採っていた。いずれにしても、日本企業の多くは中国の経済成長に合わせて、かつて経験したことのないような急成長を遂げることができたわけだ。

その中国に景気減速懸念が急速に拡大している。不動産バブルが崩壊しつつあるのではないか、世界中から資金を集めた中国の経済成長スキームにひびが入っているのではないか……。もともと「チャイナリスク」と呼ばれるものは数多くある。不透明な政策運営、為替操作に対する疑惑、労働組合やストライキなど労務問題、資源・エネルギー不足などなど……、チャイナリスクに対する話題には事欠かない。

チャイナリスクより「ジャパンリスク」に警戒せよ

問題は、こうしたチャイナリスクに対して、我々個人はどう対応すればいいのかだが、結論から言えば、チャイナリスクそのものを心配する以前に、中国経済の減速によって影響を受ける日本経済のほうを心配すべきだろう。中国株を保有したり、中国株を組み込んでいる投資信託を処分する以前に、中国が今後、おそらく本格的に仕掛けてくるであろう対日経済制裁に対して、日本がどの程度の影響を受けるのか。

こうしたジャパンリスクは、すでに金融市場では反応しており、たとえば日本の国内企業50社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を指数化した「Markit iTraxx japan」という信用リスクを指数化したものがある。日本企業の社債を購入する投資家に対して、その安全性の目安となる数値を示しており、低ければ低いほど安全性が高い。東証のホームページでも、日々掲載されているからチェックしてみるといいが、その数値が221.81ポイントと過去1年の最高値を更新して高くなっている。

東京証券取引所 マークイット・アイトラックス・ジャパン

日本企業が今後、中国内で自由なビジネスなどができなくなるのではないかという懸念があるためだが、それ以前に中国経済の失速が世界全体に与える影響を考えるべきだ。欧州債務危機は、欧州各国に厳しい財政支出や家計に影響を与え、優等生だったドイツさえも景気減速の危機に直面させた。その影響を受けた中国経済の貿易収支が悪化して、世界全体の経済成長の原動力となっていた中国経済を失速させつつある。あわてたECBが南欧諸国の国債を無制限に買い入れる緩和策を打ち出し、米国も景気減速に対応してQE3を実施した、と考えていいかもしれない。

日本の輸出産業も今後は、大きな影響を受けるはずだ。2012年上半期の「輸出」は第1位が中国でシェアは18.0%(ジェトロ調べ)。第2位は米国(17.1%、同)と拮抗しているが、「輸入」はもっと顕著で第1の中国がシェア20.5%(2012年上半期、同)、対して第2位は米国8.7%(同)。対中の貿易収支では、2012年上半期は29億8000万ドルの日本側の赤字に陥っている。5年間黒字だった対中貿易が赤字となり、日本の貿易収支悪化の原因の一つになっている。いうまでもなく、中国は日本に取ってもっとも重要なパートナーなのだ。

「パーフェクトストーム」に備える?

中国の抱えるカントリーリスクを心配する以前にジャパンリスクを心配する必要があるということだ。純粋な金融用語というわけではないが、いま世界は「パーフェクトストーム」(複数の災難が一気に襲って壊滅的な事態に陥ること)に襲われるリスクを抱えつつある。2008年のリーマン・ショック時にオバマ米大統領が使った言葉だが、はっきりいってチャイナリスクが現実化すれば、世界全体が恐慌に陥る「大恐慌」のようなパーフェクトストームの事態を想定したほうがいい。

先進国の中央銀行が揃って無制限の緩和政策を取り始めた背景には、チャイナリスクを押さえて最悪の事態にならないようにするための経済政策に舵を取ったとも言える。その成果を見極める必要があるが、その結果次第ではジャパンリスクへの対応を真剣に考える必要があるだろう。株の暴落、急激な円安、日本国債の急落、金利急上昇……。ジャパンリスクへの対応は、かなりハードなものになるかもしれない。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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